WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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「ミノフスキー粒子、戦闘濃度に上昇!」

 

「ふむ、サイクロプス共は失敗したか、MS隊を前進させろ、ゲートを潜る前に包囲して叩け」

 

平然とそう指示を出す将校を見て、コンスコン少将は思わず口を開いた。

 

「まて、キリング中佐。連中はまだサイド6の領域内に居る、包囲はともかく攻撃は不味いだろう」

 

その言葉をキリング中佐は鼻で笑った。

 

「今更ですよ。既に特殊部隊がMSで襲撃を掛けています」

 

その言葉にコンスコンは愕然とした。

 

「MSによる襲撃だと!?そんな話は聞いていない!」

 

「おや?事前に説明したではないですか、コマンドによる破壊工作を行うと」

 

「詭弁を弄するな!MSでの攻撃が破壊工作だと!?」

 

そう怒声を発すれば、キリング中佐は忌々しげに睨み付けてくる。

 

「立場をわきまえて頂きたいですな。この作戦は突撃機動軍主体で行っているものです。貴方方はドズル中将が是非にと言うから組み込まれているのです。命令に従えないというなら不服従で拘束も出来るのですよ」

 

そう言ってキリング中佐は皮肉気に頬を歪める。

 

「それに連中もやる気のようです。半端な対応は損害を助長するだけですよ」

 

二人のやりとりに戸惑いながらも、オペレーターはMS隊に前進の指示を出す。2艦隊から合わせて20機ものMSが投入されるその様子は、見る者に一方的な蹂躙を予想させた。キリング中佐が嗜虐的な笑みを浮かべ、更に指示を出す。

 

「ミノフスキー粒子を散布。ムサイは前進し敵艦を包囲、砲戦で仕留めろ」

 

優勢を確信していたその言葉は、しかし直後に発せられたオペレーターの悲鳴のような報告で乱される。

 

「敵艦発砲!ヴァルキューレに命中!し、沈みます!!」

 

「何!?」

 

ゲートを潜った直後の敵艦からの砲撃。事前情報では巡洋艦クラスと評価されていたはずの砲は戦艦と同等の火力と射程をもって艦隊を襲った。そして更なる凶報が届けられる。

 

「も、MS隊が押されています!?」

 

「馬鹿な!敵はこちらの半分だぞ!?」

 

オペレーターの報告をキリング中佐が取り乱しながら否定するが、それで現実が変われば苦労はない。彼等が混乱している間にも友軍機は次々と撃墜され数を減らしていく。

 

「MS隊に後退するよう指示を出せ。本艦とグラーフツェッペリンの防空圏に誘導、連携して迎撃を試みる」

 

「勝手な真似をするな!指揮官は私だ!」

 

見かねたコンスコンがそう指示を出すとキリング中佐が喚き立てた。それに対しコンスコンは負けじと怒鳴り返す。

 

「このままではMS隊は全滅だ!丸裸になった艦隊の末路を知らんとは言わせんぞ!」

 

その言葉に青筋を浮かべながら頬を引きつらせたキリング中佐は震える手で眼鏡の位置を直すと、怒りに震える声で命令を下す。

 

「砲撃準備、敵MSに対し主砲による攻撃を実施。それから例のザクを発進させろ」

 

「なっ!?巫山戯るな!まだ味方が居るんだぞ!」

 

「だから残っている内に仕留めるのでしょう?これ以上の口出しは遠慮して頂く!」

 

そう言ってキリング中佐は腰から引き抜いた拳銃をコンスコンに突きつけてくる。理解しがたい状況に艦橋が支配されるが、キリング中佐の部下達が同じように銃を構えたことで状況は強引に動き出した。

 

「どうした、さっさと撃て!」

 

「は、はい…」

 

銃を突きつけられ、砲雷長が震える声で指示を出す。チベの一番主砲が僅かに動くとMSが戦うただ中へビームが放たれた。だが友軍機への誤射を恐れたそれは何もない空間を焼くに留まった。それを見ていたキリング中佐は砲雷長を睨め付ける。

 

「貴様、わざと外したな?」

 

「しかし、中佐殿。これ以上は友軍を誤射する危険が――」

 

彼が言い終わる前に乾いた銃声が響き、砲雷長が血をまき散らしながら吹き飛ぶ。返り血を煩わしげに払いながらキリング中佐は砲撃手に命じる。

 

「私への抗命は公国への反逆である、良く狙いたまえ。オペレーター何をしている!早くザクを出せ!」

 

その行動は遂にコンスコンの譲れぬ一線を越えた。彼は憤怒の形相でシートを蹴ると、キリング中佐に掴み掛かる。

 

「味方殺しをしておいてその台詞はなんだ!これ以上俺の艦での勝手は許さん!」

 

「ぐ、貴様っ反抗するか!?」

 

掴まれたキリング中佐もそう叫び、二人はブリッジ内でもみ合いを始めてしまう。だが勝者は直ぐに決まった。

 

「ぐぅっ!?」

 

キリング中佐の放った弾丸がコンスコンの肩を撃ち抜き、彼は苦悶の声と共に力を緩めてしまう。その間に床を蹴って距離を取ったキリング中佐は拳銃を向けながら狂気を孕んだ笑顔で叫ぶ。

 

「反逆者め!死ね!!」

 

そう言ってキリング中佐は引き金に力を込める。だが彼の拳銃から弾丸が飛び出すことはなかった。何故ならそれよりも早く艦橋を襲ったビームによって諸共に消し飛ばされてしまったからだった。

 

 

 

 

「正気かよ!?」

 

敵からの艦砲射撃を受けて俺は思わずそう叫んだ。現在MS隊は両軍入り乱れて戦っていたのだが、その領域に向けて敵艦は砲撃をしてきたのだ。航空機なんかよりも余程複雑な戦闘機動をとるMSの行動を予測して射撃を命中させるのは微調整の利かない艦砲では非常に困難であるし、何より味方が割り込まない状況を作り出さなければ誤射の危険もある。だから乱戦中に艦砲が来る場合は大抵敵機に何らかの兆候が現れるものだ。だが今回の攻撃にはそれがなかった。

 

「味方ごとかよ!実にジオンらしいじゃねえか!」

 

俺はそう吐き捨てながら、動揺で動きの鈍ったリックドムにビームを叩き込んだ。アムロ准尉の活躍もあって、当初倍近い数だった敵MSは既に半数まで数を減らしている。それでもまだ10機近い敵が残っていて油断など出来ないはずの状況だった。

 

『アレン大尉!』

 

「任せろ!!」

 

動揺から立ち直るのはこちらの方が早かった。当然だろう、敵から撃たれるのと味方から撃たれるのでは話が全く違う。そしてそんな隙を見逃してやるほど俺達は間抜けじゃない。アムロ准尉達が射撃で敵MSに回避を強要、見事に空けられた防衛線の隙間に俺は最大加速で突っ込んだ。

 

「食らいやがれ!」

 

チベ級の対空砲が起動するよりも速く艦橋を照準。右腕の連装ビームライフルを連続で叩き込む。更に機体をひねりながらもう1隻に向けてミサイルを発射しながらキャノンを放った。案の定ミサイルは迎撃されてしまうが、その爆発に紛れた砲弾は狙い通りに敵艦に突き刺さり爆発を起こした。目に見えて防空能力が低下したのを確認した俺は、艦橋を失って漂流するチベ級に止めとして左腕の対艦ミサイルを撃ち込むと、もう1隻を仕留めるべく機体を再度加速させ敵艦に肉薄する。そして連装ビームライフルのトリガーを引こうとしたその瞬間、敵艦から信号弾が打ち上げられた。白三発、降伏の合図だ。

 

「ちっ」

 

条約破りまでしておいて命乞いとは虫の良い話だ。俺は敵艦の前部甲板に機体を降ろし、銃口を艦橋へと向ける。

 

「こちらは地球連邦宇宙軍第3艦隊所属第13独立部隊。旗艦の降伏信号を確認した、即時機関を停止せよ」

 

見れば残った敵も次々と武器を手放して降伏の意思を示している。生き残ったムサイも主砲を下ろし、信号弾を上げていた。

 

『好き勝手やっといて今更降伏?調子の良い事言いやがって…』

 

そんな不穏な声が通信に響く。見ればアクセル曹長の機体が敵ムサイに向けてビームライフルを構えていた。

 

『止めなさい、アクセル曹長』

 

クラーク中尉がそう言ってアクセル曹長の射線に機体を割り込ませる。

 

『降伏すればそれまでやったことは帳消しだとでも言うんすか?』

 

『そうではありません。ですが我々は軍人です、定められた交戦規定を遵守するからこそ武器を持ち相手を殺す事を許可されています。その事を忘れてはいけません』

 

『相手は守る気なんて無いじゃないっすか!』

 

本当にな。これじゃ何のための南極条約なのか解ったもんじゃない。ジオンの連中は人類の滅亡でも望んでいるカルト集団か何かなのかとすら思えてしまう。まあ、戦争において負けないためのあらゆる手段は肯定されるなんて嘯く奴もいるが、それはまだ人類が自分達を絶滅させられない程度の武力しか持っていなかった頃の話だ。

地球を数回丸焼きにしても余りある核兵器を手にした今の人類には、その言葉は危険すぎる。

 

『自分達も同じように振る舞えば、それは相手を認めているのと同義です。私は自分の部下にギャラルホルンを吹かせるつもりはありません。命令です。銃を下ろしなさい、アクセル曹長』

 

皆が緊張する中でアクセル曹長は大きく息を吐くと、ゆっくりとビームライフルを下げてセーフティを掛ける。そして苦々しい表情で口を開いた。

 

『納得なんてしてねえし、連中を許す気なんてサラサラ起きねえ。けど、だから連中と同じになるなんざ死んでもゴメンだね』


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