WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


84.0079/12/31

「あはは!死んでしまえ!」

 

NT専用ビグザム。試作機で判明した諸問題を改善したこの機体は、極めて完成度の高い兵器となっていた。宇宙専用の強襲型MAとして調整されたこの機体は、NTによるオールレンジ攻撃を取り入れることでビグザムの問題点であった防空能力の低さをカバーしている。更に宇宙での運用に特化させることで不要な脚部を廃し代わりに大型の冷却機構を備えた事で、火力と防御力を維持したままに活動時間の大幅な延長にも成功している。問題があるとするなら。

 

「皆、皆死ね!ドズル様の命を奪った報いを受けろ!」

 

運用上NTの存在が必須である事、そしてそのNTの素養に性能が大きく左右される事だろう。その点においてマレーネ・カーン中尉は機体を存分に操ってみせている。その意味で彼女は間違いなく素養だけは十分に備えていた。

 

「まだ居る!鬱陶しい!!」

 

彼女は今とても気分が高揚していた。仇の気配を察知した直後、最初の遭遇で直接手を掛けた連中を仕留められたからだ。しかしそれだけでは足りない、彼の命を奪った代償がたった数人の命で済んで良いはずが無いとマレーネは本気で考えていた。彼女は残念ながら兵士としての資質も倫理も持ち合わせていないのだ。猛る彼女の復讐心に呼応するようにビットが激しく飛び回り火線を形成する。だが信じられないことに残った戦闘機とMSはその攻撃を凌いでみせる。その姿に苛立ちを覚えたマレーネは更にビットを射出し火力を強める。

 

「墜ちろ!墜ちろ墜ちろ墜ちろっ!!!」

 

衝動に突き動かされるままマレーネは機体を操る。時折勝手に付いてきたランバ・ラルが何事かを通信で騒いでいたが、煩わしく思った彼女は回線を閉じてしまう。

 

「鬱陶しい!」

 

彼女は吐き捨てる様に言い放つ。戦闘機モドキは逃げ惑うだけだが、MSの方は小癪にも反撃をしてくるのだ。威力自体は大したものではないのだが、Iフィールドで防げない実弾兵器である以上当たり所によっては損傷も免れない。別段愛着がある訳でも無い彼女は機体が傷ついた所で何も感じないのだが、少なくとも復讐が終わるまでは動いていて貰わねばならない。逃げ回るだけの戦闘機モドキを脅威で無いと判断した彼女は、攻撃の全てを敵MSへと集中させる。その変化に対応してギャンが戦闘機モドキを追いかけるようになるが、マレーネはその様な事には目もくれずに敵MSへの攻撃に集中する。

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

彼女の絶叫が虚空へと木霊した。

 

 

 

 

「これがNTの戦い!?」

 

目の前の光景にランバ・ラル大尉は圧倒され、思わずそう口にした。そうサイコミュ兵器の強力さは今の部隊に配属されて十分理解したつもりだった。オールレンジ攻撃は極めて強力な範囲攻撃というだけでなく、一対一での戦いでも単独で敵を包囲出来るというアドバンテージを持つ。それが如何に厄介な攻撃であるかは素人でも解るだろう、だがそうした兵士達が互いに殺し合う戦場を目の当たりにしてラルは戦慄した。

 

(こんな、こんな戦いは、最早手の出しようが無いではないか)

 

同時に複数の武装を操り、複数の目標と戦い合う。言葉にすればたったそれだけであるが、やって見せろと言われればラルは首を横に振る以外の答えを持たなかった。そもそも余程の技量差でも無い限り、正しく言葉通りに行われる同時の攻撃に対処するなどというのが不可能なのだ。あの様な攻撃がそもそも応酬される状況自体に普通のパイロットではついて行けない。護衛でありながら蚊帳の外に置かれた彼の前で状況が変化したのは交戦から1分程経った頃だった。サイコミュ搭載型NT専用ビグザム、通称サイコ・ザムには24基のビットが搭載されている。マレーネ中尉はこれを同時に最大8基扱うことが出来るが、負担が大きく本体の操作が追いつかなくなる事から概ね6基で戦っている。戦闘開始当初は戦闘機モドキと背中に戦闘ポッドをくくりつけたガンダムにそれぞれ3基ずつ宛てがっていたのだが、1波目のビットが全弾撃ち尽くしても撃墜に至らなかったのだ。即座に2波目のビットが放たれるが、その動きを見て思わずラルは叫んでしまう。

 

「正気か!?」

 

マレーネ中尉は逃げ回っている戦闘機モドキを追いかけるのを止め、全てのビットをガンダムへと振り向けたのだ。それを見て彼は慌てて戦闘機モドキへ攻撃を行う。確かに戦闘機モドキは逃げ回ってしかいないが、武装を見れば明らかに大型兵器への攻撃を意識した機体である事が見て取れる。どう考えても捨て置いて良い相手では無い。

 

「ええい、力はあっても所詮は素人だな!」

 

それは酷く常識的な反応だったが、彼の勇み足でもあった。オールレンジ攻撃を可能とする空間認識能力と相手の感情を機体越しに察せるNTにしてみれば脅威となるか否かの判断は容易であるし、反撃に転じられても即応出来る自信からの行動だったからだ。そして敵機を追うという行動に出た瞬間、彼は大きな隙を晒すことになる。戦場を俯瞰的に監視していた先程までと違い目の前の敵に集中したからだ。そしてそれを見逃すほど本当のNTは甘くない。逃げる敵機を追撃してほんの数秒、警告音すら発さずに連続して襲ってきたビームの雨が彼の機体に突き刺さる。それが何であったのかを理解する時間すら与えられず、彼は宇宙の塵となった。

 

 

 

 

「ラル大尉達がSフィールドへ向かっただと!?」

 

艦隊への襲撃を終えて一時帰投したシャア・アズナブル中佐に伝えられた内容は、お世辞にも愉快とは言い難い内容だった。

 

「向かったエリアはミノフスキー粒子が濃く通信が届きません」

 

「サイコ・ザムにはレーザー通信があるだろう?」

 

「その、マレーネ中尉が通信回線を切っているようでして…」

 

「生半可な状態で戦場に出すからそうなる!」

 

苛立ちからシャアは思わずそう吐き捨てる。NT部隊を預かるに当たって、彼は派遣された研究員に徹底して聴取を行っていた。その内容は実に悍ましいもので、能力の発現や強化には多大な心理的ストレスが最も効果的であるとされていた。事実マレーネ・カーン中尉は最愛の夫、ドズル・ザビの死を受けて能力を開花させている。しかしその過程で投与された薬物などの副作用で精神状態は極めて不安定であり、冷静な判断や兵士としての立ち振る舞いを期待出来るものではなかった。

 

「その、中佐。司令部からドロス防衛に至急戻るよう連絡が」

 

「……」

 

続く言葉にシャアは懊悩する事になる。艦隊への襲撃によって確かな戦果を上げた。しかしそれはあらゆる状況でなしえる物では無い事も彼は痛感していたからだ。ブラウ・ブロから発展したエルメスやMSをベースとしているジオングは火力と機動性に重きを置いており、その防御性能は高くない。相手に防御を強いる状況ならば十全に性能を発揮出来るが、何かを守るのには向いているとは言い難い装備だ。第一守れる程の守備能力が備わっているならば、護衛などというものが必要ないのだから。

 

「アジン少尉達とクスコ少尉の様子は?」

 

「各員に疲労が見受けられます。特にアジン少尉は脳波の乱れが酷く、サイコミュの操作能力が60%近くまで落ち込んでいます」

 

彼女達の操るジオングは多数の火器を備えているものの、接近戦における防御手段は少ない。そもそも圧倒的な火力で近付かれる前に撃破する事がコンセプトだからだ。サイコミュによる遠距離迎撃能力が低下すればそれだけ敵に接近されるリスクが増大し、そうなれば撃墜される可能性は跳ね上がる。クスコ少尉のエルメスに至ってはビットキャリアーとしての運用に特化しているため、そもそも近接防御能力が無いという有様だ。故に防衛ならばビグ・ザムが最適なのだが。

 

「私の隊が参りましょう」

 

横で話を聞いていたシャリア・ブル大尉が穏やかな声音のままそう告げてきた。

 

「大尉、しかし…」

 

彼の搭乗しているブラウ・ブロはこれらの機体の源流である。当然コンセプトも同じだ。

 

「2号機の修復も完了しておりますから、手数では問題ないかと」

 

「だが、ブラウ・ブロも同じ問題は抱えているだろう?」

 

「テキサスでの一件を踏まえて改修を施したと聞いております。それに部下の者達からア・バオア・クーに張り付いたままだと不満が出ておりますから」

 

そこまで言い終えると彼は手に持ったタブレットを渡しながら小声で告げてくる。

 

「ドロスの近くならばア・バオア・クーと大差ない支援が受けられます。一度新兵達にも戦場を味わわせておかねば危険です」

 

「それほど不味いか?」

 

シャアが聞き返すとシャリア・ブル大尉は神妙な顔で頷いた。

 

「完全に浮き足立っております。このまま受け身で要塞まで押し込まれたらモラルハザードを必ず起こすでしょう」

 

逃げ出す程度ならば可愛いものだが、最悪錯乱して暴れられたりなどしたら大事だ。何しろ彼等の乗るゲルググはビームライフルを装備しているのだ。誤射などされてはたまったものではない。

 

「…解った。では大尉の隊に頼もう」

 

「とは言え早めにマレーネ嬢を連れ帰って頂けますと幸いです」

 

「ああ。フレデリックとルロイは待機、エルメスとジオングの護衛だ。マレーネ中尉は私が連れ帰ろう」

 

「未確定ですが同宙域に木馬が向かったとの報告も来ております。お一人では危険では?」

 

オペレーターの言葉にシャアは一瞬考えるそぶりを見せるが、直ぐに頭を振った。

 

「ならば尚のこと私一人が良いだろう。それが最も速いからな」

 

そう口にはしたものの当然その意図は違う。このタイミングで木馬、正確にはガンダムと接触して説得する事を画策したのだ。

 

(その為には一人の方が動きやすい)

 

元の身分を明かせばラル大尉の説得は難しくない。だが監視役も兼ねているだろうルロイ曹長と因縁のあるフレデリック曹長は少なくとも協力することはない。ならば説得の場からは遠ざけておくのが賢明だと彼は判断する。そして事実リックドムに搭乗する二人に比べ、カスタムされたゲルググに乗る彼は倍近い速度で動くことが出来る。言い訳としては十分であり、事実誰もが疑問を持たずに頷いてくれる。唯一シャリア・ブル大尉だけは少し複雑な表情をしていたが、NTと言っても感受性の低い彼はこちらの意図を察するまでは出来ないようで口を挟んでこない。

 

「よし、では直ぐに出る。待機組は今のうちに十分休んでおけ。この戦いは長くなるぞ」

 

そう命じつつ彼は自分の機体へと向かいどの様に説得するかを考える。だがそれが甘い判断であったと彼が思い知るのは直ぐ後だった。




グロムリンじゃないんだ、ゴメンネ。
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