「作戦は極めて単純だ、第2機械化混成大隊が敵基地を攻撃、我慢出来ずに飛び出してきた敵MSを友軍の機甲部隊と協同で叩く。フラックタワーが破壊されれば俺達の任務は完了だ」
ブリーフィングルームで俺はモニターに映し出された地図を指しながら説明する。
「護衛対象は機械化混成大隊に所属する第1から第3小隊。それぞれ3両の量産型ガンタンクからなる部隊だ。こいつはタンクの親戚扱いされているが、うちの奴とは似ても似つかない紙装甲だ、はっきり言ってザクのマシンガン一発でも致命傷になる」
俺の言葉にアムロ達少年組が顔を顰めた。そらそうだ、攻撃されたら最悪身を挺して守る必要がある護衛対象なんて、俺だって抱えたくない。
「フラックタワーの有効射程は60キロと予測される。余裕を見てタンクの位置は80キロの位置になる。ホワイトベースも同様の位置より主砲による攻撃を行う予定だ」
言いながら先日の空撮写真をモニターにアップで映す。
「事前偵察で少なくともMSを9機確認している。基地の規模からすると大隊規模のMSが配備されていると考えられる」
そこで一旦言葉を区切り、俺は息を吸い込んだ。
「はっきり言ってしまえば今回の我々は囮だ。タンク部隊をエサに敵のMSを釣り出して我々が叩く。フラックタワー破壊の本命は第4軍の陸上打撃艦隊、つまりヘビィフォーク級陸上戦艦で構成された艦隊の艦砲射撃だ。彼らの下にMSが向かわないように処理するのが最優先事項となる」
「それはつまり、タンクの防衛よりも敵機の撃滅が優先される、という事でしょうか?」
皆が聞きにくい事を発言してくれたのはニキ・テイラー曹長だ。
「そうなる。だが安易に見捨てて良い訳じゃない。第4軍の攻撃がとん挫した場合、我々が代わりにフラックタワーの破壊を担当する事になる、その際に彼らの火力が必ず必要になるだろう」
そう言って俺は頬を歪ませ、厳然たる事実を語った。
「つまりこの作戦で一番命が軽いのが我々だ。タンク部隊を死守しつつ、敵MSを撃滅。これが我々の生存よりも優先される」
嫌な沈黙が支配する中で俺の声だけが部屋に響く。
「ま、自分のために誰かが死ぬよりは気楽な仕事だ。失敗したときは死んでいるから、後を気にする必要もない」
画面を操作して地図上にタンク部隊を配置すると、俺は更に説明を続ける。
「それぞれの部隊に対し直掩として1小隊ずつ戦力を付ける。左翼は第4小隊、中央が第2小隊だ。右翼は第3小隊、こちらにはハヤト一等兵のタンクを含めて小隊とする。アムロ軍曹と俺は遊撃に回る。デリバリーの注文は早めに頼むぞ」
マッケンジー中尉とテイラー曹長が加わった事で現在ホワイトベースは4小隊編成になった。再編で機体番号も入れ替わったので地味に整備班に睨まれている。しょうがねえだろ、ガンキャノンが補充されるなんて考えてもいなかったんだから。203改め502となったセイラ一等兵はマッケンジー中尉の小隊だ。因みにマッケンジー中尉の機体はRGM-79G、通称ジム・コマンドなんて呼ばれるジムだ。ただしまだ試作機らしく、バックパックはD型のものを背負っている。本来ならマッケンジー中尉が最先任になるからMS隊長も代わってくれないか聞いてみたが全員に却下された。皆もっと階級を大切にしようぜ?
閑話休題。
「武装は対MS装備、敵の数から補給に戻るのは困難であることが予想される。弾薬コンテナを各隊で携行するように。何か質問は?」
そう問うが誰からも声は上がらない。
「宜しい、作戦開始は今から8時間後。3時間前には全員搭乗待機のこと、以上だ」
終了を告げると、部屋が一気に騒がしくなった。小隊内で装備について話し合う必要があるからだ。なにせルヴェン少尉のジム隊以外は機体性能すらバラバラだからな、皆真剣に話している。
「アレン中尉、僕達はどんな装備で出撃ですか?」
アムロ軍曹が近付いてきて俺にもそう聞いてくる。
「俺達は友軍の間を動き回る事になるからな、ビームライフルに予備のライフル、それからバズーカだな」
彼の質問に俺は事前に考えていた答えを返す。他の連中以上に移動が多い俺達は更に補給が難しい。出来る限り武器を持ち歩きたいというのが本音だ。
「そうなるとサーベルは一本になりますね」
「ビームライフルもマシンガンみたいにマガジン式にでもなってくれればもっと楽なんだがな」
現在のビームライフルは本体内にミノフスキー粒子を貯蔵する方式であるため、複数回の使用には一度母艦に戻って再チャージをするか、予め複数のライフル自体を持ち歩く必要がある。開発段階から散々文句を言ってやったのだが未だに改善はしていない。
「…中尉。今回の任務って、その大丈夫なんでしょうか?」
急にそんな事を聞いて来るアムロ軍曹を思わず見返す。そして何となくだが彼の不安を察する。これまで俺達の戦いは逃げても良い戦いだった。そもそも当初の目的がホワイトベースでジャブローにたどり着くためだったのだから当然なのだが、それに対してここの所の任務は大きく性質を変えている。積極的な襲撃もそうだが、今回に至っては遂に自分達の生存よりも任務結果が優先される状況だ。危険だと思ったら逃げられるこれまでと比べれば精神的な負担は遙かに大きい。正直に言えば俺だって嫌だ。
「アムロ軍曹、そういう意地悪な質問はしてくれるなよ。俺の立場では大丈夫としか言えん」
露骨に不安そうな顔をするアムロ軍曹に、俺は苦笑しながら話を続ける。
「だがそれじゃ不安だろうから、隊長らしく多少は言い訳をしてやろう。まず攻撃地点となるインテルナツィオナル北部はバイコヌール基地まで非常に平坦な地形だ。遮蔽物と呼べるものはほぼ存在しない。これが砲戦、それも迎え撃つ側にとってどれだけ有利かは解るよな?」
俺の意見にアムロ軍曹は素直に頷く。
「そして遠距離での砲撃なら戦車だって十分に頼りになるし、タンクだって黙って見ているわけじゃない。加えて敵は第4軍にも対処しなきゃならないから、こちらに全ての戦力を割けるかすら怪しい。加えて陣地前にはシルダリヤ川があるときたもんだ」
いつの間にか室内の話し声は消えて、俺の声だけが響いている。しかし俺は構わず続けた。
「そして俺達のMSはビームで武装する機体ばかりで射程は圧倒的に有利と来てる。もし俺がジオン側のMS部隊を指揮していたら、諦めて空爆要請をしているな。だが、連中にはそんな戦力の持ち合わせは無い。どうだ、少しは気が楽になったか?」
「取敢えず、緊張は減りました」
俺がそう笑うと、アムロ軍曹は困った笑顔で応じる。再び声の戻ってきた室内を一瞥した後、俺は彼の肩を叩きつつ付け加える。
「軍は俺達をしっかりと使い倒すつもりだ。だから安心しろ」
「それって、安心できるんですか?」
「出来るさ。使い潰すつもりなら死ぬ様な任務に就けられるが、使い倒すならギリギリの仕事になるからな。寧ろ今までより安全な任務になるよ」
俺達が有用性を示し続ける限りな。そう心の中で付け足して、俺は部屋を後にした。
「基地に合流しないのか?」
オルテガ中尉の言葉にガイア大尉は頭を振った。現在彼はカミスリバス湖西部、バイコヌール基地から凡そ100キロの位置に野営地を設営し息を潜めていた。
「基地に籠って戦うなんぞ、ドムの利点を自分から捨てるようなもんだ」
MS-09ドム。ザクやグフを遥かに上回る重装甲を持ちながら、熱核ホバーを採用した事で既存の機体の3倍以上の最高速度を発揮する高性能機だ。同時に採用された新装備のジャイアント・バズも極めて強力な火器であり、配備が進めば戦線に一石を投じるのは明らかだ。
「あの基地司令は博打の出来なそうなツラだったしな」
渋い顔でガイアの判断を支持したのはマッシュ中尉だった。バイコヌール基地を任されている基地司令は良く言えば堅実、悪く言うならば消極的な人物だった。部隊や基地の保全を重視するタイプであり、少なくとも上位者から増援として貸し出された最新鋭のMS部隊を敵に突撃させるなどという戦術はとれない人種だ。そして足を止めてしまうならドムは硬いだけのMSになってしまう。
「バイコヌールを落とそうと思うなら必ず陸上戦艦が出て来る。あの砲台は元々連中が使っていたものだからな。その怖さも良く解っている筈だ」
記録映像を確認していたガイアはそう説明する。元々対空砲、それも突入艇やガウまで攻撃対象にしているそれは、射程や精度もさることながら威力においても非常に高い性能を誇っている。MSまして旧式の戦車で破壊を試みるなど現実的ではない。
「俺達の手をやり返そうってわけだ」
ジオン軍がこの砲台を攻略するのに用いたのが、ギャロップやダブデという大型砲を装備した地上戦力である。一度攻略された方法をやり返すのは当然と言えた。だがそこでガイアは不敵な笑みを浮かべる。
「だが連邦とジオンでは決定的な違いがある」
「それが俺達ってわけだ!」
愉快でたまらないと言った調子でオルテガ中尉が自らの手のひらに拳を打ち付ける。
「そうだ、だからこそ俺達はここで待機し、最良のタイミングで連邦の連中を殴りつけてやらねばならん。部下達にも偽装を徹底させておけ、あの部隊にもちゃんと伝えておけよ」
ガイアが顎をしゃくって離れたところに屯す男たちを指す。するとオルテガ中尉が鼻を鳴らした。
「伝えちゃおくが、大丈夫なのか?あんな外人部隊なんぞ――」
「特務遊撃部隊だ。この任務に加えられてドムも渡されている。なら信用していい筈だ」
オルテガ中尉の言葉をマッシュ中尉が遮る。そんな二人に向かってガイアは口を開いた。
「動きを見ていたが悪くない。地球にも慣れているしな。戦力として期待しても問題ないだろう」
ガイアとしては寧ろ自分達の部下の方が気にかかった。教導隊の出身者から特に腕の良いパイロットを選んでいるから技量面での不安は無い。しかしままならない地球という環境に対し士気が落ちているのは確かだったからだ。
(この任務が終わった後に少し憂さ晴らしをさせるべきだな)
そう考えつつガイアは気付かれない様に溜息を吐く。階級が上がって給料が増えるのは良いが、同時にパイロット以外の仕事も増えていく。ただMSを乗り回すだけで良かった頃を想うと随分と気苦労が増えたように彼は感じた。
「2~3日もすれば連邦の奴らが動くだろう。それまで余計な問題は起こすなよ?」
そう釘を刺して彼は自分の機体へと戻る。戦いの気配は直ぐ近くまで迫っていた。
疾風のごとき、死神の列(増強中隊規模