WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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70.0079/12/23

「後退する?要塞表面で迎え撃つ気か」

 

友軍部隊の侵攻に押されるように敵部隊が後退を始める。第3艦隊の部隊だけでなく主力部隊のMS部隊も追いついてきていて、こちらの数が上回っているのもあるが、MS隊が躊躇無く前進するのを見てソーラ・システムの2射目が無いと踏んだのだろう。恐らくこのまま主力に任せても要塞攻略は叶うだろうが、彼等の戦力の大半はボールだ。なにもせずに要塞に突撃すれば、突入前にかなりの被害が出るに違いない。その後のことも考えれば、出来るだけ被害は少ないに越したことはないと俺は考える。

 

「友軍の突入を援護する。要塞表面の敵を撃破するぞ」

 

要塞砲の排除だけでもボールの生存率は上がるはずだ。欲を言えばMSも撃破したいが、要塞表面には防御用の陣地もあるはずだから無理は出来ない。

 

『『了解!』』

 

「要塞至近にはビーム攪乱幕が展開していない、敵の砲台に十分注意しろ!全機続け!」

 

そう言って俺はフットペダルを踏み込んだ。第2連合艦隊のMSが前進していると言うことは、少なくともソロモンへ再度ソーラ・システムが照射されることはないだろう。ならば遮蔽物のないこんな所でのんびり構えてはいられない。

 

「これでも食らっとけ!」

 

迎撃を受ける前に少しでも敵に損害を与えるべく、俺は残っていたミサイルを全て発射する。露出しているものはともかく、隠蔽されている砲や塹壕なんて解らないので全て遅延信管モードで表面に突き刺さったら爆発するように設定した。とにかく防御陣地に綻びさえ入れてしまえば、そこを足がかりに要塞に取り付けるからだ。撃ち切ったミサイルコンテナを切り離しつつ増速し味方部隊の先頭に躍り出る。ルナチタニウム合金製の増加装甲を纏ったこの機体には生半可な攻撃は通じない。流石に要塞砲や対艦ミサイル、バズーカといったものは避ける必要があるが、弾幕の大半を占めているマシンガンの射撃を無視出来るのは大きい。

 

『墜ちなさい!』

 

俺の機体を盾にしつつ、レイチェル特務曹長達が攻撃してくる敵に向かって容赦なく攻撃を浴びせる。スカーレット隊の機体に対して、第7小隊のジムスナイパーⅡは改造が加えられていて、機体の各部にウェポンラックが設けられている。その為彼女達は他の部隊に比べて高い継戦能力を獲得していた。レイ大尉は巫山戯たバランスだと憤慨していたが。放たれた砲弾が砲台へ次々と突き刺さり、辺りを閃光が染め上げる。普段相手にしているのがアレなだけに、固定目標に当てるなんていうのは俺達の機体にとっては訓練以下の状況だ。

 

『タッチダウンだぜ!』

 

要塞表面、ソーラ・システムによって形成された損傷付近に着地した俺は、まだ要塞付近で防衛に当たっていたムサイへ向けて躊躇無くビームを撃ち込んで撃沈する。更に着地した7小隊や9小隊が砲台や掩体に隠れるMSを攻撃したことで敵の防空に致命的な空白が生まれた。

 

『突っ込め!』

 

勇ましいセリフと共にボールの部隊がむき出しになった隔壁を砲撃して破孔から要塞内部へ突撃していく。だが内部からの猛烈な射撃で瞬く間にズタズタに引き裂かれ、デブリの一部になってしまう。

 

『待ち構えてやがる!』

 

『グレネードで吹っ飛ばせ!!』

 

『シールド付きは前に出ろ!押し込むぞ!』

 

だがそれにも怯まずに主力部隊は突入口に殺到する。ジムが手にしたグレネードを投げ込み、装甲板を掲げた前衛用のボールが壁役となって遮二無二突っ込んでいく。

 

『アレン大尉、私達も行こう!』

 

その狂奔に当てられたカチュア特務伍長が興奮した声音でそう提案してくる。口にこそしていないが他の二人も同じ意見のようだ。だが悪いな、この後のことを考えれば俺達はこのまま地表に居るのが望ましい。

 

「冷静になれ、カチュア伍長。主力はまだまだ要塞に取り付いていないんだ。俺達はこのまま地表面の敵を掃討し友軍の被害を抑える」

 

『どちらにしても狭い要塞内で戦うのに我々のような遊撃戦力は向いていない。それよりも残っているMSを潰して回る方が余程援護になる』

 

有り難い事に次席のウェンライト中尉もそう言って俺の意見に賛同してくれる。まあ彼女の言うとおり十分な連携訓練もしていない俺達が入り込んでも混乱させるくらいが精々だ。それに何よりスナイパーⅡの運動性が活かせない施設内での戦闘は余計な損害を出す可能性が高い。パイロットも機体も容易に補給が出来ない俺達にとって突入は旨味のない選択と言える。

 

「よし、破孔部最寄りのスペースゲートへ向けて掃討していく、各機連携できる距離を維持しつつ横隊を組め」

 

俺の命令に素早く反応し横一列に部隊が列ぶ。

 

「前進!」

 

そう指示を出しながら視線を巡らせれば、こちらの意図に気づいたのだろう第3艦隊所属のMS部隊が同じように別方向に前進していくのが見えた。

 

(後はヤツが何処から出てくるか、だな)

 

ソロモン攻略戦において、今後に大きな影響を与えるだろうという事の一つがビグザムによる第2連合艦隊主力への特攻だ。あの攻撃で第2連合艦隊は艦艇の1割を喪失、被害で言えば大きなものとは言い難いが、艦隊司令のティアンム中将が戦死してしまったのは大きい。何故なら彼が死んだ事で第2連合艦隊の残存部隊はレビル将軍の第1連合艦隊に吸収再編されたため、ア・バオア・クー攻略においてソーラ・システムを艦隊ごとソーラレイによって喪失することになってしまう。この戦争の最終決戦にソーラ・システムを投入できるかどうかは俺達の生存に大きく関わってくるだろう。

 

「一応保険は用意しているが」

 

呟きながら目の前の掩体に立て籠もったザクを吹き飛ばす。既にMSによる抵抗は殆ど無くなってきていて、残っているのは逃げ遅れた機体くらいだ。恐らく要塞内の防衛に戦力を持って行かれているのだろう。ならばヤツが出てくるのは時間の問題の筈だ。

 

「全機警戒を厳に、嫌な予感がする」

 

 

 

 

「N3通路、23番までの隔壁を下ろせ、MS部隊は後退させ補給を受けさせろ!」

 

「S8ブロックまでは放棄、防衛部隊はN3通路の防衛に回れ!」

 

「見事なものだな」

 

空になったマグカップを見ながら、ドズルは自嘲するように笑った。

 

「こうもあっさりとソロモンが落ちるとは。いや、当然か」

 

内で相争い、その余力をもって敵と戦う。その様な有様で勝てるほど地球連邦は弱兵ではない。そんなことはジオンの誰もが理解している事実であるとドズルは勝手に期待していた。頭の悪いと自認する自らすらたどり着ける結論に、優秀な兄や妹がたどり着かないはずは無いのだからと。

 

「動かせる艦はどの程度あるか?」

 

「4分の1程です。残りは新兵器と侵入したMSによって破壊、もしくは稼働不能であります」

 

「ドロワは残っているな?」

 

「はい、最終調整中でしたので、第1スペースゲートに係留中です」

 

副官の言葉を聞いてドズルは大きく一度呼吸をすると、大声で宣言する。

 

「遺憾ながらソロモンを放棄する!残存艦隊は第1スペースゲートに集合、ア・バオア・クーまでの進路を啓開せよ!残っている者は全員ドロワに避難せい!」

 

「閣下っ」

 

驚きの声を上げる副官にドズルは苦笑しつつ応じる。

 

「ア・バオア・クーにはデラーズが居る。あれは些か兄貴を心酔し過ぎているが、兵を粗略には扱わん筈だ。それとガトー大尉はまだ生きているか?」

 

「はい、搭乗機を例の新兵器で損傷したようです。現在第2スペースゲートで部隊ごと補給を受けております」

 

「ドロワの防衛を奴に任せる、ゲルググも回してやれ。俺はビグザムで出る」

 

その宣言に副官は絶句し、目を見開いてドズルを見つめてきた。そんな彼にドズルは微笑みながら口を開く。

 

「ソロモン要塞司令として、責任は果たさねばな。なに、後は兄貴とキシリアが上手くやる。…本国にはゼナとミネバがいる。あれらの所に連邦を行かせる訳にはいくまいよ」

 

そう言うと再び彼は武人の顔に戻り、副官に命令を下す。

 

「撤退する部隊の指揮を貴様に任せる。一人でも多くア・バオア・クーにたどり着かせろ」

 

「…ご武運を、閣下」

 

「おう、貴様もな」

 

敬礼する部下達に見送られ、ドズルは司令室を後にする。専用の更衣室に入った彼は、手早くノーマルスーツに着替えると格納庫へ向かって床を蹴った。

 

「ほう、これがビグザムか」

 

「閣下!」

 

慌てた様子で近づいてくる整備員にドズルは問いかける。

 

「組み立ては終わっているのか?」

 

「はっ、現在最終点検作業中です!」

 

「動かせるならばいい。貴様らもドロワへ急げ」

 

「そんな、まだ我々は戦えます!」

 

そんな整備員の言葉にドズルは笑う。士気は旺盛、だが士気だけで戦えるほど現代戦は甘くない。

 

「だからよ、戦えなくなっては遅いのだ。お前達は一度ア・バオア・クーに引き連邦を撃退、しかる後ソロモンを奪還するのだ。その為に今は一時の屈辱を受け入れろ」

 

ドズルがそう説得すると、整備員は泣きそうな顔で見上げてくる。彼の肩を強く叩くと、ドズルは口を開く。

 

「戦いはこの一戦では終わらん。故に貴様らをここで失う訳にはいかんのだ、部下をまとめて第1スペースゲートへ急げ」

 

命じられた整備員は一度敬礼をすると部下達をまとめ上げ格納庫から出て行った。それを見送ったドズルはビグザムへと乗り込んだ。

 

「貴様ら、何をしている?」

 

「このMAは複数人での運用が前提です。閣下お一人では手が足りません」

 

「最終調整が終わったと言っても、この様な新型はどの様な不具合を出すかも解りません。機付員としては最後まで面倒を見たく思います」

 

「馬鹿共がっ」

 

そう吐き捨てるとドズルはどかりと司令席に腰を下ろし、大声で命じた。

 

「最短で機体を外へ出せ。基地内の雑魚は無視して構わん、我々は敵本隊を叩く!ビグザム発進させい!!」




次回、ビグザム特攻。
君は生き延びることが出来るか?(意味深


以下作者の自慰設定。

ボール:第2連合艦隊仕様
ジムの量産は開始されたものの、依然長大な戦線を抱える連邦軍にとっては貴重な戦力であった。特に艦艇の再建に加え、明確な戦線を持ち得なかった宇宙軍のMS調達は低調であり、ジャブローからの打ち上げに同梱された機体とルナツーによって生産された若干の機体が配備されているのみだった。その為戦力の多くをRB-79ボールに依存せざるを得ず、第2連合艦隊の機動戦力は実に70%近くがボールで占められていた。
この結果当初想定されていたジムを前衛にボールが支援するという戦術は、圧倒的な前衛不足を引き起こす事が早期に判明したため、急遽前衛として運用可能なボールの配備が行われる。とはいえ既に作戦決行は間近であり専用機の開発は不可能であったため、既存の機体に装備を追加、変更を加える事で代用している。
この第2連合艦隊仕様、通称前衛用ボールは、マニュピュレーターで保持できる大型の装甲板を装備し、主砲を速射性能の高いフィフティーンキャリバーに交換している。
同機はソロモン攻略戦・ア・バオア・クー戦に投入され、期待通りの成果は上げたものの、戦後の軍縮とMSが充足するにつれて戦場から姿を消していった。

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