WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


8.0079/09/18

ルナツーに近づくといよいよ艦内が慌ただしくなってきた。サイド7からの脱出の際の戦闘でブリッジ要員に少なくない被害が出たのだ。特に不運だったのは割れた窓の近くに居たオペレーターと最前列で操艦に当たっていた操舵手だ。飛散した構造材が直撃したオペレーターと操舵手は即死、副長の大尉殿も一命こそとりとめたものの、ノーマルスーツが損傷した状態で宇宙へ放り出された彼は酸素欠乏症となり正常な判断が出来ない状態だ。そして目下最大の問題は艦の最高責任者であるパオロ・カシアス中佐が負傷してしまった事だろう。頭部に重篤な怪我を負ってしまいとてもではないが指揮を執れる状況では無かった。おかげで現在のブリッジは野戦任官で大尉にされてしまったブライト・ノアが指揮に当たっている。

 

「凄い数だ」

 

「けどなんか、どの艦もぼろっちいぜ?」

 

待機室の窓から外を見て、真新しい制服に身を包んだ少年達が口々にそう評した。それを見て俺は説明をする。

 

「外に並べられているのは修理待ちの艦だからな」

 

現在ルナツーには地球連邦宇宙軍のほぼ全艦艇が集結している。何せ他の停泊地であったサイドが全滅してしまっているのだからそうせざるを得ない。おかげでルナツーの整備能力を遙かに超えた損傷艦があふれかえる事態となっている。

 

「万一攻撃を受けて壊れてしまっても諦めの付く艦が置いてあるんだ。任務に使うようなちゃんとしたのは要塞内に置いてあるよ」

 

「まだあるんですか!?」

 

そう驚くハヤト・コバヤシに俺は笑いながら応じる。

 

「あるぞー、なんならここに並んでいるよりずっとある」

 

「そんなにあってジオンに負けたのかよ」

 

「カイさん!」

 

まるで呆れたように言うカイ・シデンをアムロ・レイが咎める。まあ、俺もその負けた連邦兵だからな。気を遣ってくれたんだろう。

 

「ああ、負けた。数って言うのは戦いにおいて何よりも重視される要因だが、数だけではどうにもならん事もある。素手の兵隊を何百人集めても戦車は倒せないだろう?」

 

ちょっとした講釈のつもりで俺は言葉を続ける。

 

「幸い連邦はちゃんと武器も人も用意出来ていた。それでも負けた、何でだと思う?」

 

「ミノフスキー粒子ですか?」

 

流石はアムロ・レイ。そっち方面にも明るいらしい。

 

「その通り。万全で殴り合ったら勝てないとジオンも解っていたのさ。だからこちらの目と耳を塞いだ」

 

その効果は知っての通りだ。1ヶ月という僅かな期間で連邦軍は守るべき市民の半数を失い、地球には消えることのない巨大な傷が刻まれた。

 

「じゃあここにあるのは幾らあっても役立たずって事じゃんかよ」

 

お、言うねえ。

 

「ところがそうでもない。ミノフスキー粒子はどちらの目も塞いでしまうから常に散布していては哨戒もままならんし、粒子散布下では強力な兵器であるMSも火力や航続力では艦艇に遠く及ばない。製造コストや整備性、パイロットの訓練期間で言えば戦闘機とMSは勝負にもならん。技術と経済力という限界がある以上、残念ながらこれだけ造っていればいいなんて便利な兵器は無いんだ」

 

まあそれは兵士を使う側の都合であって、兵隊としてはとにかく良い装備を寄越せというのが本音だが。残念ながらジオンよりマシではあっても連邦の財布だって無限に金の湧き出る魔法の壺じゃない。

 

「小難しい言い回しなら適材適所と言うやつだな。さて、そろそろ行こうか」

 

そう言って俺は彼等に移動を促す。出来れば穏便に終わって欲しいと切に願いながら。

 

 

 

 

「レーザー通信、繋がります!」

 

オペレーターの言葉にシャアは腕を組んだまま頷いた。

 

「失敗を告げるのは、気の重い事だな」

 

艦の損傷によりシャアは敵新型艦を取り逃がしていた。呟く間にモニターが通信相手を映し出す。損傷が原因なのだろう、画像が何時もより不鮮明だ。

 

『シャアか、どうした。昨夜は貴様の作戦終了を祝うつもりだったというのに、モタモタしてくれたおかげで準備が無駄になったぞ』

 

作戦成功を疑っていない相手、ドズル・ザビ中将へ向けて、シャアは報告のために口を開く。

 

「晩餐の損失に見合う情報を入手致しました。連邦軍のV作戦、その情報を入手致しました」

 

その言葉にドズル中将は鷹揚に頷く。

 

『でかした、それで?』

 

「例の新型艦はMSの母艦でありました。既にMSも完成しております」

 

『それは本当か?』

 

「はっ、複数の同型機を確認しましたので、既にある程度の生産体制が整えられているものと考えます」

 

『流石は赤い彗星だ。それで、何の頼みだ?』

 

こちらの態度から察したのだろう。そう促してくるドズル中将に対し、シャアは言葉を続ける。

 

「情報の為に高い代償を支払いました。ザク一個小隊と部下を失いました」

 

『ザク一個小隊!?貴様がおってもか!?』

 

「はい、私自身も乗機を失いました。頂いたファルメルも手酷く痛めつけられる有様です」

 

画面の向こうでドズル中将が唸りながら顎へ手をやった。部下に新兵が交ざっていたとしても、シャアの率いる部隊は宇宙攻撃軍でも有力な部類である。その部隊が壊滅的と言って差し支えない損害を受けたことを、どう判断すべきか悩んでいるのだと彼は推察し、説得のために動いた。

 

「敵MSは全てビーム兵器を携帯しておりました。その威力はザクを一撃で撃破する程です。また、その運動性はS型すらも凌駕しておりました。ご記憶下さい。連中のMSはそれ程の性能を持っているのです。これからの戦局を左右しかねません」

 

『解った、補給が要るのだな?回そう、ただし!』

 

「はい、敵MSは鹵獲、艦は沈めます。生きて地球へは帰しません。…ですが」

 

『まだあるのか?』

 

「汗顔の至りですが、我が隊だけでは力不足です。軌道艦隊から支援を頂きたいのですが」

 

『軌道艦隊?降下中を狙うつもりか?』

 

ドズル中将の言葉にシャアは真剣な表情で頷く。

 

「既に連中はルナツーに逃げ込んでおります。連中の重要度から考えれば護衛が付けられるのは間違いありません。確実を期す為にも更なる戦力が必要であると愚考する次第であります」

 

『良いだろう。次は成功の報告を期待しているぞ』

 

その言葉を最後に通信が切れる。シャアはモニターに向かってしていた敬礼を解くと、部下に向かって口を開く。

 

「聞いていたな?補給が済み次第我々は木馬追撃を再開する。ルナツーの監視は怠るなよ」

 

 

 

 

ホワイトベースの格納庫では、テム・レイ大尉とタツヤ・キタモト中尉が頭を悩ませていた。

 

「修理と補給は受けられたものの民間人の受け入れは無し、それに人員の補充も無しか」

 

「パオロ中佐が掛け合ってくれたおかげで民間協力者の軍籍が手に入ったのは良かったんですが、それを理由に正規軍人の補充を断ってくるとは」

 

「それでいて装備に関しては一人前に持って行くと来たぞ」

 

レイ大尉は忌々しげに手元のタブレットを睨み付けた。そこにはルナツー司令の署名付きで、ガンダムとガンキャノンをそれぞれ一機ずつ提出するように指示が出されていた。

 

「キャノンの代わりにタンク2機とかじゃ駄目ですかね?」

 

「それで良いなら3機ともやるからガンダムを持って行くなと言いたいな」

 

そう言って二人は同時に溜息を吐く。敵の攻撃を突破してルナツーに逃げ込んだまでは良い。問題はこの先だ。

 

「敵が追撃を諦めるとは思えん」

 

「流石にルナツーにまでは手を出してこないでしょうが」

 

もう一度溜息を吐き、キタモトは声を潜めて問い掛ける。

 

「…ジムを回してもらえないんでしょうか?」

 

「そちらの方が無理な話だろう。今何よりも秘匿したいのは量産型MSの存在だ。数が揃うまでは絶対に外へ出さんさ」

 

機体の提出は命令である。しかも同じ連邦宇宙軍内での事となれば拒否することは不可能だ。つまり彼等はこれから確実に起こるであろう戦闘を前にして戦力の3割を喪失する事になる。

 

「機体を整備する時間くらいは貰えるでしょうが、低下する戦力については如何ともし難いですね」

 

キタモトがそう唸ると、タブレットを操作していたレイ大尉が口を開く。

 

「その事についてなんだが、もしかすれば多少はどうにかなるかもしれない」

 

「戦力は提供して貰えないのでは?」

 

驚いた表情でキタモトは聞き返す。既にルナツー側から戦闘機一機渡せないと明言されたばかりなのだ。増やす当てなど無いようにキタモトには思えたのだ。だが技術者のレイ大尉は、パイロットとは別の視点を持っていた。

 

「やらんよりはマシ、程度の話だがね。外から貰えんのなら、今あるのを分けて使うとしようじゃないか」

 

そう言って彼は手にしていたタブレットの画面を見せる。そこにはガンタンクが映し出されていた。




宇宙でもガンタンクを使おうと思った連邦技術者の頭はおかしい。
そんな連中を見ていた筈なのにギガンとか製造許可出すジオン軍はもっと頭おかしい。

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