WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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キャリフォルニアから脱出する最後のザンジバル級を預かったシャア・アズナブルが、辛くもグラナダに辿り着いた3日後、彼はキシリア・ザビ少将の執務室に呼び出されていた。

 

「マ・クベ大佐への援軍でありますか?」

 

「そうだ。我々はソロモンを失陥した、つまり本国の守りはア・バオア・クーに委ねられている訳だが」

 

「あそこは親衛隊の管轄だったと記憶しております」

 

シャアの言葉にキシリア少将が頷く。

 

「精鋭を謳ってはいるが、殆どは今の戦いを知らぬ素人ばかりだ。ソロモンの脱出部隊が合流し、戦力として使い物になるまでには今暫く時間がかかろう」

 

「つまりその時間をマ・クベ大佐が捻出すると?」

 

そう問い返せば、キシリア少将は不敵に笑ってみせる。

 

「話が早いのは良いことだな。本来ならば貴様はア・バオア・クーへ合流させるのが正規の手順であるが、エースを悠長に遊ばせておく余裕はない。正式にこちらへ編入し、増援部隊を率いて貰う。ついでに中佐へ昇進だ」

 

少佐では艦隊を指揮するに足りぬだろう。そう言って少将は机の上に中佐の階級章を放り投げた。それからタブレットを取り出し一瞥すると、それを差し出しながら言葉を続ける。

 

「貴様には少しばかり特別な部隊を率いてもらう、本国ではNT部隊などと言われているものだ」

 

タブレットを受け取りながら、シャアは身を強ばらせた。その様子をどう受け取ったのかは知らないが、キシリア少将は目を笑わせながら口を開く。

 

「実のところアレがNTなのかは解らん。だが兵器として実用化は完了し、その性能が確かなことは事実だ」

 

「率いる部隊が新兵器ばかりと言うのは、些か心許ありません」

 

「一緒に逃げてきた特務遊撃隊の実働部隊をくれてやる。ローデン大佐にはもう少し大きい部隊を率いて貰う必要もあるからな。青い巨星とその僚機ならば、そこらの部隊よりも信頼出来よう?」

 

そうして彼はザンジバル1隻にムサイ3隻からなる艦隊を与えられ、テキサスゾーンへと向かう事になった。

 

「エルメスはどの位で届く予定かな?」

 

「無線式のサイコミュの調整が完了次第との事です。両日中には送り出されてくるかと」

 

「ふむ、ではそれまでブラウ・ブロだけで当たることになるか。どうなのだね?」

 

「大佐の想定しておられるアウトレンジ戦法は困難です。有線式のサイコミュは威力こそ戦艦の主砲並みですが、如何せん距離が短い」

 

「ならば積極的に打って出るのは悪手か」

 

合流して直ぐに問われたのがソロモンへの襲撃は可能か、という事だった。シャアとしての答えは否である。以前の彼であればやってみせると豪語していただろうが、地上での経験から彼の考えは大きく変わっていた。度重なる撤退戦において、一個人の才覚では組織全体が陥っている苦境を覆すなど不可能であると彼は十分に理解したのだ。そして数の利点を活かすには、その数の最低値が実行出来る作戦を立てねばならない事も身をもって体験したのである。

 

「かといってこれだけの戦力だ、遊ばせておく手もあるまい。一つ釣りでも楽しむとしよう」

 

そう大佐が口にして実行されたのが今回の誘引作戦だ。テキサスゾーンに部隊を集結させる振りをして、敵の部隊を誘引、ブラウ・ブロによって叩くというシンプルな内容だ。その作戦は見事に成功したと言える。何しろ戦艦を含む艦隊に、木馬と同型艦まで釣れたのだから。

 

「私は艦隊を率いて後方の艦隊を叩こう。中佐にはあの木馬モドキを頼む」

 

そうして始まった戦いは、出撃してきた敵機によって急変を告げる。形こそ随分と変わったが見覚えの、否見紛うはずのない配色の2本角を生やしたMS。それがガンダムと呼ばれる機体であり、シャアの運命を大きくねじ曲げた因縁の相手であった。何のことはない。敵艦は見てくれを変えていたが、あの木馬そのものだったのだ。

 

『柄ではないが、運命なんてものを感じてしまうな!』

 

専用のギャン――とは言うものの、機体色を変更しただけだが――を駆るランバ・ラル大尉が興奮した声音でそう叫んだ。彼も以前率いていた部隊をあの木馬に奪われているからだ。無論それは戦場での事であるから、恨むなと言う者もいるだろう。しかしそう割り切れるならば、人間はとっくの昔に争う事を止められていただろう。

 

『仇は取らせて貰うぞ!ガンダム!!』

 

ブラウ・ブロに肉薄してくるトリコロールの機体に向かってランバ・ラル大尉が叫ぶ。その声にシャアも自らの思いの丈を口にした。

 

「ここで死んでゆけ!」

 

 

 

 

『アクセル曹長!7小隊と連携しH101の援護!アニタ曹長は私とH102の支援です!』

 

「無茶だ中尉!後退をっ」

 

『あれをホワイトベースに案内するつもりですか!!』

 

思わずそう言い返してしまったアクセルにクラーク中尉の怒声が返ってきた。敵の攻撃の種は見てしまえば単純だ。機体からビーム砲を切り離し、有線操作で多方向から攻撃しているのだ。デブリだらけのこの宙域で、まるで一人の人間が操っているかのように完璧な連携で攻撃してくるビームを回避するのはMSでも困難だ。更に大きく鈍重な艦艇であれば被弾は免れないだろう。そして奴の有効範囲がどれだけか不明な以上、クラーク中尉の懸念は正しいと言えた。

 

「ああクソっ!H701、702、703!オイラに続って、何してやがる!?」

 

指揮を執るべくそう口を開いた途端目に入った光景に、アクセルは悲鳴の様な声を上げてしまう。

 

『助けなきゃ!』

 

『大尉がっ、大尉!』

 

『駄目!駄目!!』

 

彼女達が大尉に懐いていたのは皆が知っていた。その理由についても説明を受けていた彼等は、強い不快感を覚えつつも彼女達を廃棄させないために協力することも承知していた。だが、その甘さが状況を悪化させる。ここまでの実戦において、アレン大尉が危機的な状況、彼女達の面倒を見きれないほど追い詰められる事は無かった。彼女達にとって安心材料であったはずのそれがいつの間にか当たり前へとすり替わり、それが無くては精神の均衡が保てなくなっているなど、誰一人想像すらしていなかった。

 

「畜生が!!」

 

回避も何も無く突撃する3人をアクセルは慌てて追いかける。しかし書類上は同型機であるはずの彼の機体は加速する彼女達の機体に追いつけない。そして恐れていた瞬間は、彼が覚悟を決めるよりずっと早くやってきた。

後方に居たからこそ彼には見えてしまった。3機のうち最後尾に位置していたシス特務伍長の機体の上方。回避を続けている大尉のそばから1基だけ離れていたビーム砲が、その砲口を彼女の機体へと向けているのを。

 

「703避けろ!!」

 

アクセルはそう叫ぶが、その程度で覆る程現実は優しくない。砲口から伸びたビームが、容赦なく彼女の機体を撃ち抜いた。

 

 

 

 

「デカいくせに!」

 

四方八方から撃ち込まれるビームを強引に避けながらこちらも撃ち返すが、MSよりも遙かにデカい筈のブラウ・ブロに当たらない。

 

「NTじゃなきゃ敵にもなれんってのか!」

 

距離を詰めようとするが、それは本体に装備された機銃とミサイルの弾幕に遮られる。どうなってんだ、あんな装備原作には無かったぞ!?

 

「野郎!!」

 

直撃しそうなミサイルだけを強引にバルカンで撃ち落とし、お返しにミサイルをこちらも放つ。機銃によって大半は撃ち落とされてしまうが、それでも数発は機体に届き、表面で爆発する。

 

「無傷かよ!?」

 

対MS用のミサイルは威力よりも運動性と速度が重視されている。だから威力は抑えめではあるが、それでもMSに十分手傷を負わせる、当たり所が良ければ撃墜だって出来る威力なのだ。

 

「戦艦並みの装甲だとでも言うのかよ!?」

 

だが突破口が無い訳ではない。先程から奴はビームを避けているからだ。つまりそれはビームならば有効であると言うことに他ならない。

 

「問題は、俺の腕かっ」

 

目まぐるしく動き回りながらビームを放つがやはり躱される。駄目だ、普通に戦っていては、こいつは墜とせない。

 

(レイ大尉、ロスマン少尉。悪い!)

 

俺はそう心の中で謝罪すると、回避を最小限に抑えてブラウ・ブロへ突進する。ビームが掠り、機銃が装甲を叩くが一切を無視して必中の間合いまで距離を詰める。後はいつも通りだ。

 

(真っ直ぐ突っ込んでジャベリンを突き立ててやる)

 

(この距離ならビームが当たる)

 

(キャノンでまず牽制)

 

(対艦ミサイルが残っている)

 

複数の選択肢を同時に思考、こちらの動きが解らなくなったのだろう。ブラウ・ブロの動きが鈍る。

 

「でも残念、全部ハズレ」

 

そう呟いて俺は、ミサイルとキャノン、そしてビームライフルを全て同時に発射する。至近距離から放たれたそれは、それでも半数以上が避けられてしまったが、キャノンの直撃を実現した。

 

『ぬう、こいつ!?』

 

渋いおっさんの声が混線してくる。クソが、やっぱりシャリア・ブルじゃねえか。

 

「止めだ!」

 

左側のユニットに被弾したせいだろう。推力のバランスを失い一気に鈍重になったブラウ・ブロに連続してビームを叩き込む。次々と破孔を穿たれたブラウ・ブロは黒煙を噴き出しながら漂流する。

 

『無念だ、たった3機のMSと相打ちとは…』

 

「え?」

 

戦闘用の思考から普段の思考に戻るにつれて、周囲に必要外の情報が戻ってくる。そして最初に聞こえたのは、

 

『嫌ぁっ!返事をして!シス!!!』

 

損傷した機体で悲鳴を上げる、レイチェル特務曹長の声だった。




シスちゃんにはいつもデルタカイに乗って貰ってます(外道

以下、作者の自慰設定

ジムスナイパーⅡ(オーガスタ改造機)
某研究チームが特殊な装置を搭載するために調達していた機体。しかし、その後更なる高性能機であるRX-80が実用化したことで同機は予備機に回される事になる。一部のパーツが試験目的でRX-80のものに置き換えられているため、型式や形状には差異が無いが、原型機に比べ10%程度の性能向上を果たしている。
予備機となったたため、HADESは未搭載である。代わりに教育型コンピューターが搭載されており、原型機よりも向上したカタログスペック以上に機体性能を引き出せる要因となっている。同機は4機が製造されたが、内1機はオーガスタ基地に保管、残りの3機がホワイトベース隊に送られている。

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