WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


48.0079/11/06

「タンクで命拾いしたな、キャノンだったら死んでいたかもしれん」

 

物騒な事を平然と告げて来るテム・レイ大尉に、ハヤト・コバヤシ一等兵は表情を引き攣らせた。敵の攻撃によって弾薬庫が破損してしまったガンタンクは現在ホワイトベースに戻されている。レイ大尉によれば強力なマイクロ波による攻撃を受けたらしいとの事だった。

 

「直りますか?」

 

「損傷で言えば以前の方が酷かった。だがまあ直ぐには無理だな」

 

攻撃を仕掛けてきた飛行兵器を追い返したものの、対応の為にMS隊は武装を入れ替える必要が出てきた。おかげで格納庫は換装作業で大忙しだ。戦闘不能になったタンクを直すのはもう少し余裕が出来てからだろう。出来ればだが。

 

「目一杯の運用はこういう時に粗が出るな」

 

ホワイトベースはMSの運用を想定した艦艇だ。当然整備・補給能力を有しているが、それは必要条件を満たしているだけと言うのが正しい評価だろう。艦の左右に分かれた格納庫は運用機数に対し余裕が無い上に艦内で連絡していないため、補給や整備の際に格納庫が限定されるという問題を引き起こしていた。勿論これは設計段階でも示唆されていたが、最終的に全て同型機で揃えるか、全く同じ構成の小隊を複数運用する事から大きな問題は無いと判断されていた。だが試作機の見本市といった様相のホワイトベースでは大きな制限となっている。現状タンクを整備出来るのは左舷格納庫に限定されていて、こちらにはジムを主力とした第4小隊と第5小隊が置かれているから、どうしてもガンダムやキャノンの右舷よりも補給の頻度が上がってしまうのだ。

 

「だからバズーカはバックパックっすよ!リアスカートは90ミリ!」

 

『このビームスピアってのは使えるんかい?』

 

加えてガンダムにもかかわらずピクシーという陸戦機もこちらだ。機体の周りで機付長のナオエ少尉が大声で指示を出している。乗り込んだままのアクセル軍曹が兵装ラックに収められている武装に興味をひかれたのか外部スピーカーで問いかけていた。

 

「モーションは入ってるっす。後はアクセル軍曹の腕次第!」

 

『OK、持ってくぜい』

 

「402補給完了!出すっすよ!」

 

慌ただしく出撃していくピクシーを見送りながらハヤトはため息を吐く。陣地攻略となればタンクの火力は非常に有効だ。それを自分の不注意で始まる前に使えなくしてしまったと考えたからだ。

 

「しかし連中も漸く砲兵の恐ろしさが理解できたようだな」

 

「え?」

 

落ち込むハヤトに視線を向ける事無くレイ大尉はそう口を開く。

 

「元々連邦軍はガンダム・キャノン・タンクをセットで運用するつもりだった。理由は単純、砲兵が戦場において最も効率よく敵を倒せるからだ」

 

航空兵力も本質的には砲兵の延長なのだとレイ大尉は言う。

 

「真っ先に狙うだろうな、通常のタンクですらその戦闘能力は61式の10倍、改良型のコイツならその倍は確実だ。ならば真っ先に潰しにくるのも頷ける」

 

実の所ジオンも砲兵火力について軽視していた訳ではない。全てMSで解決できると本当に考えていたならダブデやギャロップに主砲など付けないだろう。ジオンには砲兵を準備するだけのリソースと設備が存在しなかったというのが真実である。何しろジオンが望んだのは短期決戦である。間違っても現在の様な泥沼ではない。当然注ぎ込めるリソースは全てそのために割り振られた。同時に環境という問題もあった。疑似的な重力環境しか用意出来ないジオンにとって、曲射を行う砲兵を実際に運用するにはまず地球環境を入手する必要があったのである。無論シミュレーションによる設計は進められたが、実機の試験はキャルフォルニア陥落後の事だった。

 

「僕が優先的に狙われたって事ですか?」

 

「そうなるな。なに、君が無事なら機体を直すだけで済む話だ。あまり気に病むな」

 

その言葉にハヤトが頷きかけたその時、艦が僅かに揺れ遅れて砲声が届いた。それを聞きレイ大尉は嫌そうに顔を顰めた。

 

「楽はさせてくれん様だ。ほら、待機室にでも行っていろ。ここは邪魔になる」

 

 

 

 

『砲撃!?』

 

『落ち着きなさいアニタ軍曹。被害範囲が小さい、ダブデじゃありません』

 

動揺したアニタ軍曹を制するようにクラーク少尉が声を上げる。確かに言う通りだが呑気に構えていられる状況じゃない。

 

「エリス曹長!何処からの攻撃だ!?」

 

『は、はい!』

 

即座にGファイターが高度を上げて、通信にエリス曹長の声が響く。

 

『見つけました!ギャロップです!敵の防御陣地の後ろ、数は見える範囲で5機!』

 

ギャロップか、トーチカじゃないだけマシと思うべきだろうか?まあどちらにせよやることは変わらない訳だが。

 

「MS各隊、敵ギャロップを無力化するぞ。全機前進、第4、第5小隊は突破口を形成せよ、第2小隊及び103は両隊の援護。102、前線に穴が開き次第突入しギャロップを叩く、行くぞ!」

 

MSならば直撃を貰わない限りギャロップの砲撃は致命傷にはなりにくい。しかし第2軍の61式は違う。故に早急に制圧する必要があるが、目の前にはしっかりと陣地構築した敵が待ち構えている。あそこに突っ込むのも戦車では自殺行為だ。だから俺達がやる。

 

『401より支援要請、座標M4-166-707』

 

クラーク少尉の要請に従ってホワイトベースの主砲が火を噴く。53センチ連装砲1基という少々心もとない火力であるが、支援が無しに比べれば遥かにマシだ。毎分20発という中々の高レートで吐き出された砲弾が次々と着弾し火柱を上げる。不幸なザクキャノンなどは押し込められていた掩体に直撃し、天高くその残骸を放り出していた。

 

「今だ、軍曹!跳べぇっ!」

 

4・5小隊が敵を拘束したのを確認した俺はそう叫びながら機体を空中へ躍らせる。間抜けにもこちらへ気を取られたザクが眼下でマシンガンを浴びて蜂の巣にされるが、そんなものには目もくれず、俺達は機体を制御する。

 

『そこ!』

 

俺が視認するより早くアムロ軍曹が鋭く叫びバズーカを放つ。ギャロップはその構造上移動しながらの攻撃に向いていない、宇宙世紀イズム全開なエンジン配置のせいで主砲の射角が極端に狭いからだ。考えた奴馬鹿じゃねぇの、とは思うものの今回だけは感謝しておく。おかげで俺でもバズーカを当てる事が出来るからだ。

 

「へっ、今更遅え!」

 

アムロ軍曹に数テンポ遅れるが、俺もバズーカを放つ。慌ててエンジンを点火しているが、そんなので逃げられれば苦労は無い。連続して降り注いだ砲弾が向けられていた主砲に直撃、弾薬庫を巻き込んでギャロップを火柱に変える。機体を着地させた頃にはギャロップは既に1機になっている。因みに戦果はアムロ軍曹が3機で俺が1機。相方が優秀だと楽でいい。最後の1機にアムロ軍曹がバズーカを放ったのを視界の片隅で確認しながら、俺は分泌されるアドレナリンに任せて叫んだ。

 

「まだまだぁ!」

 

折角後方に浸透したのだし、戦果を拡張させてもらうとしよう。俺は口角を上げながらバズーカを手放し、素早くマシンガンに持ち替える。俺が何かを言う前に、同じくビームライフルに持ち替えたアムロ軍曹が背中合わせに俺の背後へ回る。そうして俺達は躊躇なくトリガーを引いた。

 

『一つ、二つ!三つ!!』

 

「戦車を埋めてる時点で既に負けてるんだよ!」

 

防衛って言葉にジオンは囚われ過ぎたな。陣地の出来は大したものだが、どれも歩兵用の物を大型化しただけだ。MSが人間と同じ動きしか出来なければ、そして携行出来る火器が同じ程度なら効果があっただろうが、残念ながらそんな事は無い。100m近くに余裕で到達する跳躍力に艦砲に比肩する携行火器は容易く土とコンクリートで構築された陣地を粉砕する。砲台代わりに埋められていたマゼラアタックがマシンガンで吹き飛び、慌てて掩体から飛び出そうとしたザクキャノンがビームに貫かれる。粗方始末し終えた頃には前線を突破したホワイトベース隊の面々が合流してきた。

 

「状況報告」

 

『3小隊、損害無し』

 

『4小隊、損害ありません』

 

『5小隊、問題なし。にしても滅茶苦茶ね、ガンダム』

 

マッケンジー中尉の呆れたような物言いに自然と通信に笑い声が混じる。正直あの前線を損害無しで突破してくるそっちも大概だと思うんだが。

 

「無理も無茶もしてないさ、ガンダムならこれくらいはな?」

 

そう軽く混ぜ返した瞬間、遠くを見ていたアムロ軍曹が叫んだ。

 

『いけない!逃げて!!』

 

何がと聞くより前に、先ほどのギャロップによる砲撃など比べ物にならない密度の砲撃が俺達を襲った。その意味を理解して俺は背筋を粟立たせる。ジオンの連中、これを狙っていやがったな!?

 

「102!103と協力して砲撃陣地を叩け!他は退避っ、逃げろ!」

 

ギャロップは見せ札だったんだ。狙いは俺達の誘引、俺達なら前線を突破し、ギャロップを叩ける事を前提に、味方陣地内にキルゾーンを作る。万一見破られてもギャロップによる砲撃がある以上戦線は維持出来るし、成功して俺達を吹き飛ばせれば残るのは61式が主力の第2軍だ。更に入念に用意されているだろう次の防御陣地を突破するのは困難だ。

 

「馬鹿かよ、俺はっ!」

 

何が陣地の構築が甘いだ。突破される事を前提にしているのだから当然じゃないか。敵を陸戦の素人と決めつけて侮って、部下を危険に晒してしまった。もしアムロ軍曹が居なければ、ここで俺のせいで部隊は全滅していたかもしれない。キルゾーンの淵に近かった第5小隊は離脱に成功、いち早く飛び退いていたアムロ軍曹も無事だ。けれど幸運はそこまでだった。

 

『ば、バーニアが!?ひっ!?』

 

『アニタ!』

 

それは不幸な偶然だ。全周警戒をしていた俺達の中で、アニタ軍曹の機体が偶然砲撃の方向に背を向けていたのだ。降り注いだ初弾でメインバーニアが損傷、更に続く攻撃で脚部が破損しその場に擱座してしまう。

 

『いけない!アクセル軍曹!』

 

アクセル軍曹が叫び、クラーク少尉の悲鳴じみた制止が響く。擱座したアニタ機の前にアクセル軍曹のピクシーが庇う様に居座ったのだ。

 

『もう誰も死なせねぇ!』

 

俺はアクセル軍曹を完全に見誤っていた。ルヴェン少尉の死は彼に深刻なトラウマを植え付けていたのだ。それこそ自分の命を投げ捨ててでも味方を救おうとしてしまう程に。俺達に砲弾が集中する。退避してしまった他は諦めて、確実に仕留めようという意図が感じられる。特に動けなくなったアニタのジムとそれを庇うアクセルのピクシーは格好の的として次々と直撃弾を貰う事になる。

 

『ぐっがっ!?』

 

『止めてっ!逃げてアクセル!?』

 

ルナチタニウム合金を用いたガンダムタイプの装甲はジムのものより遥かに頑強だ。だがそれは全く損傷を負わないという意味ではないし、ましてピクシーは格闘向けに装甲を減らされている。更に俺達のような標準的なシールドではなく取り回しの良い小型シールドを装備しているため、機体は見る間に傷付いていく。ああ、畜生が。

 

「クラーク少尉、アクセル軍曹を連れて退避しろ!」

 

シールドを掲げピクシーを庇う。

 

『了解です!』

 

俺の言葉に意図を即座に理解したクラーク少尉がピクシーに寄り添い移動するよう手を肩にかける。しかし興奮したアクセル軍曹は意味が理解できず動こうとしない。

 

『待ってくれ!アニタはっ!?』

 

「そっちは俺が連れていく!とっとと下がれ!!」

 

ごねるアクセル軍曹にそう怒鳴りつける。ピクシーを離脱させるにはシールドで庇ってやる必要がある。そして推力だけならクラーク少尉のジムの方が俺のガンダムより上だし、何より擱座したアニタ機を回収するにはガンダムの方が都合がいい。ジムよりは多少耐えられるからだ。

 

『た、隊長』

 

漸く動き出すピクシーを見ながら、位置を変えてアニタ機に寄る。不安からか震えた声を発するアニタ軍曹に俺は普段通りに話しかけた。

 

「安心しろ、ちゃんと連れて帰る」

 

既に至近弾で腕部まで損傷したジムを俺は抱え上げる。

 

「揺れるぞ、舌を噛むなよ!」

 

そう言って俺はバーニアを噴かす。可能な限り砲撃の密度を上げるためだろう、攻撃範囲はそれ程広くない。そう自分を鼓舞して機体を飛ばす。とは言え半壊してもMSを抱えてだ、普段より遥かに遅い動きに焦燥が募る。砲撃圏外までの距離が途方もなく遠く感じた。

 

「ぐっ!」

 

こちらを追うように着弾が迫ってくる。幾らガンダムでもこの状況では複雑な回避なんて望めない。その耐久力を信じて進むしかない。

 

『し、シールドがっ』

 

「黙ってろ!」

 

掠めていた砲弾が遂には機体を捉え、直撃に耐えかねたシールドがジョイント部から吹き飛んでしまう。ここからはもうガンダムと俺の運を信じるしかない。

 

――そんな考えが悪かったのだろう。

 

「がぁっ!?」

 

バックパックに砲弾が直撃、推力の均衡を奪われた機体はオートバランサーを起動させ一気に失速する。解除する暇もなく降り注ぐ砲弾に、俺は咄嗟にジムを抱え込む。

 

『た、隊長!アレン中尉!?』

 

「ちゃんと、連れて帰るって言ったろ」

 

英雄なんて柄じゃないんだ。隊長なんて器でもない。けれどなってしまったなら、その責任は果たさなきゃならないと思うくらいのプライドはある。激しい衝撃の中、飛び散るモニターの破片を見ながら、俺は意識を失った。

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