WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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「Gファイター隊、補給のため帰投します!」

 

「損傷は無いのだな?」

 

フラウ・ボウ一等兵の言葉にブライト・ノアはそう問い返した。先程スカーレット隊からMIAが出たばかりである事から、少しナーバスになっていたのだ。

 

「はい、全機被弾無し、補給後再出撃するとの事です」

 

「そうか、無事なら良い。Gファイター隊の補給が済み次第、順次MS隊も補給に戻らせろ。今のうちに多少でもパイロットを休ませたい」

 

ノーマルスーツに息苦しさを感じながら彼はそう告げる。既に友軍のMS部隊が要塞内部に侵入し、外の敵は一掃されつつある。普通に考えるならば作戦の成功は秒読みといった状況だ。

 

「え?あの、艦長。スレッガー中尉が」

 

「どうした?」

 

「スレッガー中尉がアレン大尉から何か連絡は無いかと聞いています」

 

オペレーター席に座っていたフラウ一等兵が少し緊張した声音でそう報告をしてきたことで、彼は胸に不快感を覚える。作戦は順調に進んでいる、そのはずだ。それを疑っている人間はこの戦場に居ないだろう、恐らく一人を除いて。

 

「アレン大尉と通信は繋がるか?」

 

「駄目です、ミノフスキー粒子が濃くて…」

 

「中継ドローンを射出!直ぐに回線を構築しろ!MS各機、警戒を厳に!グレイファントムにも警告を出せ!」

 

ブライトが口を開くより早くワッツ大尉がそう命令を飛ばす。その声にホワイトベースの艦橋要員は誰一人疑問を挟まずに自身の職務を遂行する。その間にブライトは直接回線を開きスレッガー中尉に問いかけた。

 

「中尉、アレン大尉から連絡とは?」

 

「なんか大事になってないか?いや俺はただ」

 

周囲の雰囲気に困惑して口ごもるスレッガー中尉に、ブライトは努めて感情を抑えた声で問いかける。

 

「万一の為の準備ですよ。それで、中尉は大尉になにを聞いたんです?」

 

「怒らんで下さいよ少佐殿?アレン大尉が出撃前に言ったんですよ、重要な要塞なら隠し球の一つくらい持ってるかもってね。そんで何かあれば連絡するから、ホワイトベースに戻ったときに確認しろって」

 

「なんで俺に一言も無かったんだ?」

 

スレッガー中尉の話にブライトは思わず語気を強める。だがそれを聞いた中尉は苦笑しながら返事をする。

 

「だから怒りなさんなって。大尉にしても確証のある話じゃ無いんだろう。けど今の反応からして、大尉がそう口にすればアンタらは過剰に反応しちまう。見えない敵に神経をすり減らしながら戦えるほど、この戦場は楽じゃなかっただろう?」

 

「それでも、俺はこの艦の艦長だ」

 

「だからでしょうよ、一番重いもんを背負ってる奴に、これ以上余計な負担を掛けたくなかったんじゃないのかい?第一連絡は無いんだろう?なら大尉の取り越し苦労ってヤツの可能性だって」

 

「中尉、君はジャブローからだから、まだ理解していないので言っておこう。大尉の悪い予感は大抵当たる、そしてそれは――」

 

「回線繋がりました!」

 

フラウ一等兵がそう声を上げた瞬間、ソロモン表面を観測していたモニターに大きな爆発光が映り込んだ。

 

「十中八九厄介極まりない事柄だ!状況報告!」

 

『こちらH101号機!こちらH101号機!!ホワイトベース聞こえるか!?敵の新型を確認した!デカブツが1機!こいつ、ビームが効かないぞ!?』

 

飛び込んできた通信に、艦橋要員が一様に顔を引きつらせる。爆発光の治まったモニターには、MSよりも遙かに大きな二足歩行兵器が映し出されており、その近くを飛び回るようにMSが攻撃を加えている。しかしその攻撃は大尉の通信の通りビームが悉く弾かれ、実弾兵器も命中はするものの損傷を与えているようには見えない。そうしている間にもその巨大兵器はソロモン表面を離床し、虚空へと躍り出る。

 

「対艦戦闘用意!主砲斉射!砲撃後にミサイルを全力射撃だ!周辺艦艇にも伝えろ!」

 

「ソロモン裏側より噴射光を確認!敵の艦隊のようです!」

 

ブライトの命令に全員が動く中、オスカー准尉が報告を上げてくる。拡大された別のモニターには彼の言葉通りソロモンから遠ざかる艦隊が確認出来た。その光景にブライトは一瞬だけ逡巡する、敵の艦隊は明らかに撤退している。その中には戦艦よりも更に巨大な艦艇まで含まれていて、あれを逃せば後々厄介な事になるのは容易に想像が出来る。対して向かってくるのは巨大兵器とは言ってもたった1機である。ビームが効かないと大尉が言っていたがそれはMSの装備だからで、もしかすれば艦艇の主砲なら容易に撃墜出来るかもしれない。

 

「っ!敵大型MAへ攻撃を集中!」

 

僅かな葛藤の後ブライトはそう命ずる。戦果よりもアレン大尉の直感を信じたからだ。そしてその選択は間違っていなかった。

 

「主砲、弾かれています!」

 

「ミサイル命中無し!命中コースのものは全て迎撃されました!」

 

その報告にブライトは背を粟立たせる。敵大型MAを観測していたモニター越しに、相手と目が合ったからだ。ジオンの敵意を集めていることを自覚しているブライトは、大型MAが殺意をこちらへ向けた事を理解し、次の瞬間には敵の放つビームがホワイトベースを貫くのを幻視する。だが彼の想定した最悪の状況が訪れる事は無かった。

 

「なんだ!?」

 

「敵艦隊が沈んでいきます!味方の暗号を確認、ソーラ・システムによる攻撃です!」

 

「いかん!大型MAが本隊へ向かうぞ!撃ち落とせ!!」

 

彼の言葉にホワイトベースはゆっくりと回頭を始める。後方に攻撃できる火砲がビーム砲のみだからだ。所属するMS隊も攻撃を行うものの、有効打には至っていない。それを見てブライトは決断を下し、繋がったままだった回線に叫んだ。

 

「スレッガー中尉、Gファイター隊は対艦ミサイルを装備していたな?残弾は!?」

 

『全機一発も使わずにしっかり抱えてますぜ、艦長』

 

質問の意図を正確に理解したスレッガー中尉が即座にそう答えた。故にブライトは自らの職務を全うするべく口を開く。

 

「Gファイター隊は即時発進、敵大型MAに対し、対艦攻撃を仕掛けろ。あれを本隊に接近させるな!」

 

『了解!』

 

それは死ねと言うに等しい命令だ。しかし命じられたスレッガー中尉は躊躇無く応じると、通信が切れてGファイターがホワイトベースから飛び出していく。

 

「MS隊はGファイターの突入を援護だ!」

 

続けてブライトはそう命じる。部下の生還率が少しでも上がることを祈りながら。

 

 

 

 

「いいか、曹長、准尉。まずは俺が突っ込む、その後ろをぴったり付いてこい!」

 

発進して直ぐに単縦陣となるようスレッガー・ロウは指示を出す。しかしそれに対してリュウ・ホセイ曹長が悲鳴のような声を上げる。

 

『そんな、危険ですよ中尉!』

 

「んなこたあ百も承知よ。だが艦隊のミサイル攻撃を迎撃する防空能力だ、確実にぶち込むにゃ賭けも必要ってもんよ」

 

自機の後方に付いた2機を確認しつつスレッガーは言葉を続ける。

 

「まずは俺が攻撃、それが外れたらリュウ曹長。それでも駄目ならエリス准尉だ。三重となりゃ、幾ら奴だって」

 

『そんな、それじゃあお二人がっ』

 

攻撃が失敗したと言うことは、つまりそういうことだ。

 

「私情は禁物だぜ、准尉。悲しいけどこれ、戦争なのよね!」

 

そう言ってスレッガーはスロットルレバーを押し込み機体を加速させる。MSとは比較にならない加速性能を発揮してGファイターはみるみる敵MAとの距離を詰め始めた。

 

「下から突っ込むぞ!」

 

彼が叫んだ瞬間、MAの足先の爪が噴射炎を放ちながら切り離されてこちらに向かって突進してくる。

 

「なんの!」

 

スレッガーはコントロールスティックを巧みに操作し、機体をロールさせつつビームを連射する。宇宙用量産型Gファイターはビーム砲の威力が大幅に抑えられている反面、連射性能と砲塔の追従性が大幅に向上している。残っていた対空ミサイルとフレアも撒きながら、更にMAに向かって彼等は肉薄する。

 

「ここ!」

 

機体をぶつける勢いで突撃したスレッガー機が、抱えていた対艦ミサイルを発射する。MAの機体下部に配置されたバーニアを狙ったそれは、しかし割り込むように突き出された足によって阻まれてしまう。

 

『まだまだぁ!』

 

爆発によって拉げるMAの脚部に向けて、更に射線を譲られたリュウ曹長のGファイターが飛び込み同じようにミサイルを放つ。スレッガーの攻撃を受けて動きの怪しくなっていた脚部がその攻撃に対応しきれずに直撃、完全に吹き飛ばされた。

 

『これで!!』

 

そこに本命のエリス准尉の操るGファイターが、満を持して躍り出る。左右2発ずつ懸架されていた対艦ミサイルが同時に点火、無防備となった敵MAへ殺到する。僅かにそれた二発は装甲に阻まれるが、残りの二発はバーニアに直撃する。ノズルを破壊しながら潜り込んだミサイルは自壊しつつもその力を解放した。

 

「へっ!どんなもんよ!」

 

堅く守られた内部で爆発を起こされた敵MAは、その堅牢さ故に破壊のエネルギーがその内で荒れ狂う。そして最後には継ぎ目から火を噴き出し、とうとう限界を超えて爆発した。それを見てスレッガーは得意気に笑いながら口を開く。

 

「こちらH601号機、ホワイトベース聞こえるか?デカブツは処理した!繰り返す、デカブツは処理した!当方に損害無し、これより帰投する!」

 

この凡そ30分後にソロモン要塞より制圧を告げる信号弾が打ち上がる。こうしてジオンの誇る宇宙要塞は、僅か1日で地球連邦軍の手に落ちたのだった。




ソロモン戦、終わり!

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