WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


31.0079/10/15

「バイコヌール基地攻略に参加せよ、ですか」

 

コルカタ基地を出発する際にマチルダ中尉経由で渡された機密文書を開封した俺達はその内容を見て唸った。連邦軍によるオデッサ奪還作戦が本格的に開始されたのだ、だがこの作戦は単なる一つの基地奪還に止まるものじゃない。ユーラシア大陸全域での反攻作戦であり、大陸規模で行われる包囲殲滅作戦だ。

 

「バイコヌールはユーラシアのジオン軍にとって最大の宇宙港だ、特に補給面での依存度は大きい。ここが奪還出来れば敵の兵站を圧迫できる」

 

「同時に連中の逃げ道を潰す意味もあるでしょう。レビル将軍も容赦がない」

 

資源打ち上げ用の施設などは当然あるだろうが、ユーラシア全体の兵員を宇宙に送るとなればバイコヌール基地の存在は不可欠だ。つまりここを先に攻略するという事は、レビル将軍はジオンの兵士を逃がさずに地上で始末する腹積もりなのだ。まあ宇宙へ逃げればどうせまた戦線に復帰するのは目に見えているのだから当然の対応とも言えるのだが。

 

「予定では陸軍の第4軍及びインド方面から抽出される第2機械化混成大隊と協同する事になる。同地域に残存している空軍も参加予定だ。我々の主な任務はこの第2機械化混成大隊の支援になる」

 

機械化混成大隊は連邦軍内でMSを配備した部隊の事だ。尤もこの第2大隊は結構微妙な編成だ。何しろ部隊の大半というか2個中隊は61式戦車で、残りの1個中隊はガンタンクという素敵構成だからだ。機甲大隊を名乗った方が正しいんじゃないか?因みにタンクは量産型だという、嫌な予感しかしねえ。

 

「敵の要衝ですから、抵抗はかなりのものになるでしょうね」

 

俺が唸るとブライト・ノア特務少佐は同封されていた写真の何枚かをモニターに表示する。

 

「事前偵察によれば敵は多数のビーム砲を利用したフラックタワーを建設している。こちらが欧州や北米で使ったものの模倣品だな。尤も模倣でも十分に脅威な訳だが。我々の任務は友軍と共にこの対空施設を破壊する事だ。そうすれば後は空軍が更地にしてくれる」

 

ユーラシア北東部には撤退した空軍の戦略爆撃部隊がかなり残っている。ただ連中はMS並みに大喰らいな上に喪失機が出た場合補充が容易じゃないという問題も抱えている。決定打になりうる戦闘能力は持っているが、同時に喪失した際のリスクが高すぎる為に今まで温存されていた。それが投入されるのだから連邦軍の本気が窺える。

 

「問題はそのフラックタワーでしょう。ミノフスキー粒子のおかげで誘導弾が使えませんから、破壊するなら投射量に物を言わせるしかない」

 

その投射量を担当するのが第4軍の陸上打撃群になるわけだが。

 

「…第4軍にはどのくらいMSが配備されているのでしょうか?」

 

俺の横でマッケンジー中尉がそう聞くと、ブライト特務少佐は難しい顔で答える。

 

「具体的な数は連絡されていない」

 

つまり無いって事だな。あるいは居るとしても機械化混成隊、俺達のご同類が少数なのだろう。

 

「空撮だけでも中隊規模のMSが確認出来るのですが?」

 

「整備やローテーションなんかを考慮すれば少なくとも大隊規模、最悪それ以上ですね」

 

「第4軍からの要請で攻撃の第一陣はこちらに担当して欲しいとの事だ」

 

まあそうなるわな。61式も改良はされたものの、それでもMSと戦うのは荷が重い。そして1機でも突破すれば、こちらの陸上戦艦を破壊するポテンシャルをMSは持っているのだ。

 

「タンクの砲撃で釣れますかね?」

 

量産型ガンタンクの砲は原型機と同じ120ミリだ、正直陣地攻撃には物足りない口径だと言える。

 

「攻略用の補助兵装も追加したモデル、との事だから何とかなるだろう」

 

「でしたら後は我々がタンクを守り切れるかどうかだけ、という訳ですね」

 

大役じゃねえか、嫌になる。

 

 

 

 

「凄いですねアムロ軍曹は」

 

模擬戦を終えてパイロット室に戻ると、ニキ・テイラー曹長がそう声を掛けてくる。アムロはどう答えたものかと悩んだ末、素直に礼を言う事にした。

 

「ありがとうございます、テイラー曹長。でもガンダムのおかげですよ」

 

そう返すとテイラー曹長は真剣な顔で切り出してくる。

 

「ガンダムのおかげ、ですか。アムロ軍曹は他の機体に搭乗した経験は?」

 

「ジムとキャノンはシミュレーターで少しだけ訓練しています。と言っても本当に乗っただけ程度ですけど」

 

「成程、まだ時間はありますか?良ければ少し面白いものをお見せしたいのですが」

 

特に指示を受けていなかったアムロはその言葉に頷く。すると彼女は付いてくるように促しハンガーへと向かう。

 

「えっと、曹長?」

 

意図が読めずにそう話しかけると、テイラー曹長が歩き続けたまま応じる。

 

「実は先ほどの模擬戦で違和感があったのです。シミュレーターで仮想データと戦えるのは知っていますね?」

 

「はい」

 

ホワイトベースではあまり行われていないが、パイロットの運用データを基に構築されたシミュレーション用データがある事は聞かされていた。

 

「ジャブローでこの機体を仕上げている際に良く使っていたのですが、どうもアムロ軍曹の動きは“死神”に酷く似ていて、けれど少し違う。最初は機体側の限界値に応じて設定を弄っているのかとも思ったのですが…」

 

「死神?」

 

物騒な名前に思わず聞き返すとテイラー曹長は微笑んで答える。

 

「ジャブローのパイロット達がつけたシミュレーションデータへのあだ名です。初見では機体すら見ることも出来ずに撃墜される。私も敵機を視認できるようになったのは10回以降です。これでも早い方なんですよ?」

 

その言葉にアムロは驚く。テイラー曹長の技量は間違いなく高い。そんな彼女を10回も姿すら見せずに撃墜するなど人間技とは思えなかったのだ。

 

「この機とマッケンジー中尉の機体には死神のデータがあります」

 

そう言って彼女はシステムを起動する。その意図する所を理解してアムロはテイラー曹長と入れ替わりコックピットに収まった。

 

『基の機体よりも推力は向上していますが、あくまでこの機体はキャノンです。運動性はガンダムに劣りますから留意してください』

 

アムロが頷くと同時に模擬戦が始まる。そして次の瞬間襲い掛かってきたビームにアムロはいきなり墜とされた。

 

「え?」

 

『ああ、すみません。ガンダムの射程内で始めてしまいました』

 

訳の解らない事を言われアムロは混乱する。

 

『死神は射程内に入った目標を100%発見します。そして発砲までに必要とする時間はゼロコンマ数秒です。つまり今味わった状況ですね』

 

「これ、なんとかなるんですか?」

 

『なりませんね、パイロットの間では何分持つかが目標になっていました』

 

滅茶苦茶な設定に思わずアムロがそう聞くと、テイラー曹長があっさりとそう答える。それを聞いてアムロは、つまりどう逃げ延びるかという話なのだと考えた。しかしそれにテイラー曹長が水を差す。

 

『この死神の動きを私は何度も観察しました。武装の無いデータを射撃訓練の標的にしていましたので、多分データの製作者以外ならパイロットで一番死神の動きを見ているという自負があります。そして私から見ると、死神とアムロ軍曹の動きはとてもよく似ている。貴方とそのガンダムならば、あるいは死神に勝てるのではないかと私は思います』

 

「煽てないで下さいよ」

 

そうアムロが言い返すが、テイラー曹長は柔らかく微笑み否定する。

 

『本心ですよ。アレン中尉もマッケンジー中尉も良いパイロットですが、死神や貴方とは動きが決定的に違う。あの領域に到達出来るのは貴方だけだと私は確信しています』

 

その後テム・レイ大尉に発覚した当該データはホワイトベースにおいて格好の仮想敵として拡散され、大いに人気を博すことになり、テイラー曹長が何処かの宇宙を背景にした猫の様な表情となる事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

「やれやれ、降りたと思えばもう仕事か?地球は随分慌ただしいな大佐殿」

 

舞い上がる埃に顔を顰めながらガイア大尉はそう目の前の男に言い放つ。

 

「敵も必死だという事だよ、大尉。だがこの一戦に勝ってしまえば連中の息の根は止まる」

 

階級の差で言えばあり得ない態度を気にした様子も見せず、大佐と呼ばれた優男はそう返してきた。

 

(勝てば、ね)

 

ガイアは大佐の言葉に頬を歪める。本来ならばこの戦争は9ヶ月程前に終わっていた筈なのだ。連邦宇宙軍の中核人物であるレビル将軍を捕らえたあの時、確かにジオンの勝利は確定していた。捕らえたガイア達は勝利を決定付けた英雄であり、ジオン公国の歴史に名を刻みこむ筈であった。政治家共が政争の為にレビルを逃がさなければ。それは勝者の傲りか、はたまた戦争を知らぬ故の愚かさがそうさせたのか。果たして地球連邦は継戦を望み、ジオンの勝利は幻となった。そんな状況を生み出した連中の走狗の語る勝利という言葉のなんと軽い事だろう。

 

「まあいい、どうせ地球にもコイツにも慣れねばならんからな。俺達は何をすればいい?」

 

そう問えば、大佐は彼の後ろに居並ぶドムへと目を向けて口を開く。

 

「バイコヌール基地の救援に向かって貰いたい。どうも連中は我々の補給を断ちたいようでね。致命とは言わないが、流石に今更投げ込みに戻られても困る」

 

投げ込みとは地球侵攻作戦初期に多用された方法である。突入コンテナに物資を詰め込んで、凡その位置に投下する。侵攻範囲の狭かった当初こそ成り立ってはいたが、支配地域の拡大と共に投入先が分散、結果物資回収の煩雑化や遺失、更には敵による鹵獲に加えブービートラップに用いられるなどの問題が頻発した事で、殆どは宇宙港を介した物資輸送に置き換わっている。つまり宇宙港を失えば現在辛うじて維持している兵站は崩壊する。その先に待つのがどの様な結末であるかなど兵士なら誰にでも解るだろう。

 

「成程、大任だな。実に俺達向きの仕事だ」

 

そう言ってガイアは不敵に笑った。




成程読者の期待は、
お姉さん達がスリングショットでアムロ達を誘惑しつつ。
唐突に強化されて敵に寝返った挙句。
「トチ狂ってお友達になりでも来たのかい!?」と言いつつ首ちょんぱされる。
成程成程、勉強になるなあ!?(水星の魔女をキメながら

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