WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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モブを倒して調子に乗って貰っては困る。
この部隊はホワイトベース隊なのだから。


35.0079/10/17

「観測員の真似事までしてんのかよ!?」

 

カイ・シデン兵長は膝射をとりかけていた自機を慌てて立ち上がらせた。威力と弾速に優れるビームスナイパーライフルであったが、その性能を発揮する為に長砲身かつ高重量という問題も抱えていた。至近距離に友軍がいるため、まかり間違っても融合炉に当てるわけにはいかないための行動だったが、そんなことをしていては、今度は自身が砲撃の的にされてしまう。

 

『前衛の盾持ちを狙う!』

 

『火力の集中は戦術の基本っ!』

 

ライフルでの戦闘を早々に放棄したジョブ准尉がそう叫び、小刻みな移動を挟みながらキャノンによる攻撃を行う。同じくテイラー曹長もキャノンを発砲しながら移動するが、彼女は敵へ向かって距離を縮め始める。

 

「テイラー曹長!?迂闊だぜ!」

 

その意図がタンク隊の壁になろうとするものであることは明白だった。カイはそう咎めながらロケットポッドを起動し、ホバー機の進路を遮るようにロケットをばら撒く。

 

「もうお仲間とやってんだよ!」

 

射撃のコツは相手を注意深く観察すること。アレン中尉の何気ないアドバイスをカイは忠実に守っていた。故にホバー機の欠点についてもいち早く気が付いていた。鼻で笑うように言い捨てながら、彼はライフルを構えてトリガーを引く。先頭の盾持ちは予測していたのだろう、強引な機動で躱されるが、それに追随出来なかった後ろの一機が構えていたバズーカを腕ごと吹き飛ばされる。すると何故か胸部まで誘爆し盛大に吹き飛んだ。

 

「うぁおっ!?」

 

予想外の爆発を直視してしまったカイは一瞬視界を喪失する。だが幸運な事に、この爆発は敵にとっても予想外であったらしく大きく乱れた隊列を立て直すために大きく距離を空けて移動する。それの意味するところを先ほどの光景から学んでいたキャノン隊とその護衛対象であるタンク隊は大慌てで退避行動に移る。直後彼らの元居た位置に予想通り砲弾が降り注ぐ。

 

「騎兵気取りかよ。でもな、そっちにゃ手前らの天敵がいるぜぇ?」

 

迎撃の準備をするために陣形を立て直しながら大量に分泌されたアドレナリンに酔ってカイは笑う。敵の向かった先には第3小隊が待ち構えていた。

 

 

 

 

「来たっ!行けるわね、ハヤト一等兵!」

 

『任せて下さいよ!』

 

隊の中央に陣取るガンタンクから自信に満ちたハヤト・コバヤシ一等兵の声が返って来るのをクリスチーナ・マッケンジー中尉は頼もしく感じながら、手にしたビームライフルを構えた。

 

『そこだ!』

 

力強くハヤト一等兵が叫び、タンクの主砲が火を噴いた。1発目は外れたが、即座に放たれていた2発目が前衛のシールドを捉えて見事に破壊した。その隙を見逃さず、クリスとセイラ・マス一等兵のジムがビームを叩き込んだ。

 

「避ける!?あの前衛、上手い!!」

 

しかしシールドを失った機体は即座に回避行動に移っており、ビームは空ぶってしまう。だがその瞬間放たれたタンクの3射目が最後尾の敵機の足を吹き飛ばした。

 

『もうお前達の動きは解っているんだ!』

 

彼の言葉にクリスも内心で頷いた。

 

「速度自体は速いんですけど、方向転換は大分苦手みたいなんですよ」

 

カイ・シデン兵長の指摘は即座に隊内で共有された。ホバー機は高速移動の為に機体を浮かせている。このため進路変更は重心の移動と推進器に頼る事になるのだが、ここに落とし穴がある。一度推進器を噴射してしまうと機体は大きな慣性を受けるため、逆方向へ切り返す場合、大きな隙となってしまうのだ。結果、速度を維持しつつの回避は一定方向への旋回になりがちで、その先を潰してしまえば動きの鈍った相手に易々と砲撃を加えられるのである。特にキャノンやタンクと言った主砲を連装で装備している機体にとってみれば、与しやすい敵と言えた。因みに速度で言えば、確かにザクよりも高速ではあるが、これら支援型の機体は対空も想定して設計されている。航空機で言えば黎明期のレシプロ機と大差ない速度かつ二次元でしか機動しない相手など、何ら問題にならなかった。

 

「退避!」

 

ビームを放ちつつクリスはそう指示を飛ばす。既に3回目ともなれば、言わずともタンク隊も退避行動に移っている。それを見て安堵しつつも、彼女は険しい表情になる。先程から第4軍と通信が途絶しているらしいし、最初に襲撃を受けたルヴェン少尉達も気がかりだったからだ。

 

「無事でいてくれると良いのだけれど」

 

仲間の安否を確認したい衝動を、任務への責任感で強引に抑えつける。手傷を与えたといっても、まだ敵は健在だからだ。

 

 

 

 

『何なんだっ!あいつらは!?』

 

マッシュの動揺した声に、ガイア自身も歯噛みをする思いだった。最初の部隊と当たった所までは襲撃は順調だった。ドムの重装甲とビーム兵器対策に用意した大型シールドはしっかりと敵の攻撃を防ぎ切り、予定通り支援砲撃で吹き飛ばすことに成功した。後はこれを繰り返すだけで木馬は丸裸になる。そんな甘い期待は二つ目の隊を襲撃した段階であっという間に消え去った。

 

「精鋭を集めた実験部隊、噂以上じゃないか!赤いのやラルの旦那がやられたのはまぐれじゃないぞ!」

 

『どうするガイア!?一度距離を取るか!?』

 

シールドを失ったオルテガがマシンガンに持ち替えながらそう聞いてくる。その意見を素早く検討し、ガイアは指示を飛ばした。

 

「10キロ程下がる!艦砲射撃で叩いて――」

 

戦力を削り次第再突撃。そう続けようとした彼の言葉を遮ったのは、空から撃ち下ろされたビームだった。コックピットに直撃を受けた彼の隊のドムが、パイロットを失いゆっくりと隊列から脱落していく。

 

「正気か!?」

 

フラックタワーは今も健在で制空権を確保している。その状況下でMSのような鈍重な兵器で飛び上がるなど真面な神経をしていたら出来ないはずだ。だが敵は、その思考の隙を突いてきた。

 

「白い奴!」

 

退路に立ち塞がる敵を見て、ガイアはそう唸った。通信で歩兵部隊の最後を彼は知っていた。会話どころか面識すらない相手だったが、友軍を惨たらしく焼き殺したという情報だけで彼の部下を暴走させるには十分な材料だった。

 

『悪魔め!ここで死ね!!』

 

「待てっ!?」

 

ガイアの制止も虚しく、隊列から離れたドムが白いMSへと向かって行く。その手に握られたマシンガンとバズーカが放たれるが、白い奴は僅かに機体を傾けるだけでそれらを躱すと、手に持っていたビーム兵器を躊躇なく放った。たった1発。正に吸い込まれる様にという言葉通りに、ビームが貫き、ドムは脱力したまま後方へと流れて行く。その光景にガイアは背筋を凍らせた。

 

「化け物か…!?」

 

他の連中もこちらへ命中を出すことは出来ていた。率直に言うならばそれだけでも称賛に値する技量だ、たった2度の戦闘で遭遇した敵機、それも同じホバーとはいえ異なる機体相手に冷静に対応した上に射撃を当てられるパイロットなどジオンでもエースと呼ばれる人間でなければ難しい。だと言うのにあの白い奴のパイロットは、そのドム相手にコックピットを正確に狙い二度も命中させた。つまりそれは、その射撃がまぐれ等ではないという事だ。

 

「マッシュ!オルテガ!奴を止めるぞ!ジェットストリームアタックだ!」

 

『『応っ!』』

 

既に部隊の約半数4機を失っている彼は、そう叫びシールドを構えなおす。隊は自分達三人を先頭に三方に分かれると同時に突撃を開始する。

 

『そうだと思ったぜ!』

 

機数の都合上一人だけで仕掛ける事になったオルテガの機体へ白い奴がライフルを向ける。だがそれを予測していたオルテガはそう叫ぶと胸の拡散ビーム砲を放った。ドムに搭載されたこの装備は、砲と呼ばれているもののその出力は低く、MS相手では精々目眩ましにしかならない代物だ。だが有視界戦闘において、ほんの数秒でも視界を奪える有効性を彼らは理解していた。

 

『貰った…何ぃ!?』

 

勝利を確信したマッシュの叫びは驚愕に変わる。視界を奪ったはずの敵機は、射線から外れるオルテガ機を追うことなく、加速して距離を詰めたマッシュ機に即座にライフルを向け直し、躊躇なく発砲したからだ。一撃でシールドを破砕されたマッシュ機は機体を捻って躱す。その後ろでバズーカを構えていたマッシュの僚機は、それを攻撃の為に射線を空けたのだと錯覚した。

 

『馬鹿避けろ!?』

 

即座に放たれた二射目がドムの上半身を貫く。推進剤に誘爆したその機体は下半身だけになりながら転がっていく。爆発によって攻撃の機会を逸した彼らは再び距離を取るが、その内心は焦燥に染められていた。

 

『視界を奪ったはずだぞ!?』

 

『滅茶苦茶だ!どうするガイア!?』

 

この時点でガイアの脳裏には撤退の二文字が浮かんでいた。参加したドム12機の内、残っているのは既に7機。大損害と言って差し支えない損耗である。本来なら十分撤退するに足る条件だと考えるが、彼の指揮官としての判断が邪魔をする。確かに陸上戦艦群は撃退したが未だに木馬は無傷であるし、釣り餌として用意されたと思わしき戦車モドキ共も決して無視出来る火力ではない。万一フラックタワーを喪失すれば連邦軍の空爆が待っているのは明らかで、バイコヌール基地の失陥は確実となってしまう。欧州方面の兵站を支える同基地を失う事は絶対に避けねばならない事項だった。

 

「…っ、一度基地まで下がる!」

 

まだ基地には守備隊のMSが残されている。流石にドムは無いが、少なくとも数は大隊規模だ。北方の圧力が殆ど失われた以上全戦力を連中に差し向けても問題ないとガイアは考える。

 

『くそが!覚えていろよ、白い悪魔め!』

 

『次は必ず――』

 

それを油断と呼ぶのは不憫だろう。理不尽な戦闘能力を見せつける白いMS。その存在を最大限に警戒しなければいつ撃ち殺されるか解らない、そんな状況で周囲に十分な気を配るなど最早人間技ではない。故に彼の死は避けられぬ定めとして降りかかる。背後、白いMSとは全く異なる位置から放たれたビームがマッシュ機の胴体を貫く。後は他の先に逝った仲間と同様だ。高熱の粒子によって瞬時に引火点を超えた推進剤や液体火薬がその力をドムの内部で解き放つ。超硬スチールすら容易く吹き飛ばす爆圧はマッシュに自らの死を自覚させる暇も与えずに圧殺し、機体そのものもバラバラに吹き飛ばした。ビームの放たれた先にはもう1機、グレーのMSがライフルを膝射で構えていた。




やっぱり私には重たい話とか向いてませんね!

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