WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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決意表明したらめっちゃ反応があったので初投稿です。
一度言って見たかった!


52.0079/11/10

曇天の空を眺めながら、俺はホワイトベースを降りる。西回りに地球をほぼ一周。残念ながらあまり良い思い出は作れなかった。港町独特の海の匂いを感じながら、昼でも何処か薄暗い基地をゲートに向かって歩き出す。ホワイトベースは点検と整備で2日ほどベルファストに滞在する予定で、同時に乗組員には半舷休息が与えられた。

 

「さて、どうすっかね?」

 

「昼からパブと言うのも惹かれますが、あまり健全とは言えませんしね」

 

横に並んだクラーク少尉がそう言ってくる。解ってていってるだろ?

 

「退廃的で大いに結構、と言いたいが引率が酔いつぶれる訳にもいかんだろ。第一未成年組が楽しめん」

 

そう言って後ろを見る。曖昧な表情で笑うアニタ曹長に皮肉気に口角を上げているカイ伍長。そして困った表情のハヤト兵長がついてきていた。

 

「何か希望はありますか?」

 

「いや、希望っても」

 

「僕ら、ここ初めてですし」

 

ま、そらそうだよね。

 

「そしたら名物料理でも食いに行くか?」

 

流石にロンドンまで観光に行くには時間が足りんそもそも島が違うしな。ならばせめてイギリスの忘れられない思い出くらい作ってやらねばならぬ。

 

「アレン大尉、来たことがあるんですか?」

 

いや、ないよ?けどおめえ、イギリスの名物料理って言ったらあれしかなかろう。

 

「幸い漁港も近いみたいだし、適当に店に入ればあるだろ。フィッシュアンド――」

 

「兵隊さん、何か買っておくれよ!」

 

簡単なボディチェックを受けてフェンスを出た途端、俺達はそう声をかけられた。見ればどこか蓮っ葉な雰囲気を纏った少女が、媚びを含んだ視線で腕に下げた籠を見せてきた。中身の多くは支給品のタバコや酒だ。はっきり言ってホワイトベースの艦内で支給されているものよりも質は悪い。多分民間への配給の中で不要なものを売っているんだろう。

 

「なんでぇ、ろくなもんがないじゃないの」

 

横から覗き込んだカイがそんな事を言う。だが少女は嫌な顔一つせず、寧ろ積極的に推してきた。

 

「そういわずにさぁ、見とくれよ。ウチにはチビが二人もいるんだ。腹を空かせて待ってるんだよ」

 

俺は彼女の籠から黙って酒のボトルを2本抜き取る。それを見てクラーク少尉も1本抜き取った。

 

「こいつらはまだ若くてね、酒もタバコも覚えるにはまだ早い。これで勘弁してくれよ」

 

そう言って値札に書かれた値段より少し多めの紙幣を握らせる。クラーク少尉も俺に倣って同じように支払った。受け取った少女は一瞬驚いた顔をしたが、紙幣が本物であることを確認するとにんまりと笑って手を振りながら駆け出す。多分身を守るために身に付いた行動だろう。多めに支払って肉体を求めるなんて奴もいるからだ。俺は距離を置いた彼女に酒瓶を振って再び歩き出す。すると安全だと理解したのか、少女は手を振りながら礼を言ってくる。

 

「買ってくれてありがとう、兵隊さん!アンタいい人だ!」

 

酒瓶をポケットに突っ込み、俺は手を振って返事をする。それを見ていたカイが笑いながら聞いてくる。

 

「恰好つけすぎじゃないの?アレン大尉」

 

「部下の前で恰好つけないで何時つけるんだよ?」

 

「ガキの話だって嘘かもよ?」

 

「居たら多めに払った俺に感謝する。居なけりゃ腹空かせてるガキが二人居なくなる。どっちの結果でも悪い話じゃねえじゃねえか」

 

俺の言葉にカイとハヤトは顔を見合わせて肩を竦めた。

 

「そんな事より飯だ飯。イギリスに来たからには、ちゃんと味わわねえとな」

 

そう言って目についた屋台へ足を向ける。この時点で色々と察したのであろうアニタ軍曹は若干顔を引き攣らせている。だが残念もう遅い、諦めてイギリスの洗礼を受けるのだ。

 

「お姉さん、フィッシュアンドチップスを5つ頼むよ」

 

恰幅の良いおばちゃんにそう笑いながら注文する。そして全員に振舞った結果、夕食は俺の奢りという事になった。うむ、形式美、形式美。

 

 

 

 

日暮れ近くまでゲートの周辺をうろついていたミハル・ラトキエは、小さく溜息を吐くと市街に向かって歩き出す。途中行きつけのパン屋に寄って、日持ちのする安い黒パンを買って籠へ突っ込むと、足早に丘の上に建つ家へと急いだ。彼女の家は平凡な中流家庭であり、彼女もどこにでもいる普通の少女だった。戦争が始まるまでは。父は個人で輸入雑貨を扱う交易商で、あの日はサイド2に出向いていた。母は出稼ぎに出たきり音信不通。ただ待つだけでは生きられなくなった彼女が物売りを始め、そこから別の仕事に行きつくまでにはそれ程時間はかからなかった。

 

「えっと、これを、こっちで…」

 

屋根裏に置かれた古い暗号装置。通信用のアンテナをつけた風船を窓から上げて、渡された手帳通りに暗号を打ち込む。すべてを終えて風船を仕舞うと、彼女は大きく息を吐いた。

 

「これで、よし」

 

元手もない小娘が手に入れられる物などたかが知れている。そんな物で生計が立てられるほどの稼ぎなど得られるはずもない。そんな彼女が行き着いた仕事は、ジオンのスパイだった。毎日家から見える軍港の様子を伝えるだけで、一週間食べられるだけの金が手に入る。頼る相手のいない少女は罪悪感よりも家族を生き延びさせる事を選んだ。

 

「姉ちゃん?」

 

「ああ、ごめんよ。すぐご飯にしよう」

 

戸棚から古くなったパンを取り出し、代わりに今日買ってきたパンを仕舞う。本当ならば当日の分を食べさせてやりたいが、買えるかが解らない状況では買い溜めをしない訳にいかず、かと言って多くを保管していれば余計な厄介事を招き寄せる危険があった。空き巣に入られて万一暗号機が見つかれば、どのような目に遭うか解らない。結果中途半端に日持ちするパンを少量蓄えると言う半端な行動に落ち着いている。

 

「さ、食べよ?」

 

不満を口にする事無く弟と妹は席に着くとパンをかじり始める。以前食べていたものに比べれば遥かに粗悪なそれに、副菜すらつかない食事に弟達が何も言わなくなってどの位経っただろう。夕食で耳障りだった兄弟の笑い声がこんなに恋しいものに感じることになるなんて、一年前の彼女には想像すら出来なかった。あっという間に終わる夕食の後片づけをしていると、ポケットに入れていた端末が震える。暗号装置に返信が送られてきた合図だった。食器をおざなりに戸棚へ押し込むと、彼女は慌てたように屋根裏へ向かう。そして吐き出された用紙に目を通して顔を強張らせる。

 

(私が、あの子達を守るんだ)

 

困窮する彼女達に町の人々は手を差し伸べてくれなかった。政府は僅かばかりの配給品を配って終わり。だから彼女が覚悟を決めるまでに大した時間は必要ではなかった。彼女達が頼れるのは、最早自分達だけなのだと理解していたからだ。

 

 

 

 

「仕掛けるのでありますか?」

 

「あくまでスパイが潜り込む隙を作るだけだ。本格的なのは連中が洋上へ出てからになる」

 

連絡員を送り出したフラナガン・ブーン大尉は双眼鏡を覗き込みつつそう口にした。

 

「シャア・アズナブル少佐がまだ到着していません」

 

「中米からの移動だぞ?悠長にしていれば木馬を取り逃がす。その前に仕込みくらいはしておかねばな」

 

ボートが十分に離れたことを確認して、ブーンは潜航の合図を送る。艦内に戻ると彼は頬を歪ませて笑った。

 

「なに、失敗したところで現地協力者が一人消える程度の事だ。大した損害じゃない。それよりゴッグの準備を急がせろ、それとゾックも出すぞ」

 

 

 

 

「こりゃ酷いな」

 

『そう思うなら今後はもう少し丁寧に扱ってくれよ』

 

思わず漏れた俺の言葉に、そう不満げな声を返してきたのはレイ大尉だった。オデッサ作戦で壊してしまったガンダム3号機は整備班とレイ大尉の努力によって修復されていた。と言ってもパーツの大半はジムA型の余剰在庫を利用しているから、性能の低下は否めない。なんていうか、ガンダムの頭がついたジムと言われた方が納得できるスペックである。教育型コンピューターの支援があるだけ大分マシではあるが。

 

「善処はします」

 

『壊さないと言わないのが君らしいな。本当に来るのかね?』

 

溜息交じりにそう問いかけてくるレイ大尉に俺は頷きつつ口を開く。

 

「町で何度か探られるような視線を感じました」

 

見慣れない軍人に注意を払うにしてはおかしな視線だった。警戒しているなら多少は目が合うものだが、見回してもそうした手合いにはぶつからなかった。つまり相手は隠れてこっちを見ていたか、確認のために短時間だけこちらを見ていた事になる。まあ原作知識からして、ミハル・ラトキエに出会っている以上襲撃はあるだろう。原作と違ってカイはホワイトベースを降りていないが、そもそもカイの行動と彼女がホワイトベースに侵入する命令を受ける事に関係は無いのだから。

 

『君の嫌な予感も久しぶりだね。解っているとは思うがあくまでその機体はでっち上げただけの代物だ、無理はしないように』

 

「了解です」

 

そう言って俺は機体を格納庫から外へ出す。ドックに入っているホワイトベースからでは襲撃に対応するのに時間がかかるからだ。俺は沿岸から機体が隠れる位置に移動しつつ周囲を確認する。ブライト少佐を通して基地にも警戒を促していたから、一応守備隊は増強されているものの何処かやる気のない雰囲気だ。欧州のジオンは掃討が進んでいるから既に気分は後方なのだろう。

 

「嫌な感じだな」

 

ついそう口にしてしまいそれはほんの数秒後に現実となる。轟音と共に海岸沿いの倉庫から火柱が上がったのだ。慌てた様子で守備隊が海岸沿いへと向かう。だがその動きは完全に失敗だった。

 

「駄目だ距離をとれ!」

 

俺の叫びが彼らに届くより早く海面が盛り上がり、ずんぐりとした巨体が岸壁に飛び上がる。そして長い両手を振って不用意に近づいていた装甲車へと叩きつけた。金属の潰れる耳障りな音にわずかに遅れて、爆発音と赤々とした火がその姿を照らし出す。漸く聞こえてきた敵襲を告げるサイレンの中、俺はその機体を睨みつけた。




オデッサまでで50話かかっているのにCCAまでとか何話になってしまうことか。

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