次々と撃ち出される砲弾が空を駆けて敵基地へと降り注ぐ。水田に囚われかける足を巧みに操作しながらランバ・ラル大尉は頬を歪めた。
「これこそが戦場だ」
彼にとって宇宙での戦いは、全くもって不愉快なものだった。機体の性能に任せて一方的に相手を嬲るなど、武人として恥ずべき行いだからだ。だが、今彼の前にあるのは正に敵と呼ぶべき存在だ。強力な火器で武装しザクを凌駕する性能を持つMS。戦術を練り、相手を出し抜き、己の全てを以てして相対せねばならない存在に、ラルは高揚感を抑えきれずにいた。
「突撃!」
『『了解っ!』』
ラルの号令の下、彼と部下の機体が飛び出す。MS―08TX、イフリートと名付けられた機体に地上用の改造を受けたR型ザクが続く。オデッサから回されてきた機体は機動力に劣った為、全機バズーカでの支援に回していた。十分な補給の下に9機のザクが両手に構えたバズーカを次々と放ち、更にギャロップからの砲撃も加わる事で敵基地は全域で炎上している。脚部の推進器を用いた滑走は通常の機体を遥かに上回る速度を生み、彼らを前へと送り出す。基地までの距離が10キロを切った頃、漸く例のビームが放たれる。しかしそれは後ろに逸れた。
「そう明るくては真面に見えまい!」
前傾姿勢を取り、更に機体を加速させながらラルは笑いながら言い放つ。基地に向けて放った砲弾の半分は焼夷弾だ。広がった火炎はナイトビジョンだけでなくサーマルセンサーも妨害する。目さえ潰してしまえばスナイパーは脅威ではない。基地までの距離が5キロを切ると防衛装置が迎撃を行い始めるがスナイパー以上に精度の甘い攻撃が当たる筈もなく、彼らは悠々と市街地に突入した。勝利を確信した彼は信号弾を打ち上げる。
『全機突撃セヨ』
懐に敵を抱えてしまえばスナイパーは悠長に攻撃をしていられない。後は火力で押し切るだけの簡単な作業だ。後続部隊の為にスナイパーへ攻撃を指示しようとした瞬間、上空からビームが放たれ、最右翼に位置していたステッチ軍曹のザクを貫いた。
「ステッチ!?」
更にビームが降り注ぎ、彼の隊はバラバラに分断されてしまう。そしてラルの前に一機のMSが飛び降りてきた。
「こいつか、連邦の白い奴というのは!」
着地の瞬間を狙って腕のガトリングガンを放つがあっさりと盾で防がれる。彼は舌打ちをしつつも即座に次の攻撃に移っていた。
「装甲が厚かろうが!」
盾を構えた側に回り込み、ラルはヒートソードを素早く振るった。特殊金属を刀身に用いているヒートソードの温度は数千度に達する。無論そんな温度の直撃に耐えられる金属は存在しない。ヒートソードは易々とシールドを切り裂いて、
「なにぃっ!?」
半ばで逆手に白い奴が持っていたビームサーベルに受け止められた。
『そんな攻撃でっ!』
敵機と接触したためだろう、コックピットに敵の声が響く。その声の若さにラルは戦場にありながら動揺してしまった。
「こ、子供!?」
しかしそんな彼の感情など無視して戦場は動き続ける。突撃命令を忠実に守る部下達がスナイパーの射程に入り込み、次の瞬間放たれたビームによって火球へと変えられる。
「不覚っ!」
ラルはそう叫ぶと即座に左腕にもヒートソードを握り斬り掛かる。MSに乗って相対したならば誰であれ切らねばならない。それが優秀なパイロットならば尚の事だ。そう、たとえそれが子供であっても。
「手加減はせんぞ、小僧!」
「攻撃かよ!?」
思わずそう叫び、俺はハンガーへと走る。夜襲と言えば聞こえはいいが、まだ日が落ちてそれほど経っていない。つまり敵はそれ以前に攻撃地点に移動し潜伏していたという事だ。
「監視の連中は何をしてやがったんだっ」
パイロット用のベストとヘルメットを被り、機体へ飛び乗る。直ぐに通信用モニターが複数開いて矢継ぎ早に情報が飛び込んできた。
『アレン中尉、敵の襲撃だ!カイ一等兵からの報告では少なくとも5機のMSが基地に向けて接近中!至急迎撃に当たれ!』
『中尉!搬入された2機はまだチェックが終わってないから使えない!乗れないってパイロットに言って!?だから無理ですよマッケンジー中尉!?』
『こちら401、ルヴェン少尉です。ジム隊は全機行けますよ!ハヤトのタンクも出せるそうです』
「アムロ軍曹、セイラ一等兵はどうか?」
『102アムロです、いつでも行けます!』
『203セイラ一等兵です。同じく行けます』
口頭での報告に続いて各機のステータスが送られてくる。すばやく確認し、俺は指示を出した。
「アムロ軍曹、一度飛び出して上空から牽制、勿論墜とせるなら墜としてヨシ。ジョブ曹長はデッキに上がってカイ兵長と敵の後続に備えろ。ルヴェン少尉、アクセル軍曹とアニタ軍曹と共に基地の守備隊の支援に回れ、ハヤト一等兵を預けるから上手く使え。セイラ一等兵は俺のケツにつけ、基地に入り込んだ連中を叩くぞ。質問は?」
そう問い返すが疑問の声は上がらない。状況は悪いが、投げ出すほどじゃないな。
「宜しい、敵の狙いはホワイトベースだ。誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやれ!」
『『了解っ!』』
返事と共に次々とMSがホワイトベースから飛び出していく。俺も機体を操作しながら近距離通信でセイラ一等兵に話しかける。
「状況は普段と逆だがやる事は変わらん。猟犬と狩人は覚えているか?」
『はい、問題ありません』
流石セイラさん。肝が据わっていらっしゃる。
「大変結構。俺が猟犬でセイラ一等兵が狩人だ、行くぞ」
言いながら外に出れば、元気に飛び上がったアムロ軍曹が続けざまにビームを放っている。いやあ、いつ見ても惚れ惚れする動きだね。こっちも負けていられない。
「敵が乱れた、各個に叩くぞ!」
叫んで俺はバーニアを噴かせると敵の中で分断されてしまった一機に接近する。
「がら空きだぜ」
ビームライフルを素早く動かし脚部を撃ち抜く。太腿から右足を失ったザクがバランスを崩して仰向けに倒れる。即座に接近していたセイラ一等兵のジムが90ミリマシンガンをバーストでコックピットへ撃ち込んだ。正に訓練で教えた通りの動きだ。
「いいぞ!次だ!」
残りは3機、だが隊長機はアムロ軍曹が抑えているから実質2機だ。その残りも出てきた基地守備隊の戦車とジム隊の射撃に阻まれて逃げ回るのが精一杯だ。
「はっ、俺達に喧嘩を売るには数が足りなかったな!」
俺とセイラ一等兵が近づくと、1機が慌てて迎撃しようと振り返る。馬鹿が。俺達はそのザクを無視して回避を続けるもう一機に接近する。その後ろで更に振り返った事で速度の死んだ先ほどのザクが、ガンタンクの砲撃で真っ二つにされながら吹き飛んだ。それを確認する間もなく、俺はビームジャベリンを引き抜いて躊躇なく突き出す。敵の右肩を捉えたジャベリンのビームが根元からザクの右腕を斬り飛ばした。その反動に耐えきれなかったのだろう、ザクはそのままもんどり打って倒れると動きを止めた。
『敵っ…増援!数っ…!!』
ノイズ交じりにカイ一等兵の声がスピーカーから響き、頭上をビームが通り抜ける。着弾方向を確認すれば、マゼラアタックとザクの部隊がこちらに向かって来ていた。ああ、こういう時通信が使えねえのは不幸だよな。連中の予定では波状攻撃でホワイトベースを仕留めるつもりだったんだろう。だが、先行した部隊があっさりやられた事で単なる戦力の逐次投入になってしまった。哀れとは思うが、遠慮してやるつもりは毛頭ない。何せ連中は俺達を殺しに来ているんだ。殺される位は諦めてもらう。
「少尉、ルヴェン少尉、聞こえるか?タンクを前面に出せ、市街地に踏み込まれる前に連中を片付けろ。セイラ一等兵、ルヴェン少尉の指揮下に入れ。俺はアムロ軍曹の手伝いをしてくる」
未だに大立ち回りを続ける2機のMSに向けて視線を送りながら俺はそう指示を出す。短く了解の返事が届いたのを確認した俺は、ビームライフルを構えて殺し合いに乱入した。
「迂闊なんだよ!」
放ったビームはギリギリの所で躱される。基地に被害が出ないように下半身を狙っているのが見透かされているようだ。しかし、青いイフリートか。バルカンを放ちつつ再び俺はジャベリンに持ち替えて襲い掛かる。しかし突き出したジャベリンはギリギリで躱されると、イフリートの左手に握られたヒートソードによって柄を斬られてしまう。そのうえ腕に取り付けられたガトリングガンを向けて来るから慌てて俺は回避行動に移った。
『コイツっ!』
『ぬうっ!?』
俺を牽制した事で注意力の分散したイフリートにアムロ軍曹が斬り掛かる。避け切れないと判断したのだろう、右手のヒートソードで受け止める。出力こそ優っているが、ガンダムは機体重量で劣るためかつばぜり合いは拮抗を見せた。その隙を逃さぬべく、俺はビームサーベルを腰だめに構えてイフリートへ体当たりを行った。
「死ねぇ!」
ぶつかった衝撃で機体が激しく揺れる中、スイッチを押し込んでビームサーベルを発生させる。荷電粒子の刀身が容赦なく敵機を貫くが、位置が悪かったらしく相手は動きを止めない。
「こっの!」
サーベルを抉ってやるとイフリートが一瞬痙攣したように動き、急速に脱力する。どうやらデカい動力パイプを破壊したようだ。
『覚えておけよっ、貴様らの実力ではない、機体性能と数に任せた事を忘れるな!』
『負け惜しみを』
「っ!?離れろアムロ!」
捨て台詞と共にイフリートのコックピットハッチが開く、中から飛び出した固太りの男が地面すれすれでランドムーバーを噴かせると建物の中へと逃げ込む。そして直後にイフリートが盛大に爆発した。
「くそがっ!アムロ軍曹、アムロ!無事か!?」
『な、なんとか』
返事がきた事に安堵しつつ、俺は機体のチェックを行う。幸いにして致命的な損傷は無かったが、カメラがやられたのか画像が乱れている。周辺を確認すれば、敵はギャロップまで前線に押し立てて来ていた。
「アムロ、悪いがもう一仕事だ。市街地にあれが入り込む前に叩くぞ、ビームライフルの残弾はまだあるな?」
『さっきの敵はいいんですか?』
逃げたランバ・ラルを気にするアムロ軍曹に俺は言葉を続ける。
「基地の部隊に任せろ。それにあっちは歩兵じゃ手間だろう?」
キャノンをぶっ放している201号機はともかく、202号機は強制冷却中なのかギャロップに対応できていない。というか2機もギャロップがいるとか大盤振る舞いが過ぎる。
『っ、了解です』
返事と共にガンダムがバーニアを噴かせて空へ跳ぶ。
「やれやれ、俺も負けていられん」
ビームライフルの残弾を確認した俺はそう言って機体をアムロ軍曹と同じように空へと跳ばせた。程なくしてギャロップが射撃可能になり、俺はアムロ軍曹の攻撃で停止寸前のやつへ止めのビームを放つ。弾薬にでも直撃したのか、派手な火柱を上げて1機は停止する。それとほぼ同時にタンクから放たれたと思われる砲弾が連続してもう1機のギャロップを襲う。片方のエンジンがその砲撃で吹き飛び、ギャロップはその場でゆっくりと旋回を始める。そこへ基地守備隊とジムによる攻撃が加わって、瞬く間にハチの巣にされたその機は黒煙を上げながら停止する。
こうして俺達は何とかホワイトベースを守りきる。しかしその後の捜索であのパイロット、ランバ・ラルを見つける事は出来なかった。
皆さん警戒しすぎですよ、コイツはハッピーエンド大好きでこれまでの作品でも仲間を全然殺せなかった玉ナシ作者ですよ?
美人さんがシュラクったり、ネネカったり、これ母さんですなんてするわけないじゃないですかw