WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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21.0079/10/01

「2番機より通信!我エンジンに被弾せり、速度維持不能!」

 

オペレーターから悲鳴のような報告を受けガルマは恐怖した。攻撃を受けつつもガルマはまだどこかで敵を甘く見ていたのだ。ガウを一撃で屠る大火力、だが1機は逃げ延びた事から使用の限定される兵器だと自分に都合よく彼は考えた。報告では同様の兵器が2機分確認されていたにもかかわらずだ。そしてその火線に身を曝しているという現状が彼から正常な判断を奪い去る。

 

「あ、あのような敵は今叩かねば、ジオンの脅威となるっ!」

 

冷静に考えるならば、目の前の敵を叩いたところで機体を量産されればそれまでである。だが冷静さを欠いた彼は、見えている敵を倒す事で少しでも安堵を得たいがためだけにそう断定する。

 

「2番機は退避っ!早急にこの事を本国に伝えるのだ!離脱しているガウ323に伝えろ!戦域に戻りこちらと連携し敵母艦を叩けと!」

 

あの様な火力に晒されればザクなどひとたまりもない。ならば嗾けたところで制圧など出来ないだろう。肝心のシャアは護衛の白い機体に捕まっている。しかも確認する限りでは互角、それどころか押されているようにすら思える。

 

「今ここで奴らを仕留められるのは我々だけだ!」

 

目の前の脅威に彼は興奮した声音でそう叫ぶ。敵に対する恐怖、軍人として栄達を望む願望、ザビ家の人間であるという責任感の綯い交ぜとなった混乱にも近い感情の中で彼は考えてしまう。味方が残っている内に、あの敵の母艦を叩かねば。不幸であったのは彼が今まで自軍よりも強大な敵と戦う機会を与えられなかった事だろう。初めて出会う脅威を彼は過大に評価し、過剰に反応した。

 

「メガ粒子砲攻撃準備!敵の位置は特定出来たか!?」

 

「ドップ隊より報告来ました!ポイントC-4、グリッド8-12!ベースボールドーム内です!」

 

「よしっ、ぐううう!?」

 

朗報を受け取った瞬間彼の乗るガウが揺れ、直ぐにオペレーターが被弾を告げて来る。体感出来る程速力が落ち、機体の挙動も怪しくなった。

 

「格闘機のビーム兵器でこれなのか!?」

 

俗にジオンの技術は連邦の十年先を行っているとされる。これは事実を含むが正確な言葉ではない。何故ならジオンが優越しているのはMSに関する技術のみであり、大半の技術では互角ならばよい方で、軍事的な基礎技術の大半は寧ろ連邦の方が進んでいるくらいだ。事実ジオンでは陸や宇宙といった環境でMSが運用できるビーム兵器の実用化には至っていない。

そしてその様な開発状況を目の当たりにしていたガルマにとって、格闘機という対MSに特化した機体ですら艦艇を容易に撃破しうる火砲を装備しているというのは恐怖すら覚える現実であった。

 

「ガウ323がっ!?」

 

被弾により旋回を余儀なくされたガルマのガウが東へ一時通り過ぎる中、北上していたもう一機のガウが格闘機のビームを受ける。続けて4発、全てをコックピット周辺に受けたガウ323は黒煙を噴きつつゆっくりと墜落していく。たった一隻の艦艇とその搭載機にガウ4機を失うという事態に至り、ガルマは恐慌状態に陥る。彼の目は既に、敵部隊がジオンを滅ぼす軍勢の様に映っていた。恐怖と危機感に突き動かされ、ガルマは叫ぶ。

 

「あ、あの艦を何としても沈めろ!このガウをぶつけてでもだっ!!」

 

この時彼は二つの事実を失念していた。第一に友軍は残っていたが、それが敵MSの動きを拘束しているとは同義ではない事。そしてもう一つは、

 

「敵艦発砲っ!?」

 

東への離脱を計画していた敵艦は艦首を東へ向けていた。その敵に対しガウは正面方向から攻撃コースに入ってしまう。結果、マゼラン級の主砲すら凌ぐ威力を持つメガ粒子砲の射線に自らを曝すという致命的な失態を犯した。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

放たれたビームがガウの艦体を貫き、巨大な破孔を生み出す。幸運であったのは例のスナイパーの様に微調整が利かないために一撃で撃沈出来るような位置を狙えなかった事だろう。だが言い換えればその程度でしかなかったという事だ。

 

「メインエンジンからの回路断線!メガ粒子砲使用不能!」

 

「爆弾倉反応ありません!投下不能!」

 

更に被弾の衝撃で割れた風防がコックピット内にばら撒かれ、不幸な操舵手に直撃していた。血を流して倒れる部下を心配する余裕もなく、ガルマは操縦桿を握る。

 

「わ、私だって、ザビ家の男だ!無駄死にはしないっ!」

 

ガルマの意図を悟りオペレーターが顔を青くして止める為に席を立ち上がろうとする。しかしその行動が実を結ぶ事は無かった。南から放たれたビームがコックピットを薙ぎ払ったからだ。幸運な彼らは他の乗組員達と異なり、落下の恐怖も墜落の衝撃も感じることなく死んだのだった。

 

 

 

 

「冗談じゃねえよ、撃ったらばれちまうじゃねえか」

 

カイ・シデンは軟弱だ。自分が危険と思うならすぐ逃げる。アレン少尉の通信が聞こえた時も、彼はそう不平を漏らした。

 

「大体自分達が言ったんじゃないの、こいつでザクに見つかるなってよ」

 

カイ・シデンは軟弱だ。口が回るのを幸いに責任からも逃げてきた。故に期待される事はなく、誰かに頼られる事もなく、その場に居ながら傍観者の様に扱われてきた。

 

「調子良い事ばっかり言いやがってよっ!これで死んだら化けて出てやるからな!?」

 

成程、カイ・シデンは軟弱だ。誰よりも何よりも自分が可愛い男だ。だから彼は、初めて認めてくれた相手を、頼りにしてくれた仲間を、見捨てるなどという大胆な事はしでかせなかった。ガンキャノンがスラスターを噴かせて廃墟の上に飛び乗る。コックピットに備えられた精密射撃用のスコープを引き出せばガンキャノンは即座に立射の構えをとった。モニター一杯に大映しになったガウを見てカイ・シデンは躊躇うことなくトリガーを引いた。瞬間ガンキャノンとガウの間を光が繋ぐと狙い違わずガウのコックピットを貫いた。二度目ともなれば落ち着いたもので、カイは冷静にライフルを操りガウの翼を切り飛ばす。操縦者を失い更に片翼まで失った航空機が空に浮かんでいられる道理は無く、ガウは速やかに地上へと落着しその身を火球へと変えた。

 

「どうよ、やってやったぞ!」

 

彼がそう叫んだ瞬間、ロックアラートが鳴り響く。モニターを見ればザクが1機こちらへバズーカを向けていた。そんな相手を見て、カイは口角を吊り上げる。

 

『良くやった、カイ一等兵』

 

そんな通信と共にビームジャベリンがザクを貫きそのまま大地へと縫い留める。コックピットを正確に狙った一撃はザクに爆発すら許さない。そんな事を当たり前にやってのける男に称賛され、むず痒くなったカイはつい皮肉を口にする。

 

「へっ、言葉じゃなくて態度で示してほしいもんですね、少尉殿?」

 

『ならジャブローに着いたら好きなだけ奢ってやる』

 

「…忘れんで下さいよ」

 

その言葉の意味を理解してカイは小さく言い返した。

 

 

 

 

「言わんことではないっ!」

 

モニターの端に墜落していくガウを捉えたシャア・アズナブル少佐は思わず叫んだ。目の前の空を割いたビームの光がガウのコックピットを貫くのを彼は見てしまったのだ。あれではガルマ・ザビ大佐の死は確定と言って差し支えないだろう。

 

『このぉっ!』

 

「ええい、邪魔をしてくれる!」

 

振るわれるビームの剣をヒートソードで受けると、彼はそれを跳ね上げてがら空きになった腹部へ蹴りを叩きこむ。しかし動力パイプを損傷したグフでは十分な威力が出ず、双方の距離を離すだけに留まる。だが漸くではあるがグフでの格闘戦に馴染んだシャアには十分な隙を生み出す。

 

「貰った!」

 

言うやグフの右腕からヒートロッドが打ち出される。姿勢制御の為に硬直していた白いMSはなすすべもなくそれを受ける。直後に放たれた強力な電撃が一時的な機能停止を引き起こした。

 

「せめて貴様だけは、なにっ!?」

 

素早く距離を詰め、ヒートソードを振るおうとした瞬間、ロックアラートが鳴り響きシャアは機体を強引に横へと投げ出す。先ほどまで立っていた位置を見ればガウを襲ったビームがこちらへと迫って来る。

 

「冗談ではないっ!」

 

撤退の合図となる信号弾を打ち上げつつ、彼は近くの瓦礫にクラッカーを投げる。派手な爆発と共に巻き上がる粉塵が視界を奪った。その隙にシャアはスラスターを噴かせて後退する。遮蔽物を利用し距離を取りながら、彼はコンソールを思わず殴りつけた。

 

「…認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは」

 

過去ザビ家より受けた仕打ちに対して、シャア・アズナブルは復讐を誓っていた。当然その中には友人であるガルマ・ザビも含まれていた。自らの父の名を騙る不愉快な国の軍人に収まっているのも、彼らに直接裁きを下す機会を得るためだ。

 

(しかし今はその時では無かった)

 

この戦争にジオンが負けようと知った事ではなかったが、今この状況でのガルマの死は彼の失態になりうる。そうなれば軍司令であるドズルやさらに上のギレン、そして首都に籠りきりのデギンを誅する機会が遠のくのは明白だ。

 

(それに、ガルマは何も知らぬまま死んだ)

 

信じる者に裏切られる絶望も、己に流れる血の罪深さも知ることなく、そして何よりシャア・アズナブルを恨むことなく散っていった。その様な真面な死に様など与えてなるものかと考えていたというのに。胸の内にある苛立ちを彼はそう思い込む。そうしなければ友人を失った悲しみに、奪われた怒りに気が付いてしまうからだった。

 

「…っ!」

 

歯を食いしばりながら彼は戦場から離脱する。敵からの追撃は無い、しかし撤退してきた味方も居ない。シャアはどうするべきか悩んだ。機体が損傷し友軍を失っている以上、ここに残っていても出来る事は無い。ついでに言えば佐官とはいえシャアは宇宙攻撃軍に所属する人間であるから、地球方面軍の部隊に対する指揮権も持ち合わせて居ない。唯一宇宙から連れてきた部下も先ほどの戦闘で失ってしまった。

 

「この屈辱、忘れん」

 

彼はそう呟き、機体を南へ向かわせる。ともかく友軍と接触しなければ何も出来ないからだ。損傷した機で何とか友軍の基地にたどり着いた頃、ジオン軍はガルマ・ザビの戦死を大々的に発表し、その頃には木馬は北米から姿を消していた。

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