WBクルーで一年戦争   作:Reppu

72 / 152
今週分です。


72.0079/12/24

「時間を掛けすぎたな」

 

「はい、残念です」

 

そう口惜しげに話すバロム大佐をマ・クベは冷ややかな視線で見つめた。実のところサイド6に現れた木馬型の艦隊が移動した時点で敵の狙いはソロモンであると看破したキシリアは増援を派遣していた。しかし本隊に先行して出撃した艦隊が敵の攻撃を受けて壊滅、マ・クベ率いる本隊は決断を迫られる。敵からの攻撃を受ける危険を冒してでもソロモンへ向かうか、それとも進路上の安全を確保した後に進むかである。木馬部隊の移動から余裕が無いと判断したマ・クベは本隊から更に囮部隊を出し、それに敵が食いついている間にソロモンへ向かうという指示を出す。しかしそれは参謀に就いたバロム大佐の強硬な反対に遭う。

 

(兵の気持ちが解らぬか。そういう貴様は前線基地で戦う指揮官の気持ちが理解できていないようだがな)

 

徒に兵を消耗する作戦は承服出来ないとバロム大佐は言い切った。そして兵達の気持ちが解っていないとも。成る程、兵士達の心理状態に気を配るのは士気を保つ上で重要な案件である。それを蔑ろにすることは指揮官として誤った態度であろう。しかしその為に命令が達成出来なかったでは困るのだ。この艦隊はあくまでソロモンの増援として編成されたものである。ならばどの様な状態であれ、先ずは彼等の許にはせ参じなければならなかったのだ。

 

「ソロモンからの撤退組はア・バオア・クーに向かったようだな」

 

「あそこがソロモンからは最も近いですからな。妥当な判断でしょう」

 

そんな訳があるかとマ・クベは内心でため息を吐く。軍艦の足ならばア・バオア・クーでも本国でも、当然グラナダであってもさしたる違いは無い。ならば次の最前線として急ぎ準備を整えている場所よりも後方に戻り補給と再編を受けた方が戦力として期待が出来るというものだ。そうした軍事的な合理性に欠いた行動というのはつまり、政治的あるいは心理的理由によるものである。

 

(我々は信用されていないのだよ。何しろ援軍を送らなかったのだからな)

 

元々宇宙攻撃軍と突撃機動軍は予算配分などで対立関係にあった。更に根源的な事を指摘すれば、艦艇とMSを装備して同じ領域で戦う戦力を態々二つの指揮系統に分割していること自体が不合理なのだ。それをザビ家の政治で強引に認めさせているのだから、宇宙攻撃軍からすれば自分達は鼻持ちならない存在だ。それでも国家存亡の危機となれば手を取り合うだろうという期待を、自分達は踏みにじったのだ。

 

「無駄だったな」

 

「は?何か?」

 

呟きを聞き返してくるバロム大佐に手を振って返事を拒絶する。オデッサにおける資源採掘で、マ・クベは掛け値なしに10年は戦えるだけの資源を本国へ送った。しかしそれが活用されることは無いだろうとマ・クベは推察する。幾ら資源があろうとも、それを使える人間がいなくては只の数字に過ぎないからだ。そして国家総力戦を戦える人材が払底していることをマ・クベは痛感していた。

 

「どうだろう大佐。我々のみでこの状況を打開することは難しいと考えるが」

 

「はっ、奇襲を仕掛けるにも時が経ちすぎております」

 

遅参の原因を作っておきながら臆面も無くそう評するバロム大佐にマ・クベは頭痛すら覚えるが、それを指摘するほど愚かでは無い。近視眼的な兵達に人気のある上官がどちらかなど彼は十分理解しているからだ。

 

「うん、では私はチベに移って連邦の動きを確認する。君は部隊を率いてグラナダへ戻りたまえ」

 

「承知しました。情報収集と脱出者保護の艦は残していきます」

 

「良かろう、そちらの任務は私が引き受けよう」

 

そう言ってマ・クベは艦橋から出ていくべく歩き出す。そして扉の前まで来たところで、思い出したように振り返り口を開いた。

 

「ああ、帰りは気をつけろよ。何せ先遣隊を沈めた連中は、まだ健在なのだからね」

 

 

 

 

ソロモン要塞改めコンペイ島。仮修復を終えた宇宙港の一つで、俺達は慌ただしく出港の準備をしていた。

 

「グレイファントムは留守番ですか?」

 

アムロ准尉の質問に、俺は頷きつつ答える。

 

「ああ。人員補充を受けるから、顔合わせと訓練で一旦コンペイ島預かりだとさ」

 

俺の言葉にアムロが顔を顰めた。補充の申請自体はサイド6の一件で既にされていた。先延ばしにされていたそれが受理されたのは、まあ間違いなくランディ曹長が戦死したせいだ。

 

「元々スカーレット隊は定数を欠いていたからな、それも含めてという話だぞ」

 

「増員ですか。じゃあ次はもっと厳しくなりそうですね」

 

「次の目標は何処でも間違いなく最終決戦になるだろうからなぁ」

 

手すりに寄りかかりながら格納庫を眺めつつ、俺はそうぼやいた。

 

「最終決戦」

 

「ここから狙うとなれば、連中の最終防衛ラインであるア・バオア・クーか本国を直撃するかだ。まあ十中八九ア・バオア・クーだろうけどな」

 

宇宙要塞ア・バオア・クー。ソロモンと同じくコロニー建設に利用した資源衛星を改造した要塞で、ジオン本国を守る最後の拠点だ。ソロモンよりも早くに要塞化が進められているため、防衛拠点としては少なくとも同等かそれ以上の能力を有していると考えられている。また厄介な事にこの要塞はルナツーと同じく内部に未採掘の資源を残したまま要塞化されているので、鉱物関連の多くを外部に頼らずに補充出来るという特性を持っている。放置すれば要塞として拡張されるだけでなく、最悪軍備を増強される恐れすらあるのだ。

 

「それなら本国を叩いた方が楽じゃないですか?」

 

「ジオンを皆殺しにするならな」

 

何せジオン本国は只のコロニーだ。戦争に備えて多少はいじっているかもしれないが、それでも戦艦の主砲に耐えられるような改造を全てのコロニーに施すなんて現実的ではない。そしてジオン本国で戦うとなれば、彼等の拠点となるコロニーの制圧ないし破壊が必要になってくるだろう。問題は破壊した場合、居住している民間人の大半が死亡するであろうということだ。

 

「地上と違って逃げ場がないし、シェルターだって何日も持つ設計にはなってない。ア・バオア・クーを無視するなら後方からの襲撃も警戒しなきゃならんから、本国の攻略は速度重視になる。つまり一々相手に配慮した戦い方なんて出来ないということになる」

 

最も迅速に制圧するとすれば、全艦隊をもって突撃し、コロニーに見境なく砲撃を加えて全て破壊してしまう事だ。だが勿論そんな作戦は実行出来ない。

 

「問題はそんなことをすれば残っているジオンの連中が文字通り死ぬまで戦争を続けるだろうし、連邦も戦後大いに困るという事になる」

 

ジオン公国、つまりサイド3は戦後の復興になくてはならない存在だ。この戦争で壊滅したサイドの生存者はそれなりの数が難民として月やサイド6を圧迫しているし、コロニー落としの影響で地球でも生活が成り立たなくなった人々が発生している。恐らく戦後は各サイドを再建しつつ、彼等をそこに送り込む事になるだろうが、その時に必要なコロニーの修復や建造を出来る工業力を持っているのがサイド3だ。だから連邦としてはサイド3は出来るだけ無傷で押さえたいし、何より彼等を滅ぼしてしまったら戦後のそうした厄介ごとに発生する諸費用を請求する先がなくなってしまう。だから連邦としては彼等から武力を奪って屈服させるのが最も良いやり方なのだ。

 

「だからア・バオア・クーを落とせば戦争が終わるんですね」

 

「あるいはそこで終わらないで本土決戦となっても、戦力の大半を潰してしまえば息巻いた所で出来ることなんて高が知れているからな。事実上終わりみたいなもんさ」

 

「戦争が、終わる」

 

そう俺が言うと、アムロは少し複雑そうな顔でもう一度そう呟く。

 

「不安か?」

 

「不安と言うか、戦争が終わったらどうしたら良いのかなって」

 

あー、そうか。その辺もそろそろ教えておくべきだよな。

 

「多分だけどな、ウチの連中は皆、軍に拘束されるぞ?」

 

「え!?」

 

驚きの声を上げるアムロに手を振ってなだめながら、俺は言葉を続ける。

 

「拘束と言っても別に本当に捕まったり檻に入れられる訳じゃなくてな。まあ所謂飼い殺しになるのが妥当な所だろう」

 

「飼い殺し…」

 

「アムロやカイは思いっきりプロパガンダに使われてるから、下手をしなくてもテロの目標にされる可能性があるし、それは多少の違いはあってもホワイトベースのクルー全員に言える事なんだよ。軍にしてみればそういった英雄が不幸な事になるのは避けたいから、適当な役職にでもつけて軍の施設で緩く拘束ってのが妥当だろうな」

 

多分MSパイロット組は教導部隊とかテストパイロット辺りに任命とかだろうか。個人的には悪い生活では無いと思う。余程やりたいことでもあれば話は変わるだろうが。

 

「なんだか、嫌な感じですね」

 

「人生が決まっちまったみたいでか?」

 

「決まったと言うよりも、決められたじゃないですか」

 

その辺りは捉え方次第だと思うがね。

 

「決められたんじゃ無く望まれたんだよ。つまりお前さん達は、誰かにこう生きて欲しいと思われるほど期待されていると言う訳だ」

 

「望まれた、ですか」

 

「勿論それに応えるかどうかはお前さん次第だがね」

 

その時はまあ、それなりに困難な未来が待っている事だろう。軍というのは味方ならば頼りになるが、敵に回せばこの上なく恐ろしいものなのだから。

 

「アレン大尉は不満とか無いんですか?」

 

その言葉に俺は思わず苦笑してしまう。

 

「アムロ准尉、俺は自分で志願して軍に入った人間だぞ?お前さん達とは違う」

 

彼等も俺も、生き延びるために軍の門を叩きはしたが、その起点は決定的に異なる。喫緊の問題に対処するべく半ば強制的に軍に入らざるを得なかった彼等と、将来の危機に対処するためと言えど、能動的に軍に入った俺とでは立場が違いすぎる。

 

「同じように見えても、お前さん達は望まれて軍に入った。俺は望んで軍に入った。だから軍が俺に何を期待したとしても、それを受け入れるのが俺の責任なんだよ」

 

そう言って俺は一度深く呼吸をすると、彼の肩を叩いて笑う。

 

「ま、それもこれも先ずは生き延びてからの話ってやつだ。だから、皆で生き残るぞ」

 

決戦は、もう間近に迫っていた。




二月…お前、終わるのか?

以下作者の自慰設定

Gファイター宇宙用簡易量産型
ホワイトベース隊におけるGファイターの運用実績を元に生産性を向上させた宇宙用重戦闘機。地球連邦軍内に未だMAという兵種が存在していないため、分類としては宇宙用戦闘機となる。
原型機と比べ大幅な構造の簡略化や機能の見直しが図られた結果、調達コストは簡易量産型と言いつつもほぼ同額になってしまっている。ホワイトベース隊に配備された機体はその中でも最初期の試作機であり、複数存在する火器管制を教育型コンピューターに補佐させることでパイロットへの負担を大幅に緩和している。しかしその結果として同機はジム以上に高額な機体となってしまっており、後の量産モデルでは一般的なコンピューターに差し替えられ、代わりに複座化することで調達コストを低減している。
武装は開発時につけられた7本角の名のごとく機首に同軸ビーム砲を一門、コックピット後方に旋回砲塔の連装ビーム砲を1基、そして機体左右に45°配置でミサイルポッドを装備する。ミサイルポッドは陸軍で採用されていた6連発の有線ミサイルランチャーを転用しており、学習コンピューターの支援によって、同時期のミサイルとしてはずば抜けて高い誘導性能を誇っている。
また、機体底面には大型の対艦ミサイル二発、あるいはMS1機をアームで懸架可能としている。
高い火力と堅牢で信頼性の高い重戦闘機は意外にもニーズが多く、量産型では主翼の大型化やエンジンの熱核ロケット・ジェットエンジンへの換装により大気圏内での飛行能力も獲得した上で運用されることとなる。その後SFSや可変MSが出現するも、航空機として設計された本機は高い空戦能力から第一線での運用が続けられ、奇しくもホワイトベース隊が運用した機体の中で最も長く現役に留まり続けることとなる。
作者的デザインイメージは、SA-77シルフィード。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。