WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


22.0079/10/04

「兄貴っ、ガルマが死んだと言うのは本当なのか!?」

 

部屋に入るなり大音声でそう聞いて来る弟に、ギレン・ザビは眉間に皺を寄せながら応じた。

 

「本当だ。お前も直接部下から聞いているだろう。今日シアトル市の捜索を行い、アレの乗ったガウの撃墜を正式に確認した。コックピットをビームで一撃だ、助かるまい」

 

「そ、捜索はどうなっているんだ!?」

 

尚もごねるドズル・ザビに対して、珍しく感情の籠もった声音でギレンは問い返す。

 

「してどうする。通信記録でガルマが最後までガウに乗っていたのは確認済みだ。脱出の形跡もない。探すだけ無駄だ、そんな事に人員を割いている余裕もない」

 

そう言って一度溜息を吐くと、ギレンは手にしていた資料をドズルへ放る。

 

「今更だが父上の言う通りあれの我儘など許さずに学者か何かにしておくべきだったな。ザビ家の男が無駄死にをするなど」

 

「兄貴、ガルマは精一杯自分の務めを…」

 

「務めを何だ?精一杯やったのだからこの損失を受け入れろとお前は言うのか?面白い冗談だ。国葬の場ででも遺族達に言ってみるが良い。お前達の家族は死んでしまったがガルマは精一杯やったのだから許してやって欲しいとな!」

 

ギレンはドズルを睨み付け、手元の資料を見るように無言で促す。

 

「お前から報告のあった連邦軍のMSについてだ。連中は量産体制を整えつつあるのではない。既に始めている、たかが一隻の艦を沈めた程度で覆る話ではない。あまつさえそれに失敗した挙句貴重な戦力をすり減らした者が無駄死にでなく何だというのだ!」

 

そこまで言ってギレンは大きく息を吐く。高ぶっていた感情を抑え込むと、今後の予定を兄弟へと伝える。

 

「明日、ガルマの国葬を執り行う。お前達も当然出席してもらう。それからドズル、お前の所のシャア・アズナブル少佐は一時地球方面軍預かりとする。キシリア、適当な前線へ放り込んでおけ。英雄としての戦果を上げれば良し、でなければ死んで詫びさせろ」

 

「キャリフォルニアのガルシア大佐は如何しましょう?」

 

「階級降格の上で更迭だ、キャベツの数でも数えさせておけ」

 

「待ってくれ!ガルシアはガルマの支援要請を断ったんだぞ!?そんな奴が何故その程度の処罰で済む!?」

 

その人事に再びドズルが吠える。そんな彼をギレンとキシリアは冷ややかな目で見ると、ギレンが口を開く。

 

「あれは確かに無能だが、今回についての失敗があるとすればガルマを止めなかった事だ」

 

「あの意味のない空爆が支援より重要なのか!?」

 

「自軍の本拠地が攻撃に晒されているという事実が重要なのだ」

 

ジャブローへの空爆は戦術的価値の低い攻撃である。軍人からしてみれば愚かな行動に見えるが、そもそもこの攻撃は軍事的なジャブロー攻略を意図してのものではないのだ。民主主義国家の軍にとって敵軍よりも厄介なのが自国の国民、そして政治家である。何故なら戦争の遂行は軍の役目であるが、戦争の実行を決めるのは政治家、即ちその票を握る国民だからである。軍がどれだけ強行に継続を主張しようとも、国民が中止を望めば戦争を終らせざるを得ないのだ。ジャブローへの攻撃は、事実連邦市民に対し軍への強い不信を植え付けている。ギレンからすれば新造艦一隻よりも遙かに重要だった。

 

「父上には私から伝えておく、お前達はもう休んで良い」

 

そう言うとギレンは立ち上がり部屋を後にする。そして謁見の間へと一人向かう。もう一人説得せねばならない相手がそこに居るからだ。

 

「失礼します父上。ガルマの国葬について、ご承認を頂きに参りました」

 

抱えていたファイルを取り出し玉座に腰を下ろす禿頭の男に差し出す。開戦以降表情の優れぬ父、デギン・ソド・ザビはこの数日で一気に老け込んだように見える。ガルマの死が堪えているのは明らかだった。

 

「ギレン、ガルマは家族で静かに送ってやるわけにはいかないか?」

 

「いきません。アレもザビ家の男です。その死まで全て国家のため、有効活用して然るべきです。ただでさえ今回、我々は敗北しガルマを失ってしまった。せめて国威の発揚にでも使わねば、それこそ無駄死にでしょう」

 

こちらの意志が固いと見たのだろう、デギンは小さく溜息を吐いて手を差し出した。近づきギレンはファイルを手渡した。

 

「しっかりして下さい父上、ガルマが死んだとて戦争が終るわけではないのですよ」

 

「その戦争だギレン。我々は間違えたのではないか?短期決戦の成せなかった時点で…」

 

「父上」

 

それ以上を言わせぬ為にギレンは制止し、同時に少なからず失望を覚える。戦争とは外交における最終手段だ。思い通りに行かなかったら止める程度の覚悟しか持ち合わせていない為政者がして良い選択ではない。

 

「ご承認有り難うございます。それでは準備がありますので失礼します」

 

「ギレン」

 

頭を下げ部屋を出ようとするギレンに向かってデギンが声をかけてくる。彼が振り返ると、疲れた表情でデギンが口を開く。

 

「血が流れすぎたと、お前は思わないか?」

 

「重要なのは死の多寡ではなく目的が達せられたかでしょう」

 

そう言うと彼は今度こそ部屋を出る。少なくとも彼の表情に迷いは見られなかった。

 

 

 

 

「では、避難民と負傷者はお預かりします」

 

「宜しく頼みます」

 

「次は東南アジアでしたね、合流はタンソンニャット基地になるでしょう。連邦軍は貴方達を見捨てません。頑張ってね」

 

「はっ、有り難うございます!」

 

辛くも北米からの脱出に成功した俺達は、レビル将軍が手配してくれたという補給部隊と日本で合流していた。笑顔でブライト特務少佐と遣り取りをするマチルダ・アジャン中尉を物陰から若い連中が鈴なりになって眺めているのを見て、俺は溜息を吐いた。

 

「貴様等、仕事はどうした?」

 

「うぇっ、あ、アレン中尉!?」

 

「いや、その自分らはリュウ曹長をお見送りしようとっ!?」

 

俺がそう声を掛けると、カイ兵長とハヤト一等兵が慌てた様子でそう弁明してきた。ハヤトの奴は死にかけたと言うのに元気なものである。北米で俺達はジオンに相応の被害を与えたらしい。まだ確定ではないがガルマ・ザビも死んだのだろう、俺達には臨時の昇進があった。あくまで野戦任官みたいなものなので、正式な辞令はジャブローにたどり着いてからになるが。

 

「なんだそうか。てっきりマチルダ中尉に見とれているのかと勘違いしたよ」

 

そう言って俺は笑う。

 

「日頃の労いに、マチルダ中尉と話す機会でも作ろうと交渉する予定だったが、要らん世話だったかな?」

 

「「うぇっ!?」」

 

変な声を出しつつ、周囲の連中から睨まれる二人。俺は全員に対して声を潜めつつ注意を促す。

 

「冗談だ、ちゃんとマチルダ中尉には頼んでやるよ。でもこういう露骨なのは控えとけ、ウチの女性連中に白い目で見られたくはないだろ?解ったら連絡があるまで解散しとけ」

 

若い連中を散らすと同時に丁度話が終ったのか二人がこちらに歩いてくる。多分遣り取りは聞こえて居たのだろう。ブライト特務少佐は苦い顔、マチルダ中尉は苦笑していた。

 

「見苦しい所をお見せした」

 

「いえ、落ち込んでいるのに比べれば何倍もマシでしょう」

 

キムの奴には悪いが、俺もその通りだと思ってしまった。悲しみが前進の原動力となるならまだしも、それに引きずられて動けなくなってしまえば戦場では死ぬだけだ。

 

「…パイロットの補充は難しいでしょうか?」

 

「正直に言えば難しいと言わざるを得ません。何処の戦線でもMSパイロットは足りない状況ですから。ですがレビル将軍も何かお考えがある筈です」

 

それはそうだろう、考えなしに物資を送れるほどまだ連邦軍に余裕は無い。特にオデッサ作戦の準備をしている今なら尚更だ。

 

「今回の戦闘で我々は戦力の25%を喪失しております。率直に言わせて頂けば、同じような賭けをすれば次は負けます」

 

「アレン中尉」

 

俺がそう言うとブライト特務少佐が眉を顰めつつ制してきた。だが、作戦立案者として俺は言わねばならない。

 

「自らの無能を承知で言わせていただく。数的劣勢は兵にかかる負担があまりにも大きい」

 

「けれど貴方達は作戦に成功し、こうして生き延びているわ」

 

「運が良かったと言うだけです。第一全員で逃げ出せていない以上、成功などとは言えません」

 

KIAがキムだけで済んだのは敵が無力化を優先したからと言うだけで、実力的には全員死んでもおかしく無かった。リュウ・ホセイ曹長は負傷して後送、ハヤト・コバヤシ一等兵は軽傷だから艦に残ったが、そもそもタンク自体が全機大破しているのだ。補給物資と併せてテム・レイ大尉が修復を試みているが、直せて1機と言うのが整備班からの報告だった。

 

「将軍へ報告はしておきます。けれど確約は出来ない、それは承知しておいて」

 

「宜しくお願いします。それとすみませんが、若い奴らと少し交流してやってくれませんか?どうにも連中、マチルダ中尉の魅力に当てられているようで」

 

「おいアレン中尉!?」

 

真面目な話から一転してそうお願いすると、ブライト特務少佐が大声を出す。けれど言われたマチルダ中尉の方は笑って承知してくれる。

 

「良いですわ、それで彼等が少しでもやる気になると言うなら安いものです」

 

「感謝します」

 

そう言って頭を下げると、マチルダ中尉は一度ミデアに戻っていく。その後ろ姿を見ているとブライト特務少佐が苦々しい表情で聞いてきた。

 

「言い過ぎじゃないか、アレン中尉。後はホワイトベースを修復して味方の空域をジャブローまで帰るだけだろう?」

 

そんな訳無いだろう。俺は小さく溜息を吐きブライトに告げた。

 

「あり得ませんよ。それこそ帰るだけならばミデア隊について行けば良い。輸送機だけで移動できるような航路なんですから、ホワイトベースなら現状でも十分対処出来るでしょう。そう指示しないで補給と修理を命じるという事は、別の使い道を思いついたという事ですよ」

 

「馬鹿な、俺達は素人の集まりみたいなものだぞ!?」

 

確かに、でもその素人が敵中から逃げ出して、更に少なくない被害を与えたのも事実なんだ。そして軍ではその事実こそが優先される。

 

「結果が全てというヤツでしょう。使えるなら出自や経歴など不問と言うわけです。少なくとも俺達は覚悟をしておいた方が良い」

 

何せ俺達は死ねと命じる側なのだから。


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