WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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始まるよ!


47.0079/11/06

歴史に残る大規模作戦も始まりは静かなものだった。高度10mという極低空で位置を固定したホワイトベースからMS隊が次々と発進する。レビル将軍旗下の第1軍ではMSは決戦戦力なので温存されているが、第2軍は積極的に投入し機甲部隊の消耗を抑えるつもりらしい。まあ俺達が勘定に入っていなかった部隊であることも大きいだろう。

 

『大編隊だぜ』

 

上空を通り過ぎる航空機を見てカイ兵長がそう呟く。確かに数だけ見れば間違いなく大編隊だ。

 

『初動からフライマンタを投入する?少々冒険が過ぎるように見えますが』

 

テイラー曹長がそう評し、俺は内心で同意する。ただ上層部の判断も解らないわけではない。フライマンタは攻撃機に分類されているが性格的にはマルチロール機に近い。宇宙での作戦能力は与えられなかったが、その分大気圏内における汎用性はセイバーフィッシュにも勝る。つまりドップ相手ならば十分空戦にも対応できると言う事だ。同時に遠距離からの誘導弾による攻撃が難しい状況下では一度に投入できる航空機の数がそのまま戦闘の趨勢を決めかねない。

 

「逸るなよ、エリス曹長」

 

『はい、大丈夫です』

 

そう言っている奴が一番信用ならねえんだがな。

 

「乱戦じゃそのビーム砲は威力がありすぎる。ガウ辺りが出て来るまでは大人しく――」

 

そんな忠告とも言えないような与太話を終える前に、空を複数のビームが走った。その火線はかなり濃密で友軍の戦闘機が次々と墜とされていく。

 

『なんだありゃぁ!?』

 

前進していた俺達の目の前に現れたのは曲線で構成されたボディを持つ、紫色の巨大な兵器だった。そいつは轟音と共に、まるで古いSFに出て来るアダムスキーな未確認飛行物体のごとく上空を滑るように移動しながら生やしたビーム砲を撃ちまくる。ざっけんな近藤版準拠かよ!?

 

「迎撃!あのふざけた円盤野郎を撃ち落とせ!!」

 

命じつつ俺もビームライフルを上空へ向ける。だが発砲より先に鳴り響いたロックアラートに、俺は回避行動をとった。

 

「あいつら本当に異星人の侵略者じゃねえだろうな!?」

 

目の前の光景に思わずそんな事を呟いてしまう。互いに庇い合う様に、3機のアッザムが上空を滑空する姿は、割と悪夢と言ってよい姿だった。

 

『コイツ!?』

 

真っ先に対応したのはアムロ軍曹だった。見た目に惑わされる事無く、彼は構えたライフルを正確に命中させる。しかしビームは着弾間際で極端に減衰し、装甲に僅かな損傷を与えただけだった。

 

「ビームが効かないのか!?」

 

『だったらっ』

 

そう叫んでジョブ准尉とテイラー曹長がキャノンを連射する。ザクを一撃で屠れるその攻撃は、しかし複数の命中を与えるも撃墜には至らない。だがそれは彼らも承知の上での行動だった。

 

『貰った!!』

 

回避方向を限定された敵機に向かってハヤト一等兵が吠え、それに応じるようにタンクの主砲が火を噴いた。放たれたのは対空砲弾ではなくAPDS。戦車砲の倍以上の初速をもって吐き出されたそれは、圧縮した大気によって赤く光りながらアッザムへと向かう。誰もが撃墜を確信したそれは、だが割り込んだもう1機のアッザムによって阻まれる。装甲を深く抉ったものの、内部機構へ損傷を受けなかったそれらは、獲物を見つけた猟犬の様に俺達へと襲い掛かって来た。

 

『避けろ、ハヤト!』

 

アムロ軍曹が叫ぶが、実行するには時間が足りなかった。先行した機体から何やら粉末のようなものがばら撒かれたかと思った次の瞬間、後続の機体から連続して何かが飛び出す。それは俺の知識にあるものよりも素早くタンクや友軍の頭上に到達すると吐き出したワイヤーが格子を作り出した。

 

『何だ!?』

 

連携が取れていないのが仇になった。タンクのすぐ後ろには友軍の戦車が迫っていて、格子から抜け出すには彼らが邪魔だった。即座に回避方向を開ける為にマッケンジー中尉とセイラ一等兵がタンクの前から飛び退くが、それよりも先に敵の装置が起動した。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?』

 

強力な電磁場が発生し瞬時に4000℃の牢獄が生み出され、タンクはそれに囚われる。その後ろで同じ様に檻の中に閉じ込められた味方の戦車がポップコーンの様に砲塔を弾けさせた。熱で砲弾の装薬が誘爆してしまったのだろう。

 

「ハヤト!逃げろハヤト!!」

 

『この、落ちろよ!』

 

『硬いですね!』

 

声を掛けながら俺達は未だに空を飛ぶアッザム達に向かって攻撃を行う。しかし有効打を与えられず、再び奴らは突入の態勢に入った。

 

『やらせない!』

 

誰もがその進行方向から逃れようとする中、そう叫んで正面から突っ込む奴がいた。エリス曹長だ。

 

「曹長!」

 

散布行動に入っていたせいだろう、直進していたアッザムに向けて放たれたビームは正確に奴を捉え、

 

『通った?』

 

減衰する事無くその推進器を撃ち抜いた。黒煙を上げて進路を外れるアッザム。損傷した2機を守るように残りの1機が弾幕を張り撤退を援護する。

 

『逃がすか!』

 

カイ兵長がそう言うやビームを放つが、やはり被弾前に極端に威力が落ちてしまう。そして最後の1機は大量のスモークをばら撒きながら撤退していった。混乱する頭を無理やり働かせて俺は叫ぶ。

 

「ハヤト一等兵の救護を、それからアムロ軍曹はホワイトベースに一度戻ってバズーカに装備を変更!済み次第他の機体も順次換装のため戻れ!」

 

そう叫んで俺は思わずぼやいてしまう。

 

「やっぱりおまけなんて楽な仕事じゃないじゃねえか」

 

 

 

 

「手酷くやられたようだな」

 

戻って来たアッザムの損害状況を確認してマ・クベ大佐はそう評した。オデッサ防衛用の戦力として追加配備されたMAと呼ばれる新兵器。テストを行う間もなく連邦の侵攻が始まってしまったために、そのまま実戦投入となってしまったことから、比較的重要度の低い位置に配置した結果がこれであった。

 

「だが、最低限の働きはしてくれたか。修理にはどの程度かかるか?」

 

「はい、2号機は推進器を損傷したため復旧は未定、残り2機は凡そ4時間程で復帰可能との事です」

 

「ほう…」

 

想定よりも早い戦線復帰にマ・クベは顎に手を当てる。

 

「見せれば警戒を促せるか。西部に配置していたギャロップとアッザムを入れ替える。警戒して鈍った連中に砲弾の雨をプレゼントしてやれ。…さて」

 

木馬と言うイレギュラーは存在したものの、盤面は凡そマ・クベの思惑通りに推移している。密約通りエルラン中将旗下の部隊は進撃にもたついていて、レビル大将が率いている本隊と足並みが揃っていない。当初の予定ではこの戦域の空きからドムを投入、レビル本隊を強襲し斬首戦術を行う予定だった。

 

(ドムの喪失は痛かったな)

 

損失を補填するために無理な陳情を上げた事でマ・クベは立場を悪くしていた。仮にオデッサを失陥した場合、栄達の道は完全に閉ざされる事になるだろう。

 

「ウラガン、切り込み隊の準備はどうか?」

 

「はっ、滞りなく。大佐、ケラーネ少将から支援要請が来ておりますが」

 

欧州方面軍の司令部は敗走を続けた結果、バルカン半島南部ギリシアまで追い立てられていた。陸路ではオデッサと分断されていて現状海路を用いて連携している。尤もマ・クベにしてみれば、騒ぎ立てて貴重なオデッサの装備と物資を奪っていく邪魔者でしかない。

 

「無視しろ」

 

そんな戦略的に価値の薄い所に固執せずオデッサに合流して戦えと言うのがマ・クベの本音だ。しかしそれには幾つかの解決すべき問題があり、その最たるものが指揮権の所在だ。件のユーリ・ケラーネ少将は欧州方面軍の司令であり、マ・クベはオデッサ鉱山基地を統括する大佐である。総司令部に今回の防衛戦における指揮権を認められているものの、階級だけでなく権能的にも本来ケラーネ少将が指揮に当たるのが妥当である。仮に合流した場合に指揮権の所在について揉める事になるのは明白だった。

 

「宜しいのですか?」

 

「聞こえなかったか、私は無視しろと言ったぞ」

 

「…はっ」

 

もう一つの問題は行動方針の違いだ。信じられない事に欧州方面軍司令部は地球における戦線維持に重要性を見出していない。自分達が攻め切れていないのは地球環境への適応不足だなどと言うふざけた検証結果が出るのが良い証拠だろう。

 

「ルウム戦勝パーティーの酔いが残っている連中が多すぎる」

 

連邦艦隊撃滅を理由に勝利などと嘯いているが、戦術目標を達成出来なかったあの戦いはマ・クベにすれば敗北である。その上矢面に立った宇宙攻撃軍は大きな被害を受けており、ルナツーを叩く余力すらない状態だ。にもかかわらず見栄えの良い戦果に目の眩んだ連中は、宇宙でならば連邦軍を一方的に叩けると本気で考えている。そうでなければ宇宙まで戦線を後退させ、軌道上で敵を封じ込めるなどという愉快な案が議論に上る訳がない。

 

(付け焼刃の軍人ではこの程度なのだろうな)

 

地球の戦線を放棄すると言う事は、地球連邦軍の持つ圧倒的な生産能力が全て宇宙用の装備と物資に割り振られると言う事だ。しかも条約がある以上、宇宙から地上への攻撃手段は極端に制限される。そうなれば工業地帯などの効果的な破壊など望むべくもないし、物量戦に持ち込まれて先に体力が尽きるのは確実にジオンだ。だからこそ短期決戦がご破算となった時点で地球降下作戦が行われたのだが、それを理解している人間はあまりにも少なかった。

故に、オデッサの防衛は今次大戦における最重要課題であると認識するマ・クベと地球を軽視する欧州方面軍司令部では致命的な齟齬がある。そして兵士がマ・クベとケラーネ少将を比較した際、どちらに従うかを察せないほどマ・クベは愚鈍ではない。

 

「準備が完了次第切り込み隊を出撃させろ、それから例の準備を」

 

連邦のオデッサ作戦発動後はエルラン中将と連絡が取れていない。それ自体は当初から想定されていた通りであるが、マ・クベはどうにも不信感がぬぐえなかった。故に彼はその場合における準備も進めておく。

 

「は、承知いたしました」

 

部下の返事にマ・クベは満足気に頷き、机に置かれた壺を撫でる。利害関係のみで結ばれた相手を信頼しきる程、マ・クベは楽天家ではなかった。




オデッサ作戦をスキップしますか?

 はい ・ YES

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