RX-75ガンタンク。地球連邦軍が初めて開発したMSである。開発そのものは型番の示す通り大戦勃発以前より進められており、その頃の運用思想を色濃く残す機体である。衛星や観測機とのデータリンクを前提とした主砲の射程は240キロメートルにも及び、それに見合う長砲身を備える。下半身は二足歩行の未成熟と走破性能に対する不信感から無限軌道を採用。腕部も戦場における武装の交換などは想定されなかったことから、火器内蔵式の物が選定された。結果出来上がった物はV作戦責任者である某地球連邦軍総司令をして“強い戦車”と言わしめる機体であった。
「コイツは元々V作戦始動時に開発チームごと合流してきた機体でね。開発期間短縮と早急に周囲を納得させるための成果物としての役割を押付けられたと言う訳だ」
ルナツーの工廠に運び出され、分解されるガンタンクを前にテム・レイはタツヤ・キタモト中尉に向かってそう話し掛ける。
「これをMSでございとお歴々の前で発表するのは肝が冷えたね。何せ見ての通りの姿だろう?案の定でかい戦車だなんだと言われたい放題だったよ。まあ、何一つ間違っちゃいない指摘だったんだがね」
そう言ってテムは無残にも切断されるタンクを愉快そうに眺めて言葉を続ける。
「幾つかの技術に関してはテストベッドに出来たが、そもそも人型からはかけ離れているものだから後の機体の参考には全然ならなかったね。鹵獲機の模造品、ザニーだったかな?アレの方がよっぽど役に立ったくらいさ」
「それでこれはどう言うんです?」
作業員達の手によって手際よく改造されていくガンタンクを同じく眺めるキタモト中尉がそう問うてくる。テムは機嫌の良い声で応じた。
「元々コイツはコアブロックシステムを採用する予定が無かったから、動力を全て下半身の融合炉によって賄っている。つまり腹の中のコアファイターを取り外してしまっても運用上問題無い訳だな。だからこれらからコアファイターを取り出して運用すれば即席ではあるが3機編成の飛行隊が利用出来る」
そう説明するとキタモト中尉は頷きかけるが、それならばと更に疑問を口にする。
「ではこれは何を?コアファイターを取り出すだけにしては随分な騒ぎですが」
「ああ、操縦系統を単座に変更する必要があるだろう?どうせなら以前から挙げられていた問題も改善してしまおうと思ってね」
「改善ですか?」
キタモト中尉の言葉にテム頷く。
「空間戦闘能力の是正に攻撃範囲の改善だな。以前からしつこく言ってくる輩がいてね」
心当たりがあるからだろうキタモト中尉は微妙な表情になる。タンクに搭乗経験があり、開発陣に遠慮会釈もなく改善提案をしてくるなどあの少尉しかいないからだ。
「折角スペースが開くのだからできる限りはしてしまおうと言うわけだ。幸いそれなりに時間は貰えたしここには資材もある。十分ホワイトベースの追加砲台くらいにはなる」
修復の見込みが立たず放棄されている戦闘機や艦砲用のターレットや武装がルナツーには大量に放置されていて、これら廃材の使用許可は取っている。更に言葉の上では大したことが無いように聞こえるがガンタンクの戦力化は重要な意味を持つ。コアファイターと共に母艦の直掩をこれらで賄えるならば、残るガンダムとガンキャノンの運用に対する自由度が大幅に広がるからだ。何よりMSよりも戦闘車両に近いタンクは操縦難易度が低いし、コアファイターはそのまま戦闘機だ。宇宙軍に所属する兵士ならば最低限スペースランチの操縦について学んでいるから飛ばす程度なら誰にでも出来るし、教育型コンピューターを搭載しているが故に現在のコアファイターは既に多くのデータを蓄積済みだ。流石にMSを直接相手取るのは難しいが、ハラスメント程度ならば問題無く行えるだろう。
(問題はガンタンクに教育型コンピューターが未搭載となってしまうことだな)
教育型コンピューターの恩恵は何も操作性だけでは無い。パイロットへの恩恵と言う意味では寧ろ戦闘中の情報収集能力の方が大きいだろう。敵情報を解析しつつ常時動作を補正する機能は、量子コンピュータの反応速度も相まってその場で劇的な成長を見せる。無論それは射撃にも影響が出るため、砲撃精度はどうしても低下してしまうのだ。元々搭載されている制御ユニット側にデータの移行はしているものの、これは旧式の物なのでとてもではないが随時の成長など望めない。ソフトウェア側の不足はハードウェアの性能向上で補う必要があった。
「とにかく最善を尽くそう。我々はまだやらねばならない事があるのだからね」
「シミュレーターで訓練って、俺達にも戦えって事かよ!?」
動揺した声音でそう叫ぶカイ・シデン一等兵に俺は頷いて笑って見せる。
「端的に言うとそうなるな。まあどうしてもイヤだというなら戦わんでもいい」
俺の言葉に驚きの表情を浮かべる候補者達。それはそうだろ、適性を考慮して集めたが嫌々やっても良い結果になるわけがない。なら多少最初の技量が劣ってもやる気がある奴の方がずっと良い。
「まあでも戦わないなら文句は無しにしてくれよ?」
「文句、ですか?」
解りにくかったか?
「戦力が足りずにホワイトベースが沈む時は、黙って一緒に死ねって事だ」
理由はどうであれ軍服に袖を通し、飯を食ってしまった以上そうする義務が彼等には発生してしまう。全く、地球連邦軍はいつからこんなヤクザな組織になってしまったのだろう。案の定カイが皮肉を口にする。
「へっ、やけに良い顔してると思えばこう言う事かよ。戦わなきゃ大人しく死ねってか?」
「はっはっは、当然じゃないか。このご時世無料の善意なんて有るわけ無いだろう?それに君達は自分の意思で制服に袖を通した。ならば権利に付帯する義務も果たすべきだ」
「だまし討ちみたいなやり方しておいてよく言うぜ」
まあそうだよね。
「その点については否定出来んね。だから選んでいいぞ?戦って死ぬか、黙って死ぬかだ」
「生き残る道が無いんですが」
苦々しい声音でハヤト・コバヤシ一等兵がそう口にする。仕方あるまい、それが軍人という職業だ。恨むなら戦争なんか吹っ掛けてきたジオンに言ってくれ。
「運が良ければ死ぬ前に戦争が終わってくれるさ。そのためにはやれることは多い方が良いし、全体の戦力が向上すればそれだけ自分も生き延びられる確率が上がる」
その為に人は組織を作って戦うんだからな。
「質問宜しいかしら?」
「ああ、ええと、セイラ・マス一等兵だったか?なんだ?」
言葉遣いが上官に対するそれではないがそこは目を瞑ろう。正規の訓練を受けていない奴には刺激が強すぎる。
「ここには正規兵の方も沢山いらっしゃると思うのですけれど、そう言う方を置いて私達が訓練を受ける理由は何故でしょう?」
ごもっともな意見だね。
「我々がジャブロー、連邦軍の本拠地に戻ろうとしていると言う事は知っているね?」
「はい」
「ではこの基地の現状だ。ルナツーは地球連邦軍に唯一残された宇宙の拠点だが、現在完全に孤立している。なにせ軌道上の制宙権は取ったり取られたりの繰り返しだ。安定した補給線の確立なんて出来たもんじゃない。そしてその制宙権の取り合いをしているのは外でもないこのルナツーの部隊だ」
軌道上に陣取る相手に地上から戦力を打ち上げて戦うなんてはっきり言って自殺行為だ。ホワイトベースのようにミノフスキークラフトを装備した艦艇が大量にあれば話は変わるが、コイツは主力戦艦のマゼランと比較しても遙かに高額なのだ。必要な数を揃えている内に軌道上がジオンの戦力で埋め尽くされてしまう。そして軌道上の制宙権を明け渡してしまえば地上に居るジオンの部隊へ補給が回ってしまう。漸く兵站の不足で連中が進撃限界を迎えたというのにだ。そして今息を吹き返されては、迎撃出来るだけの戦力が用意出来ていない連邦軍はいよいよ追い詰められるだろう。だから何としてもハラスメントは続けなければならない。
「戦略的な価値で言えば、我々よりも彼等の任務の方が重要なんだ。だからルナツーから戦力は抽出出来ない。これで質問の回答になるかな?」
つまり我々は自分の身は自分で守るしかない訳だ。貧乏暇無しという奴である。尤も原作よりは随分とマシなわけだが。
「理解しました。つまり生き延びたければ戦う事が最善と言うわけですね?」
「南極条約があるから、戦わずに降伏するという手段もあるな。…民間人しかいないコロニーへ核攻撃をするような連中が信用出来ればだが」
俺の言葉にキム・ヨンファ兵長が露骨に顔を顰めた。そういえば彼女の故郷はサイド5だと聞いている。
「すまん、無神経な台詞だったな。さて俺から言うべき事は言ったが、どうする?」
そう聞くと、まずキム兵長が無言で一歩踏み出した。彼女は正規の軍人だからまあそうなるだろう。
「こんな所で死ぬわけにはいきませんから」
そう言って参加を表明したのはセイラ・マス一等兵だ。原作と同じく行動的な性格らしい。この様子だと、サイド7での遭遇を果たしているかもしれないな。
「あの艦に沈まれると困りますから」
そう眉を寄せながらハヤト一等兵が進み出る。残されたカイ一等兵は拗ねた顔で口を開いた。
「ここで俺だけ逃げたら完全に悪者じゃねぇかよ。汚えぜ」
「それは否定出来んが、こちらにもそれなりの言い分はあるぞ?」
「へえ、少尉様はどんなご高説を語って下さるんで?」
うん、その内話し方は矯正させよう。このままだと余計なトラブルを起しかねん。まあ、今はやる気を出させるのが先決だ。
「軍人、それも兵隊なんてのはリアリストだ。楽観や理想で物事を進めてツケを払うのは自分だからな」
俺はカイ一等兵に向かって正面から言い放つ。
「だから俺達は、出来ると思ったことしかやらん。お前さん達を選抜したのも、お前達なら出来ると確信しているからだ」
「…口じゃ何とだって」
まだそう愚図るカイ一等兵に向かって笑いながら応じる。
「言えると思うか?俺はお前達に背中を預けるんだぜ?」
今度は憎まれ口が返ってこなかった。
百合ガンダムだと思って見てたら乙女ゲーガンダムだったでござる。
そう考えると、
スレッタ:田舎(水星)から来た特別(超強い)な一般人
とか主人公テンプレバリバリじゃねえか、いや主人公なんだけども。
これは次週も楽しみだぜ!