WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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55.0079/11/12

「編成が違うようだが?」

 

北大西洋上で赴任先の特殊部隊に合流したシャア・アズナブル少佐は、事前に確認していた資料との齟齬にそう眉をひそめた。ユーコン型潜水艦は一隻増えているし、逆にあるはずのMSが無い。視線を送るとフラナガン・ブーン大尉が淡々と応じる。

 

「木馬を調査します際に投入しましたゴッグ2機を失いました。ただしその分はこうして補っております」

 

その物言いにシャアは頭痛を覚えた。部下による独断専行。確かに木馬は仇敵ではあるが、同時にジャブローを特定する唯一の手掛かりでもある。この手で沈めたいという気持ちこそ強いが、今はその時ではない。特に技量も解らない部下と未知数のMSで挑みかかれるほど甘い相手ではないとシャアは認識していた。

 

「木馬への攻撃は控える。奴にはジャブローまでの道案内をしてもらわねばならない」

 

ザビ家への復讐さえ成れば、戦争の結果などはシャアにとってどうでも良い事だ。しかし、巣穴の奥に篭った毒蛇を誘い出すには功績が必要だった。それこそたかが新鋭艦一隻程度では比にならない程の功績が。

 

「しかし木馬はガルマ様の仇です」

 

意見してくるブーン大尉にシャアは煩わしさを感じた。シャアは少佐と言う年齢に見合わぬ階級に就いている。これは開戦初頭の戦果によって得た地位であり、確かな実力を示してこそのものだ。逆に言えば、落ち目となった自分は不相応の地位にいる若造という認識を他者に与える。たたき上げの兵士ともなれば、むしろ侮らない者を探す方が難しいだろう。

 

「順序を間違えるなと言っている。ジャブローを攻略するとなれば必ずあの艦を沈めるチャンスはある。逆に沈めてしまえばジャブローを見つけるまで数か月はかかるだろう。どちらが効果的かは議論の余地もないと考えるが?」

 

シャアは辛抱強くそう説明する。暴走した部下のやらかしによって面倒を背負い込むよりは、今言葉を尽くした方が遥かに労力が少なく済む事を彼は学んでいたからだ。

 

「既にスパイを潜り込ませていますが」

 

その言葉にシャアは思わず舌打ちをしかけた。軍艦に何日も密航するなど正規の訓練を受けた軍人ですら困難だ。民間人を適当に使って成功する訳がない。間違いなくそのスパイとやらは見つかっているだろうし、最悪こちらの意図が看破されている恐れもある。

 

(一度仕掛ける必要があるか)

 

目的が看破されているならば、木馬が素直にジャブローへ向かう可能性は低い。寧ろあの艦ならば、適当に此方を引きずり回して時間稼ぎをするくらいはやりかねないだろう。ならば一度ぶつかって失敗する。そうして追跡を退けたと思わせれば、多少は警戒が緩むかもしれない。幸いにしてブーン大尉の説明からすれば、そのスパイへ渡した装備は木馬を沈める事を目的としたものだ。本気で挑みかかって失敗すれば欺瞞とは思わないだろうと彼は考えた。

 

「…そこまでしてしまっているならば、木馬がこちらの意図に気が付いている可能性が高いな。仕方ない、木馬はここで沈めて、改めてジャブローの入り口は探すことにしよう」

 

諦めた口調でシャアがそう口にすると、ブーン大尉は頬を歪めて僅かに笑う。自分の案が通ったことに満足したのだろう。完全にこちらを侮る仕草に、シャアの中から完全に罪悪感も消え失せる。

 

(精々迫真の演技で踊ってくれ。まあ君は本気なのだろうがね)

 

 

 

 

『103発進します!』

 

漸く緊張の取れた声でエリス・クロード准尉が出撃していく。階級が下だったアムロ准尉に並ばれて少しへこんでいたみたいだったが、どうやら持ち直したらしい。二階級ポンと上がるのなんかそこのバグキャラだけだからあんまり気にしなくていいぞ?そもそもそいつ2ヶ月で4階級も上がってるアタオカだし。

 

「101。コアファイター、出すぞ」

 

続いて俺も出撃する。こいつは予備で残っていた機体で、3号機はそのままだ。というか現地改修のせいでAパーツが分離出来なくなっているから引っぱり出せない。慣れた加速と共に空へ飛び出すと空中で待機していたGファイターと編隊を組む。内容としては俺の動きにエリス准尉が合わせてくれていると言うのが正確だが。

 

「待たせたな、じゃあ行こう」

 

『了解です。何だかちょっと新鮮ですね』

 

そんな事を言ってエリス准尉が笑う。そもそもあまりホワイトベースは哨戒をしていないからだ。なんせレーダーが使えない状況でもない限り哨戒の必要は薄い訳だが、その状況ではミノフスキー粒子のせいで無線が通じない。そしてコアファイターやGファイターは単座だからそもそも偵察にも向いていないときている。敵を見つけてホワイトベースに情報を持ち帰ろうにも、最悪後をつけられてホワイトベースが見つかるなんて事が起こりうる訳だ。じゃあ何故今になってするのかと言えば、話は簡単で、航空戦力を上空待機させておくためだ。

 

「念のため高度には注意しろよ」

 

『了解です』

 

地表付近は連邦もジオンもミノフスキー粒子を阿呆ほど撒いた影響で、斑にレーダーが妨害されてしまう区域が存在する。一方で高高度になると気流のせいなのかミノフスキー粒子の影響が殆どないためレーダーが使えるのだ。おかげで地上から攻撃を受けない高度でジャブローまで向かうとホワイトベースの航跡が思いっきりばれてしまう。そして今回の俺達は伏兵だから、間違ってもレーダーに引っかかる間抜けは避けたい。

 

『でも敵は潜水艦隊なのですよね?ならレーダーは使えないのでは?』

 

先ほど言った通り地表付近はミノフスキー粒子の層みたいなものが出来てしまっているから、海面上からでは高空を飛ぶ相手を探知できない。だがあくまでそれは敵が潜水艦だけならばだ。

 

「ミハル一等兵をスパイに使っていた連中が潜水艦隊である可能性は高い。だが、他の部隊に応援を頼まないなんて事は誰にも証明出来ん。ならばそうした状況も想定して動くべきだ」

 

流石にこの状況でガウ複数機も追加で相手にするのは骨が折れる。まあそうした場合の事も考えてはあるが。

 

「さて、そろそろだぞ」

 

俺の言葉と同時にホワイトベースが煙を噴いてゆっくりと高度を下げる。続いて広域の一般通信に位置を知らせるための騒がしい音が響く。

 

「品のねえ奴らだぜ」

 

毒づきながら周囲を見渡せば、北側からホワイトベースへ向かう白い線が見える。水中をかなりの速度で何かが動いているのだ。発生した気泡が航跡になってしまっている。

 

「来たぞ、103迎撃準備!」

 

レーザー通信で確認した画像をホワイトベースに送り終えたGファイターが、俺の声に従って動く。

 

「ソノブイ投下!」

 

迎撃態勢を整えるまでに俺は機体を軟降下させつつ、抱えていたソノブイを投下する。更に両翼のパイロンに取り付けられていた短魚雷を発射した。即座に展開したソノブイに誘導され、着水した短魚雷は真っすぐ航跡の先端へ向けて突進する。水柱が続けて上がるが、航跡は速度を緩める事無くホワイトベースに突撃していく。だがホワイトベースも既に迎撃準備を済ませていて、目標に向かって猛然と射撃を加え始める。展開を終えたメガ粒子砲が海面に突き刺さると、派手な水蒸気爆発が起こる。

 

『なにあれ!?』

 

水煙が晴れた先には緑色の何かが2機、水面に機体を晒してホワイトベースを睨んでいる。なんでここに居る!?しかも2機だと!?

 

「エリス准尉、奴を狙え!!ホワイトベースを攻撃させるな!」

 

俺の指示に准尉は慌てて旋回砲塔を回すが、それよりも先に奴が射撃を始める。MSM‐10ゾック、大出力のジェネレーターにメガ粒子砲8門を備えた重砲撃型の水陸両用MS。前後に4門ずつ配置されたこの砲はジェネレーターの出力もあってビームライフル並みの連射が可能な上、水冷機構によって継続射撃能力も高い。対艦攻撃で考えれば、最も警戒しなければならないMSだ。その評価に相応しい、激しいビームの連射がホワイトベースに襲い掛かる。

 

『このぉ!!』

 

エリス准尉が1機に向けてビームを放つが、撃たれたゾックは即座に水中へ逃げ込んでしまう。更に残ったもう1機が上空へ向けて頭部に付いた対空用のビームを放ってくるものだから、エリスは慌てて回避する。その間も攻撃が続き、ホワイトベースに被弾が増える。クソが、流石にこれは想定外だった。

 

「この野郎!」

 

ゾックに向けてミサイルは放つが、分厚い装甲を持つゾックには大した損害を与えられない。そうこうしているうちにいよいよ最後の一機が姿を現す。

 

「101よりホワイトベース!デカブツが出た!」

 

褐色の装甲を持ったそいつは海面に上半分を露出させると、次々にミサイルを放ってきた。一発の威力は大したことは無いようだが、何しろ数が多い。何発かが対空機銃に着弾して根元から機銃を吹き飛ばしてしまう。そして奴がアームを伸ばし、必殺の一撃を加えようとした瞬間。ホワイトベースの上甲板からビームが降り注ぎ、巨大なタガメみたいなそいつ、グラブロをハチの巣にする。そして突然の反撃に動きが一瞬止まったゾックもそれぞれをビームが貫いた。僅かな間をおいて、水中へ沈んだそれらが爆発を起こす。水中の騒音が収まりソノブイによる索敵が復活すると、そこには残骸が沈降していく音だけが記されている。どうやら敵機はあれで全てだったようだ。

 

『どうなるかと思ったぜ』

 

『あの緑の機体、厄介ね』

 

甲板上に身を隠していたMSが敵影無しの連絡で立ち上がる。ホワイトベースの方も派手に撃たれたが、幸いにして航行に問題はないようだ。

 

『終わってみりゃあ、あっけないもんだね』

 

「罠を張って慢心した猪を仕留めただけだからな」

 

実際本気であれに奇襲されていたら厄介だった。着水ギリギリまで降下していたホワイトベース相手に欲を出してくれたから、簡単にビームで処分出来たんだ。水中に潜ってやり合っていたら、もっと被害は拡大していただろう。

 

「後はジャブローへ行くだけだな」

 

長かった航海もこれで一段落だ。

 

 

 

 

「そうか、ブーン大尉は失敗したか」

 

部下のMIA報告を、シャア・アズナブル少佐はその一言で済ませた。ブーン大尉が戦死したことで繰り上げで副官に戻った少尉に対して彼は口を開く。

 

「ユーコンの一隻は木馬を追跡させろ。残りの艦はアマゾン流域に侵入し進入口の探索を行う」

 

追跡に気づかず素直にジャブローへ向かえばよし。そうでなくても追跡を振り切るために迂回するならば先回り出来るから、何かしかの情報は手に入る。運が良ければ到着した連中がジャブローに逃げ込むところを確認出来るだろう。

 

「急げ、ブーン大尉達の死を無駄にするな」

 

シャアの言葉に、副官の男は黙って敬礼をするのだった。




グラブロ君、名前すら出てこずに退場。

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