WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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やるべき事がある時ほどお話のネタって思い付きますよね(現実逃避


27.0079/10/10

分厚い雲の中を軍艦が進む。丸みを帯びてどこか愛嬌のある形をしたそれは、ジオンの新鋭艦であるザンジバル級だった。その艦橋で艦長席に座る恰幅の良い男が笑う。

 

「ふっ、なかなか良い乗り心地だ。渡してしまうのが惜しいな」

 

そう言ってランバ・ラル大尉は隣に座る妙齢の女性に声を掛けた。

 

「仇討ちが終わればまた宇宙なのでしょう?貰っても持て余しますよ」

 

そうクラウレ・ハモンが笑った瞬間、機外で閃光が走り続いて機内に轟音が響いた。

 

「艦後方にプラズマ光!」

 

「連邦の攻撃だ!」

 

「レーダーに反応ありません!」

 

「落ち着けお前達、ただの雷だ。ごく普通の気象現象だ」

 

腕にしがみ付くハモンの頭を撫でて宥めながらラルはそう部下を注意する。

 

「で、ですが本国で読んだ覚えが。連邦軍は気象兵器なるものを実用化し、我が軍の侵攻を阻んでいると…」

 

情けない声でそう言ってきたのは艦のオペレーターを務める若い少尉だった。

 

「アングラの読み過ぎだ。誰が書いたとも知れない与太話と、俺の言葉。お前はどっちを信じるんだ?」

 

意地の悪い笑顔で聞いてやれば、少尉は小さく謝罪の言葉を述べた後、職務に戻る。丁度その時遥か後方で再び雷が光る。

 

「そら見ろ、兵器ならあんな当てずっぽうに撃つものか。安心して任務に当たれ」

 

そう言って笑い飛ばしながらも、ラルは内心で溜息を吐いていた。彼とその部下達はジオン軍でも有力なコマンド部隊として知られている。だがその内実は先ほどの通りで地球の環境など経験は疎か知識すら怪しい状態だ。何しろ訓練をしたコロニーで再現される環境ではそこに生活する人間が被害を受けるような規模は実行されないからだ。当然生活に不都合な落雷、ハリケーン、ブリザードなどを体験することなど有り得ない。それが地球では当たり前に起こる現象だとしても。

 

(連中が地球の気象を好きに操れるなら、ジオンは降下作戦から一週間も持たんさ)

 

そんな皮肉を頭の隅に追いやると、地球方面軍から渡された情報をラルは改めて確認する。

 

「東南アジアか。厄介な所に逃げてくれたな」

 

顔を顰めながらラルはホワイトベースの動きをそう評した。こちらの前線、それも少々劣勢な地区の鼻先をわざとうろつくその動きは明らかにこちらを釣ろうとする意図が感じられる。問題は連中が無視をするには危険な戦力であり、殴りつけるには手強い相手だという事だ。更に場所もいただけない。熱帯雨林などは精密機械には当然、温室育ちのスペースノイドにとっても最悪と言ってよい環境だ。ただでさえ居るだけで士気が低下していくであろう環境で更なる面倒事を背負い込んだ現地の指揮官にラルは密かに同情した。

 

 

 

 

『いやぁ、樹海とはよく言ったもんだぜ、一面木ばっかりだ』

 

『カイ兵長は地球初めてなんだって?どうよ、すげえだろう。他にも砂だけの所とか、全部氷の所とかもあるんだぜい』

 

『なんで貴方が得意そうに言うのよ?でもそうね、地球にはまだまだ凄い景色が一杯あるわ、皆にも是非見て欲しいわね』

 

割と最悪な出会いから早4日、その日の内にしおらしく謝罪してきたジム隊の面々は当初よりも随分と友好的に他のパイロット達と関係を構築している。中でもカイ兵長とハヤト一等兵は特に良好なようだった。

 

「次はコルカタで合流でしたか?補給があるのは歓迎ですが、どうにも誘導されている感がして気に入りません」

 

MS隊の副官に収まったルヴェン少尉が俺の横でそう言った。因みに彼は待機中なので本当ならちゃんと休むべきなのだが。

 

「今は密なコミュニケーションが必要でしょう、我々には」

 

そう言われれば否とは言えない。結局タンソンニャットで受けられた補給は補修用の部品と武装、そしてホワイトベースのエンジンだった。徹底してブロック構造を取り入れているとは知識では知っていたけれど、まさか壊れたエンジンをそのまま取り換えられる程とは思わなかった。全部合わせて一日もかからないとか連邦驚異の技術力である。

 

「しかし助かりました。おかげで大分乗りやすくなりましたよ。正直使い捨てられるかと冷や冷やしてました」

 

「お礼はレイ大尉に言ってくれ。あとそれは誤解じゃないな、態度に改善が見られなければ使い捨てていたよ」

 

レイ大尉からの提案で、残っていたコアファイターでジム向けの補正プログラムを作成したのだ。やり方は単純で、機体パラメーターをジムの物に変更、動かしている基礎プログラムをジムの物に入れ替えてジムの各パイロットが乗り込み、自分用のカスタムOSにするというやり方だ。はっきり言って手間暇が掛かりすぎて大規模な部隊ではやれない裏技みたいなものだ。ホワイトベースでも搭載されている教育型コンピューターを知り尽くしているレイ大尉が居て漸く何とかなっているという具合である。

 

「手厳しいですね」

 

そら誰だって死にたくないからな。俺はインカムを切るとルヴェン少尉に対して声を潜めて問いかける。

 

「俺はここの所ガンダムにかかりっきりで世情に疎いんだが、今の連邦軍はあんな感じか?」

 

「全員が、ではありませんがね、若くてやる気のある奴は大体あれに近いです。方向性はそれぞれですから、纏まって変な派閥を作らんのがせめてもの救いですかね」

 

「何がジオンに兵無しだ。連邦だっていないじゃないか」

 

「直轄部隊でレビル将軍批判は不味いのでは?」

 

俺がそう吐き捨てると、ルヴェン少尉が苦笑しつつそう茶々を入れてくる。それに対して俺は鼻を鳴らしてみせていると、アクセル軍曹から通信が入った。

 

『二時方向、戦闘光らしき発光を確認。映像送るっす』

 

補給でスナイパーライフルが追加されたため、対空監視は大分やりやすくなった。パイロットと機体が異なっても共通の機材を扱えるのはMSの利点だろう。尤も彼らのジムはカイ兵長の乗るキャノンの様に専用の改造は行われていないから、ホワイトベースから冷却材とエネルギー双方の供給が必要なのだが。

 

「アクセル軍曹、映像は拡大出来るか?」

 

俺の要望に従うように映像が拡大される。森林の中で発光が連続し、時折樹木が倒れた。木の密度が高くて正確には判断しにくいが、一瞬ザクが確認できた。

 

「どうします?」

 

聞いてくるルヴェン少尉に俺は顔を顰めて応じる。

 

「それを決めるのは艦長の仕事だな」

 

そう言って俺は艦橋へ通信を開く。出たのはワッツ中尉だった。

 

『状況はどんなですか?』

 

「友軍が劣勢のようですね。この辺りは前線より幾らか踏み込んでいます」

 

俺がそう言うとワッツ中尉はあからさまに嫌そうな唸り声をあげた。確認した限り戦闘が起きているのは前線よりややジオン側の位置だ。恐らく友軍が踏み込み過ぎたのだろう。

 

『…劣勢だと解っていて放置は出来ませんね。MS隊は出撃準備を、編成は任せます』

 

「了解しました、ガンダムとジムを使います。ルヴェン少尉、アムロ軍曹とセイラ一等兵を率いて友軍の援護を行え」

 

「了解しました」

 

野戦服になったおかげでパイロットの準備は早い。ノーマルスーツのような心肺機能に関する補助を受けられないという言うデメリットはあるが、余程の動きをしない限り戦闘機の様なGがかかるわけではないので、補助用のベストなどで事足りる。ホワイトベースも増速し、見る間に戦場が近づいてくる。

 

『よし、降下っ!』

 

ルヴェン少尉の声が通信機に響くと、ハッチからガンダムとジムが飛び降りた。降下中に一度バーニアを噴射して減速したガンダムが、手にしていた90ミリマシンガンを敵に向かって放った。射撃に晒されたザクが連続して風穴を開けられ、即座に爆発する。

 

『相変わらず嫌になるくらい正確な射撃だね』

 

スコープ越しにそれを見ていたアクセル軍曹が呟く。良く勘違いされるが、射撃とは避けられないものである。何しろ生身でもたとえMSでも、その動きは弾丸よりも圧倒的に遅い。つまり射撃を避けるには狙われて撃たれてからでは遅いのだ。だから射撃を避けるというのは、如何に狙われている段階でその照準から逃れるかという事になる。正確な射撃だから避け易いなんて言うのは与太話の類である。話を戻してアムロ軍曹の射撃はどうかと言えば、まず信じられないくらい狙いが正確だ。移動目標を攻撃する際は当然未来位置を予測して撃つ訳だが、この予測精度が極端に高いのだ。それに加えて教育型コンピューターが機体制御をアシストするものだから、照準から発砲までの間隔が極めて短い。結果その攻撃は不可避の一撃となって敵を襲うのだ。それこそあれを回避するには相手の思考を読んで、行動より先に回避する以外に方法はないだろう。

相手の部隊はあまり練度が高くないようだ。静粛航行をしていたとはいえ、真上にホワイトベースが来るまで気づかないなど、周辺への警戒がお粗末すぎる。こんなのに押されているとか、こちらの部隊もどうなっているんだ?ガンダムの襲撃に動揺した敵が、漸くホワイトベースに気づき、慌てて逃走を図るが、それはあまりにも遅かった。不用意に背を向けた1機は先に着地していたルヴェン少尉とセイラ一等兵の射撃でハチの巣にされ、慌てて木の陰に隠れたもう1機は戦闘をしていた部隊の攻撃だろう大口径砲と思われる一撃で樹木ごと吹き飛ばされた。どうやら敵はその3機だけだったらしく増援の気配はない。周辺警戒をするホワイトベース隊の機体に対し、現地部隊のジムはホワイトベースに向けて呑気に手を振っている。本当に大丈夫なのかよ、この戦線。

 

 

 

 

「部隊の救援、感謝する」

 

「はい、いいえ中佐殿。友軍を助けるのは当然でありますから」

 

日が傾いて茜色に染まる基地の飛行場に白亜の巨体が現れた時は、圧倒的な存在感にコジマ中佐もため息をついてしまった。そしてその艦を運用している兵士の誰も彼もが自分と親子ほども歳の離れた若者達と知り、彼は内心忸怩たる思いだった。当然その様な素振りはかけらも見せず、部下を救ってくれたことに対して感謝を述べる。

 

(時代が変わったという事だろうな)

 

最新兵器であるMSを任されているものの、コジマ中佐の立場は微妙という言葉に尽きる。度重なる敗走に連邦陸軍でもMSの必要性は度々議題に挙がったものの、ノウハウも確立されていない、敵よりも明らかに未成熟な新兵器で編成された部隊の指揮官など、誰もやりたがらなかったのである。加えて配属される部下も陸海空どころか宇宙軍からもかき集めた混成となれば、トラブルが発生するのは火を見るより明らかだ。つまり彼は陸軍がMSの運用ノウハウを得る為に最初に送り出された生贄なのである。

 

「これからは君達のような若い才能が必要になるんだろうな。諸君の航海が無事終わることを願っている」

 

そう本心から彼は願うのだった。




エコロジスト達は一応改心しました、一応ね。

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