轟音と共にジャブローが揺れる。その異変に気が付いたのはごく少数だった。定期便と呼ばれて馬鹿にされていたジオン軍の空爆。そこに投入されているガウの数が普段よりも多かった。中米方面からは積極的なMSの浸透があり、少なくない数の対空砲が破壊された。どの報告もありふれたとまでは言わないが、なかった訳ではない内容であったから報告を受けた連絡員も今日は少しばかり騒がしい程度の認識だった。スペースポートのゲートが開くまでは。
「侵攻だ!本格的な軍事侵攻だよ!ジオンの奴らが攻めて来たんだ!」
「ゲートを開いているのは誰だ!直ぐに閉めろっ、敵が来ているんだぞ!?」
「迎撃だ、迎撃!動かせるのは全部出せ!MSもだ!」
喧騒に溢れる指令室、そこに一際近い爆発音が響く。
「何があった!?」
防衛司令の中佐が叫び、状況を確認したオペレーターが震える声で答える。
「か、格納庫が、第7格納庫が爆発しました」
第7格納庫には基地守備隊のほとんどのジムが駐機されていた。一瞬呆けた表情で即座に命令を発する。
「試験部隊、研究チームなんでもいい!とにかくMSを持っている所に応援要請を出せ!敵は既に入り込んでいるぞ!」
(完全に俺の失態だ!)
ガンダムのコックピットに潜りこみながら、俺は奥歯を噛みしめた。大西洋上での敵部隊を撃破後も追跡を避けるために俺達はブラジル南部まで大きく迂回していた。そして守備隊からも追跡の痕跡が無い事を聞いて、完全に安心しきっていたのだ。相手はあの赤い彗星だというのに。
「ちょっと、アレン大尉!何するつもりですか!?」
「敵が来ているんだろ!迎撃する!」
ホワイトベースにもジャブロー防衛に参加するよう要請が来ていた。だが問題は配備されている機体の殆どが整備中だった事だ。真っ先に出されていたガンダム2号機と状況が酷すぎて後回しにされていた3号機、そして新人の3人娘の3機が今動かせる全部だ。コックピットハッチに取り付いて叫ぶロスマン少尉にそう叫び返してハッチを閉める。途端秘匿通信が開いて、オカマ中尉もといブランド中尉が真面目な顔で口を開く。
『大尉、申し訳ないのだけれどレイチェル達は使えないわ』
「そうか、じゃあマッケンジー大尉に連絡を、代わりに機体をつかって―」
『それも駄目。あれはちょっと特別な機体なの、普通のパイロットは乗せられない。大尉なら解るでしょ?』
「フリーズ中尉、アンタは何のために居るんだ?出撃出来ないって報告なら本人にさせればいい。それをどうにかするためにアンタが付いているんだろう?何とかしろ」
そう俺が言い返すと、中尉は表情を変えぬまま平然と言い放つ。
『それなりに残り時間を削る事になるわよ?』
その言葉に思わずコンソールを殴りつけてしまった。
「使い物にならねえんなら最初から持ってくるんじゃねぇ!…薬物の使用は隊長として認められない、自主的になんともならないなら部屋に入れておけ」
これで使える戦力はガンダムとモドキがそれぞれ1機。
「准尉、アムロ准尉!」
通信を切り替えてそう叫ぶ。
『はい、大尉』
「手数が足りない。スペースポートまで前進して敵の侵入を阻止しろ、味方の戦車を上手く使え。それとグレネードには注意しろ」
『了解です』
「俺は外に出て敵を減らす。悪いがホワイトベースを頼むぞ」
そう命じていると通信に誰かが参加してきた。
『こちらグレイファントム、スカーレット隊のエドワード・コリンズ大尉だ。こっちの部隊は全部出せるぞ。第2と第3小隊は艦の防衛、第1と第4がそちらのカバーに――あ?おい待て姫さん!?』
コリンズ大尉が慌てた様子でそう叫ぶ間にグレイファントムのハッチが開いたかと思えば、翡翠色と白のツートンカラーに塗装されたガンダムが飛び出してきた。
『ふふ、手伝ってあげる。アレン少尉』
もう大尉だよ。
「大丈夫なのか?」
『誰でも初めてはあるでしょう?私はそれが今日だっただけだわ』
彼女の返事に無言でコリンズ大尉に視線を送る。ただ彼は慣れきっているようで直ぐに部下達へ指示を出す。
『リンとウォルターは姫さんのバックアップに回れ。ランディは俺の隊に合流しろ、そっちは外で戦うんだよな?』
「ああ」
『姫さんが燥ぎ過ぎないように頼むぜ』
こっちに丸投げかよ。
「善処するよ。そっちも准尉のフォローを頼むぜ」
『任された』
やりとりを済ませた俺達は次々と出撃する。キャットウォークでロスマン少尉がこちらに向かって怒鳴っているが俺は敢えて無視をした。俺の知っている状況とはまるで違うんだ、動かせる戦力は多いに越したことは無い。
すぐに最寄りのエレベーターに乗り込んで、地上を目指す間に味方の確認を済ませることにした。
「ディック・アレン大尉だ、急だがよろしく頼む」
『リン・ウェンライト中尉です。よろしく』
『ウォルター・フェン、少尉です』
そう返事をした二人が乗っているのはジムスナイパーⅡだ。所属を示すグレイファントムのエンブレムと両肩に赤いラインがペイントされている以外、俺の知っている機体と外観上の差異は見られない。恐らく見た目通り普通の機体だろう。
「早速で悪いがこの機体は訳ありでな。こんなツラだが性能はジム並みだと思ってくれ」
『ガンダムではないのですか?』
ガンダムなんだけどな。
「ジャブローに戻るまでに無茶をさせすぎてな。まあ、俺もその程度の腕だと理解してくれていい。だからララァ少尉、しっかりと俺を守ってくれよ?」
『仕方の無い人ですね。私が守ってあげますよ』
俺の頼みに得意げな声音でララァ少尉が応え、スカーレット隊の二人は微妙な表情になる。そうしている間にもエレベータは動き続け、俺達は地上に到着した。
「降下してきたMSさえ叩けば連中の作戦は失敗する。降下してきた敵を――」
俺が言い切る前にララァが操るガンダムNT-1がビームライフルを上空に向け、降下中のドムを撃ち抜いた。更にその後方でMSの降下態勢に入っていたガウに射撃を加え片翼をもぎ取る。揚力の均衡を失ったガウはそのまま傾きながら地面へと叩き付けられた。
『降下させなければ良いんですね?簡単です』
爆炎と衝撃の中でそう言いのける彼女に、俺は無理矢理笑顔を作りながら答えた。
「ああ、連中はこのゲートを目指して突っ込んでくる。待ち構えて鴨撃ちにしてりゃあ終わる仕事だ、楽なモンだろう?」
そう言っている間にも近くの陣地から空へ向かってビームの光が伸び、ガウを貫いた。同じように展開している部隊が攻撃を始めたらしい。俺達もそれに倣うようにそれぞれの武器を構えて迎撃に移る。
(史実より数が多いか?)
ジャングルを挟んで敵MSが攻撃を仕掛けてくる。どうやらゲートから離れた位置で降下した機体や、陸路と海路からも侵入しているようだ。
「敵は水陸両用機も運用している。河に近づきすぎるな!奇襲されるぞ!」
射撃を盾で防ぎながらそう注意を促す。この辺りの河川は濁っていて視界も通らないから、至近距離まで近寄られても気付かない可能性が高いからだ。そしてその懸念はララァ少尉の行動で証明される。
『見えないからって!』
突然跳躍した彼女の機体が、水中に向かってビームを放つ。離れた場所に二発ずつ撃ち込まれたそれは、僅かな間をおいて大きな水柱を誘発した。恐らく潜水していた敵MSを撃破したのだろう。
『相変わらず無茶苦茶な』
そうウェンライト中尉が呆れた声音で評する。尤もその間にフェン少尉がマシンガンで拘束した相手をスナイパーライフルで遮蔽物ごと撃ち抜いて撃破しているあたり、彼女も十分出鱈目な技量を持っていると思う。緊張感が足りていないようにも思えるが、それも仕方が無いことだろう。何しろ数こそ多いが連中は完全に浮き足立っている。殆どの機体が闇雲に攻め寄せてくるだけで連携している連中の方が少数だ。はっきり言ってアムロやララァの理不尽さに慣れてしまった彼等を相手取るならば、最低でも今の倍は数が要るだろう。そうした雰囲気は周囲にも伝播する。ゲートの守りは俺達に任せれば良いと考えたのか、少しずつ他部隊の動きが大胆になり始めた。防壁や地形を利用して防戦をしていたそれらが攻勢に出始めたのだ。攻撃に来た筈が、押し込まれるという状況になり敵軍は更に統制を失っていく。
『よしっ、押し上げるぞ!』
いよいよ俺達の近くでゲートを防衛していた部隊もそう宣言しつつ走りだす。それを見て俺はつい顔を顰めてしまった。
「スナイパーががら空きだぞ?」
見れば先程のガウを狙撃した機体が後方に待機している。ジムスナイパーⅡを受領している辺り、腕の良いパイロットなのだろうが装備が問題だ。カイ軍曹が使用しているロングレンジビームライフル。俺達がビームスナイパーライフルと呼んでいる武装だが、あの機体のものは連射の為に基地から冷却剤とエネルギーの供給を受けている。あれでは動き回る事も難しいし、咄嗟の射撃にも対応しにくいはずだ。そして案の定と言うべきか、河川に潜んでいたザクが飛び出し、スナイパーに襲いかかる。だがそこはスナイパーも予想できていたのだろう、素早く照準を合わせてザクを撃った。だがその後に予想外の事が起きる。
『撃つな、ラリー!』
「は?」
撃たれたザクは泥で足を偶然滑らせ、頭部を吹き飛ばされただけで転倒する。そしてそれに向かって次射を加えようとしたスナイパーに向かって、そんな通信が飛び込んで来たのだ。
(嘘だろおい!?)
余りにも有名なそれに出くわしてしまった俺は、咄嗟に機体を駆けさせる。間に合ったのは正に僥倖と言えるだろう。
「ロスマン少尉、悪い!」
動けずにいるスナイパーの前に機体を滑り込ませ、俺は思わずそう叫ぶ。直後機体を無数の弾丸が襲った。
『大尉!?』
ララァの悲鳴じみた声が聞こえる。しかしそれに応じるより先に、ガンダムの右腕が吹き飛ぶ。更に上半身に数発の直撃を貰ったせいで、衝撃に耐えきれなくなった機体はゆっくりと後ろへ向けて転倒してしまう。その上運悪く衝撃で何らかの電装系に不具合が出たのかモニターまで落ちてしまった。
「やっべえ!?」
言うまでも無いがコックピットの開閉機構や上半身の強制排除には電気信号を送る必要がある。つまり今の俺は豪勢な棺桶に放り込まれている状態だ。しかし俺はどうやらツキに見放されていなかったようだ。近くで再び何かが倒れる音が響いたかと思えば、機体へ僅かに衝撃があり、その直後には接触回線でララァ少尉の焦った声が聞こえてきた。
『大尉!大尉!?無事ですか!?』
「生きてるよ、少尉。大丈夫、俺は無事だ」
言いながら再起動の操作を行うと、コックピット内に光が戻ってくる。同時に洪水のようなエラーと警報がモニターを埋め尽くした。あ、こりゃ駄目だ。
「けど機体は駄目だな。すまないが脱出する」
そう言って俺はコックピットハッチを操作して機体から飛び降りる。振り返るとそこには無傷のジムスナイパーⅡがいた。どうやらちゃんと間に合ったらしい。
「とりあえず、地下に避難――」
そう言いかけたところで空に明るい光が打ち上がるのが見えた。ジオンの信号弾だった。
ストック切れにつき明日は更新出来ません。
ごめんなさい。