WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今月分です。


73.0079/12/25

「こんな所に何があるんですかね?」

 

デブリの中を掻き分けるようにホワイトベースが進む。サラミス級の2隻、サフランとシスコも伴って現在艦隊は哨戒活動を行っている。場所は旧サイド5宙域。そう、あのテキサスコロニーがある場所だ。

 

「見つかったのはチベが一隻でしょう?一番可能性があるとすれば、ジオンの偵察部隊でしょうか」

 

「ただの偵察部隊ならいいが」

 

思わずそう言ってしまった俺に向かって皆が嫌そうな視線を向けてきた。

 

「大尉、嫌な予感がするならちゃんと少佐に伝えておいて下さいよ」

 

「今度は何が出てくるんです?まさかあのデカブツが何機も隠れてるなんて言いませんよね?」

 

そんなこと言われても困る。そもそもソロモン戦までの経緯だって俺の知っているものと違うんだ。だから予言者みたいにずばり言い当てるなんて芸当が出来る訳がない。

 

「一応伝えてはあるぞ、だから第三艦隊から増援も貰っているだろ?」

 

もし原作通りなら、この宙域にはグラナダから小規模な艦隊が派遣されている。シャアの率いているNT部隊とコンペイ島で補給を行っている第2連合艦隊を偵察しているマ・クベが指揮している部隊だ。あちらでは連邦軍の戦力を削ぐためか、わざとチベを発見させて艦隊を誘引し、これを攻撃している。問題は今の状況がその時と大きく異なっている事だ。大気圏離脱の際やサイド6でシャアのザンジバルと遭遇していないし、サイド6に入港する際のブラウ・ブロと交戦もしていない。ソロモンの残存艦隊はこちらに向かって逃亡していないから、敗残部隊でないことだけは確かだが。

 

「因みに大尉の考えている最悪は?」

 

「コンペイ島への奇襲部隊だな」

 

俺の言葉にキャノン隊の3人が顔を引きつらせる。尚同じく聞いていたアムロ准尉は納得の、7小隊の3人は良く解っていない表情だ。

 

「艦隊が集結して動きを止めているんだ、狙うなら今だろ。俺ならMSで編成された切り込み部隊を組織して放り込む」

 

「いやそれ特攻になるでしょう。第一ここからMSなんて送り出しても速攻でばれて迎撃されちまうんじゃ?」

 

MSに搭載出来る推進剤はそれ程多くはない。少なくともラグランジュポイント間を加速し続けながら移動して、目標地点で戦闘をして帰ってくる。なんて量は積まれていない。だから俺の言ったことを実行しようと思えば、大半を慣性航行でのんびり進むか、帰還を考慮せずに推進剤を使うかだ。MSだけで実行しようと思えばだが。

 

「例えばだが、向こうにもGファイターみたいな機体があればMS部隊を単独で送り込む事は出来る。仮にそんなものが無くても、対艦ミサイル辺りにグリップでも取り付けて牽引させれば似たような事は可能だ」

 

こっちならダミーも簡単に用意出来るから、放り込める数はぐっと上がるだろう。

 

「どちらにせよ生還率は絶望的だと思いますが?」

 

「次の戦いに勝てば俺達がこの戦争に勝てると言うことはだ、連中は次の戦いに負けられないと言うことでもあるよな?俺達がスペースノイドの自由を踏みにじり、搾取を続けてきたと本気で思っている連中が、絶対に負けられない戦いに命を捨てられないと思うか?」

 

眉を寄せながらそう問いかけてくるニキ准尉に、俺は笑いながら返事をする。軍人が負けたらはいお終いといかないのが総力戦だ。必ず民間人に被害が出る以上、良識のある軍人は文字通り命がけで抗ってくるだろう。

 

「イヤだね、そういうのは。やりにくいったらないよ」

 

俺の回答にカイが心底嫌そうな顔をする。それはそうだ、何しろこの状況で死地に送られるのはザビ家を信望する狂信者でもなければ、独立によって私腹を肥やそうとする小悪党でもない。家族や友人を戦火から守りたいと考えるごく普通の人間だ。

 

「だが手心を加えればそれだけ戦争が長引く。俺達に出来るのは少しでも早く戦争を終わらせる事くらいだ。だから、今だけは相手が人間って事も忘れとけ」

 

そんな役に立たないアドバイスをしていると聞き慣れた警報が鳴る。次いでオペレーターからのアナウンスが入った。

 

『敵ザンジバル級と思われる艦影を確認!総員第1種戦闘配置!繰り返す、総員第1種戦闘配置!』

 

聞き慣れた命令に待機室に居た全員が弾かれたように自分の機体へと向かう。自機に乗り込んで通信回線を立ち上げれば、直ぐにより正確な情報と共にブライト・ノア少佐との個別回線が開いた。

 

「状況はどんな感じです?」

 

『テキサスゾーンに艦影を確認した。今のところはザンジバル1隻だが』

 

ザンジバル級はジオンの艦の中でも新しい方で艦載機の搭載能力も優れている。単艦で運用出来るのは多くて12機との事であり艦のサイズや武装を考慮すれば破格の性能を有する高性能艦ではある。とは言うものの所詮は12機。カミカゼをするとしても少々物足りない数だ。

 

「他にも居るでしょうね、第3艦隊に連絡は?」

 

『ミノフスキー粒子とデブリが邪魔で無理だ。MS隊を発進させ次第信号弾で行う』

 

となると奇襲は難しいな。

 

『ザンジバルはテキサスコロニーに侵入したと思われる。君達にはこれを追撃、撃破してもらいたい』

 

まあそうなるわな。

 

「少佐、確認しておきたいんですが」

 

『なんだ?』

 

「コロニー内で対艦戦闘となれば、加減が利きません。コロニーへの被害は必至ですが」

 

『大尉、悪いが気にするなとは言ってやれん。コロニー公社との約束もあるからな。だから出来るだけ傷付けないようにはしてくれ』

 

ブライト少佐の言葉に俺は思わず苦笑してしまう。出来るだけということは、無理だと判断したら考慮しなくて良いという意味だ。実に前線の指揮官らしくなってしまった少佐に俺は敬礼しつつ復唱する。

 

「承知しました、出来るだけ努力します」

 

そんな話をしている間にもMSの発艦は順調に進み、俺の番がやってくる。

 

「H101、出すぞ!」

 

カタパルトの射出機能だけを用いた静粛発進をした俺は、即座に宙域に待機している友軍と合流する。Gファイターを除く全機が揃う姿は中々に壮観だ。近距離用の秘匿回線を用いて部隊の仲間に対して説明を行う。

 

「目標はテキサスコロニーに侵入した敵艦の撃沈だ。確認されたのはザンジバル1隻のみだが単艦で動いているとは考えにくい、別部隊の存在を考慮する必要があるから、艦の防衛に2小隊残す。第2小隊と第5小隊だ、マッケンジー大尉、指揮を頼みます」

 

『了解』

 

「残りはコロニー外を迂回して敵の侵入した宇宙港を目指す。コンペイ島襲撃を想定しているとすれば、ここを前線拠点にするつもりかもしれん。防衛設備やトラップの敷設が考えられるから注意すること。交戦規定は確認次第撃ってよし、火器の使用制限も無しだ」

 

俺の言葉に全員が黙って頷く。それを確認した俺は一度息を吸い込んでから口を開く。

 

「宜しい、では作戦開始。先頭は俺とH102だ、各機続け」

 

そう言いながら俺はフットペダルを踏み込んでバーニアを噴かす。もし原作通りなら、ザンジバルの他に最低でもマ・クベの艦隊が居るはずだ。だとすればコロニー内も既にトラップが敷設済みと考えるのが妥当だろう。

 

(ザンジバル級、シャアが乗っているのか?戦力はどの位だ?)

 

後で考えれば非常に愚かしいことであるのだが、俺はこの時完全に思考が原作に引きずられていた。言い訳をさせてもらえば、ソロモン攻略戦の後のテキサスコロニーという状況に目が眩んでいたのだろう。何しろこのタイミングは最もシャア・アズナブルを歴史から退場させる好機だったからだ。そんな打算に気を取られて、俺は重大な見落としをしていた。多少の変化はあれど大筋で原作と同じ経緯を辿っているからこそ、俺の予想は有効だった。その多少の変化をもっと真剣に捉えるべきだったんだ。

 

『なんだ、あれは!?』

 

よく考えなくても既にそれは起こっていたんだ。

 

『ジオンのMA!?』

 

宇宙に上がってから俺は、原作で起きたはずの戦いが起こらなかった事にばかり気をやっていた。歴史の修正力なのかどうかは知らないが、本来起きるはずだった戦いは必ず起こるはずだと思っていたからだ。

 

「散開しろ!」

 

だからアムロが見つけてくれたのは僥倖という以外の言葉が無かった。そうだ、このくらいは想定して然るべきだった。だってそうだろう、俺達は原作より前倒しでランバ・ラルや黒い三連星に襲撃されていたんだ。ならば原作においてここでは戦わなかった敵が、テキサスコロニーで待ち構えていてもおかしな事ではなかったのだ。

咄嗟にそう叫び、俺は盾を構えつつバーニアを最大で噴かす。蹴り飛ばされる様な加速を加えられた俺の機体とアムロの乗るガンダムは辛うじて回避が間に合うが、他の連中はそうはいかない。特に推力で劣っていた4小隊のジム2機は避け方が悪い方向に進んでしまった。構えていたシールドから少し逸れたビームが2機の脚部を吹き飛ばしたのだ。

 

『何処から撃ってきてんだ!?』

 

『伏兵!?2機じゃないの!?』

 

回線が一気に混乱を極める。だがそれも仕方ない。何しろ俺達は今、この世界で初めてオールレンジ攻撃を体験しているのだから。

 

「動け!囲まれていても射撃に対する対応の基本は変わらん!」

 

三次元だろうが平面だろうが、包囲されていようがいまいが、根本的に射撃を回避しようと思えば基本的な所は変わらない。遮蔽物で射線を切るか、それが出来ないなら動き回って相手の照準を絞らせない事だ。そしてオールレンジ攻撃という包囲攻撃を受けている以上、物陰に隠れるという選択肢は存在しない。

 

「H102!この攻撃はあのMAのものだと思われる!攻撃を仕掛けるぞ!」

 

『はいっ!』

 

いいながら俺は機体を前進させて敵のMA、2機のブラウ・ブロとの距離を詰める。

 

「右の奴を頼む!」

 

原作においてブラウ・ブロは最低3機確認されていて、ホワイトベースはその内2機と戦った。ならそれが同時に襲ってくる事だって俺は考えなければならなかったんだ。

 

「この野郎!!」

 

放ったビームは命中せずに虚空に消えた。こちらが撃つより先に動いていた、じゃあこっちに乗っているのがシャリア・ブル、NTか!自身への危険度が跳ね上がった事を自覚するが、同時に俺は甘い予想を立ててしまう。こちらがシャリア・ブルならば、もう1機、アムロが対応しているのは一般兵が乗り込んだ機体の筈だ。今のアムロなら即座に撃墜してこちらの援護に回れるだろう。そんな正に楽観としか言いようのない予想。だがそれもその後に続くアムロの声で、脆くも崩れ去る。

 

『こ、こいつら!?』

 

『仇は取らせて貰うぞ!ガンダム!!』

 

『ここで死んでゆけ!!』

 

開きっぱなしの通常回線に敵の声が混線する。その声は俺のよく知った声だった。

 

「ふっざけんなよ!?」

 

牽制の為にミサイルをばらまきながら、俺は思わず叫んでしまう。全天周囲モニターの端に映ったアムロのガンダム、彼はブラウ・ブロを守るように立ち塞がった赤いゲルググと青いギャンとにらみ合っていた。




もう消化試合だと思ったな?
残念ここからがクライマックスだ。

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