WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


85.0079/12/31

「この野郎!」

 

オプションを展開しつつ俺は回避と防御に徹する。振り分けられた3基のビットの内、2基はオプションと追いかけっこをしているが、残りの1基はこちらを狙っているからだ。無理をすれば落とせない事はないが、目の前のMAはまだ多くのビットを抱えている。ビグ・ザムに比べて運動性は低いのか殆ど動かないので試しにシールドの90ミリガトリングを撃ち込んでみたが、案の定傷一つ付かない。最低でもフィフティーンキャリバー辺りを撃ち込んでやる必要があるだろう。

 

「このっ、良くも中尉と曹長を!」

 

「当たらないっ!?」

 

そら相手はNTだからな。

 

「アムロ准尉相手だと思え!何時ものヤツだ!」

 

「「は、はい!」」

 

この時代のビットはまだかなりデカいし、同時運用数も一桁だから辛うじて防御が間に合う。そして操作は完全にパイロット依存なので、所謂正確で嫌らしい射撃は余程訓練を積んだエースでなければ不可能だ。その意味で目の前の敵はNT能力はともかく兵士としての練度は今一と言えるだろう。逃げに徹しているとはいえ、Gファイターを3基のビットで攻撃していてエリス准尉が逃げ切れているのが良い証拠だ。

 

「とにかく粘れ!墜ちなけりゃ俺達の勝ちだ!」

 

無線方式のサイコミュ兵器は一つだけ問題がある。空間全体に展開しているビットそれぞれに指向性を持って情報伝達が出来ないということだ。これはNT同士の場合丸聞こえの状態でビットに指示を出しているに等しく、相手にしてみれば何処からどの様な攻撃が来るか容易に解ってしまう。まあ攻撃される側もNTである事が前提なので大した問題だとは考えられなかったか、ジオンのNT兵の練度的にNTであっても飽和攻撃の対処は不可能だと判断されたのだろう。全く甘いとしか言えない判断だ。

 

「軍人なら最悪も想定しなきゃだろっと!」

 

何度もビームを受けたためにいよいよシールドが限界を迎えつつあるが、それでも俺は口角を吊り上げた。何せ解りやすい殺意を無分別に振りまいているんだ、最強と最高のNTがそれに反応しない訳がない。だが俺が余裕ぶっていられたのはそこまでだった。

 

「容赦ねえな!?」

 

展開している6基のビット。最初は俺とエリス准尉にそれぞれ振り分けられていたそれが入れ替えのタイミングで全てこちらに向かってくる。避けられない方から確実に仕留めようと言うことなのだろう、中々賢いじゃないか。

 

「この戦場に居るのが俺達だけならな?」

 

致命傷をギリギリで避けながら懸命に機体を操作しつつ、それでも俺は笑う。上官の苛立ちや不安は部下に想像以上に伝わるものだ。だからそんな顔は絶対に出来ない。狭いコックピットへ一緒に押し込められていれば尚のことである。そして6回目の射撃を避けた所で、待ちに待った瞬間が訪れる。

 

「こっからはこっちの番だぜ!」

 

最初に犠牲になったのは護衛と思わしきギャンだった。俺へビットが集中した分、フリーになってしまったエリス准尉を牽制しようとしたのだろう。Gファイターを追いかけだした無防備な背中に無慈悲なビームが突き刺さる。ほぼ同時に着弾した2発のビームによってコックピットを正確に撃ち抜かれたギャンが使い手を失ったまま僅かに空走し爆発した。続けて俺を襲っていたビットの内対処出来ていなかったものの一つが、同じように被弾する。

 

『よくもっ!』

 

通信回線に激昂したララァ少尉の声が入る。俺達が追いかけ回された事に腹を立てているようだ。敵を前にして感情を乱すことは兵士として褒められた事では無いが、仲間を思っての言葉に少し感動してしまった。まあ言葉には出せないが。

 

「ソロモンのデカブツモドキだ!ビームは至近距離で撃て!」

 

隊長として先ずそう通信に向かって叫ぶ。オールレンジ攻撃の獲得で防空能力は確かに向上しているだろうが、あの機体にはまだ課題が残っている。それはビットが本体の対空砲を兼任していることだ。これも恐らく前述した無線式サイコミュの問題点と同じく、問題にならない問題と判断された部分だろう。何しろあのデカブツに直接攻撃を加えるには、ビットによるオールレンジ攻撃を突破して近付く事が求められるからだ。普通に考えるならそんな事を想定する方が馬鹿らしいだろう。本体の火力も含めればMS1個中隊を余裕で超える包囲攻撃を回避しつつ、極めて危険な敵機に肉薄する等という無茶苦茶を実行するだけでも正気の沙汰ではない。だがそんな理不尽を可能にしてしまう存在がここに居る。

 

『な、なんで!?』

 

混線した通信に敵MAのパイロットの悲鳴が響く。そりゃそうだろう、包囲攻撃を回避するどころか展開されているビットを撃ち落としつつ接近してくる敵機など、恐怖の対象でしかない。そんな奴が2機も居れば、十分に訓練された兵士だって動揺する。それが能力だけで放り込まれた小娘では結果など推して知るべしと言う奴だ。案の定接近する二人に気を取られてエリス准尉だけでは無く俺に対してもビットの攻撃が止まった。何しろ全力を注いでも二人の突撃は止められないし、止められなければ無防備な本体を好き放題攻撃されてしまう。対空砲であるビットを切り離して運用する都合上、切り離した分は本体の防空能力が低下するからだ。しかも単純に突破するのではなく撃墜までされてしまっているから、オールレンジ攻撃を維持するために本体の火力をすり減らさざるを得ない。残念だが完全に詰みと言う奴だ。だがそこで容赦するほど俺は甘くない。

 

「素人を戦場に出すなら、それなりの使い方があるだろうに」

 

サイドスカートに取り付けられているキャノンを起動し照準する。本来バックパックに装備されていた360ミリロケット砲は対艦戦闘用のものだ。弾速・命中精度共にお察しという武装だが、威力だけは一級品だ。ビグ・ザムモドキは艦艇に比べれば機敏だし、サイズも少しばかり小さいが大した問題では無い。

 

(尤も、ぶっつけで使うにゃ心許ないが!)

 

設計上は別装備の照準器によって統制、更に本体にしっかりと固定された状態で運用する武装だ。

 

「いけ!」

 

対艦ミサイルにもある程度耐える装甲を持っているのを俺は原作知識で知っている。だから狙うならバーニアか馬鹿でかい主砲なんだが。

 

「クソ!外した!」

 

飛び出したロケット弾は砲口から逸れてMAの装甲に命中する。そして知識通り装甲を損傷させたものの、機体には被害を出せなかった。

 

『まだ!』

 

だがオールレンジ攻撃から解放されたのは俺だけじゃ無い。旋回して戻ってきたエリス准尉がビグ・ザムモドキに向かってミサイルを発射する。量産型のものと違いMS用のものを転用した彼女のGファイターに装備されたものは小型で威力も低い。だがそれでも連続で発射された16発ものミサイルは敵の集中を削ぐには十分過ぎる働きをした。

 

『雑魚のくせに!?』

 

残念だったな。意識を向けなきゃいけない時点でお前さんにとって俺達は雑魚じゃなく厄介な敵なんだよ。それにしてもこんな部隊運用をしているようならジオンもそろそろ限界なのかもしれない。こいつは確かに強力な機体だがたった一機の護衛で防衛線を構築出来るほどではないし、何よりビグ・ザムがソロモン戦で撃破されたようにこの程度の機体では多勢に無勢という状況を覆すには力不足だ。それが解らない程連中が無能とは思えないから、つまり解っていてもそうしなければならない状況なのだろう。

 

「残念だな、もう詰みだぜ!」

 

俺達にも意識を割いた時点でこの決着は必然と言えただろう。オールレンジ攻撃の統制が緩んだ状態で2機のガンダムを止められるはずも無く、あっさりとIフィールドの内側に侵入されたビグ・ザムモドキはまるで原作を彷彿とさせるようにバーニアへビームライフルを撃ち込まれて火を噴き出す。だが唯一違ったのは爆発を起こし始めた瞬間、コックピットと思わしき部位が装甲を爆ぜさせながら分離したことだった。

 

「逃がすな!確保しろ!」

 

しかし俺の命令は残念ながら実現しなかった。撃墜ではなく捕縛を指示したせいでアムロ達の動きに一瞬躊躇いが生まれ、その隙を縫うように赤いゲルググが突然現れてビグ・ザムモドキの脱出装置に取り付いたのだ。更に遅れてやって来た多数のMSがこちらへ向けて砲撃を開始したものだから、その対処に手が塞がれてしまう。機動性に優れたガンダムが本隊と離れすぎたのが原因だ。

 

「クソ!せめて撃墜をっ!」

 

『無茶しないで下さい大尉!』

 

逃げる赤いゲルググを追いかけようとした瞬間、ララァ少尉にそう窘められる。実際問題として敵部隊を突破しながら逃げに徹する相手を追いかけるなど現実的ではない。何より俺達はここを確保する事が最優先なのだ。

 

「畜生め!」

 

こうして俺は、シャア・アズナブルという存在を葬る最高の機会を失ったのだった。

 

 

 

 

「ビグ・ザムが撃墜されたな。部隊の統制が取れていないようだが?」

 

Sフィールドへの親衛隊投入を検討しながら、ギレン・ザビ大将はキシリア・ザビ少将に向けてそう口を開いた。

 

「…はい」

 

戦闘は概ねギレンの想定通りに推移していた。戦力的に見ればかなりの接戦を演じているように見えるが実情はそうではない。遠征によって軍の上層が艦艇に座乗している連邦軍は、この戦いで多くの上級士官を失っている。対してジオンの損害は前線の兵士のみであり、軍を運用する側の人間には殆ど受けていない。その差はこの戦いが終わった後にも大きく影響する。

 

「所詮衆愚政治の軍隊だ。最早連中の勝ち目は潰えたな」

 

民主主義国家において、戦うのは軍人であるが戦争の意思決定は政治家が行う。故に彼等を満足させられるだけの戦果か継続を認めさせるだけの何かを用意出来ない限り、幾ら軍が次は勝てると確信していたとしても政治家が首を縦に振らねば戦えない。そしてレビルと言う圧倒的な旗頭を失った連邦軍を統制し、尚且つ政治家を動かせるだけの交渉が可能な軍人を連邦軍が有していない事をギレンは良く知っていた。

 

「ふふふ、圧倒的じゃないか」

 

対してジオンは違う。ギレン・ザビが全てを握るこの国家は、あらゆる事柄が一人の意思決定によって行われるためその動きは極めて迅速だ。公王を失った今では儀礼的な遣り取りすら省略可能となり、その速度はさらに加速する。この戦いによる喪失の補填についても、既に彼の頭脳は導き出し終えている。

 

(やはり人類は優良種たる存在に管理運営されて、初めて真の幸福に至れるのだ)

 

持論の正しさを改めて確信しつつそう呟く彼の後ろで、唐突に不穏な物音が発せられる。視線を送ればそこには腰に吊していたレーザーガンを手にするキシリア少将の姿があった。それが自らに向けられている事を自覚した瞬間、彼は彼女の余りの愚かさに思わず笑みをこぼしてしまう。

 

「冗談は止せ」

 

キシリアは決して無能ではない。自身やサスロには劣るが優秀な部類だ。だがその差が埋めがたい差である事も彼には良く解っていた。キシリアの手腕ではジオンを御し得ない。それは彼女自身も理解出来ているとギレンは身内を過大評価していたのだ。それが致命的な失態となる。

 

「意外と…、兄上も甘いようで…」

 

それが彼の聞いた最後の言葉となる。後頭部から侵入したレーザーは素早くギレンの脳髄を焼き焦がし、彼をただのタンパク質の塊へと変える。人類史上最も大量の殺人を行った指導者はこうして呆気ない最後を迎えたのだった。




悪運の強さがシャアの持ち味(偏見)
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