WBクルーで一年戦争   作:Reppu

80 / 152
今週分です。


80.0079/12/30

宇宙世紀0079、12月30日。ア・バオア・クーを目の前に地球連邦軍艦隊は大混乱に陥っていた。攻撃開始直前に接触を図ってきたデギン・ソド・ザビ公王の座乗していたグワジン級戦艦グレート・デギン、そしてその対応のために移動したヨハン・イブラヒム・レビル大将を含む第1連合艦隊の半数が一瞬で消滅したからだ。

 

「第1連合艦隊の状況は?」

 

「第1艦隊並びに随伴していた第8及び第9艦隊が通信途絶しております」

 

「第4艦隊は無事なのだな?ワイアット中将に繫いでくれ」

 

「はっ!」

 

通信を繋げさせながら、ティアンム中将は深呼吸をする。そして自らの過信を密かに後悔した。第3艦隊のワッケイン少将経由でジオンが強力な秘密兵器を持っているのではないかと言う連絡は受けていたのだ。尤もそれは確たる証拠のあるものではなくごく一部の兵士が発した勘が根拠であり、本来ならば一笑に付すようなものだ。それでもある程度の警戒を促したのは、それを口にしたのがあの第13独立部隊の兵士だったからだ。だがそれでも国の最高責任者を囮として用い、更に諸共吹き飛ばすなど誰が想像するだろうか。

 

『ティアンム中将、悪い知らせだ。第1と8・9艦隊は消滅した』

 

「こちらでも確認した。残存戦力は?」

 

回線が繋がると同時にそう切り出してきたグリーン・ワイアット中将にそう問い返す。すると彼は真剣な表情で口を開く。

 

『私の第4艦隊並びに第6艦隊は無傷だ』

 

「成る程、つまり何も問題は無い訳だな?」

 

ティアンムの言葉にワイアット中将は一瞬目を見開くが、直ぐに普段通りに余裕のある笑顔になるとそれに応じてくる。

 

『ああ、全くもって何も問題ないとも。では予定通りに』

 

「了解した」

 

通信が切られるとティアンムは一度深く呼吸をした。そして腹に力を込めて命令する。

 

「現時刻よりア・バオア・クー攻略を開始する!ソーラ・システム展開!パブリク隊に通達、直ちにビーム攪乱幕展開作業に入れ!」

 

混乱は未だ収まっていない。しかし発せられた命令に対し、連邦軍将兵は自らの役目を全うするべく動き出す。それはジオンと連邦の組織としての地力の差もあったが、それよりも連邦軍が今回の反攻作戦に合わせて行動指針を大幅に変更したことが大きい。以前の連邦宇宙軍の軍事行動は有機的かつ柔軟性に富んだものだった。強固な通信網の構築と徹底した士官の養成によって軍という集団でありながら一個の生物がごとく判断し即応する。それこそが数以上に連邦軍の強みだったのだ。しかしミノフスキー粒子によってその強みを失った連邦は、新たな戦い方を構築する必要が発生する。大抵の場合そうしたドクトリンの変更は大きな混乱を招くものであるが連邦は人類の血塗られた歴史の継承者であったために、即座に代替を選定するに至る。それこそが大規模作戦ドクトリンだった。

その内容は単純にして明快で、作戦実施前に徹底した戦闘計画を作成し、各部隊がそれに則って行動するというものである。この方法の利点は、まず戦闘が始まった後に複雑な状況判断を必要としないことである。事前に決められた内容に従って部隊を運用するため常に状況に合わせて最適な行動を取るなどの所謂理想的な運用は望むべくもないが、その分判断に必要な要素は絞られる。これによって連邦軍は強固で複雑な通信網の構築から解放される。そしてもう一つの利点が、作戦が開始されてしまえば連邦軍は止まらないという点だ。何しろ各指揮官には、事前に実行すべき作戦目標が明確に設定されているのだ。作戦前に総司令官が死のうが作戦実行に何ら支障は無い。それはつまり、今の連邦軍を止めるには、軍全体に作戦の継続が困難になるだけの損害を与えなければならないと言うことだ。正に物量の優位を前面に押し出したドクトリンである。

 

「レビル将軍を殺した程度で戦いに勝てると思ったら大間違いだぞ、ジオン共」

 

 

 

 

「ひ、光と人の渦が溶けて…、あれは憎しみの光だ」

 

「アムロ?どうしたのアムロ!?」

 

「なんなの、これ?気持ち悪い」

 

コロニーレーザーが発射されたその頃、俺達第13独立部隊では少なくない混乱が生じていた。突然アムロ准尉やエリス准尉を筆頭に複数人が体調不良を訴えたからだ。

 

「一体どうなってんのよ?まさかウィルスとかじゃないでしょーね?」

 

「それならパイロットだけじゃ済まんさ。多分原因はもうすぐ解る」

 

そう俺がスレッガー中尉に言った矢先、オスカー准尉の口から第1連合艦隊が敵の攻撃を受けて大打撃を被った事が伝えられた。

 

「多分原因はこれだ。大量の人死にに当てられたんだろう」

 

「どういうことだい?」

 

スレッガー中尉の疑問に喋りすぎたかと一瞬後悔するが、どうせ彼等も今後末永く付き合っていく事になるだろうと思い直し説明する。

 

「NTと呼ばれている彼等が妙に勘が良いのは相手の思考や感情を知覚出来るからだ。今回のは恐らく一遍に大量の負の感情を受け止めちまったんだろう」

 

死ぬ瞬間の恐怖を数万人規模でぶつけられれば誰だって具合くらい悪くなるだろう。俺がそう説明すると、周りの連中が微妙そうな顔でこちらを見てくる。なんだよ?

 

「その、アレンは平気なの?」

 

探るような声音でマッケンジー大尉がそう聞いてきた。ああ、そう言う事ね。

 

「そりゃ平気だよ、俺はNTじゃないからな」

 

だから宇宙が青くなんて見えないし、人の思念なんてものを感じる事だって出来ない。

 

「その割には随分と詳しいじゃないの?」

 

疑念の目を向けてくるスレッガー中尉に俺は溜息と共に応じる。

 

「ララァ少尉との縁で一時期NT研とは関わりがあってな。その時に少しばかり聞きかじったのさ」

 

本当は単なる原作知識だけどな。俺は頭を掻きながら口を開く。

 

「つまりどの位の心理的負担がアムロ達にかかっているかは皆目見当が付かんと言う訳だ。本来なら出撃を見合わせるよう具申したいところだが」

 

そう言って視線をブライト少佐に向けるが、彼はしかめ面で首を横に振る。

 

「我々は少々有名になりすぎた。当然ガンダムが3機いることも知れ渡っている。この局面で出撃を見合わせては全体の士気に関わる」

 

俺達が配置されたのはSフィールド。宇宙要塞ア・バオア・クーの細くとがった方で主力となる第1と第2連合艦隊とは真逆の方向から要塞へ攻撃を行う事になっている。配置されている数は少ないものの実は練度の高い部隊が集められていて、防衛線の突破を期待されている。尤もあくまで本命は第2連合艦隊が運用するソーラ・システムだが。

 

「ありがとうございます、アレン大尉。でも僕なら平気です」

 

健気にそんな事を言ってくるアムロ准尉。そんな彼の姿に慈愛の視線を向ける女性クルー。お?なんだいきなり。ラブコメ時空にでも迷い込んだか?

 

「わ、私も大丈夫です!」

 

エリス准尉もそんな所で張り合わんでよろしい。

 

「まあ落ち着けよ。先の戦闘で例のMA共が現れなかった。6小隊が追いかけたのも別の機体だったろう?となれば連中はア・バオア・クーにいる可能性が高い。そうなればお前さん達は切り札だ、温存しても罰は当たらんさ」

 

最低でもジオングにエルメス、ブラウ・ブロは配備されている筈だ。ガンダムの性能が上がっているとはいえ油断は出来ない。

 

「そういえば7小隊のお嬢ちゃん達は大丈夫なのか?姿が見えんが?」

 

「あの子達なら今格納庫よ。レイ大尉の手伝いをしているみたいだけど?」

 

「手伝いって、機体の調整か?しかしありゃあ…」

 

質問に答えたフリーズ中尉の言葉に、スレッガー中尉が顔を顰める。テキサスゾーンの戦闘後に俺達は第3艦隊と共に補給を受けたのだが、やはりというかMSの補給はジムのB型が1機とボールが3機という有様だった。何しろ第3艦隊のMS隊も随分と被害を受けてしまったから、そちらの補給のためにジムですら払底していたのだ。次の補給を待てば渡せるとの事だったが、戦局がそれを許してくれない。俺達には早急にア・バオア・クー攻略へ合流しろとの命令が発令されていたからだ。おかげで7小隊の装備はボールになった訳なのだが。そんな話をしているとタイミング良くレイ大尉から連絡が入り、俺は格納庫へ呼び出される。そして向かった先には、見るも無惨に弄くられたガンダムの姿があった。

 

「あの、レイ大尉こいつは?」

 

「連中のオールレンジ攻撃、だったか?それに対抗するための追加装備だ」

 

そう言われた俺のガンダム3号機には、バックパックに強引にボールが2機取り付けられていた。

 

「余計なコックピットを廃した分のスペースに推進器とジェネレーターを搭載。武装はフィフティーンキャリバーを2基に近接用のビームガンを2基装備している。基本的な操作は従来機と同様だな」

 

「今コックピットが無いと言っていたと思いますが?」

 

俺がそう聞くとレイ大尉は真面目くさった顔で言い返してきた。

 

「ああ、だから母機側で操作する。制御用の有線は最大300mだ、当然切れたら使えなくなるから注意してくれ」

 

言いながら俺を掴んでレイ大尉はコックピットまで飛び上がる。そして開放されたそこを見るように促してくる。…うわ。

 

「全天周囲モニターが広くて助かったよ。サブシートを二つ入れられたからな。ここからレイチェル特務曹長とカチュア特務伍長がオプションユニットを操作することになる」

 

みっちりと詰め込まれたコックピットは非常に乗り心地が悪そうだ。というかこれ万一脱出する場合に滅茶苦茶大変じゃないか?そんな俺の心を読む様に、大尉は俺の肩を叩いて別の方向を指した。

 

「併せてシールドを防御重視の物に変える。バックパックを交換したから、キャノンとミサイルランチャーはサイドスカートに移植した。計算上は問題ないはずだが、反動の制御には注意してくれ」

 

一見滅茶苦茶な仕様だが、まあこれからやることを考えればある意味間違いでは無い構成だろう。何しろ相手の防衛線を突破して要塞に取り付こうなんていう作戦の先鋒を任されるのだ。アムロ准尉達を温存するなら、その分は誰かが補う必要がある。

 

「ま、これでもテストパイロットですからね。やってみせますよ」

 

幸いにも実験機に乗るのは慣れている。それに構成を見る限り追加装備は全て切り離せる仕様だ。少なくとも妙なOSやらシステムを組み込まれている機体に比べれば遙かに良心的と言えるだろう。俺の言葉にレイ大尉は一瞬目を見開くと、苦笑しながら返事をする。

 

「そういえばそうだったな。大尉、頼んだぞ」

 

決戦は直ぐそこまで迫っていた。




そろそろ一年戦争には終わってもろて。

以下作者の自慰設定。

ガンダムFAパッチワーク
オデッサ作戦及びジャブロー防衛戦で損傷したガンダム3号機をガンダムNT-1プロトのパーツを移植、修復した機体。同じ小隊のアムロ・レイ准尉の様な運動性による回避が望めないと判断された事から重装甲化されている。外観はチョバムアーマー装備時のアレックスに似ているが脱着機構は存在せず、純粋に装甲が増設されている。また材質もガンダムの通常装甲と同等品に変更されている。反応装甲としての効果をオミットしていることや、ハニカム素材との積層構造を簡略化しているために純粋な防御性能ではチョバムアーマーに劣るものの、全備重量が大幅に抑えられているため加速性能やバーニアを使用した機動の低下は少ない。また完全に装甲が一体化しているため、副次的に機体剛性が向上しており、240ミリキャノン砲や多連装ミサイルポッド等を追加で装備可能としている。


ガンダムFAパッチワーク(AR試験型)
テキサスゾーンにおける戦闘によって、ミノフスキー粒子環境下においても単独で同時に複数目標と交戦可能な機体の有効性が本格的に検討される事になる。特に第13独立部隊のような少数精鋭を前提とした部隊では多数を相手取れる機体というコンセプトは魅力的であり、現地改修の範囲内という限定されたものではあったが試作が許可されることとなった。
同機は既に改造されていたガンダム3号機をベースにオールレンジ攻撃を可能とする追加武装を装備する方向で試作される。同部隊で損傷機から取り出されたジェネレーター及び推進器を受領したRB-79“ボール”に移植することで攻撃用オプションを制作、これをガンダム本体に有線接続し制御する方式を採用している。しかし当然ながらジオンのMAに用いられたサイコミュなどは連邦側では実用化されていないため、オプションを運用するための人員が必要であり、その結果ガンダム3号機はMSとしては異例と言える3人乗りの機体となってしまった。それでも同機の残したデータは連邦にとって貴重な実働データとなり、後のNT専用機開発に役立てられることになる。
因みに同機の開発提案はテム・レイ大尉が、ホワイトベース隊第7小隊の面々を艦内に留めおく為にでっち上げたものであり、性能面では不必要な現地改修である。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。