「逃げるな!ジオンめっ!」
自分達の頭上を通り抜け、飛び去ろうとするガウに向かってキム兵長が叫んだ。サイド5出身の彼女は故郷と家族、そして恋人を含む知人の大半をジオンに奪われていた。それだけに敵に対する憎悪は人一倍強い。
「散々殺しておいて自分達は逃げるのか!?この卑怯者共め、ここで死ね!!」
腕部の100ミリマシンガンやボップミサイルも撃ちながら彼女は叫び続ける。
「やった!?」
放った砲弾の一発がガウのエンジンに着弾して黒煙を吐き出させる。歓喜の声を上げた彼女は完全な視野狭窄に陥っていて、リュウ曹長の言葉が届いたのは余りにも遅かった。
『303!キム!上だ避けろ!!!』
言葉を発するよりも早く到達した砲弾によって彼女は一瞬で蒸発する。その死を弔うかのように追撃の砲弾を浴びたガンタンク3号機も爆発炎上し、その場に擱座する。そのあまりの呆気なさにガンタンク隊の面々は動きを止めてしまう。そしてそれは戦場では致命的な隙になってしまった。
『302、後退しろっ!』
『こ、え?どっち!?』
民間人の採用がここで大きなミスとなる。仮に残っていたのがキム兵長ならば、言葉の意味を問題なく理解できただろう。しかし最低限度かつ機体の操縦を重点的に訓練されていたハヤト一等兵には混乱をもたらした。後退と言えば敵から下がり味方に合流することだ。しかし今のタンク隊はその後退すべきホワイトベースとの間に敵機が存在する。どちらに動くべきか迷った結果、彼はその機会を失う。
『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?』
ガンタンクは改造されたと言ってもMSと格闘戦をこなせる性能は持ち合わせていない。その隙を埋めるために相互に援護の出来る場所に居たのだが、それが裏目に出る。303号機の近くに降下した赤い機体が腕を振るうとワイヤーのようなものが射出され、先端のアンカーが302号機の装甲に噛み付くや凶悪な電流が機体へと流される。その電流は当然のように搭載された弾薬にも到達し、誤作動を引き起こす。ポップコーンのように至る所を爆ぜさせながら302号機が沈黙する。
『畜生がっ!』
残った301号機のパイロット、リュウ曹長はそう吐き捨てるように叫びながら機体を後退させる。見たことのない新型、しかもあの色である。一人で部下達の敵を討てると思えるほど、リュウ曹長は楽観的ではなかった。だが悲しいかな彼の努力は報われない。
『所詮間に合わせの機体、懐に入ってしまえばこんなものか』
タンクの動きなど止まっているかに思える加速で突進してきた機体からその様な声が聞こえてくる。理由はこの上なく明白、今まさにタンクを溶断せんと腹に食い込む赤熱した刃から接触回線が伝わったのだ。
『これが、赤い彗星…っ!』
その言葉を最後にタンク隊は全滅した。
『一瞬で3機も!?』
通信に悲鳴じみたアムロ伍長の声が響いた。敵の撤退した南側をカイ一等兵に任せ、西側の援護をするべく移動していたが、遅かったようだ。たどり着いた頃には既にタンク隊は無残な姿を晒していた。
「赤い機体!?また奴か!!」
手にしていたビームライフルを赤い機体に向かって放つ。しかし射撃は大きく外れ小さなクレーターを新たに作るに留まった。
『新型!?速いっ!』
アムロ伍長の声に思わず顔を顰める。遠距離でCGに補正されていたため気付くのが遅れたが、あれは明らかにザクじゃない。
(グフ!?それもB3じゃねえか!!)
思わず罵りかけて唇を噛む。赤い彗星と言うだけでも厄介だというのに、よりによってこの機体か。カタログスペックこそ通常のグフと変わらないが、運動性が大幅に向上しているこの機体は今遭遇する機体の中では最悪の部類だろう。
「伍長!二人で仕掛けるぞ!」
『は、はいっ!』
他にザクも降下しているがまずこいつをどうにかしないといけない。最悪ザクは取り逃がしてもキャノン単体で応戦出来るが、こいつを逃せば確実に撃墜されてしまうだろう。
『出て来たか白い奴!こいつらは私が抑える!お前たちはキャノン付きを探し出して撃破しろ!』
短距離の高出力通信のためか、敵の通信が混線する。ザクの動きにアムロ伍長が釣られそうになるが、宣言通り赤い機体が肉薄する事でそれは防がれた。
『うわぁっ!』
「この野郎っ!」
102号機、アムロ伍長の乗るガンダムへバズーカを放ちながら接近する赤い機体に向かってビームを放つ。流石に直線運動ならば捉えられない事はなかったが、発砲のタイミングを見切っていた赤い機体はその場で急制動を掛けてやり過ごす。
『当たらなければどうという事は無い!』
「強がりをっ!」
『このぉっ!』
アムロ伍長からの射撃も加わった事で、何とか奴を回避に専念させることに成功する。しかしこの均衡は長くは続かない。何しろ俺達のビームライフルは装弾数が16発だけなのだ。その間に仕留められなければ格闘で対処しなければならないし、まだザクも残っているのだ。そして更に間の悪い状況に陥る。
『ちいっ!しかし位置は掴んだぞ!』
北に逃げたガウに向かってビームが放たれたのだ。エンジンに損傷を与える事に成功はしたようだが撃墜には至らない。ジョブ曹長の乗っている201号機は未改造のままなのでビームの出力が足りなかったのだろう。そしてビームの光線は射手の位置を暴露してしまう。そちらへ向けてザクが2機、バーニアを噴かせて接近するのが見える。
「くそっ!ちょこまかと!」
更に射撃を加えるが、赤い機体は巧みに回避してみせる。既に残弾数は3割を切った。どうすべきか逡巡したその時、苛立つような声音と共にアムロ伍長がビームライフルを投げ捨てた。
『いつまでもお前なんかに構っていられるものか!』
ビームサーベルを引き抜き伍長の102号機が走る。
『このグフに格闘を挑むとはなっ』
迎え撃つように赤い機体もバズーカを捨て剣を引き抜く。即座に加熱が始まり刀身が煌々と光りだした。
「近すぎる!」
援護のためにビームライフルを向けるも102号機が近いため、コンピューターが勝手に射撃を止めてしまった。舌打ちをしてバルカンを撃ちながら俺は機体を前進させた。射撃でフォローが出来ない以上、せめて手数を増やして敵に負担を掛けるしかない。
『ちっ小癪な事を!』
流石に装甲を抜く事は出来ないがメインカメラや動力パイプなどならば損傷が期待出来る。そうでなくてもメインカメラに砲弾がちらつけば集中力を削ぐくらいは出来る。
「格闘は苦手なんだがな!」
俺はビームジャベリンを展開し赤い機体に突き出すと、シールドで柄を払われる。だが、防がれるのは想定内だ!
『そこっ!』
『ちぃっ!?』
アムロ伍長がビームサーベルを振るい、赤い機体が強引にそれを避ける。つばぜり合いになれば俺から一方的に攻撃されるからだ。
『馬鹿な、連邦のMSは化け物か!?』
敵の機体からそんな声が聞こえてくる。確かにグフは優れた格闘性能を持っている。だがシャアは足を止めて殴り合うよりも動き回る戦い方を得意としている。そして彼にとって最大の誤算は、こちらが想定よりも格闘に対応出来ていた事だろう。理由は単純で、俺とアムロ伍長は対MSを想定した訓練を重点的にしていたからだ。キャノン隊やタンク隊が居てくれたからおかげで完璧とまでは言えないが、かなりの経験を積む事が出来た。
『貰った!』
『ぐっ!出力が上がらん!』
再度振るわれたアムロ伍長のビームサーベルが腰の動力パイプを切断、敵機の動きが悪くなる。撃破出来ると確信したその瞬間、頭上をガウが通過した。
「なっ!?」
更に南からもガウがこちらへ接近してきた。
『待て、早まるなガルマっ!』
どうやら敵にとっても予想外の状況なのだろう。焦りを滲ませた声が混線してくる。
『アレン少尉、行って下さい!』
「すまん、任せる!」
アムロ伍長の言葉に、俺は即座にガウの追撃を選択する。既にビームライフルを放棄してしまった伍長の機体では、上空のガウに攻撃手段が無いからだ。
「カイとジョブは駄目か!?」
視線を送るが上空に向けて攻撃をしている様子は無い。北側からは時折爆光が見えるからジョブ曹長は恐らく敵のザクと交戦中。南からは戦闘の様子がないが、見つかればカイ一等兵の装備でザクの相手は難しいだろうから、隠れるなり逃げるなりしているのだろう。つまり現状この2機のガウに対応出来るのは俺だけだ。だが幾らガウが鈍足だと言っても航空機である。陸上を走るMSで追いつけるものではない。見る間に距離を離していくガウに、俺は苦し紛れの一撃を放つ。
「駄目かっ…」
エンジンに被弾したものの、ビームスナイパーライフル程威力の無いガンダムのビームライフルでは撃墜には至らない。そのままガウは東に抜け射程外に出てしまう。
「せめてこっちはっ」
ならばと接近する南側のガウに向けてライフルを構える。射撃モードを狙撃に切り替え、ガウのコックピットをマーキング。関節を固定しぶれも最小に抑える。
「いけっ!」
連続して4発。鋭く大気を光が引き裂き、ガウのコックピットへと吸い込まれる。四発目が着弾するのとほぼ同時にガウが爆発を起しながらゆっくりと機首を下げる。操作不能に陥っているのは明らかだ。
「ホワイトベース!ガウが一機そちらに向かう!東からだ!」
言いながら俺は南へ向かう。ビームライフルを撃ち切った以上俺がガウを墜とす事は出来ない。だからその手段を残している奴にやって貰うしかないのだ。
「カイ一等兵!聞こえているか!?北東から来るガウを狙え!ザクはこちらで対応する!」
無線の全バンドに怒鳴りながら、俺はガンダムを走らせた。
流石に慣熟するには時間がなさ過ぎてシャアでもどっかの職業軍人みたいな戦いは出来ませんでした。てか数日でヒートロッドを使いこなせたらマジモンの化け物だと思います。