WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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4.0079/09/16

艦に戻ったパオロを待っていたのは焦り顔のオペレーターと憔悴した事務官らしき男性だった。嫌な予感を覚えつつ、パオロはまずオペレーターの報告を聞く。

 

「搬入済みの機体で動かせるものを歩哨に立たせろ、敵が偵察だというならそれだけでも牽制になる。リュウ・ホセイ曹長、続けてで悪いが頼む」

 

「了解であります」

 

敬礼して格納庫へと駆けていく青年の背を見送った後、パオロはもう一人に向かって問いかける。

 

「お待たせして申し訳無い。それでどの様なご用件だろうか?」

 

「サイド7行政区事務官のマテウスと申します。お忙しいところ申し訳ありません」

 

頭を下げる男に対し、パオロも帽子を脱いで目礼を返す。そして続きを促せば案の定厄介ごとが待っていた。

 

「実は、こちらの艦に避難民を受け入れては頂けないかと」

 

「避難民を?お待ち下さい。見ての通りこの艦は補給船では無く歴とした軍艦です。ジオンからの攻撃に晒されるのですよ?民間人を収容するなど」

 

そもそもコロニー自体が損傷しているわけでもないのだ。その状況で避難民と言われても意味が判らないとパオロは疑問符を顔に浮かべる。それを察したのだろうマテウス事務官は困り顔で言葉を続ける。

 

「先ほどの攻撃で幾つかのシェルターに被害が出ているのです。現在の人数ですと万一の際どうしても収容しきることが出来ません。それと、申し上げ難いのですが、避難を求めていますのは疎開者の方々でして」

 

サイド7の住民は大きく分けて3種類になる。行政や軍事に関わる所謂連邦の公務員、コロニーの建設に関わる工事業者、そして最後が彼の言う政府の都合で疎開してきた民間人である。前者二つとその家族はある意味納得済みかつコロニーで生活基盤を整える前提でサイド7に移住しているが、最後の者達は政府の都合で移住させられたと言う感情が強い。加えてあくまで疎開であるため最終的には故郷に戻る事を前提とした生活を送っていることから、帰属意識や連帯感なども希薄だ。

 

「安全と言うから我慢して宇宙に来たのに、ジオンが来るなど聞いていないと」

 

その言葉で思わずパオロは額に手を当てたくなるのをすんでの所で我慢した。彼等の言い分はつまりこうだ。地球連邦が安全だと保証するから疎開に付き合ったと言うのに、攻撃を受けた。何処でも危険だというならば自分達は地球に居たい。そしてホワイトベースは地球連邦の艦なのだから、自分達の要求を受け入れる義務があると。

 

「何度も申しますがこの艦は軍艦です。避難民の安全を保障致しかねる」

 

「それは説明したのです。しかしここに居ても危険だろうと」

 

マテウス事務官の言葉にパオロはとうとう溜息を吐いた。地球連邦軍は地球連邦市民の生命と財産を守る義務があるからだ。収容出来るのはどの程度かを彼が素早く検討していると、更に闖入者が現れる。

 

「失礼、パオロ中佐は居られますか?」

 

「うん?レイ大尉、何か問題かね?」

 

「コロニーに居りました人員の被害報告です、お知恵を拝借したく」

 

差し出された紙片をパオロは受け取り、一目見て目を剥く。サイド7にはMSの最終調整のためパイロットを始め、整備員、試験要員が派遣されていた。そして先ほどの襲撃で、実にその9割が死傷している事が判明したのだ。

 

「これは…」

 

思わず呻くパオロにレイ大尉が近づき小声で訴えてくる。

 

「率直に申し上げて、パイロットと整備員の損失が致命的です。本格的な戦闘行動をした場合、整備もままならないでしょう」

 

「むう」

 

パオロは考える。今回の任務はサイド7から連邦軍本部ジャブローへ開発の完了したMSを輸送することであった。極秘任務の性質上戦闘は想定されていなかったし、サイド7の人員も引き上げる都合上、整備員などは艦に関わる要員のみである。しかし既にジオンに察知された事を考えれば、このまま何事も無く地球に帰還することは難しいだろう。サイド7から地球までの距離は凡そ3日ほど必要になる。軌道上を遊弋しているジオンの艦隊に連絡が行き渡るには十分過ぎる時間だ。ならば最低でも1回、突入出来なければ2回は戦わねばならないことになる。

 

(ルナツーで人員の補充を頼みたいところではあるが、難しいだろう)

 

MS開発計画の主軸であるガンダムの建造完了と同時に量産化へ向けた計画は進められている。実のところ既に生産ラインは各拠点で整えられつつあり、一部拠点では先行して生産が始まっている。無論最も技術・戦闘データ両面で蓄積の進んでいるガンダムが重要な機体であることは間違い無いが、一方で絶対に失ってはならない装備と言うわけではない。寧ろ既にMSの運用経験を持つ人員の方こそ替えの利かない貴重品と言える。特に地球からの人員補給が困難なルナツーでは拒絶される公算が高かった。

 

「どうでしょう、パオロ中佐。避難民を受け入れては?」

 

マテウス事務官に聞こえぬよう配慮したのだろう、意図を察したパオロはレイ大尉を睨み付けた。

 

「本気で言っているのか、大尉」

 

「一回で済ませるにしても増員は必要です。率直に申し上げて、敵艦一隻相手に大騒ぎをしている今の手勢だけでジャブローにたどり着けるなど私には到底思えない」

 

「惨めなものだ、これが今の連邦軍か」

 

思わずそう口にするが、対するレイ大尉の反応は冷ややかだった。

 

「今更でしょう、既に民間協力者の前例はあるのです。中佐、ご決断を」

 

 

 

 

家族を失い憔悴していたフラウ・ボウを偶然見つけることが出来たハヤト・コバヤシは彼女を避難民の列の中で慰めていた。運が悪かった、言葉にしてしまえばそれに尽きるのだろう。突然現れたザクが放った砲弾のうち、数発の流れ弾が市街地へと飛んだ。そして自分達の家に落ちたのだ。彼女と自分が助かったのは、偶然用事で出かけていたからに過ぎない。そして家で帰りを待っていたはずの両親がどうなったかなど、確認する必要すら感じられなかった。砕け散りごうごうと音を立てて燃える自分の家だったものに、生存者が居ると思えるほどハヤトは強い人間ではなかった。

 

「ハヤト!お前無事だったんだな!委員長ちゃんも!」

 

沈みかける内心を懸命に叱咤していると、彼にそう聞き慣れた声が掛かった。そちらを見れば、土埃で顔を汚したカイ・シデンが手を振りながら近づいてきていた。

 

「カイさん」

 

「その、お前さんらの家に行ったら、あんなになっててよ」

 

「偶然家から出てて。あの、カイさんは?」

 

「最初のヤツで親父達がびびってシェルターに向かったんだ。…家に居たら助かったのによ」

 

そう言ってカイはそっぽを向く。普段の行動からあまり家族仲は良くないように思えたが、だからといって肉親の情が無いわけではなかったという事だろう。

 

「そんでまあウチは蓄えもねえし、こんな状況だろ?役所に行ったら、ここで軍が雇ってくれるって聞いてよ。そっちは?」

 

サイド7は建設途中のコロニーである。だが工事自体が題目に過ぎないため建設半ばで殆どが休工状態であり、更に移民計画も凍結されて久しいため人口の増加も見込めない。結果的に大した産業も無い事から、新規の雇用が殆ど存在していないのだ。これから一人で生きていく事を強いられるカイに対し、自分達の境遇を言うべきか悩むが、隠した方が拗れるとハヤトは口にする。少なくとも生存を喜んでくれた相手に不義理はしたくないと思ったからだ。

 

「その、アムロのお父さんが地球の家に呼んでくれたんです。それで、落ち着くまではご厄介になろうと」

 

その言葉にカイは一瞬呆けた顔になった後、苦笑しながらハヤトの肩を叩いてきた。

 

「お前等はまあ、家も無くなっちまってるもんな。良かったじゃねえか、そういやそのアムロはどうしたんだい?」

 

そう言ってカイが周囲を見渡した。ハヤトとフラウの家同様、アムロの家も同じ惨状だったからだ。

 

「ああ、アムロなら」

 

そうハヤトが口にした時、避難民達の上に影が差した。続いて土煙と共に近くへMSが降りてくる。デモンストレーション用か何かなのだろう、二つの目を持つ、どこか人間のようなフェイスパーツに二本の前立のようなアンテナを付けたそのMSは周囲を警戒するように視線を彷徨わせる。それを見上げて、ハヤトは続きを口にした。

 

「アムロなら、あそこに居ますよ」

 

彼の指さす先にはトリコロールのMS、ガンダムが立っていた。

 

 

 

 

ガンダムのコックピットの中で、アムロは小さく息を吐き出した。避難民の護衛のために移動を命じられ、指定の場所まで来たものの着地の際に目測を誤り避難民に近づきすぎてしまったためだ。物資やMSの搬入は既に終わっていて、後は彼等を艦内に収容すればホワイトベースはサイド7を離れる事になる。

 

「フラウは大丈夫かな…」

 

ザクが襲ってきてからこちら、アムロはコックピットの中に収まり通しだった。元々機械系のナードである彼は閉所でコンソールに囲まれているも苦ではないが、流石に半日以上経てば集中力も切れてくる。作業の合間に渡された補給キットの中からエナジードリンクのチューブを取り出し口に含む。

 

「えっ?」

 

特に指示が無かった事から所在なげに立ち、何の気なしにカメラを巡らせた結果、彼は自分の家だったものを見てしまう。流石にレスキューが出動したのか、火は消えていたものの、既にその姿は燃え滓と言って良い風体であり、少なくとも人の営みに耐えうるものでは無くなっていた。そしてそれは両隣の家屋も同様だったのだ。

意味が判らない、彼の脳はそれを理解することを拒絶する。

配給の列に並んでいたら、ザクが現れて暴れ出した。シェルターは工業施設――連邦軍の軍事施設だった――の近くであったから、家の方が安全だろうとそちらへ逃げるようにフラウ・ボウに言いつけて、自分はこのMS、父の造ったガンダムに乗って…。

 

「ウソだろう?」

 

その時確かに自分は最善の選択をしたと考えた、しかしそれが大切な人の命を奪う結果となった。その思いは小さなトラウマとなり、彼を静かに蝕んでいくこととなる。




なんかぁ、短編って3万とか4万文字らしいんですよぉ。
この調子だとぉ、後6話とかで完結まで持ってかなきゃじゃないですかぁ?
そんなのルナツーまで行けるかすら怪しいので変更します。

なお、更新頻度は見ないものとする。
筆休めだからね!

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