WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


63.0079/12/04

「目標は?」

 

「予定通りパルダに入ったよ。なあハーディ。本当にやるのか?」

 

「俺達は軍人だからな。上がやれと言えば是非もないさ。だがまあ、やったところで我が祖国は長くないだろうな」

 

安宿の小さな一室でサイド6に潜入したスパイと情報交換をしながら、ハーディ・シュタイナー大尉は紫煙を吸い込みつつそう評した。

 

「負けるか」

 

「俺は兵隊で政治の事は良くわからん。だが戦場を見る限り、これで勝てるとは到底思えない」

 

次々と撤退を繰り返す地上部隊。それも整然とした後退ではなく、夜逃げも同然の逃げ方だ。少し前に行われたオデッサの撤退も軌道上で襲撃を受け、随分と被害を出したと聞いている。それはオデッサの一時的な喪失ではなく、地上という支配領域を恒久的に失ったと理解させるのに十分過ぎる内容だった。元々国力で劣る側が領土を失い始めたと言うことがどの様な意味を持っているかなど、多少でも戦史を囓っていれば容易に想像が付く。

 

「…注文通り機体は4機、全て組み終えて運び込まれている。後は乗るだけだ」

 

差し出されたカードキーを受け取りながら、ハーディは意を決して打ち明ける。

 

「俺達が失敗した場合、上の連中は例の部隊をコロニーごと吹き飛ばすつもりだ。ここまで運ばれる途中、乗ってきた艦の格納庫に態々C型が置かれているのを見た」

 

「知っているよ、弾頭を持ち出されたグラナダで大騒ぎが起きているからな」

 

「事が露見すれば、お前にも追及が来るだろう。悪いことは言わない、今のうちに逃げておけ、チャーリー」

 

潜伏先の倉庫や移動の手段を用意してくれたのは目の前の旧友だ。作戦の実行されるパルダと彼の潜入先であるリボーは別のコロニーであるが、捜査が始まればそんなものは些細な違いに過ぎない。もしそうなれば彼は核攻撃を行った部隊を招き入れた極悪人として捕まることになる。その先に待つ運命が地獄であることは間違いないだろう。

 

「悪いなハーディ。俺はこの平和ぼけしたコロニーが気に入っちまってるんだ。今更逃げようとは思えんよ。それに、俺はお前さんらを信じているしな」

 

その言葉にハーディは答えず、ただ帽子を深くかぶり直した。

 

 

 

 

「何事もなくこれちゃいましたね」

 

「だな、正直1・2回は襲われると覚悟していたんだが」

 

待機室で話しかけてきたエリス准尉に俺はそう返事をした。史実と異なり、ザンジバルの追撃を受けなかったせいか、打ち上げられたサラミスと合流した第13独立部隊は、その後攻撃を受けずにサイド6までたどり着いた。今は入港の処置中で、それぞれの艦とMSに攻撃禁止用のテープを貼り付ける作業を港湾員がしているはずだ。

 

「弾薬はまあ仕方ないにしても、推進剤まで補給出来んとはね」

 

「仕方ないさ。ここで補給が出来てしまうと連邦はジオン本国を直接突けてしまうからな。中立を標榜していれば出来ん話だ」

 

スレッガー・ロウ中尉のぼやきに俺は苦笑する。平等ではあるがこの内容は公平ではない。ソロモンを抱えているジオンからすればサイド6で補給を受ける必要は薄いから、どちらかと言えばジオンに有利と言える。尤もそれは仕方のないことで、今現在に至るまで連邦軍はサイド6を防衛するだけの戦力を有していなかったのだ。ジオンがいつでも武力制圧できる環境にあったことを思えば、多少の忖度はサイド6の生存戦略として何ら不思議ではない。連邦軍の人間からどう見えるかは別問題であるが。

 

「つまりここに留まっていてもあまり良いことはないって事か」

 

「そもそも入港の目的がジオンの目をこちらに引きつけるだからな。入港それ自体が目的とも言える」

 

「では、この後はそのまま第3艦隊に合流でしょうか?」

 

「流石に入ってはい終わりじゃないから、半日くらいは留まるだろうけどな。基本的にはそうなるだろう」

 

「ヤレヤレ、ツイてないね。せめて上陸出来れば美味い飯を食うくらい出来たろうに」

 

「ジャブローの補給で大分良くなったんですよ?地球に降り立ての時なんて酷かったんですから」

 

そんなアムロ准尉の言葉に当時を知っている俺とリュウ曹長は頷いた。尤もあの時だってパイロットは大分マシな食事だったからストレスは少かったのだが。

 

「だからってあんなにリクエストしなくても」

 

「エリス准尉ぃ。いい?人間の三大欲求は食う・寝る・遊ぶなのよ。ちゃんとそれを発散しないと人間おかしくなるわけ。わかる?」

 

MS隊は半数がコロニーに上陸する事になっているから、待機組の俺達は欲しいものを上陸組にリクエストしていた。その中で特に大量の物を願っていたのがスレッガー中尉だった。あまりの量に温和なジョブ・ジョン少尉すら顔を引きつらせていたからな。

 

「程々にな。腹がつかえてパイロットスーツが着られないなんて泣き言は聞かんぜ?」

 

俺の言葉にスレッガー中尉は肩を竦めると言い返してきた。

 

「ほっ、そんなお間抜けじゃありませんよ、大尉。…7小隊の連中は上陸させんのですか?」

 

「保護者曰く人混みなんかはストレスなんだと」

 

俺の説明に待機室のメンバーは全員顔を顰めた。説明なんて出来なくても、彼女達が悪い意味で特別だと言うことは既に全員が承知している。そしてアムロとエリスは特に彼女達の処遇に不満を抱いている人間だった。

 

「正直僕はフリーズ中尉が信用できません。本当は彼女達を閉じ込めておきたいだけじゃないんですか?」

 

「否定しきれませんよね」

 

ララァ・スンの扱いについてアドバイスを求められた際に、俺はとにかく人間として常識的な扱いをすることを科学者連中に告げていた。そもそもニュータイプなんて呼ばれていても、喜怒哀楽の感情が俺達と乖離しているわけじゃない。ならば実験動物ではなく協力者として真っ当な扱いをすればちゃんと協力してくれるくらいの度量を彼女達は持ち合わせてくれている。逆説的に言えばジャブロー以外の研究施設は、そうした酷く当たり前の前提すら実行出来ていないと言うことだ。故にまともな扱いに慣れているエリス准尉にしてみれば、正にモルモットも同然のあの子達の扱いには嫌悪感を覚えるのだろう。

かといって現状で俺達が出来ることは皆無に等しい。軍から離れさせる権限なんて持っていないし、仮に出来ても彼女達が真っ当に生活が出来るとは考えにくい。では次善で戦闘に参加させなければどうなるかといえば、もっと不愉快な未来が待っているだろう。戦果を出せなかった失敗作に与えられる先など良くて使い捨て、気の短い連中ならば即時廃棄なんて可能性すらある。つまり今の俺達では、彼女達を戦闘に参加させないと言う選択すら採れないのだ。そして戦闘に参加させる以上、彼女達を調整できるフリーズ中尉に頼るしかない。

 

「信用出来なくても、今の俺達は彼に頼るしかない。弄くり回された人間の面倒を見られる人間なんてこの部隊には彼しか居ないんだからな」

 

痛みを感じる胸元をさすりながら、俺は皆に告げる。

 

「こちらから引き続き注意はしておく、だからお前達はあまり敵意を向けるな。少なくとも今は同じ艦で戦う仲間なんだからな」

 

俺の言葉に返事をする奴はいなかった。

 

 

 

 

「肉体への負荷は許容範囲内。インプリティングによる上官に対する思慕の付与以降運用時の安定化が確認されているが、これは指揮官側の資質に大きく依存するものである。また、薬物による脳神経系への強化は脳へのダメージが無視できず、長期的な運用の妨げになる事は明白である。このことから…」

 

研究所に送る報告書を見直しながら、ブランド・フリーズ中尉は溜息を吐く。元々彼は平凡な身体強化系の研究者であり、ニュータイプだなんだと言った話とは無縁の人間だった。不幸だったのは以前開発していた物に神経伝達系の強化薬が存在した事だろう。伝達物質を強引に増加させる違法薬物と大差のないそれは当然のように全て破棄され、データだけの存在になっていたのだが。

 

「冗談じゃないわよ、まったく」

 

どこからどうなって今に至るのか、彼自身も把握できていないが、いつの間にか軍にスカウトと言う名の拉致をされたかと思ったら、露見すれば一生檻から出てこられないような研究に従事させられ、挙げ句成果物とされる被検体を連れて前線行きである。そしてそこでは彼女達を弄ぶ悪の科学者扱いだ。尤も最後の部分は自分の意思とは関係なくとも事実ではあるのだが。

 

「ブランド中尉。今日のメニュー、終わりました」

 

「ん、ご苦労様。どうレイチェル、疲れてない?」

 

「はい、以前に比べると大分体が楽です。けど、その」

 

脳神経系への薬物投与を中止した事で必然的に反応速度が低下した結果、彼女達の訓練結果は以前よりも成績が下がっていた。規定値に到達できなかった被検体達の最後を彼女達は知らされていないが、それでも見知った顔が消えていく状況に楽観的な想像が出来る者など皆無だっただろう。何しろあの研究所は希望や未来などという言葉から最も縁遠い場所だったのだから。

 

「アレン大尉の方針で薬物摂取が出来ない状況下でのデータ収集をしているのよ。長期的にどんな影響が出るかってね。だから安心なさい」

 

「はい、解りました。あの、二人に伝えてもいいですか?」

 

アレン大尉の名を出した途端、レイチェル特務曹長は露骨に安堵しそう聞いてきた。フリーズは笑いながら許可を出しつつ、彼女の様子を観察する。

 

(依存心の刷り込みは問題なく出来ているわね。自発的な行動も見受けられるけど十分制御範囲内だわ)

 

上官の命令に絶対服従とした方が扱いは容易であるが、任務や訓練への積極性は生じない。薬物や外科的手術で強化可能な状況ならばそれでも問題なかったが、禁止された以上別のアプローチが必要であった。

 

「頑張りなさい、レイチェル。きっと大尉も喜んでくれるわ」

 

「はい!失礼します!」

 

元気よく返事をして部屋を出て行くレイチェル特務曹長を笑顔で見送った後、彼はタブレットを開き彼女達の状態を確認する。

 

「反応速度に低下は見られるけれど、全体としては想定より能力低下の幅が少ない。個体の経験蓄積も大きいけれど、重要なのはやはり使う側の資質ね」

 

元々彼女達は対ニュータイプ用の兵器として開発されている。道具が十分な性能を発揮するのに、使用者の技量が問われるのは当然のことだった。それが欲している者よりも、唾棄している側の方が適しているというのは何とも滑稽な話ではあるが。

 

「ニュータイプに一応対抗可能な戦力の量産と長期的な運用方法の確立による喪失の抑制。十分過ぎる成果だわ。後は出来ればサンプルが無事に手に入れば僥倖と言うところかしらね?」

 

そう呟く彼のタブレットには、ディック・アレン大尉の情報が映されていた。




ご要望が多かった現在のホワイトベース戦力について。

第1小隊
ディック・アレン大尉:ガンダムFAパッチワーク
アムロ・レイ准尉:ガンダムBstカスタム

第2小隊
ジョブ・ジョン少尉:ガンキャノン
カイ・シデン軍曹:ガンキャノン・スナイパーカスタム
ニキ・テイラー准尉:量産型ガンキャノン(試作型)

第3小隊
欠番部隊

第4小隊
クラーク・ウィルソン中尉:ジムB型
アニタ・ディアモンテ曹長:ジムB型
アクセル・ボンゴ曹長:ジムスナイパーⅡ

第5小隊
クリスチーナ・マッケンジー大尉:ジムコマンドカスタム
セイラ・マス兵長:ジムコマンド
ハヤト・コバヤシ兵長:量産型ガンキャノン

第6小隊
スレッガー・ロウ中尉:Gファイター宇宙用簡易量産型
リュウ・ホセイ曹長:Gファイター宇宙用簡易量産型
エリス・クロード准尉:GファイターWB隊改修機

第7小隊
レイチェル・ランサム特務曹長:ジムスナイパーⅡ(オーガスタ改造機)
カチュア・リィス特務伍長:ジムスナイパーⅡ(オーガスタ改造機)
シス・ミッドヴィル特務伍長:ジムスナイパーⅡ(オーガスタ改造機)


各機体の詳細設定はまたいずれ。

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