『出過ぎだぜ、ハヤト!』
『うわっ!?』
放たれたビームが電子の虚空を突き進み、ハヤト兵長の乗るガンキャノンに突き刺さる。強引に機体をひねって直撃は回避したものの、ライフルを握っていた右腕は肩口から吹き飛ばされている。
『502!503をバックアップ!』
『了解、きゃっ!?』
『そう簡単には逃がしません』
被弾したキャノンのフォローに回ろうとセイラ兵長が移動しようとするが、その鼻先を砲弾が掠める。ニキ・テイラー准尉が駆るガンキャノンD型が合流を妨害したのだ。更に彼女は両手に握られた90ミリライフルでセイラ兵長のジムを追い立てる。第2と第5小隊の模擬戦は始終2小隊優位に進められている。
「やはりキャノンの手数の多さは魅力ですね。2小隊の方が連携出来ているのもあるでしょうが」
「セイラ兵長も乗り換え直後だし、ハヤトなんてタンクから転向だからな。まあ今回慣れるのが優先だろう」
ホワイトベース隊はその名を第13独立部隊に改称し、準備が整い次第再び宇宙へ上がることが決定した。それに伴ってホワイトベースの改装に始まり、MS隊の増強と再編が行われている。単純な話、陸戦機組の機種転換だ。ついでにジムのA型も引き取られて行って、代わりにB型が回されている。一見違いが無いように見えるが、地味にバックパックがD型と同様のものになっていたり、胸部周りの形状がコマンドに近くなっていたりと中々バタフライエフェクトを感じられる姿をしている。
「おいらもジムに出戻りかぁ」
「ピクシーは宇宙に持っていけないでしょう?」
「最新モデルだぞ?贅沢言うんじゃないよ」
一応取り払っていた宇宙用装備を付け直して宇宙用に仕立て直す事も出来たのだが、それよりもウチの機体を使ってくれという連絡が山のように来ていた結果、アクセル曹長はジム・スナイパーⅡに乗り換えることになった。ただ教育型コンピューターが未搭載だから、その差で乗り辛く感じているらしい。これ地味に問題になりそうだな。
「そういえばアムロ准尉はどうしたんです?」
「あっちからのご指名で出張中」
アニタ曹長の質問に、俺は隣の部屋を指しながらそう言った。そこには宇宙でホワイトベースの僚艦となる艦のパイロット達が訓練に励んでいる。
「たしかスカーレット隊、でしたか?」
「精鋭だと聞いていますが、どんなものでしょうかね?」
口々にそんな事を言うクラーク中尉達。
「上層部の期待は高いんじゃないか?新鋭機が山盛りにガンダムも配備されているしな」
ジム・スナイパーⅡが4機にガンキャノンD型が2機、そしてジム・コマンドが6機という編成に、ガンダムNT-1を運用している。少なくとも新型機を与えられてNT-1と部隊運用を期待されているのだから、相応の技量は期待できるだろう。配備されている艦といい名前といい、出オチ部隊などと呼ばれていた史実が脳裏をちらついて仕方ないが、取り敢えずアムロとララァに鍛えられればあのような事にはなるまい。
「そう聞くとウチは寄せ集め感が凄いですね」
後ろで聞いていたエリス・クロード准尉が自嘲的な溜息と共にそう言ってくる。まあガンダム2機を擁しているなんて言っても、後は試作機実験機のオンパレードだからな。彼女の言う通り寄せ集め感が半端ない。せめてジムやキャノンが統一されていれば多少は見られるんだけどな。
「ま、他所は他所、ウチはウチだ。ちゃんと戦果は出してんだから胸を張ってりゃいいのさ」
「寄せ集めと言えばアレン大尉のガンダムはどうなるのでしょう?」
んー?
「今の所修復して運用の予定だな。代わりの機体も来ていないし、クビじゃなきゃあれを引き続き使うことになるだろ」
「おぅい、ホワイトベースのMS隊はここかい!?」
「ちょっと中尉!?」
そんな世間話をしていたら入り口が勝手に開かれて、男臭い声が問うて来た。
「そうだが、貴官は?」
俺が振り返りそう聞くと、大柄な男は俺を見て一瞬目を細めた後に姿勢を正し、手本のような敬礼とともに名乗った。
「スレッガー・ロウ中尉であります。本日付けでホワイトベースに配属となりました。よろしくお願いします。大尉殿」
「ホワイトベースMS隊隊長のディック・アレン大尉だ。宜しく中尉」
そう答礼すると、扉の後ろから見覚えのある顔が現れた。
「お久しぶりです。アレン大尉。リュウ・ホセイ曹長、復帰致します」
「リュウ曹長!もう怪我はいいのか?」
「これ以上病院で寝ていたら鈍っちまいますよ。またお世話になります」
そう言って笑うリュウ曹長の肩を叩いて再会を喜びあう。そうこうしている内にシミュレーターが終わり、カイやハヤト達が出てくると、シミュレータールームは更に賑やかになる。好意的な空気の中で、クラーク中尉が口を開いた。
「そういえばお二人の機体は何になるのですか?」
するとスレッガー中尉は何とも微妙な表情で、リュウ曹長も気まずげな表情で口を開く。
「あー、俺の機体は宇宙用に調整されたGファイターだな。リュウ曹長も同じ訓練を受けていたよな」
「はい、俺もそう聞いています」
「ん?まさか増員は二人だけなのか?」
「いや、後三人、もう1小隊分着任しているよ。今頃艦長に挨拶をしている頃だろう。引率と一緒にな」
「引率?」
あ、なんか嫌な予感。
「レイチェル・ランサム特務曹長です」
「カチュア・リィス特務伍長でっす!」
「シス・ミットヴィル、特務伍長」
「ブランド・フリーズ中尉です。よろしくお願いしますわ、ブライト少佐」
一体何の冗談だ。そう叫ぶのをブライトは懸命に堪えた。エリス准尉も小柄だったが、彼女達はさらに小さい。間違いなく志願年齢にすら達していないのは明らかだ。
「ホワイトベース艦長、ブライト・ノア少佐だ。フリーズ中尉?」
「ブランドとお呼びください、少佐」
粘着質な視線に耐えながら、ブライトは口を動かす。
「ブランド中尉、君達が追加のパイロットで間違いないか?」
「はい、いいえ少佐。正確には彼女達が追加のパイロットです。私は引率ですね」
「引率?」
「彼女達は少し事情がありまして理解者による日々のケアが必須なのです。ご安心ください、戦闘能力は保証いたしますわ」
如何聞いてもまともではない回答にブライトは思わず額に手を当てた。アムロ准尉の例もある。年齢がパイロットとしての能力と直結しないことは彼自身よく理解しているが、それでも越えてはいけないラインと言うものがあるはずだと彼は考えていた。そんな彼に対し、ブランド中尉はそれまでの笑みを消し、真剣な表情で口を開いた。
「お気持ちはお察ししますから、理解せよとは申しません。ですが飲み込んでは頂きます」
「……」
「ニュータイプの戦闘能力については、少佐もよくご存じの事と思います。そして我々の得た情報によれば、ジオンは既に実戦投入まで秒読みと言う段階であり、専用の装備も用意出来ているのです。連邦はこの分野において数十年の後れをとっていると考えていいでしょう」
「だから我々も対抗すると?それはこんな子供を使ってまでしなければならない事なのか?」
「当然でしょう?アムロ・レイ准尉やララァ・スン少尉のような者達が部隊として投入されれば、どれ程の脅威となるかなど、運用している少佐ならば簡単にお解かりになるはずです」
たった一撃で敵を撃破し戦線を蹂躙するMS。その群れが引き起こす災いなど、起こしてきたブライトからすれば手に取るように解る。それに対抗する手段を持つべきだという意見もだ。だがその為ならば何をしても良いと割り切れる程には器用ではなかった。
「解った、飲み込もう。シミュレータールームにパイロットが集まっているはずだ。そちらにも挨拶をしておいてくれ」
その言葉にブランド中尉が敬礼をすると退出していく。その日ブライトが愛用しているマグカップが一つ減りジャブローの一室に傷が増えたが、取り立てて報告はなされなかった。
「間違いありません。大規模な地下空洞に繋がっていました」
「漸くか、ギリギリだったな」
潜入したコマンドによってスペースポートの位置までは特定したものの、シャア・アズナブル少佐はジャブローへの侵入に手をこまねいていた。幾つかの搬入ゲートも発見したが、外部からの操作を受け付けない構造になっていて侵入出来なかったからだ。幸いにして旗下の部隊は隠密性に優れていたため発見されることは無かったが、それでも敵地に黙って隠れているというのは神経をすり減らす作業だった。
「それも今日で終わるな。キャリフォルニアに連絡だ、便りと共に扉は開く」
「はっ!」
現地に暮らす反連邦の土着民族と交流し、シャアは彼らから地下水脈の情報を手に入れた。その情報に沿って探索したところ、見事に当たりを引いたという訳だ。
「さて、そろそろ恨みを晴らさせてもらおうか」
戦場はすぐそこまで迫っていた。
不安を煽っておいて投げっぱなしていくスタイル。