WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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24.0079/10/06

「ほら、これでも飲んで落ち着け」

 

避難民が引き取られた事で漸く稼働した自販機でスポーツドリンクを購入しアムロ軍曹へ手渡す。受け取ったもののアムロ軍曹は俯いたままだ。どう声を掛けるべきか悩みつつ、俺も手にしたドリンクを飲んで顔を顰める。誰だよ、竹シナモン味なんてスポーツドリンク考えたの!?

 

「家に帰ったら、連邦の兵隊が居座ってたんです。母さんが居なくて、それで探しに行って」

 

アムロ軍曹が呟くように口を開く。大凡の話はフラウ・ボウ二等兵から聞いていた。漸く友軍の地域に逃げ込んだ事で、ホワイトベースは半舷休息を取っていた。生家が近いとかでアムロ軍曹は家族に会いに行ったのだが、連邦軍人の無体を見た上に、久しぶりに再会した母親は不倫をしていたようだ。どう考えてもナイーヴな15歳には刺激の強すぎる内容である。

 

「アレン中尉、僕達の仲間ってあんな連中なんですか?それに、命がけで戦っているのは、あんな人達の安全を守るためなんですか!?」

 

興奮しているのだろう、スポーツドリンクのボトルが嫌な音を立てて歪むのが見えた。そこはなんというか、難しい話だよな。

 

「軍曹、お前が見たものも現実だ。何処にだって良い奴も居ればクズも居る。連邦軍だって例外じゃない。勿論民間人だってそうだ」

 

汚い面を見せつけられると世界が全てそうなんじゃないかって思っちゃうよな。俺にも経験がある。けど、そんなに人間は捨てたもんじゃない。

 

「だけどアムロ軍曹、お前はもうそうじゃない連邦軍人だって見てきただろう?パオロ艦長やキタモト中尉、マチルダ中尉だってそうだ。彼等がお前の言うようなクズに見えるか?」

 

俺の質問に驚いた表情で首を振るアムロ軍曹。ちょっと意地悪な聞き方だが仕方ない。それにこの問題はもっと根深いんだ。

 

「それとな、そいつらだって元は善良な軍人だったり、親切な人間というだけかもしれないんだ」

 

「そうは見えませんでしたけど」

 

「ああ、今はそうなんだろう。…この辺りで戦ってると言えば陸軍の歩兵部隊だ、俺達パイロットとは比べものにならんくらい過酷な戦場にそいつらは居る。明日死ぬかもしれない中で漸く貰った休息で、箍が外れても不思議じゃない。民間人だってそうさ、普段ならそんな大それた事を考えもしないだろうに、いつ死ぬか解らないなんて状況が判断を曇らせる」

 

ドリンクを飲み干し、ゴミ箱へ捨てながら言葉を続ける。

 

「つまりな、大体はこの戦争というイカれた状況が問題を引き起こしているんだ。だからまあ、なんだ」

 

そんなに簡単に人間に失望するな。そう言いたいがそこまでは言いすぎだろう。それに彼は人間の優しさも理解出来る奴だ。だから今は別の言葉を口にする。

 

「今は親御さんが生きていた事を喜んでおいた方が良い。生きていれば少なくとも話すくらいは出来るんだからな」

 

開戦から僅か1週間で人類の半数が死んだ戦争。だがその後も犠牲者は出続けている。そしてまだ、戦争が終る気配は無い。

 

 

 

 

ジャブローから指定された航路を睨み、ブライト・ノア特務少佐は重くなる胃を押さえたくなる衝動と懸命に戦っていた。昇進は軍人として誇るべき事であるが、少尉に任官し立てで野戦任官の大尉だけでも大概だと言うのに、幹部課程すら履修していない自分が特務とは言え少佐扱いなどなんの冗談かと言いたい。だが命令書と共に階級章を押し付けられれば否と言えないのが軍人である。

 

「タンソンニャット基地で補給及び修理を受けた後は、太平洋では無くインド亜大陸経由で中央アジアへ向かえ?ジャブローから遠離るじゃないかっ」

 

「アレン中尉の予感が当たりましたね、嬉しくないですが」

 

横で同じように航路を眺めていたワッツ中尉がそう溜息を吐いた。副長として同時に昇進した彼も、自身の昇進に困惑している一人だ。だが状況の変化は彼等の心境など考慮してくれない。

 

「東南アジアは一応こちらの勢力圏という事になっているが、実質は両軍が均衡したどっちつかずの状況だ。そんなところを暢気に航海すれば、あっという間に見つかるぞ」

 

「むしろそれが目的でしょうね。ここで我々が連中の前線を刺激して隙でも作れれば陸軍への良い援護になります」

 

現在連邦各軍の関係は険悪とまではいかないが、良好とは言い難いというのが実情だ。緒戦で大きな被害を受けた宇宙軍は艦艇の建造や対抗手段としてのMS確保の為に軍予算の多くを取っている。地球で戦っている他の軍にしてみれば当然面白くない状況だ。何しろ現在矢面に立っているのは陸海空軍なのである。建造中のMSにしてもため込むくらいならさっさと前線に送れと言いたい所だろう。

 

「無茶をさせるなら、相応の補給を願いたい所だな」

 

戦力の回復が進められているとはいえ、ホワイトベースに人手が足りていないのは動かざる事実だ。ここが改善されない事には話にならないと言うのが彼の考えだが、どうやら軍はそう思っていないように見受けられる。

 

「仮に十分な補給を受けても、本艦では運用しきれない事も考えられます」

 

ブライトの言葉に困った顔でワッツ中尉が懸念を口にする。

 

「本艦はMSの運用能力を付与されていますが、その容量は決して高くありません。両舷に各6機、現在運用している機体と合わせれば残りは6機になります。が、それだけの数を用意するとなれば恐らく量産されているジムになるでしょう」

 

言葉の意味を理解しブライトは顔を顰めた。先の補給でジムが供給されたが、それが整備班の負担になっていた。何しろ同じ製造ラインで造られた筈なのに、ガンダムと部品が共有出来ないのである。既にガンダム・キャノン・タンクと三機種を運用する事で悲鳴を上げていた整備班にこの追い打ちは正に非道としか言いようのない仕打ちであった。更に機体を確認していたレイ大尉から、更なる爆弾発言が飛び出す。

 

「恐らく現在量産体制に入っている機体はこれと別の機体だ」

 

何でもこのジムはガンダムの製造に使用したラインを利用して建造されているのだが、そもそもガンダム用の製造ラインが大量生産に対応したものでは無いと言うのだ。同じラインを追加で設置したのではないかと希望的な意見を出すも、すぐさま否定される。

 

「この機体は大して安くなっていない。そのくせ性能は良くて半分と言ったところだろう。とてもではないが割に合わない機体だよ」

 

だとするならば、仮に戦力の補充が出来たとしても、それを十分に運用出来るだけのマンパワーが確保できない。MSのパイロットは貴重だが、整備員も同様に貴重なのである。全てを十分に送ってもらえると思えるほどにはブライトは楽観的ではなかった。

 

 

 

 

「宇宙軍の艦艇?ああ、例のガルマ・ザビを仕留めた連中か」

 

宇宙軍から回ってきた基地の利用申請を確認し、イーサン・ライヤー大佐は書類にサインを書き込む。彼個人としては総司令官であるレビル大将に思うところがない訳ではないが、それとこれとは別問題である。例え申請の内容が宇宙軍、それもレビル大将直属の部隊であったとしてもだ。ましてガルマ・ザビを殺害してくれたおかげで地球に居るジオンの足並みは乱れている。その実行者を無下に扱う程ライヤーは馬鹿ではなかった。

 

「しかし酷な事をする。この状態でドサ周りどころか前線送りとは」

 

申請の中には艦の修復の為にドックの使用も含まれていた。つまり少なくともドックで修復せねばならない程度には母艦そのものも損傷しているという事だ。加えてライヤーは独自に収集した情報から当該の部隊が深刻な人員不足であることも掴んでいた。彼は顎に手を当てて思案すると、暫くして机に据えられた端末を操作し副官へ連絡を取る。

 

「すまない、確か宇宙軍から送られてきた例の連中、ああそうだ。独立混成部隊だ、連中はまだこちらで練成中だったな?」

 

機械化独立混成部隊。連邦軍が早急にMSを戦力化するために、実働データを得る為に編成された部隊である。最新兵器のテストパイロットと言えば聞こえがいいが、内実は性能評価も満足に終えていない機体や運用戦術を試す捨て石のような部隊である。誰が言い出したのか、モルモット部隊などというあまりな通称で呼ばれる始末だ。だがそれは指揮官からすれば何時でも使い捨てられる、それも失っても痛くない駒である事を意味している。

 

「宇宙軍に恩を売っておくのも悪くないだろう。最悪機体も渡してしまって構わん」

 

通信を終えて彼は静かに目を閉じる。ここでかの部隊に便宜を図る事はそのままレビル大将へ恩を売る事に繋がる。たかが一度のそれでどうという事は無いが、そうした積み重ねが無駄にならない事も彼は良く知っていた。

 

「是非たどり着いて欲しいものだ」

 

自身の野心を隠し、ライヤーは静かに呟いた。

 

 

 

 

「木馬追討部隊の受け入れは問題ありません。しかし面子のために貴重なドムを使うのは如何か?」

 

弟の国葬を終えた翌日、鼻息も荒くドズルが執務室に入ってきたかと思えば開口一番ガルマの仇討ちをするべきだと言い出した。確かに面子としてはそうなる、だがそんな余裕は地球方面軍にはない。そう言って翻意を促すがドズルは頑として譲らず、地球方面軍に余力が無いなら自分の所から戦力を出すなどと言い出す始末だ。更に聞きつけたキシリアが入室したことで混乱は加速する。

 

(笑えんな)

 

軍人としての視野しか持たず愚鈍な弟。潔癖を拗らせ理想論に傾倒した挙句、政敵を追い落とす事しか考えていない妹。唯一頼れた肉親である父は末の息子を失って腑抜けになった。最早本気でこの戦争を考えているのは自分のみであると言う現実にギレンは目を閉じた。

 

「しかしあの赤い彗星ですらグフで勝てなかったのだぞ!ならばドムを当てるしかないだろう!?」

 

ドズルがそう主張するが、そもそも前提が間違っている。ドムと精鋭を投入、それも戦区を跨いで現場に混乱をもたらしてまで仇討ちをしなければならないとギレンもキシリアも考えていないのだ。

 

「それよりも有効な使い道があると申しているのです。ドムの戦略的価値は極めて高い」

 

ツィマッド社が開発した重陸戦型MSドム。脚部に熱核ホバーを装備する事で飛躍的な機動性の向上を成し遂げた機体である。しかしこの機体は大きな問題も抱えている。それは地上に生産拠点を持たない事だった。目下キャリフォルニアにて生産ラインを立ち上げ中であるが、生産体制を確立出来ているのは本国の第二軍用コロニー、通称ダークコロニー2内のものだけである。こちらも当然ラインの拡張を進めてはいるが、地球方面軍の需要には全く応えられていないと言うのが実情だった。

 

「キシリアが問題ないと言うならば追討部隊の派遣は許可しよう。しかしドムの配備は認められん」

 

そう言うとドズルはこちらに音が聞こえてくるほど奥歯を噛み締める。だがギレンは彼を叱責する気になれなかった。追討を言い出した時点で、弟への期待を下げていたからだ。

 

「人は誰を送るつもりだ?」

 

「ランバ・ラルだ。奴の指揮下の部隊を丸ごと使う」

 

「青い巨星をですか?」

 

送られてきた計画書を見て、ギレンは注釈を書き込むとドズルへ突き返す。

 

「面子を掛けてという事は利益を度外視して戦うという事だ、失敗は許さん。修正次第持ってこい、承認してやる。キシリアもそれで良いな?」

 

「兄上のご随意に」

 

そう言って頭を下げる妹に手を振って退出を促す。そのまま振り返りもせずに出ていくキシリアを見送ると、ギレンは引き出しの中のコンソールを操作する。そして背を怒らせて出て行こうとしている弟を呼び止めた。

 

「ドズル」

 

「…なんだ、兄貴?」

 

刺々しい返事を気にもせず、ギレンはタブレットを操作しドズルへ差し出す。

 

「ドムは回せんが、性能検証用にツィマッドが本国に持ち込んだ陸戦用の試作機が技術部に残っていたはずだ。員数外のこれならばキシリアも不満はあるまい。癖の強い機体との事だが、青い巨星ならば乗りこなせるだろう」

 

「兄貴っ!感謝する!!」

 

喜色を浮かべて飛び出していく弟を冷たい目で見ながらギレンは溜息を吐く。この程度の飴と鞭で良いように使われるドズルがキシリアに丸め込まれる可能性は高い。身内で相争い、その余力をもって敵と戦う。その愚かすぎる状況に彼は益々自身のみが人類を救いうると確信しつつ執務に戻った。




以下作者の自慰設定。

RGM-79[G]陸戦型ジム セイラ・マス機
ホワイトベースに補充戦力として配備された機体。カラーリング以外は通常の機体と同一である。本機は元々タツヤ・キタモト中尉への補充機として用意されていたもので、そのためガンダム1号機に準拠したカラーリングが施されている。

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