WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


25.0079/10/07

「すげぇー、これがジャングルってやつかよ」

 

「気温もですけど、湿気もすごいですね、むわっとします」

 

「出来る限り外に出て気候に慣れとけよ、暫くはこんな感じだぞ」

 

基地につき次第、外に飛び出した若い連中を引率するために俺も外に出て顔を顰めた。コロニー落としの影響で寒冷化しているはずだが、それでも東南アジアの日差しは強い。サングラスを持ってこなかった事に少々後悔しながらそう声を掛けていると、後ろから声がかかる。

 

「随分と騒がしいな、連邦宇宙軍はいつから幼稚園になったんだ?」

 

「聞いていましたが、本当に子供を使っているのですね。ジオンに兵なしと言いますが連邦も大概ではないですか」

 

「お前達その辺にしておけ。申し訳ない中尉殿、どうにも嘘の言えない連中でね」

 

そう言ってニヤニヤと笑いながら手を差し出す少尉に視線を向けて俺も笑う。

 

「ああ、騒がしくて悪いね。それで、わざわざそんな連中に絡む暇人は何処の何方かな?」

 

「失礼しました、第9独立機械化混成部隊所属、ルヴェン・アルハーディ少尉であります」

 

「同じく、アクセル・ボンゴ軍曹っす」

 

「アニタ・ディアモンテ、階級は軍曹です」

 

そう敬礼する彼らに俺は答礼しつつ口を開く。

 

「独立試験部隊ホワイトベース所属、ディック・アレン中尉だ。精鋭の機械化混成部隊の連中がどんな御用かな?」

 

「ああ、すみません、元です、元」

 

俺の質問にルヴェン少尉がひらひらと手を振ると、抱えていた端末を差し出す。

 

「東南アジア司令部の命により、本日付でホワイトベースにご厄介になることになりました。よろしくお願いします、中尉殿」

 

そう言って彼は後ろのハンガーを親指で指す。既に輸送準備を整えたMSが3台、トレーラーに寝かされていた。

 

「おお、増援かい?自分はカイ・シデン兵長であります。よろしくお願いします」

 

「アムロ・レイ軍曹です。よろしくお願いします」

 

俺たちの会話に興味を引かれたのだろう。暑い暑いとはしゃいでいた連中の中からカイ兵長とアムロ軍曹がこちらにやってきてそう挨拶をした。ちなみにハヤト一等兵は絶賛ガンタンクの調整で缶詰にされている。

 

「本当に若いな、お前ら歳は?」

 

行動ではなく文字通りの若さに面を食らったルヴェン少尉がそう聞くと、二人は素直に答える。

 

「16っす」

 

「僕は15です」

 

「本当に子供じゃない!?」

 

二人の年齢を聞いたアニタ軍曹がそう叫ぶ。実に常識的な反応であったが、ガキンチョ共はそう受け取らなかったらしい。

 

「そんな子供を戦わせているのは貴方達大人じゃないですか」

 

「文句を言う前に自分の仕事をちゃんとやって欲しいね」

 

「あ?オイラ達がサボってるとでも言いてぇのかい!?」

 

辛辣な物言いに応じたのはアクセル軍曹だ。鼻息も荒くそう言い返す。

 

「違うのかよ?あんた等大人がシャンとしてりゃ、俺らがMSになんざ乗る必要なんてねえだろうがよ!」

 

カイの言葉にルヴェン少尉が驚いた表情でこちらを見る。だから俺は素直に教えることにした。どうせすぐに解る事だしな。

 

「カイ兵長はガンキャノンのパイロット。例のガルマ・ザビを仕留めたスナイパー。そっちのアムロ軍曹は赤い彗星と三度戦って三度とも生き延びているパイロットだ」

 

俺の解説にルヴェン少尉とアニタ軍曹は目を見開くが、アクセル軍曹はむしろ挑発的な表情で口を開く。

 

「へっ、パイロットなら話は早え。勝負はアレの腕で決める。どうだい?」

 

「良いぜ、後で機体性能の差なんてほざくなよ?」

 

良くねえよ。売り言葉に買い言葉で答えるカイに俺は溜息交じりに突っ込みを入れる。

 

「お前ら上官の前で私闘とは良い度胸だな?そんなに営倉が好きだとは知らなかったぞ?」

 

「「うぇっ!?」」

 

露骨に狼狽する二人に対し、苦笑いで助け舟を出したのはルヴェン少尉だった。

 

「まあまあ、中尉殿。ここは一つレクリエーションという事でどうです?アクセルの台詞じゃないが、俺達が解り合うのにこれ以上の方法は無いでしょう」

 

顔いっぱいにあいつらの実力が気になるって書いてあるぞ、少尉。全く、しょうがない連中だ。

 

「あくまで全員の技量確認のためだ。機体を搬入、点検後に模擬戦を行う。それでいいな?」

 

俺の言葉に、皆が好戦的な笑顔で頷いた。

 

 

 

 

『なあタイチョ、これって舐められてるよな?』

 

アクセル軍曹の苛立ちを含んだ声音にルヴェンは溜息を交えつつ応じる。

 

「個々の技量を客観的に観察するためと言われりゃ文句は言いづらい。ま、不満なら実力で引きずり出せと言いたいんだろう」

 

模擬戦の相手はガンダムにキャノンが2機。バランスは良いように見えるが、指定された状況は密林。キャノンの得意とする距離での撃ち合いは難しく、接近が容易な環境。対してこちらはジムが3機、それも密林での運用を前提にチューニングが施されている。強力なビーム兵器は脅威だが、撃たれる前に接近してしまえばキャノンなどカモだ。

 

『実質3対1ですか』

 

言いつつもアニタ軍曹は警戒を解いていないのは彼女の真面目な性格故だろう。尤もルヴェンも彼女の考えに賛成だった。

 

「勝ち目のないマッチングをするなんて思えんな。何があるか解らん、警戒は厳に。いつも通りのフォーメーションでいくぞ」

 

『『了解』』

 

ジム小隊が気合いを入れている頃、対戦相手であるアムロ達は口々に中尉への不満を述べていた。

 

『ジャングルって、俺ら初めてじゃんよ。こんな視界が悪くちゃ、スナイパーなんざ殺されたも同じじゃねえか』

 

『向こうは多分チューニング済みの機体だね、近づかれたら厄介だ』

 

そう言うジョブ准尉にカイが口を尖らせて不平を漏らす。

 

『厄介ったって、どうしろってんだよ?』

 

「でも、これ必要な訓練だと思います。暫くこの辺りで戦うみたいな口ぶりだったし」

 

アムロは外に出た時にアレン中尉が言っていたことを覚えていた。暫く同じ気候が続くとは、つまりそう言う事だろう。

 

『つまり中尉としては僕らがこの環境でどう動くか確認しておこうって考えているのかな』

 

『その前に教える事とかあるでしょーよ、セオリーとか、なんかないのかよ?』

 

更に不平を口にするカイ兵長にアムロは自分の考えを述べる。

 

「多分、そのセオリー外の事を見たいんじゃないかって。セオリー通りって聞こえはいいですけど、それはもう訓練の量がモノを言いますよね?それなら僕らみたいな経験の浅い方が不利です。だからあえて中尉はセオリーを教えずに始めさせるんじゃないかなって」

 

『アムロは良い子ちゃんね。存外あの中尉の事だから、ただ伝え忘れてるだけかもよ?』

 

『密林地帯での歩兵の行動なら僕が多少は知っている。取り敢えずそれを中心に作戦を立てよう』

 

ジョブ准尉の言葉に二人は素直に頷いた。そして大凡の作戦が決まった所で模擬戦開始の合図が鳴った。即座に三人はバラバラに散開する。2機のキャノンは息を潜め、ガンダムも姿勢を低くして動きを止める。

 

『かかった』

 

最初に敵を発見したのはカイ兵長のガンキャノンだった。ジョブ准尉の乗る機体とセンサー類の性能は同一であるため、今回は単純に先に視界に入っただけだ。そしてそのデータは距離を置いて待機しているジョブ准尉のキャノンにも有線で伝えられる。既にミノフスキー粒子は戦闘濃度だ、無線は使えない。

 

『タイミングを合わせるよ、3、2、1、今!』

 

ジョブ准尉の言葉と同時にカイ兵長はトリガーを引く。射線上にあった樹木を次々と破裂・燃焼させながらビームが突き進み、先頭で警戒しつつ歩いていたジムのコックピットを撃ち抜く。

 

『はっ!?』

 

即座に戦死判定を受けて擱座する機体から後ろの2機は慌てて距離を取ったのを確認し、ジョブ准尉が叫ぶ。

 

『陣地転換!』

 

通信ケーブルを放棄しつつ、カイ兵長はキャノンを走らせる。そして今回の地形では比較的に視界の開けた丘陵に素早く陣取った。ライフルを構えると樹木が不自然に動いているのが見えた。この辺りの樹木は大きいものになれば20mにも達する。MSですら隠してしまうサイズではあるが、機体へ干渉させずに移動しようと思うならそれは大変な困難を要する。何せ文字通り密林なのだ。ガンダムの様な器用さや繊細な動作に対応していないジムでは全ての枝葉を避けて進むなど不可能なのである。カイ兵長は即座にスプレーミサイルポッドを起動し、樹木の揺れる周囲にロケット弾を持っているだけ叩き込む。爆発によって位置を暴露された2機のジムがそれぞれガンダムのビームとキャノンの砲弾を喰らって擱座する。あまりにも簡単に片付いた事からカイが拍子抜けしていると、模擬戦終了の合図があり、そのままデブリーフィングを実施するというアレン中尉の声が届いた。


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