WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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29.0079/10/13

「つけられているな」

 

『どうします、艦長?今ならギリギリ射程内ですよ』

 

202号機から係留ワイヤー越しに送られてくる映像を確認しながらブライト・ノア特務少佐は唸った。ここ数日ホワイトベースは派手に暴れて見せたから警戒されるのは当然であるし、白色の宇宙艦などというあからさまに目立つ姿であるから隠れようもない。

 

「隠れられんからといって丸見えと言うのも面白くない。カイ兵長やれるか」

 

『あいよ、任されて』

 

気負いない声が艦橋に響くと、薄桃色のビームが大気を裂いて突き進み、偵察していたであろうルッグンに命中する。瞬く間に火球となって墜落していく。それを見ながらブライトは溜息を吐いた。

 

「どう思う?」

 

「普通にこちらの航路を特定しようとしていたように見えましたが」

 

「あの、宜しいでしょうか?」

 

ワッツ中尉にそう尋ねていると、操舵輪を握っていたミライ・ヤシマ伍長が困り顔でそう口を開いた。

 

「なんだろうか、ミライ伍長」

 

「はい、今日だけで5回、敵航空機と接触しています。何れも攻撃はありませんでしたが、その度に本艦は進路を修正しています」

 

「…続けてくれ」

 

「進路変更後に再度敵と接触するまでの時間がかかりすぎているように思えます。先のように撃墜したならばまだしも、他の敵は見逃しているのに後続が現れませんでした」

 

ミライ伍長の発言はブライト自身も感じていた違和感だった。推進剤の都合上、ジオンのドップは長時間の監視には向かない。とは言えミノフスキー粒子の濃度は低く通信は可能な状況だ。推進剤が尽きる前に交代を呼べば継続した監視が出来るにもかかわらず、敵は一定間隔を空けて接触してきていた。

 

「つまり連中は、我々に進路変更をさせる事が目的?」

 

「だとしたら理由は簡単ですね。待ち伏せでしょう」

 

言いつつワッツ中尉が近隣の地図をモニターに出す。

 

「現在我々はダッカ市西方20キロの位置におります。予定ではこの後南西へと進み、本日中にコルカタ基地に入る予定ですが」

 

「進路変更でやや西寄りに航路が変わっているな。となれば旧国境付近で仕掛けて来るか?」

 

「でもこの辺りは開けた地形ですし、何より水田地帯です。MSで待ち伏せるには向かない地形だと思うのですが」

 

「考えすぎ、でしょうか?」

 

ミライ伍長の言葉にブライトは首を振って応じる。

 

「解らん。だが何か意図はあるはずだ。一応警戒態勢をとっておこう」

 

しかし彼らの読みは外れ、その後は何事もなくコルカタ基地へ到着したのだった。

 

 

 

 

「凄まじいな。この距離でか」

 

ラジオコントロールされたルッグンから送られてきた最後の映像を見て、ランバ・ラル大尉はそう呻いた。有効射程30キロ。それだけでも脅威だというのに放たれたビームはその距離をたったの5秒で到達している。

 

(こんなものをMSに搭載できるのか、連邦は)

 

宇宙空間であっても30キロという距離は決して短くない距離である。何しろザクなどの瞬間的な加速性能は精々200m/s2が良いところだからだ。加速し続けることなど出来ない地上ならばなおの事だ。自機の有効射程にたどり着くまでに何度撃たれねばならないかなど考えたくもない。

そんな機体に上空から撃ち下ろされるなど正に悪夢と言えるだろう。彼らが移動中の木馬へ仕掛けなかった最大の理由がそれである。

 

「連中の行先はコルカタ基地で間違いないな?」

 

「航路設定をしている奴は素人ですね。行きたい方向がバレバレですよ。間違いありません」

 

「よーし、ならば明日の夜に強襲する。今夜中に部隊を動かすぞ、かかれ!」

 

 

 

 

コルカタ基地はインド亜大陸と東南アジアの連邦軍を繋ぐ基地だ。とは言うものの、重要度で言えばそれほどでもない。北に聳えるヒマラヤ山脈が天然の障害となっているために航空兵力を用いない侵攻が極めて困難だからだ。更に東部は旧世紀時代から続く大規模な水田地帯、西は丘陵と砂漠に占められていて南はベンガル湾である。当然要塞化などはしているものの、配備されている戦力は通常の機甲戦力と航空機だ。そんな基地の夕日に染まる滑走路へミデアが次々と着陸する。

 

「補給の頻度に喜ぶべきか、それでもカツカツの使い倒されぶりに嘆くべきか」

 

どんよりとした目をしたロスマン少尉が横でそんな事を言いながら、俺と同じようにミデアを眺める。機械化混成部隊の整備中隊が合流した事で多少は改善されると思われた整備班の環境は出撃回数が跳ね上がった事で帳消しになっていた。

 

「その辺りは今回の補給で多少はマシになるんじゃないか?どうも上はホワイトベースを有効活用するつもりらしいしな」

 

支援部隊として東南アジア方面軍から転出してきた第9独立混成部隊の連中も解散してホワイトベースに正式に編入された。命令もただ移動しろから積極的な襲撃による前線攪乱に変わっている。恐らく最初の補給でミデア隊が持ち帰った俺達の戦闘データが有益だとレビル将軍が判断したのだろう。補給の頻度も質も原作とは大違いだ。

 

「元々ホワイトベースは中隊規模のMS部隊を独立運用する事を想定してましたしね。色々と机上の空論だった部分も私達の運用実績から改善されているでしょうし」

 

一番はMSの編成と整備班への負担だよな。当初は前衛・中衛・後衛に分けて全部均等に配備って考えだったが、遊撃を考えるとこの編成は不便だ。タンクの火力は魅力的だが、その長射程を活かせる環境で戦いが発生する事はほとんどない。と言うか、スナイパーライフルで十分補えてしまうのだ。寧ろ今の様な拠点などの陣地攻略の前衛として重装甲化して運用した方が使い勝手が良いくらいだ。どうせ他のMSと協働すると考えれば自走砲よりも突撃砲の方が便利なのは明白である。

整備員にしても地上で機体を整備するのは極めて困難である事が良く解る。何せMSの格納は基本的に直立した状態なのだ。頭頂部に至っては16m、実に5階建ての建物相当の高さである。落ちれば普通に死ねる。

 

「バルカンの弾薬を補充するだけでも命がけですからね」

 

それな。専用の装填治具を死んだ目で自主制作する整備班の姿が忘れられない。

 

「さて、整備班もそうだがいい加減パイロットも送って欲しいんだよな」

 

誰かが負傷したらそのまま運用出来る機体が減るなんて現状は悪すぎる。悪すぎるが人は居ないんだよなぁ。

 

「なんでパイロットって機体とセットで来るんですかね?」

 

「人が足りな過ぎて予備って概念が消えてんじゃないか?」

 

そんな益体もない愚痴を言い合っている内にミデアがホワイトベースへと近付いてきて、物資の搬出準備に入る。輸送コンテナの後ろが大きく開いた瞬間、ロスマン少尉が小さく絶望の悲鳴を上げる。無理もない。シートを被されたMSが2機も現れたからだ。

 

「やめてくださいしんでしまいます」

 

手すりに掴まったまま崩れ落ちる彼女に黙祷を捧げていると、ミデアから見慣れた女性が降りて来る。その後ろには機体のパイロットであろう人物が付き従っているんだが、その片割れを見て俺は目を見開いてしまう。しかしそれは見間違いでない事を、その後すぐに思い知らされる。

 

「クリスチーナ・マッケンジー中尉です。本日よりホワイトベース所属となります」

 

「ニキ・テイラー曹長であります。同じくお世話になります」

 

「ホワイトベースのMS隊を預かっている、ディック・アレン中尉だ。よろしく頼む」

 

「ルヴェン・アルハーディ少尉、同じくMS隊所属。よろしく」

 

「ジョブ・ジョン准尉です。よろしくお願いします」

 

小隊長格を集めて新入りの二人と挨拶を交わす。うん、間違いなくマッケンジー中尉だ。こっちを意地の悪い笑顔で見ている辺り本人で間違いない。

 

「久しぶりね、アレン。まさか追いつかれるなんて思ってなかったわ」

 

「お久しぶりです、マッケンジー先輩。野戦任官ですよ、揶揄わんでください」

 

そう言って俺は一度溜息を吐くとマッケンジー中尉に問いかける。

 

「確かせんぱ…マッケンジー中尉はG-4部隊でしたよね?なんでまたホワイトベースに?また機体でも壊して左遷されたんですか?」

 

すると彼女は見慣れた冷たい目で答える。

 

「そんな馬鹿をするのは貴方くらいでしょ。開発が最終段階に入ったから後は正規パイロットが受け持ってるのよ。で、余った私は前線で新型の実機試験という訳」

 

「新型?」

 

「G-4部隊で開発していた機体のデータをフィードバックしたジムの改良型よ。カタログスペックだけならガンダム並み」

 

「それは頼もしい。そっちの曹長は?」

 

「はい、ジャブローにて新型開発に携わっておりました。中尉と同じく運用試験のため実機と共に配備となりました」

 

はて、ジャブローの新型?

 

「ガンキャノンの量産試作機です、アレン中尉殿。ホワイトベース隊におけるガンキャノンの戦果が高く評価されました所、こちらの機体も早期に配備出来ないかという事になったようで」

 

おう、そいつは、何と言うか悪かった?

 

「そうか、キャノン隊は主にスナイパーとして運用しているが、曹長の機体でも可能か?」

 

「エネルギー供給は問題ないかと。しかし冷却ユニットの性能は不足しています」

 

つまり201号機と同じなわけだな。

 

「十分だ。ジョブ准尉、彼女の面倒はお前に任せる。キャノンは3機で運用だ。マッケンジー中尉には現在あぶれているセイラ一等兵とバディを組んで貰いたい。それともガンダムに乗り換えるか?」

 

「アレックスで懲りたわよ、ジムに乗るわ」

 

彼女は苦笑して辞退する。残念だ、折角押し付けられると思ったのに。

 

「宜しい、機体の搬入が済み次第パイロット全員でシミュレーションを行うぞ全員に声を掛けておくように」

 

 

 

 

「あの、お送りします!」

 

記念写真を撮った後、ミデアへ戻ろうとするマチルダ中尉にアムロ・レイ軍曹は思わずそう声を掛けてしまった。特に用事があった訳ではないし、送らねばならない距離でも時間でもない。ただもう少しだけ彼女と話してみたいという彼の心情をくみとってくれたようで、マチルダ中尉は快くエスコートを受け入れてくれた。歩きながら二人は様々な話をする。それは取り留めのないものであったが、アムロにとってはとても得難い時間だった。

 

「辛いかもしれないけれど、頑張ってね。貴方達には多くの人が期待しているわ。特に、ガンダムに乗る君には」

 

「僕、ですか?アレン中尉でなくて?」

 

アムロの言葉にマチルダ中尉は柔らかく笑い、応える。

 

「貴方がMSに乗り始めてまだ一ヶ月も経っていない、なのに彼顔負けの戦果を出しているわ。そうね、貴方もニュータイプなのかもしれない」

 

「ニュータイプ…」

 

聞きなれない言葉をアムロが反芻していたその瞬間。笛の音の様な音が響き、そして基地の至る所で爆発が起きる。すぐに警報が鳴り響き、敵の襲来を告げて来る。直ぐにミデアへ駆けていくマチルダ中尉の背中を見て、アムロも慌ててホワイトベースへと走った。ガンダムが無ければ自分が戦場で無力な存在であることを彼は十分理解していたからだ。




人気な女性キャラを出して露骨に読者様へ媚びていくスタイル。
アレですよ、多分ここから緩いキャンンプ話とか始まるんですよ。

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