WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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間に合ったぞ。


6.0079/09/17

ゆっくりと背中にGがかかり、アムロ・レイは艦が移動を始めたことを理解する。同時に思わず唾を呑み込んだ。これからの作戦に対する緊張からの行為だった。

 

『そんな顔をしなくても大丈夫だ。アムロ君』

 

通信からそんな声が聞こえてくる。艦とのものとは別の通信ウィンドウに映った男が落ち着いた笑顔で言葉を続ける。

 

『君も実際に戦っただろう?相手は丸腰の相手にすら及び腰だった。何でか解るかい?』

 

「臆病だから、ですか?」

 

『それもあるだろうがもっと根本的な事さ。連中は俺達がとても怖いんだよ』

 

「僕達が、怖い?」

 

そんなことがあるのだろうかと、アムロは思ってしまう。ここまで自分が目にしてきた軍人、ホワイトベースに乗艦している彼等は自分の仕事を果たそうと懸命に働いていた。常に不安を顔に浮かべて事あるごとに大丈夫なのかと口にする避難民と比べてしまえば、そこに恐怖と言う感情があるようには思えなかったからだ。或いは軍人とは恐怖で行動が鈍るような人種ではないのだろうと。だが僚機のディック・アレン少尉は、ザクの動きが悪かったのは恐怖からだと明言した。

 

『簡単な話さ。連中は今までMS同士の戦争なんて経験していないんだ。勿論訓練で模擬戦くらいはしただろうが、命の取り合いじゃないし何より相手は自分がよく知った自軍の機体だ。対して今は?相手は本気で殺しにかかって来ている上に、機体の性能もまるで未知数。しかし確かなことが一つだけある』

 

「ガンダムが、ザクより強い事ですか?」

 

アムロの言葉にアレン少尉は頷いた。

 

『そうだ、こっちはザクに勝てる機体を造ってたんだからな。少なくともスペックで劣っているなんて事はあり得ない。そう考えれば彼等の怖さが理解出来るだろう?』

 

彼の言葉に今度はアムロが頷く番だった。解らない相手というのはとても厄介だ、それが自分より優れているなら尚のことである。そんな相手が明確な殺意を持って対応すると言うのである。もし自分がそのような状況ならば逃げ出してしまってもおかしく無いと彼には思えた。

 

『しかも連中は生きて帰らなきゃならない理由がある。連邦がMSの開発に成功した事を伝えなきゃならないからな。そんな連中が命がけで艦を沈めに来られると思うか?』

 

「思いません。逃げる理由があるんですから」

 

『そう言う事だ、おまけに連中はザクを2機失ってる。仮に満載していたとしても次に出せるのは4機が限界、つまり数の上でこちらと互角というわけだ。どうだい、深刻な顔をするまでもない状況だと思わないか?』

 

そう言われてアムロは、自身の気分が随分と軽くなっている事に気がついた。優秀な軍人というのは、どうやら人心操作も得意であるらしい。

 

「有り難うございます、アレン少尉。おかげで気が楽になりました」

 

礼を言うとアレン少尉は笑って頷くと言葉を続ける。

 

『戦闘が始まっても回線は開いたままにしておけよ、それと作戦は覚えて居るな?』

 

「アレン少尉が追い立てて、僕が撃つ。ですよね?」

 

『宜しい。射撃のタイミングは?』

 

「アポジモーターの噴射光が収まる寸前です」

 

『上出来だ。それじゃ先に行くぞ』

 

アレン少尉がそう言うと、格納庫のハッチがゆっくりと開いた。そして左横をグレーのガンダムが低い姿勢で飛び出して行く。続くように誘導員がカタパルトへ向かうように指示を出してきた。オート動作によって機体は淀みなくカタパルトへと固定され、発艦体勢になる。

 

「アムロ、行きまぁす!」

 

発艦許可のグリーンシグナルが灯ると同時にアムロは叫び、教えられた通りに発進可のボタンを押した。蹴飛ばされるような加速を与えられた機体が漆黒の宇宙へと飛び出すと同時にホワイトベースのオペレーターが叫ぶ。

 

『ミサイル接近!迎撃を!』

 

その言葉にアムロは若干の苛立ちを覚えた。飛来するミサイルを迎撃しろ、それは解る。だが何発で何処からだ?

 

『艦12時方向!距離13000!』

 

その疑問を即座にフォローするようにアレン少尉から通信が入る。言われた方向へカメラを向ければ、蛇行しながら飛翔するミサイルが見えた。即座に手にしていたビームライフルを構えると、アムロは躊躇無くトリガーを引く。

 

『マジかよ…』

 

連続して放たれた2発は、アムロの思った通りにミサイルを撃ち抜き爆発させた。それを見てアレン少尉が驚きを隠さぬままに声を漏らすのが聞こえた。

 

「アレン少尉?」

 

『あ、ああ悪い。この距離で当てられるとは思わなかったよ。良い腕だ、その調子で頼む』

 

「はい、任せて下さい」

 

現役のパイロットの称賛に気をよくしたアムロはそう応じる。それに対しアレン少尉は力強く頷くと口を開いた。

 

『さあ、来るぞ!』

 

彼の言葉通りメインカメラが移動する光点を捉える。

 

「やってやる。相手がザクなら、人間じゃないんだ!」

 

破壊された自分達の家を思い出し、アムロは強く操縦桿を握り絞めた。

 

 

 

 

「あの距離で当てる?腕の良いパイロットと言う事か」

 

迎撃され爆発するミサイルを見ながらシャア・アズナブルはそう呟いた。

 

『しょ、少佐!今の攻撃は?自分はあのような攻撃を見ておりません!?』

 

MSから放たれた光条。それはつまり連邦軍のMSが射撃用のビーム兵器を有しているという証左だった。

 

「当たらなければどうという事は無い。スレンダー、貴様は距離をとって援護に回れ!」

 

ミサイルにも当然ながらロック検知システムはついている。特に終末誘導前であれば回避運動も行うのだ。つまり連邦のMSが放った攻撃は、ロック検知後にミサイルが回避する事も出来ない弾速だと言う事だ。部下のスレンダーはパイロットとしての技量は良くも悪くも平凡であるから、距離を詰めての戦闘は厳しいだろうとシャアは判断した。

 

(幸いスレンダーの武装は対艦ライフルだ、牽制程度にはなる)

 

命じつつもシャアは自らの機体を加速させる。彼の愛機はS型と呼ばれるザクの中でも上位のモデルだ。基本的な構造が量産機と同一であるため改良されたR型などには劣るものの、単純な推力は一般機であるF型の3割増しだ。更に彼はリミッターの設定を甘くすることで更に加速性を増している。だが問題が無いわけではなかった。

 

「流石にこの速度では難しいかっ!」

 

担いでいたバズーカを構えるが、そのレティクルはぶれてしまい定まらない。直線運動ならばまだしも、小刻みな回避を加えての運動になると機体側のFCSが彼の動きに追随出来ないのだ。

 

「マシンガンの効かぬ装甲、厄介だな!」

 

この状況であってもマシンガンであれば多少の命中弾は見込めただろうが、どちらにせよ損傷を与えられなければ無意味だ。

 

(つまりは、こちらの距離まで詰める以外の選択肢は無いわけだ!)

 

口角を上げながらシャアは更にスラスターペダルを踏み込む、更に牽制としてバズーカを放った。カメラに捉えていた敵機はその弾頭に対し真逆の行動に出る。一機はぎこちなく後退、もう一機は加速してこちらへと向かってくる。

 

「やる気か、面白い!とでも言うと思ったか?」

 

肉薄して近接戦用のビーム兵器を振るうグレーの機体の横をすり抜ける。すり抜け様にバズーカを撃ち込むがこれは盾に防がれる。しかしそれで盾が破壊できたのを確認しシャアは笑みを浮かべる。構造上MSの主装甲が盾よりも厚い事はあり得ない。つまりバズーカであれば敵に対し有効である事が証明されたのだ。

 

「先ずは鈍い方から頂く!」

 

この瞬間、彼の頭の中で目標とする戦果が上方修正された。敵MSの性能把握から撃墜にである。傍から見れば無謀に思える思考だが、それを成すだけの実力があると彼は自負していたし、他の兵士が聞いていたとしても赤い彗星の言葉ならばと追認した事だろう。これまでの戦いでシャアはそれだけの戦果を挙げていたし、その実力も知れ渡っていたからだ。だが、彼は失念していた。戦場において活躍するという事は、敵にもその行動を警戒、研究されると言う事である。そして惰弱と決めつけていた地球連邦軍を、彼は過小評価していた。

 

『ひっ!?』

 

宇宙空間で一度交差してしまえば追いかけることは難しい。向かうのに使った分のエネルギーを反転した場合相殺しなければならず、その間にもこちらは加速出来るからだ。後ろから放たれるマシンガンを悠々と避けつつ勝利を確信した彼の耳に届いたのは、短いけれど明確な部下の悲鳴だった。そして彼は自らの失策を悟る。動きの悪い方を先に狙い、数的有利を作り出す。何と言うことはない、敵も同じ手段を講じていたと言うだけの話。だがその判断ミスが部下の命を奪い去った。

 

放たれたマシンガンを慌てて避けたスレンダーの機体が姿勢制御のために一瞬硬直した瞬間。その隙を違わずに放たれたビームがザクを一撃で火球へと変えた。爆発の規模から動力炉も誘爆したのだろう。パイロットの生存はまずあり得ない。その一撃は鮮やかであり、入念な打ち合わせがあった事を彼に窺わせた。ならばいきなり接近戦を挑んできたのも、こちらを油断させるための演技だったのだろう。自分はまんまと敵に嵌められたというわけだ。

 

「認めたくないものだな、自分の若さ故の過ちと言うものは!しかしっ」

 

部下とザクを失った。だが自分が敵機に接近していると言うのも事実だ。ならばここで1機墜とし返せば互角となる。連続でバズーカを放ち敵のシールドを破壊、爆発の反動で姿勢制御にもたつく敵機に向かってヒートホークを握り最後の加速を行う。

 

「沈め!」

 

自機の加速と敵との距離、絶対に避けられないと確信出来る一撃を放ち、シャアは思わずそう叫ぶ。そしてその瞬間、彼の機体は無数の爆発に巻き込まれた。




Q:何でこんなにシャアが弱いんですか?
A:作者が嫌いだからじゃないですかね?

因みにガンダムで好きなMSはヤクト・ドーガ、次点でサザビーです。

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