WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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64.0079/12/04

コロニーにも夜は来る。熱量まで擬似的に再現された中心部の発光装置が光量を落とすと、代わりに街の灯りが輝き出す。それは他の地域では失われた平和な光景だった。行き交う人々の表情にもどこか余裕が見て取れる。それはそうだろう。無重力や真空という条件下での製造が要求される工業製品は既に必需品であり、それの生産能力を持っていたサイドの大半が壊滅した今、地球連邦は入手先が月面とルナツー、そしてこのサイド6だけとなっている。ジオンにしても元々は1サイドであり、その生産能力は有限だ。結果双方ともに軍需を最優先した結果、戦争協力に当たらないとして民間向けの製品をサイド6から大量に仕入れている。そんな戦争特需はサイド6市民の懐を大いに潤し、気の大きくなった市民は優秀な消費者として内需を拡大する。経済における循環と成長の前に、誰もが世界の情勢は自らと関係のないものと心のどこかで考えていた。この日までは。

 

「なんだぁ!?」

 

「も、MS!?なんでコロニーにMSが!?」

 

轟音を伴って4機のMSがパルダコロニーの内部を飛翔する。向かう先は連邦軍の艦艇が停泊する宇宙港だ。

 

「連邦軍に早く連絡を!」

 

通信室に飛び込んだカムラン・ブルームはオペレーターにそう叫ぶ。コロニー内への未認可なMSの持ち込み。しかも明らかに武装したそれが、連邦軍を襲撃するために移動している。この事実を早急に伝えるべく行動を起こしたカムランだったが、港湾局員の反応は鈍かった。

 

「いや、しかしまだ襲撃と決まったわけでは…」

 

そう言ってオペレーターはごねる。理由は簡単だ、未だに宇宙における優位性はジオンが確保していると考えられている状況で、奇襲を仕掛けるジオンの情報を連邦に渡すことは利敵行為になるし、襲撃を知らせれば連邦軍は迎撃するであろうから、最悪コロニー内で戦闘が発生する。その発端となる事を彼は厭うているのだ。

 

「先に違反しているのはジオンなんだぞ!?」

 

「けれどあの機体が未認可かもまだ確認が取れていませんし」

 

パルダコロニー内にはジオンの施設が存在しており、そこでは作業用のMSが使用されている。施設自体は別のコロニーに連邦も持っているため見逃されているが、持ち込まれているものが戦闘用となれば話は全く変わってくる。

 

「カムラン監査官。余計なことをすれば我々にも火の粉が降りかかります。どちらかに肩入れするのはサイド6の中立性に疑心を持たれる事になりかねません」

 

ジオンと連邦が勝手にやったこと、そう処理すれば良い。連邦の艦が沈んだところで、サイド6側に不手際は無く、あくまでジオンが問題行動を起こしたに過ぎない。被害に遭った連邦兵には哀悼の意を表し、ジオンには然るべきペナルティーを要求する。そうすれば明日もまたサイド6は中立地帯として我が世の春を謳歌出来る。オペレーターの目はそう語っていた。故にカムランは無言で行動を起こす。

 

「なっ!?カムラン監査官!?」

 

オペレーターの胸ぐらを掴むと、カムランは彼を席から引き剥がす。そして通信席に座ると機材を操作して口を開く。

 

「ホワイトベース!連邦軍聞こえるか!?コロニー内からジオンが攻めてくる!繰り返す、ジオンが攻めてくる!MSでだ!」

 

専門家ではないカムランは連邦軍への個別回線など開けない。だから彼は知っている公共回線でそう叫んだ。その行動にオペレーターは顔を青ざめさせる。サイド6は中立地帯であるから、当然ミノフスキー粒子の散布も認められていない。つまりそれは、今の通信をジオン側にも聞かれたと言うことだ。床に座り込んでいたオペレーターは慌てて立ち上がるとカムランに掴み掛かり、怒声を発した。

 

「馬鹿野郎!サイド6を戦場にするつもりか!?」

 

そんな彼にカムランは負けない声で言い返す。

 

「寝ぼけるな!ここはもう戦場だ!」

 

その言葉に通信室が一瞬静まりかえる。その隙にカムランはオペレーターの腕を振り払うと、もう一度大声で宣言する。

 

「武装したジオンのMSが連邦の艦を襲おうとしている!ジオンはもうここを中立だなんて思っちゃいない!そして被害が出れば連邦だって躊躇わないぞ!そうなればどっちつかずをやっていたサイド6に誰が遠慮なんてするものか!」

 

進駐、保護。双方が都合の良い言葉を並べ立てて、サイド6を占領するだろう。そうなれば今までのツケを清算させるべく動くことは明白だ。

 

「今日までサイド6は平和だった。でも今からは違う」

 

「だ、だとしても、だとしてもだぞ。これじゃ俺達は連邦に付いた事になっちまうんじゃないのか?」

 

恐怖のためか、泣きそうな声音でそう聞いているオペレーターに、カムランは自身も震える声で応じる。それはサイド6の命運を決めてしまった事への恐怖からだ。だがそれでも彼は言い放つ。

 

「開戦初頭でジオンが何をしたのか忘れたのか?連中なら守り切れずに連邦に占領されてしまうならサイド6など吹き飛ばしてしまえと考えるに決まっているさ。あいつらは自分達に賛同しなかった人間のことなんて、自分達のパイに集る虫くらいにしか考えていないだろうからね。都合が悪くなれば我々との約束を平気で破ってみせるのが良い証拠だ」

 

その言葉に反論の声を上げる者は居なかった。

 

 

 

 

「外で直ぐに戦闘になる可能性がある!MS隊の発進を急がせろ!」

 

「係留索解除確認!」

 

「サフラン及びシスコより入電!ワレ、出港可能!」

 

矢継ぎ早に上がってくる報告を処理しながらブライト・ノア少佐は命令を下す。

 

「よし、ホワイトベース緊急発進!両艦の前衛につけ!」

 

「良いんですか?」

 

横に立っていたワッツ大尉がそう聞いてくる。ホワイトベースの保全を考えるならば、サラミスを先行させた方が良い。それは冷たい戦場の方程式だ。戦力的価値で言えば、ホワイトベースはサラミスよりも遙かに重要なのだから。しかしその問いかけにブライトは頭を振る。

 

「MSに待ち構えられればサラミスでは厳しい。前衛を展開出来る本艦が先行すべきだ」

 

「了解です」

 

彼の言葉にワッツ大尉は苦笑しつつ帽子の位置を整えると、大きな声で復唱した。

 

「ホワイトベース緊急発進!前衛につけ!MS隊の展開急がせろ!」

 

「H101及びH401発進!続いてH102、H402発進位置へ!」

 

ゲートを潜るよりも速く、カタパルトからMSが飛び出していく。ホワイトベースもメガ粒子砲や機銃を展開し戦闘態勢に移行する。発砲禁止のテープを剥がす暇が無かったなどと、ブライトはついどうでも良い事を考えてしまった。その間にもMS隊は次々と発進し防衛線を構築する。

 

「港湾内で爆発光を確認!」

 

「グレイファントムより通信!ワレ敵襲ヲ受ク、迎撃セリ!」

 

その言葉を聞いて、ブライトは即座に命令を出した。

 

「聞いたな!?全兵装自由!MS隊は直ちに迎撃行動に移れ!ミノフスキー粒子戦闘濃度散布!」

 

ジオンの艦隊がサイド6の領域ギリギリで待ち構えていることは解っていた。当初はこちらが領域を出た瞬間に殴りかかってくる腹づもりだと推測していたが、敵はどうやらなりふり構わずにこちらを沈めるつもりのようだった。それに対してお行儀良くしているほどブライトは人間が出来ていなかった。

 

「MS隊が敵と交戦を開始しました!」

 

「1番2番主砲、前方のムサイを照準!当てていけ!」

 

ホワイトベースはジャブローで改装を受けた際に船体中央区画にあった格納庫とサブブリッジを撤去、その代わりとしてマゼラン級と同様の主砲を2基装備していた。両舷に装備されたものと合わせて4基8門のメガ粒子砲が連続してビームを放つ。戦艦と同等の砲火力に晒されたムサイは慌てて回避行動に移るが、それはあまりにも遅すぎた。

 

「命中!ムサイ轟沈します!」

 

「まだだ!続けて回頭中のムサイを撃て!」

 

そう言ってブライトは砲撃の継続を指示する。確認されている敵艦はチベ級が2隻にムサイ級が4隻、数の上ではこちらの倍である。散開されて砲戦を挑まれれば不利であることを十分承知している彼は積極的に攻撃を行い主導権を握ることで、それを補おうと考えたのだ。

 

「MS隊の状況は?」

 

「現在敵MS部隊と交戦中!優勢です!」

 

敵部隊の中心に位置していたために、チベ級2隻とホワイトベースの間では両軍のMS隊がぶつかり合っている。しかしその内容は既にこちら側へ傾きつつあり、敵のMS隊は突破を阻止するべく防御的な行動に始終している。だがそれも時間の問題であるようにブライトは思えた。

 

「味方が突破すればチベも砲撃を開始する。それまでにムサイを叩け!」

 

その命令に呼応するように僚艦のサラミスも猛然と射撃を行う。戦場は急速に連邦の勝利へ傾きつつあった。

 

 

 

 

外での戦闘が過熱する中、宇宙港の中では一つの戦闘が終わろうとしていた。

 

「ば、け、もの、めっ」

 

洪水のように警告音が鳴り響くコックピットの中で、ハーディ・シュタイナー大尉は目の前の敵を毒づいた。

 

(無茶な作戦で部下を失う。典型的な無能だな、俺は)

 

サイド6は保身のために沈黙を保つ。そんな根拠のない前提はあっさりと崩れ、停泊中だった連邦の艦には殆ど逃げられてしまった。残っていたのは殿を務めるべく意図的に残ったのであろう1隻のみ。奇襲効果は殆ど得られなかったが、それでも初撃は悪くなかった。先制で量産機2機を撃墜した彼等は、そのまま母艦に攻撃を仕掛けようとした。そこで現れたのが目の前の機体だ。白と翡翠色に彩色されたそのMSは、アンディとガルシアの機体を瞬く間に切り伏せると、ミーシャの乗るケンプファーに肉薄、コックピットへ正確に腕のガトリングを撃ち込み沈黙させる。ハーディ自身も慌ててビームサーベルを抜いた瞬間には両手足を切り飛ばされて床に転がされていた。

 

「失敗か。だが、只では死ねん!」

 

こちらを無力化したつもりなのだろう、敵が視線を湾外に向けている事を見て取ったハーディは最後の足掻きとして母艦への体当たりを決心すると、素早く操縦桿を操作する。それが彼の運命を決定付けた。機体が動き出すより速くコックピットに突き込まれたビームサーベルによって、彼は一瞬で蒸発する。操縦者を失った彼の乗機は脱力しその場で動きを止めた。そうしてサイクロプス隊による襲撃はあっけなく終わることになったのだった。




以下作者の自慰設定

ホワイトベース0079後期改修型
サイド7における偶発的戦闘からジャブロー到着までにホワイトベースは様々な戦訓を連邦軍に齎し、これらのデータは後に続く姉妹艦に反映されることとなった。
彼女自身もジャブロー到着後、損傷の修復と同時に改装が施される事となり、その艦影を大幅に変更する事になる。それは交戦経験のあるジオンの部隊ですら別艦と誤認する程であった。
主な変更点としては格納庫・推進器の換装、そして主砲の変更増設である。格納庫・推進器は準同型艦となるペガサス級5番艦のものが流用されている。それに伴い同艦は解体され部品として転用されたため、同時期に建造されていたグレイファントムが5番艦として就役した。この改装により搭載機数は12機から18機に増加、大型化したにもかかわらず推力の増加により速力、加速性共に改装前と同等の数値を維持している。
また、艦中央区画に存在したサブブリッジと中央格納庫を撤去。MSを運搬可能な連絡路を設置すると同時に、マゼラン級と同様の主砲を2基装備している。総合的な性能は向上しているが、一方でカタパルトと格納庫が完全に分離したことでMS部隊の展開には改装前よりも時間がかかるなど、一部性能の低下も見られた。
同艦は姉妹艦であるグレイファントムと共に第13独立部隊の中核として一年戦争を戦い抜く事となる。

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