いんたーみっしょん回。
「ヒューマンエラーによる制御ミス、ですか」
タブレットに表示されるニュースを眺めながら俺はそう口にした。ジオン残党による月面のマスドライバー施設制圧、そこから質量弾が地球へ向けて放たれたのだ。尤も質量弾の方は軌道上に構築されていた迎撃システムによって破壊、制圧していた残党も追撃していた特務部隊によって無事鎮圧されたようだ。但し一時的であっても重要施設がジオン残党によって制圧されたという醜聞を隠蔽するために、今回の事件は事故として発表されたのだ。
「只でさえ終戦で予算を削られているからな。これ以上の醜聞は避けたいのだろう」
「予算不足だから十分な対応が取れていないとは思わないんですかね?」
机で書類仕事に励む上官に向かって、つい皮肉が漏れてしまった。
「難民保護にコロニーの再建、地球環境の再生と今の連邦政府は幾ら金があっても足りない状況だ。正規軍ならともかくテロリスト相手に予算不足を口にすれば無能の誹りは免れんだろうな」
書類仕事を終えたエルラン中将が持論を展開しながらマグカップに口を付ける。
「善人気取りもいい加減にして欲しいものだ。半端に甘やかしたところで連中は感謝もしなければ反省もしない。只不満を募らせてまた間違いを繰り返すだけだろうに」
「自分もそう思います」
終戦に関する連邦政府のジオン共和国に対する対応は率直に言って中途半端に過ぎた。どこぞの眉無し独裁者が口にした腐敗した民主主義を見せつけられた気分である。
「賠償金は一年であっさり全額支払いを終え、後は悠々と国力回復に勤しんでいるようですね」
先日など戦争難民を受け入れるなどと連邦政府に打診してきたらしい。中々の厚顔ぶりだ。
「仕方あるまいな。民主主義国家とはそういう国だ」
ソロモン及びア・バオア・クー要塞こそ接収したものの、連邦政府はジオン本国の資産については何一つ差し押さえなかった。その結果がジオニック社の身売りという事態を引き起こす事になる。連邦より10年は進んでいると嘯かれたMS関連の技術と生産設備はそのまま月の企業であるアナハイム・エレクトロニクス社が購入。ジオン共和国の国家歳入2年分を軽く超えるその買収金によってジオンは早々に賠償金を支払い終えた。そして少なくない資金がテロ組織に流れている。
「表向きは海賊による被害、内実は護衛も付けずに航行していた輸送船がそのまま拿捕されていると。抗議は出来ないんですかね?」
「しているよ?ならば護衛のために軍備を拡張させろと言われて取り下げた様だがね」
因みにそれがダメなら連邦軍を無償で貸せと言われたらしい。あの国本当に敗戦国か?強気すぎるだろ。
「今回の一件で第3軌道艦隊が随分と功績を上げた。また暫く軍内も派閥争いで忙しいだろう」
第3軌道艦隊と言うとコーウェン少将の所か。多くの特務遊撃部隊を傘下に置いていたから残党狩りに重宝され、戦後の功績では頭一つ抜けている。
「閣下は派閥を立ち上げられないのですか?」
「解っていて聞いているだろう?」
仮にも連邦軍中将にまで昇った人物であり、戦中もオデッサ作戦でレビル将軍の副司令を務めた程の人物である。派閥を立ち上げるには十分過ぎる実績と功績を持っているのだが。
「閣下は人望がありませんからなぁ」
「せめて自身の身の丈を知っていると言え。それに私は楽に甘い汁が吸いたいのであって、権力そのものに興味は無いのだよ」
そう言って鼻を鳴らすエルラン中将。実に俗物な発言であるが、多分この位がこの基地の司令官には丁度良いのだろう。
「だから栄転も甘んじて受け入れる訳ですか」
「ジャブローのオフィスは息が詰まるのだよ。ここの景色は気に入っている」
派閥闘争の最前線であるジャブローは確かに高官にとって忙しい場所だろう。適当に仕事をしている振りをして給料泥棒をするには向いていない。
「それは紹介した甲斐がありました」
戦争末期、所属不明の部隊に襲撃されオーガスタ基地の司令官が死亡した。本来ならば連邦軍総司令部が新しい基地司令を派遣するのだが、そこに俺がちょっかいを掛けたのだ。ジュダック大尉から渡されていた私的通信を使ってエルラン中将にこの基地で後ろ暗い事が行われていたことを伝えたのである。関連していた人物の弱みを握れると中将は嬉々として基地司令に収まる。誤算があるとすれば一番弱みを握りたかったであろうレビル将軍が宇宙の塵になってしまったことだろう。ただ現状で十分過ぎるほど利益を得ているようであまり不満はないようだ。
「さて、世間話も良いがそろそろ貴様の占いも聞きたいところだ」
戦後、第13独立部隊は最大の後ろ盾だったレビル将軍を失った。第3艦隊司令を務めていたワッケイン少将もア・バオア・クー攻略戦の終盤、アナベル・ガトーの駆るゲルググによって乗艦ごと吹き飛ばされてしまった。結果多少でもつながりのある高官はエルラン中将だけとなり、彼を頼らざるを得なかった俺は占い師の真似事をしてご機嫌を取っている。
「これで1~2年程大きな騒ぎは起きんでしょう。ただそうなると点数稼ぎの方法を失う連中がいます。ワイアット大将の派閥が艦隊再建を掲げていますから、これに対抗する計画辺りを提言してくるでしょうね」
「成る程、その為に例の技術士官を引っ張れと?」
「ついでにアナハイムが軍需方面での影響力を持ちたがると思います。折角手に入れたMS技術ですから、元を取れるだけ取りたいのが商人というものです。ですがあまり民間企業が力を持つべきではないと小官は愚考します」
「M・ナガノ博士だったか?そちらも技術士官として迎え入れるよう動いている」
うんうん、大変結構。
「肩入れするならワイアット大将でしょうね。派閥の統制も十分出来ていますし、何より現状の体制維持を望んでいます。地球連邦に長生きして欲しいなら彼がトップに居るのが望ましいでしょう」
「コリニーも居るが?」
あの爺さんやる気が足りねえんだよ。
「残念ですが功績が今一つですし、少々陰謀に頼りすぎるきらいがあります。ああいう手合いは相手を絶対に信用しませんから恩を売っても見返りは少ないですね。使い倒されるのがオチです」
そもそもあそこにはジャミトフが居るからな。あの過激派エコロジストに近付くと絶対ろくな事にならん。
「コーウェンの所はどうする、放置かね?」
「計画を競合にしてやれば多少は牽制になるでしょう。可能ならば監視の鈴も付けられれば言うことがありません」
「成る程な。検討しよう」
エルラン中将の言葉に頷くと俺は席を立つ。
「では失礼致します」
「ああ、しっかりと勉強してきたまえ」
そんな声に見送られながら俺はオーガスタ基地の通信室へと向かう。戦時中に面白がって昇級させられた結果、戦後俺は少佐になっていた。否、正確には少佐になることが内定していると言うべきか。おかげでこの一年は佐官になるための勉強で殆ど潰れてしまった。フィジカルも脳味噌も恵まれていたこの体でなかったら今頃ノイローゼくらいなっていたかもしれん。
「あ、隊長」
「おう、そっちもか?」
通信室に入ると、問題集相手に悪戦苦闘する部下達の姿があった。アムロを筆頭にカイやハヤトといった未成年組が通信教育でハイスクールの授業を受けているのだ。因みにセイラ兵長は医療資格を取るために現在軍と提携している病院で研修中、ジョブ准尉を筆頭に下士官組も士官教育を受けている。
「大尉と少佐だと年金の額が全然違うぞ?」
あまり乗り気で無かったようなのでそう説明したらハヤトがやる気を出し、それに釣られる形で二人も取得する気になったようだ。他の連中も似たり寄ったりだが、一際重い空気を放っているのがブライトだ。俺は黙って砂糖とミルクを大量にぶち込んだコーヒー風砂糖水をマグカップに作ると彼の机に静かに置く。俺達の中で一番悲惨なのは間違いなく彼だろう。士官学校を速成で卒業した上に終戦までの功績でよりにもよって中佐に昇進してしまった彼は正に地獄のような詰め込み教育を受けている。ホワイトベースの艦長は続投なので申し訳ないが頑張って欲しい。
「大尉!ダラダラしていないで早く席について下さい!時間は有限なんですよ!」
「はい、すみません」
ララァに叱られる俺に生温かい視線が集中した。畜生見世物じゃねえぞ!?
「大尉?」
「ハイ、スミマセン」
宇宙世紀0081、俺達はつかの間の平穏を謳歌する。だが次の戦いは確実に迫っていた。
賠償請求が高いとか言っている人が散見されますが、本来戦後の賠償は戦争で生じた損害に対する補償です。4つのサイドの破壊されたコロニーと失われた人命、そしてコロニー落としに始まり地球に与えた甚大な被害に対する補償。そして当然戦費もここに含まれます。正直これが幾らになるかなんて矮小な作者には想像もつきません。
しかも大虐殺のせいで個人への賠償が少なくなっている分、政府に対する賠償のみになっている分まだ穏当な金額です。やったねジオニスト共、賠償金が減ったよ!
そしてはっきり言ってジオンの国家歳入2年分なんてこの補償金額に対して間違いなくカスです。更にジオニックがアナハイムに身売り出来ている点から考えるに、本国の技術や資産について差し押さえされていません。つまり人的資源以外にジオン本国が被った損害は無いと言えます。
この終戦交渉に参加した連邦政府の高官とか普通に連邦側の遺族にテロで殺されるんじゃないですかね?