皆そんなに持ち上げてくれても、文章くらいしか出てきませんよ?
「デニムが二人がかりで一方的にとはな。艦の被害状況はどうか?」
「左舷のエンジンが全損、二番主砲も大破。復旧の目処が立っていません」
シャア・アズナブルの問いかけに艦を預けていたドレン少尉が苦々しい表情で答えた。現在彼等の乗艦しているファルメルはサイド7より幾分距離をとっている。具体的にはスペースポートが主砲の射程圏外になる程度で、更に言えば後退させられたとした方がより正確である。
「連邦のMS、それ程のものか」
「射撃兵器は実弾でしたが、近接用装備に熱線兵器を使用しているようです」
「熱線?ヒート系ではなくてか?」
「被害確認の際に破孔を確認した修理班からビーム砲に類似した損壊との報告が」
「こちらの攻撃は受け付けず、武装はザクを容易に破壊しおまけにビームか。とんでもない相手を釣り上げてしまったな」
言いつつもシャアは口元を歪ませる。
「行かれるのですか?」
「ザクを2機も失ったのだ。せめて敵の詳細を掴まねば死んだ部下も浮かばれん。連中が港から出港するのと同時に仕掛ける。艦はこの位置に固定、援護に徹しろ」
そう言うと彼はブリッジの床を蹴り、格納庫へと向かう。道すがらシャアは不敵に呟いた。
「見せて貰おう、連邦のMSの性能とやらを」
敵艦に損傷を与え格納庫に戻ってくると、そこは別の戦場になっていた。
「キャノン1号機と2号機の補給はまだなの!?」
「ガンダム3号機戻ってます!」
「ハンガーに誘導しろ!そこの馬鹿!踏まれるぞ死にたいか!」
ハンガーと呼ばれるメンテナンス用の架台に固定されたMS、そこに取り付いた整備員達が必死の形相で作業に当たっている。誘導員の指示に従い機体を固定すると、俺はその誘導員を捕まえて確認する。
「なあ、整備班の人数が少なくないか?」
「少ないんですよ!…少尉が出撃した後に解ったんですけど、整備班、コイツの機付き員以外殆ど全滅だったんです。クルーの方の予備員やらから引っ張ってきて強引に穴埋めしてますけど」
そう言って彼は小さく指を差す、そちらにはノーマルスーツで叫ぶロスマン少尉がいた。
「違う5番ケーブルじゃない!8番!宇宙戦をしてきたMSはまず冷却するのよ!」
「あんな感じです」
「こいつは笑えんな」
肩を叩いて彼に礼を言うと俺はシートへと戻る。直に機体の通信器にコールがあり、俺は通話を開いた。
「ホワイトベース艦長、パオロ・カシアス中佐だ」
「ガンダム3号機パイロットを務めております、ディック・アレン少尉であります」
モニター越しのパオロ中佐に敬礼をすると、彼は小さく笑って口を開いた。
「先ほどは世話になった。さて少尉、外の状況を知りたい」
「はっ!702掃海艇が後退後敵のザク2機と交戦、両機とも撃墜しました。双方とも観測済みのムサイより発進したところを確認しました。また同ムサイに対し攻撃を実施、左舷エンジン及び2番砲塔を損傷させました」
画面からでは解らないがどうやらブリッジに俺の声が聞こえているらしい、ザク2機を撃墜のあたりでどよめきが入り、敵艦を損傷させたことを伝えると小さいながら歓声まで入った。パオロ中佐は満足そうに頷くと更に詳細を聞いてきた。
「良くやってくれた、敵艦の損傷状況はどの程度だろうか?」
「エンジンにつきましては誘爆を確認しました、最低でも中破はさせているかと。砲塔に関しては申し訳ありません、基部をビームサーベルにて破損させましたが敵の反撃が激しく十分な確認が取れませんでした」
「いや、機体の保全が最優先だ、少尉の判断は正しい。他に何か気付いたことは?」
気付いたこと、そうだアレを言ってみるか。
「気付いたと言うほどではないのですが、敵艦の形状が通常のムサイと若干異なっておりました。動画になってしまうのですが」
そう言って俺はコンソールを操作し、機体に録画されたムサイとの戦闘中の動画を表示する。
「一瞬でしたが、艦橋の形が異なっていたように見えました」
「…ファルメル、だな」
画像を確認したパオロ中佐が難しい表情でそう口にする。
「ファルメル、でありますか?」
「ルウムでドズル・ザビが乗艦していた艦だ。情報部によれば通信機能を向上したモデルとの事だが」
「練度はともかく、武装に関しては標準的なものと違いは感じませんでした」
これでも任官してから幾度か対艦攻撃にも従事している。その経験からすれば、あの艦の技量は中の上と言ったところだ。
「本人とは考えにくい、恐らく譲渡された特殊部隊か何かだろうが」
言いつつもパオロ中佐の表情は晴れない。それはそうだ、もし特殊部隊か何かならば連中は目的を持ってサイド7を偵察に来た事になる。その目的となるものなど連邦軍が進めるMS開発計画、V作戦以外あり得ない。ならばその成果物であるガンダムを運ぶこのホワイトベースを連中が見逃してくれると考えるのは楽観に過ぎるだろう。
実際にはあの艦は戦功著しい赤い彗星へドズル・ザビは報奨として与えたのであり、彼等が偵察を行ったのも偶然の結果なのだが、どちらにしても執拗な追撃を受ける事になるのは変わりない。
「直接戦った君の感想が聞きたい。少尉」
「ザクの技量はそれなりであったように感じます。ですが艦の方は戦意旺盛でした。特殊部隊でしたら予備の機体も持ち歩いている可能性も高いと思います」
「つまり?」
続きを促すパオロ中佐に、俺は持論と言う体で原作知識を一つ提示した。
「こちらの身動きが十分に取れない内にもう一当てしよう、その位は考えそうです」
「パイロット候補生は二人、と言ってもMSへの搭乗経験はなし、シミュレーターも200時間未満か」
左腕でタブレットを操作しつつ、キタモトは思わず漏れそうになる溜息を呑み込む。
「機体があっても、パイロットが居なきゃどうにもならんぞ」
そう言って彼は自分の固定された右腕を恨めしげに見た。コロニー内での襲撃の際、迎撃するべく自分の機体へと向かった彼は、不幸にも建物の倒壊に巻き込まれ腕を負傷していた。
ガンダムの中で最初に建造された彼の1号機は最も多くの試験が行われた機体である。加えてメンテナンスハッチなどが後発の2機に比べ未成熟であったため、若干整備性に劣っていた。結果搬出作業では点検が遅れ2号機が先に屋外に運び出されていたのだ。
「いや、命が助かっただけマシか」
パイロットルームでの一件はベテランである彼でもトラウマになりかねない内容だった。それはそうだろう、先ほどまで歓談していた戦友が突然血だらけの死体になったのだ。冷静に指示を出せただけでも彼は優秀な部類だった。
「失礼します。キタモト中尉殿でありますか?」
沈みかけていたキタモトにそんな慇懃な声が掛かる。視線を送れば、そこには男性が二人立っていた。
「パオロ中佐より言いつけられて参りました。ジョブ・ジョン曹長であります」
「同じく、リュウ・ホセイ曹長であります」
そう言って敬礼する二人に答礼をしようとして、キタモトは顔を顰めた。咄嗟に上げようとした右腕が痛んだからだ。
「タツヤ・キタモト中尉だ。すまんがこんな有様でな、答礼できずに悪い」
「気になさらないで下さい。それで、その自分達は?」
ジョブ曹長の問いにキタモトは頷きつつ口を開く。
「本来の予定では君達候補生は、ジャブローに戻るまでの間実機を使った簡単な教習と宇宙空間におけるMSについて体感して貰う予定だった。が、現状がそうも言っていられないと言うのは解るな?」
キタモトの言葉に二人が無言で頷く。
「状況を鑑みるに、衛星軌道上で本格的な戦闘を行う必要がある。その際に少しでも戦力を充実させたい」
背後に並ぶMSをタブレットで指しつつキタモトは続ける。
「君達にはRX-77、ガンキャノンのパイロットをやって貰う。先ずはスタティックマニュアルを渡すから、読みながら起動シークエンスを実行してみてくれ」
その言葉に恰幅の良い方、リュウ曹長が疑問を口にした。
「ガンキャノンでありますか?ガンダムは使わないのですか?」
腕が動かないほど負傷していては、当然MSの操縦など出来るはずがない。そして現状キタモトが搭乗している1号機は空きの状態だ。彼の疑問も当然だった。キタモトは二人に近づき小声で告げる。
「この艦の今後だが、一度ルナツーへ寄港する。そこで1号機は研究用に降ろされる予定だ」
反攻に向けて各拠点で準備が進められている。その中にMSの生産ライン立ち上げが含まれている程度の事は、彼等も耳にしているのだろう。尤も実際には最も蓄積データの多い1号機の各データを宇宙軍の生産拠点であるルナツーの生産機に反映させるのが目的である。既に連邦軍の準備段階はMSの量産体制に移行しているのだ。
「だから悪いが、地球に降りる頃にはガンダムは使えんのだ。なに、キャノンも良い機体だぞ」
そう言ってキタモトは笑って見せた。
こうしてまたストックは失われた。
本当に、もう本当に連続更新は無理だから。