WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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ちょっと難産なう。


67.0079/12/22

第3艦隊と合流した俺達第13独立部隊は宇宙要塞ソロモン攻略の先鋒を務めることになった。状況からして作戦の内容は俺の知っている歴史と変わらないだろう。

 

『なんだい、あのミサイルを抱えた不細工なのは?』

 

「パブリクだよ、旧式の突撃艇だな」

 

『突撃艇って、要塞相手にかい?こりゃハードになりそうだ』

 

俺がそう答えると、カイ軍曹は顔を顰めながらそう漏らした。実際ソロモン攻略戦、通称チェンバロ作戦は一年戦争における激戦の一つだ。この戦闘でジオンはソロモンの失陥とザビ家三男、ドズル・ザビを失う。連邦も無傷とはいかず、第2連合艦隊を率いていたティアンム中将が戦死、投入された艦隊も2つが壊滅するなどの被害を受けた。件のパブリクも投入された半数以上が未帰還ないし損傷放棄という大損害を受けたはずだ。

 

「それなりに覚悟はしておく必要があるだろうな。特にキャノン隊は責任重大だぞ」

 

『脅かさないで下さいよ、アレン大尉』

 

そう口を挟んで来たのはジョブ・ジョン少尉だ。だが残念、脅しでもなんでもねえんだなこれが。

 

「ジョブ少尉、悪いがこりゃ大真面目な話だ」

 

そう言って俺は今後の想定を口にする。

 

「パブリク突撃艇だが、要塞を攻略しようって言うなら明らかに数が足りん。核でもなけりゃ、1000発撃ち込んだ所で足りないだろう。となればあれは攻撃用じゃない可能性が高い」

 

『攻撃用じゃなきゃ何なんです?』

 

「大方ビーム撹乱幕だろう。要塞のビーム砲を無力化出来れば迎撃に使えるのは命中精度がお察しのミサイルだけになるし、防御砲火の密度だって段違いに下がる。後は艦艇の砲撃で砲台を潰しつつMS隊が揚陸して制圧ってところじゃないか?」

 

『それと俺達が責任重大ってのはどう繋がるんです?』

 

カイの質問に答えたのはニキ・テイラー准尉だ。

 

『揚陸しての要塞攻略となれば、MSは出来るだけ温存する必要があります。そうなれば接近するまでの段階は艦隊による制圧射撃ありきで作戦は進むでしょう。ですがビーム攪乱幕は敵だけではなくこちらのビームも無力化してしまいます。つまり迎撃に出てくるMSを効率的に迎撃出来ないと言うことですね』

 

ジオンからすれば、要塞防衛のためにはこちらの艦隊を撃破する必要があるから、要塞砲による迎撃が困難になれば、次に打てる手はMSによる攻撃だ。ビーム攪乱幕は時間と共に減衰してしまうが、それでも確実性を考えれば実弾兵器で戦う事が望ましい。もちろん他の機体もバズーカやマシンガンといった実弾兵器で武装できるが、機体に固定火器を持つガンキャノンが継戦能力で言えば最も優秀だ。

 

「そういうこと、だから足りない防空をMSが補ってやる必要がある。多分ウチの部隊はそうした直掩に回されるだろうが、特にお前さん達は頼りにされるだろうって事さ」

 

『うへぇ』

 

「まあ要塞内に突入するよりはまだ楽な仕事さ、トラップ山盛りでがっちり守っている陣地に突入なんて、言葉面だけでもぞっとせんだろう?」

 

そう俺は気休めを言った。だってそうだろう?史実では陽動部隊と言いながら、第3艦隊のMS部隊はソーラシステムの攻撃後に要塞へ一番乗りを果たしている。日数や現段階で第2連合艦隊が合流していない所からして、恐らくこの世界でも作戦の概要は大筋では変わらないだろう。だとすれば史実よりも精強で数の多い俺達が先鋒としてソロモン要塞に投げつけられるというのは十分起こり得る事態だ。

 

「まあどうなるかは上の判断次第だがな。精々ブライト少佐達が上手くやってくれることを祈っておこう」

 

そんな事はあり得ないと思いつつも、俺はそう言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

「お久しぶりです。ワッケイン司令」

 

「司令は止してくれ、ご苦労だったなブライト少佐」

 

第3艦隊旗艦マゼランの艦橋でブライト・ノア少佐は艦隊司令であるワッケイン少将へ挨拶をしていた。隣に並ぶローランド・ブライリー中佐は二人のやりとりを興味深そうに観察している。それを見てワッケイン少将は一度咳払いをすると、表情を改めて口を開く。

 

「さて、旧交を温めると言いたい所だが、先ずは我々の今後について話さねばなるまい」

 

そう言って彼は端末を操作し、足下のモニターを起動する。

 

「既に承知のことと思うが、現在我々はサイド4の残骸を盾にしつつ、ソロモンへ向かっている」

 

「ソロモンを落とすには、些か厳しい数に思いますが」

 

ローランド中佐がモニターを凝視しながらそう忌憚のない意見を口にする。それについてはブライトも同意見だった。総数200を超える大艦隊と言えば威勢は良いがその内訳の大半はパブリク突撃艇であり、マゼラン級は旗艦を含めて4隻。主力になるはずのサラミス級でも24隻という陣容だ。これ以外にコロンブス級が30隻いるが、これらはMSの輸送を目的とした改装空母であるから戦力には数えられない。少なくともMS戦力がホワイトベースとグレイファントムのみではない事は好材料であるが、そうであっても敵の要塞を落とそうと言うのなら物足りない数である。

 

「中佐の懸念は尤もだ。そして連邦軍もその様な無茶を言う組織ではない。ソロモン攻略の主力は我々とは別に居る」

 

少将が更に端末を操作すると、第3艦隊とは別の航路がモニターに表示される。

 

「ティアンム中将率いる第2連合艦隊本隊が今回の作戦における主力となる。我々が敵の目を引き付けている間に本隊が対要塞兵器を使用、ソロモンに決定的打撃を与える作戦だ」

 

「つまり我々は囮と言うわけですか」

 

ブライトの言葉にワッケイン少将が頷く。

 

「そうだ。詳細は伏せるが、対要塞兵器は機動性に難がある。だから使用までに敵守備隊に察知されるわけにはいかんのだ」

 

「我々、というよりはホワイトベースはジオンの恨みを随分買っておりますからな。適任と言うわけですか」

 

「その意図が無いとは言わん。この作戦は失敗する訳にはいかんからな。だが確実に敵を誘引するためにも、我々が本気であると見せねばならん。その為の諸君であると私は考えている」

 

その言葉にブライトは納得せざるを得なかった。ホワイトベース隊は連邦軍内で最もMSによる戦闘経験を積んでいる部隊である。その上で搭載する機体をMSで完全充足させた希有な部隊でもある。オデッサの反攻作戦以前から連邦軍はMSの量産に着手してはいたものの、宇宙軍全ての機動戦力を置き換えるには全く足りていないというのが実情だ。充足した小隊などはごく一部であり、MSが2機もあれば良い方で大半の部隊は隊長機のみ、悪ければ全機がボールと呼ばれる戦闘用ポッドで構成されている部隊まである。MS部隊などと威勢の良い名称をつけられているが、内容は大半がボールと言うのが今の連邦宇宙軍の実情である。

 

「最善を尽くします」

 

そう言ってブライトが敬礼をすると、ワッケイン少将は頷きながら笑った。

 

「男子三日会わざればとは正にこの事だな。一端の指揮官の面構えだ」

 

「いえ、自分など皆に助けられてばかりです。本来ならば、この階級すら重すぎます」

 

そのブライトの物言いにローランド中佐がすかさずフォローを入れる。

 

「階級だけの男なんて誰が助けてくれるものか。少佐が彼等を信頼するように、彼等もまた少佐を信頼していると言うことだ。だから胸を張っていろ、艦長が自分を卑下するというのは、自分のクルーも卑下しているのと同じだぞ」

 

「はい、すみませんローランド中佐」

 

ブライトが素直にそう答えれば、今度こそ二人は声を出して笑う。それが一頻り続き空気が和んだところでワッケイン少将が再び口を開く。

 

「さて、話題は尽きんがそろそろ目の前の問題を片付けるとしよう」

 

ブライトとローランド中佐は彼の言葉に居住まいを正した。

 

「先程も話したが、我々の任務は敵守備部隊の陽動になる。このまま本隊より先行しつつサイド4の残骸を盾にソロモンへ接近、攻撃を仕掛ける」

 

説明中にモニターの画像が切り替わり、パブリクのモデルが表示される。

 

「明日1800時に攻撃を開始、まずパブリクによる突撃を実施、ビーム攪乱幕を展開し敵要塞砲を無力化。その後本艦を含む全艦隊で前進し防衛部隊へ砲撃を仕掛ける。この際MS隊を出撃させ艦隊の直掩及び艦隊前面に展開しパブリクの後退支援を行う。パブリクは後退後半数は対艦ミサイルに換装し反復出撃、ビーム攪乱幕を維持しつつ、敵艦の排除を行う。MS隊はこれを支援、迎撃に出るであろうMSの排除を行う」

 

更にモニターの画像が替わり、今度はソロモン要塞が映し出される。

 

「偵察情報によれば要塞は資源惑星の残骸を利用した衛星ミサイルを配置している。要塞に接近しすぎるとビーム攪乱幕の影響を受けて迎撃が困難になるだろう、各艦はそれを留意しつつ慎重に行動するように。また、こちらを迎撃するために敵部隊が突撃を仕掛けてくる可能性も高い」

 

そう言うとワッケイン少将は肩を竦めた。

 

「まあそれこそが我々の狙いなのだが、そこで沈められては話にならん。MS隊との連携を密に迎撃に当たれ」

 

「要塞表面への攻撃は?」

 

ローランド中佐がそう質問すると、ワッケイン少将はそちらへ向き直りながら答える。

 

「基本的には反復出撃するパブリクに任せる。我々は余力があればと言うところだ。攪乱幕展開から15分後に本隊が対要塞兵器を使用する。故に要塞への攻撃は最低限こちらの陽動の意図が露見しない程度で良い」

 

モニターが消えブライトが顔を上げると、ワッケイン少将は真剣な表情でこちらを見つめながら口を開く。

 

「対要塞兵器使用後は本隊から突入部隊が発進する。つまり我々はビーム攪乱幕展開から15分の間敵を引き付ければ良い」

 

「15分、ですか」

 

「そうだ。本隊と突入部隊が露見すれば、連中もそちらが主攻だと理解するだろう。後はそれでもこちらに突っかかってくる敵を排除しつつ本隊を支援すれば任務完了だ」

 

ワッケイン少将の言葉をブライトは吟味する。提示されている内容はどれも簡単ではないが、さりとて無茶無謀と思える程のものではない。だと言うのに嫌な予感が晴れないのは恐らくアレン大尉のせいだろうと彼は考えた。

 

(久しぶりに見た何時ものアレン大尉、か)

 

第3艦隊との合流後、アレン大尉は自機や部隊の装備について細かく注文を出している。その様子を見て彼と長い付き合いであるレイ大尉や整備班のロスマン少尉などは、苦笑しつつも言われた通りに準備をしていた。

 

「大尉の嫌な予感は、何というかよく当たる」

 

ホワイトベースの転機となったサイド7における戦闘。もしあの時アレン大尉が進言していなければ、あの時点で部隊は全滅していてもおかしくなかった。そう評される彼が、また嫌な予感を感じている。それがどうにもブライトには気にかかる。

 

「どうかしたのか、少佐?」

 

「あ、はい。いいえ、問題ありません、少将」

 

そう言いつつも、ブライトは戻り次第アレン大尉と相談することを決めた。


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