WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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短編て何話までですかね?


3.0079/09/16

「1号機と予備パーツの回収が最優先だ!」

 

ガレキの撤去作業を続けるガンダムの傍らでテム・レイ大尉は大声で叫んでいた。彼が助かったのは正に運命の悪戯としか言いようがない。搬出当日になって武装をさせろと言ってきたパイロットとそれに応じた整備班、彼等に付き合う形で3号機と格納庫にいたからだ。もし予定通り搬入作業に携わっていたら、今頃吹き飛ばされていたかもしれない。

 

(機体の損傷が最小限で済んだのも、少尉の提案が大きい)

 

彼が開発に携わったRXシリーズ、所謂ガンダム・ガンキャノン・ガンタンクと呼ばれるMSはコアブロックシステムを採用している。機体内部に脱出装置として小型戦闘機を内蔵する構造を採用している。これは大胆にも機体そのものを上下に分割し、コアファイターを挟み込むという形なのだがこれは分割状態の際、大きな開口部を持つという事でもある。このため合体状態でない場合では剛性が下がるという問題も存在していたが、戦場では考慮する必要の無い事柄であった為問題無いと判断されていた。

 

「分割しての輸送は難があるか、改善すべき問題だな」

 

開発要求の内訳には戦場での分離合体が盛り込まれている。正直テムからすれば何を想定した仕様なのか理解に苦しむが、求められている以上は最低限その機能を持たせる必要がある。当然それに関連する問題があるならば改善せねばならない。

 

(尤も、そんなことはジャブローに着いてからだろうがな)

 

救助されたキタモト中尉を見ながらテムは表情を険しくした。喫緊の課題はやはり制御系である。民間人――息子が乗っていると知った時は大いに動揺したが――が操縦していた2号機はともかく、アレン少尉の3号機ですらザクを取り逃がした。機体の性能では完璧に上回っている筈なのにである。これをパイロットの未熟と片付けるのは技術者の怠慢であるとテムは考える。少なくとも正規の訓練を受けたパイロットが実戦で発揮出来ない理論値など兵器には価値がない。最高階級者として指揮を執る煩わしさに頭を悩ませていると、更なる問題が基地の司令官に収まったイグチ大尉から齎される。

 

「パオロ中佐が出撃しようとしているだと!?」

 

現在ホワイトベースとサイド7の部隊は無防備に近い状態である。再襲撃を受ける前にこちらから攻撃し、敵の機先を挫こうという腹づもりだとは解るが、その内容が余りにもお粗末だ。

 

「最上位階級の人間が最初に挺身するなど何を考えているあの老体は!?ああ、クソ!」

 

腰に吊していた通信機を取り直にチャンネルを合わせる。幸いにしてミノフスキー粒子濃度は大分低下しており、僅かなノイズが混じるものの目当ての相手と繋がった。

 

『はい、こちらガンダム3号機』

 

「アレン少尉、緊急事態だ!敵を発見した友軍が迎撃に出ようとしている!」

 

その言葉だけでこちらの意図が伝わったらしい。何かと小煩い男であるがパイロットとしての技量は問題無い事は解っているし、察しも良いため一々全てを言わずとも理解してくれるのは人を使うことになれていないテムには有り難かった。

 

『了解しました、迎撃に向かいます』

 

「こちらの作業は後1時間はかかる。無理はするなよ。それと友軍の掃海艇にはパオロ中佐が乗っている、絶対に墜とさせるな」

 

テムの言葉にグレーのガンダムが頷くと、近くに置かれていたマシンガンとシールドを掴みエレベーターへと乗り込む。じれったく見えるが推進剤の補給が出来ていないのだ、宇宙空間で戦う事を考えれば少しでも節約しておく必要があった。

 

そう呟いたテムに更なる問題が降りかかるのは、このすぐ後だった。

 

 

 

 

「残弾確認、予備弾倉2、ビームサーベル問題なし…」

 

エアロックを抜けながら俺は最後の装備点検を行う。第一関門であるサイド7襲撃は現在も継続中、既に当初の予定よりも大幅に戦力を欠いている状況だ。気の良い仲間達の顔が脳裏を過るのを強引に振り払い、目の前の事に集中する。

 

(ここでパオロ中佐に死んで貰う訳にはいかない)

 

彼は赤い彗星の、正確に言えばジオンエースパイロットの怖さをよく知っている。彼が指揮を執り続ければ、もしかしたら大気圏突入時の失敗を防げるかもしれない。

 

「最高なのはここで奴らを殺すことだが」

 

そう言って俺はガンダムの右手に握らせたマシンガンを見る。

 

(難しいか)

 

ガンダムに搭載された教育型コンピューターは極めて優秀な制御システムだ。ごく短時間でも戦えば入手した画像から相手を解析、運動性や動作パターンを割り出しこちらの動作を補正してくれる。雑な言い方をするなら、ロックオンさえしてしまえば後はコンピューター側が細かい判断をして勝手に最適な射撃をしてくれるのだ。人型という機体動作の多くをコンピューター制御に任せざるを得ないMSにとってこれがどれ程厄介かは原作を見れば解るだろう。ジオンのエースという超一流の実戦データで鍛えられた教育型コンピューターのデータを移植されたジムは本格配備から僅か2ヶ月という短い期間にもかかわらずジオン軍と互角に戦えているのだ。だが、残念ながら今の俺はその恩恵を受けることが出来ない。出来る事ならザクで調子に乗っている内に始末してしまいたいのだが。

 

「落ち着け、優先順位を間違えるな」

 

先ずはこの状況をこれ以上崩さない事だ。エアロックを抜けて漆黒の宇宙へ機体を進ませる。ミノフスキー粒子の散布濃度は低い、これなら通信が使えそうだ。

 

「こちらガンダム3号機、ディック・アレン少尉であります。702掃海艇応答されたし。繰り返す、こちらはガンダム3号機」

 

ミノフスキー粒子下での戦闘が一般的になった現在、通信は特定のチャンネルを開きっぱなしにするのが一般的だ。艦艇の様に粒子濃度を厳密に測る測定器なんて持ち合わせていない機動兵器は、この通信のノイズ量で大凡の濃度量を推察したりしている。尤も最大の理由は撃墜された際の救助の手間を省く為だ。

 

『こちら702掃海艇、リュウ・ホセイ曹長であります』

 

応答が来たことに安堵しつつ、最初からパオロ中佐が出なかった事に少し顔を顰める。敵の前で悠長に押し問答などしたくなかったからだ。

 

「当宙域の防衛は本機が受け持つ、至急後退しホワイトベースの出港に備えられたし」

 

『702掃海艇、パオロ・カシアス中佐だ。一機だけでの防衛など無謀極まる。我々も援護する』

 

勘弁してくれよ。と言うか無謀だって理解してんなら艦長が出張ってんじゃねえよ。

 

「意見具申失礼します、中佐殿。ザクを相手に旧式の掃海艇など数に入りません。率直に申し上げれば足手まといであります」

 

『こちらは勝手に援護する。貴官はこちらを考慮しなくて宜しい』

 

宜しくねえよ。

 

「承服致しかねます。自分は賤しくも地球連邦宇宙軍士官であります。友軍を見捨てることは出来ません。更に申し上げれば絶対に死ぬと解っていて作戦に参加を認める訳にもいきません」

 

俺はパイロット課程とは言え繰り上げでは無い正式な連邦士官だ。ちゃんとそちらの教育も受けている。無論それに固執して死ぬような間抜けはしないが、守れる範囲であれば最大限守る気持ちはある。

 

『…了解した。アレン少尉、貴官の乗るその機体は我が軍の最重要機密である。絶対に生きて帰れ』

 

万一の場合は自爆してでも敵に情報を渡すな、絶対に鹵獲なんてさせるなって事ですね解ります。

 

「了解であります。中佐殿もご武運を」

 

返事は無かったが、代わりにその場で反転した掃海艇が素早く姿勢を正すと良い加速で港へと引き返していく。操縦していた曹長はリュウ・ホセイと名乗っていた。原作通りならばガンタンクのパイロットになる男であるが、戦闘機乗りとしての腕も良さそうだ。ああいうタイプはMSとの相性も良い。そんなことを考えていると通信にノイズが混じり始める。どうやら時間が来たようだ。

 

「準備が整うまで待つとは殊勝じゃないかジオン共!」

 

事前にホワイトベースから受け取っていた位置情報を基に光学捜査をすれば、不規則に動く光点を発見する。精査の必要も無い、発艦したザクだろう。

 

「数は2機?面倒な事をしてくれる!」

 

偵察情報に拠れば敵艦はムサイだと言う。間違いで無ければ搭載機数は6機、内2機はコムサイと呼ばれる突入カプセル内に積めるというだけなので艦載機として運輸出来るのは4機だ。状況から鑑みれば、敵はこちらに向かってくる2機とムサイで陽動をかけつつ、残る1ないし2機でサイド7に対し再び偵察、或いはサボタージュを行うつもりだろう。ミノフスキー粒子が散布されている以上、MSのセンサーだけでは隠蔽行動をとる敵機を捕捉するのは困難だ。

 

「余り舐めてくれるなよ?ここなら遠慮は要らないからな!」

 

要警戒の信号弾を撃ち出しつつ機体を加速させる。推進剤を鱈腹積んでいるMSは例え炉を破壊しなくてもとんでもない爆発を起す。万一にもコロニーに穴を空けるわけにはいかない状況では攻撃も慎重にならざるを得なかったが、ここならばそんな必要は無い。

 

「はっ!びびってんのかよ!」

 

こちらからも接近してやると敵機の編隊が乱れた。先行していたバズーカ持ちの方はそのままだったが、僚機のマシンガンを持っている方が動揺して速度を緩めたのだ。馬鹿が、スペースノイドの癖に宇宙戦闘のイロハすら知らんと見える。バズーカ持ちが慌ててフォローに入ろうとするが遅い、こっちの加速性能はザクの1.5倍以上なのだ。

 

「貰ったぁ!」

 

宇宙空間の戦闘において速度を緩めることはあまり推奨されていない。これは単純な話で減速して得られるメリットが少ないからだ。運動力学上高速になるほど機体を別方向へ動かすには大きなエネルギーが必要になる。なので多くの人間は低速の方が素早く方向転換が出来るので攻撃を避けやすいと考えるがとんでもない間違いである。例えば俺の持つ武器、100ミリマシンガン。こいつの初速は約1300m/sだ。一キロ以上離れていても、回避するまでに1秒しか猶予がないのである。1秒もあれば余裕だろうと思うかも知れないが、しかし現実はそう甘くない。撃たれたことをパイロットが認識し回避を選択、操縦桿を動かしそれに反応した機体が漸く動いて避けるのである。実際に使える時間は半分あれば良いところだ。更に問題なのが抵抗の無い宇宙では、一度入力された方向に対するエネルギーがいつまでも残留してしまう事だ。結果真逆の方向へ移動したければ、先ほどの倍のエネルギーが必要になってしまう。簡単に言ってしまえば、右方向へスラスターを噴かせた場合、左方向へ移動したければ1度噴かして機体を静止させ、もう一度噴かして移動する必要が出てくる。スラスターの出力を調整すれば良いと言うかもしれないが、そんなことが戦闘中に出来ると言うなら是非やって見せて欲しいものである。ならば推奨される回避手段はどの様なものかと言えば単純にして明快、高速で動くことだ。移動速度が速ければ速いほど射撃時に偏差を取らねばならないことは解ると思う。そして偏差が大きくなれば、ちょっとのズレで十分回避が出来るのだ。長々と講釈を垂れたが、つまりどういうことかと言えば。

 

『た、助けっ!曹長!?』

 

動きの鈍ったザクに砲弾が次々と突き刺さる。初速と反動制御を優先したため弾頭はAPCR、マガジンの半分ほどをたっぷりと喰らい蜂の巣になったザクは漏れた推進剤が引火したのか僅かな間をおいて爆発した。

 

『よくもジーンをっ!』

 

ノイズ混じりに激昂した声が届く。寝ぼけたことを言うな、戦争をしているんだぞ?

 

「殺したんだ、殺されもするだろうさ!」

 

十分な加速を得ていたガンダムの後ろをバズーカの弾が通り過ぎた。向こうのFCSはまだガンダムの速度を捉え切れていないらしい。ならばチャンスは有効に使わせて貰う。機体を僅かに捻り射線を確保、オートロックのままでトリガーを引く。最初の数発こそ外れたが、マガジンの弾が無くなる頃には砲弾がザクを捉え始める。

 

「仕舞いだ!」

 

素早くサイドスカートにマウントされたマガジンと交換し射撃を続ける。完全に射線に捉えられたザクは、先ほどの機体と同じく瞬く間に全身に弾痕を穿つと程なく爆発した。俺は戦果確認もそこそこに次の獲物へ向かって機体を捻る。サイド7に敵が侵入したことは間違い無い。一瞬コロニーに戻る事を考えたが、コロニー内での戦闘は制約が多すぎて撃破は困難だと結論づける。

 

「ならば活動時間自体を狙わせて貰う」

 

情報を持ち帰るつもりなら母艦の喪失は許容出来ないだろう。俺は遠くに映る緑色の敵艦を睨み付けた。




書いた分が終わったので、ここからは気分次第になります。

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