WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


0083編
90.0083/09/05


「良くもまあこんなものを恥ずかしげも無く渡してくるものです」

 

格納庫に搬入された機体を見上げながらロスマン中尉が不平を漏らす。その視線の先には装甲をオレンジに塗られたジム改が搬入されていた。バックパックは大型の物に差し替えられ、脚部も一部部品が交換されている。原作知識を持っている人間からすれば、この機体をこう呼ぶだろう、パワード・ジムと。

 

「推力は原型機の30%増し。だがそれ以外は変更された様子が無いな、アナハイムの連中は我々に喧嘩を売っているのかな?」

 

データを確認していたテム・レイ少佐が口元を歪めながらそう評した。言わんとしている事は良く解る。ジム改はここオーガスタ基地の技術陣が戦中に乱立してしまった各生産拠点独自規格のジムを統合調整したモデルだ。その性能は正しく量産機に相応しいもので、良好な整備性と生産性にパイロットを選ばない操作性を持つ。更に十分な拡張余裕を確保する事で改修による長期的な運用も可能としている。特にレイ少佐とホワイトベース整備班の功績は大きく、戦中に多機種を整備させられた悪夢のような職場環境に関するレポートは同機に多大な影響を与えたと言える。事実ベース機となったジムC型と比較して整備性は向上させつつ、機体性能も僅かではあるが上回っているのだ。そんな苦心の結果に生み出した機体を適当に弄られれば不平の一つも言いたくなるだろう。

 

「推力は上がっていますがその分機体重量も増加していますね。AMBAC性能はむしろ低下していますから活動時間は低下しています。この変化は地上での運用時は特に顕著になるでしょうね。バランスもトップヘビーになっている分白兵戦能力も下がっています」

 

はは、散々な言われようだな。所でこれからこいつは俺の愛機になるんだが?

 

「オーストラリアに持って行くまでに多少弄っても構わんだろう。その辺りも期待してこちらに送っているのだろうしな」

 

「良いんですか?」

 

「ここ独自の技術は使わんよ。あくまで公開されている範囲での調整だ」

 

さらっと嫌らしい事を言いつつレイ少佐は口角を上げる。公開されている技術って事はアナハイムでも閲覧出来るし、なんならコーウェン中将から技術開示されているだろう。つまり同じ土俵で性能を引き上げたとなればオーガスタの技術力をアピール出来るということだ。

 

「本当なら試作機を持って行ければ良かったんだがな」

 

「またやってるんですか?あの二人」

 

「なに、技術者のコミュニケーションのようなものだ。気にしなくて良い」

 

その言葉に恐らく隣の格納庫で言い争っているであろう二人を思い浮かべる。ナガノ少尉とフランクリン中尉が合流したことでオーガスタ基地でもコンペ用のMSが開発されている、勿論機種はガンダムだ。問題はナガノ少尉は研究者気質が抜けておらず、フランクリン中尉は人の話をあまり聞かないことだ。二人が協力して機体を開発出来ているのはレイ少佐の存在が大きい。まあガンダムの生みの親だからな、MS技術者にしてみれば神様みたいなもんだろう。

 

「例の君が言っていた補助腕の本数とその構造で昨日は揉めていたな。ヒルダ少尉が研究している新構造材がものにでもならんとコスト的に勝負にならんから、そもそも搭載出来んのだが」

 

「そちらはまだ時間が掛かりそうですか?」

 

俺の質問にレイ少佐は嫌そうな顔をする。

 

「新素材の開発なんてものは年単位のスパンが必要になる物だよ。むしろ素人の思いつきが形になりそうな事の方が異常なんだ。…予言も程々にしておかんと危ないぞ?」

 

伝えたのはマイクロハニカム技術に関するアイデアだ。ミノフスキー粒子の格子構造を素材内に封入する事で飛躍的に強度を高めるこの技術は、第二期MSの根幹技術である。年代的には色々すっ飛ばしているし実用化されるのは本来40年近く先なのだが、基礎技術がアクシズ由来のガンダリウムγは少なくとも84年まで地球圏に持ち込まれないし、それより高性能なサイコ・フレームは色々とマズイ。どちらにせよアレもアクシズに亡命したNT関連の技術者が開発しているので連邦軍が手に入れるのは困難だ。まあ、マイクロハニカム技術も基礎研究をヤシマ重工が密かにやっていたから、俺が告げ口した結果機密漏洩で大騒ぎになったらしい。ミライさんごめんなさい。現状はヒルダ少尉とヤシマ重工から出向してきた技術者で研究を行っている。

 

「プロトタイプなら出せるが」

 

「グリーンリバー少尉じゃなきゃ動かせんような機体じゃいかんでしょう」

 

プロトタイプとはNT-1をベースに、現在の技術で出せるだけ性能を出したらどうなるかを検証した機体である。カタログスペックで言えば現在どころかグリプス戦役時代のMSすら凌駕しているが、如何せん制御系と耐G系統が微塵も追いついていない。肉体を外科的に強化されている彼で無ければとてもでは無いが扱える物ではない。彼以外で唯一真面に動かせたアムロ中尉ですらじゃじゃ馬過ぎて乗りたくないと不平をこぼすくらいだ。そんなアムロ中尉は試作機のメインテストパイロットを務めている。

 

「レイチェル少尉達も乗れるぞ?」

 

だから普通のパイロットが使えなきゃ意味が無いでしょうよ。

 

「また廉価版の量産で妥協出来るならそれで良いんじゃないですか?まあその場合一般兵でも乗れるだろうアナハイムの機体が採用されるかもしれませんが」

 

「言うようになった。いや、元から君はそんな感じだったな。まあコイツは任せておきたまえ、多少は使えるようにしておこう」

 

「それにしてもなんでアレン少佐なんですかね?特務遊撃部隊を幾つも抱えてるじゃないですか。腕の良いパイロットなら自前で用意出来そうなものですが」

 

コーウェン中将の提唱するガンダム開発計画に横やりを入れ、アナハイム単独の開発からオーガスタ基地及び関連企業とのコンペ形式に変更したまでは想定内の流れだった。だがロスマン中尉の言う通り何故か俺がアグレッサー役として出向する事になったのだ。この辺りはワイアット大将からの牽制で、どちらかと言えば彼と共同歩調にあるウチの上官が承諾したという所だろう。

 

「一年戦争の英雄と言うのもあるが、彼はRX-78の開発に関わったテストパイロットの唯一の生き残りだからね。確かに意見が聞けるなら有り難いだろう。それに特務の連中は顔を売りたくないだろうからね。客寄せにはアレン少佐の方が都合が良いのさ」

 

「そんなものですかね?」

 

真相は上層部連中の頭の中だ。そして命じられれば否とは言えぬが宮仕えである。

 

「待てよ!ヨナ!」

 

「早く来いよカミーユ!」

 

「もう、待ちなさいよ二人共!」

 

「走ると危ないよ!」

 

大人達がそんな話をしていると格納庫の中を男の子達が駆けていく。その後ろを追いかけるように少女が二人続いた。レイチェル少尉達よりも更に年若い彼等を見てレイ少佐が顔を顰めた。

 

「ここは軍事基地であって託児所ではないのだがな」

 

笑いながらシミュレーターを手慣れた様子で準備する子供達に視線を向けながらそう零す。気持ちは解らないではないんですがね。

 

「ビダン家の両親は仕事人間ですから寧ろああしない方が拗れますよ。ヨナ達はここで囲わなければ子供としてすら振る舞えない」

 

「それも予言かな?」

 

「現状に対する正しい状況把握という奴ですよ」

 

カミーユ・ビダンは続編であるΖガンダムの主人公だ。幼少期に両親から放置されたという体験から情緒不安定な青年となった彼は、宇宙世紀0087年に勃発した連邦軍の内紛になし崩し的に巻き込まれた結果様々なものを失い、最後には人格崩壊まで起こしてしまう。正直家族に関心が示せない人間が家庭なんか持つなと彼の両親に文句を言ってやりたいが、今更遅いので次善の策を弄しているのだ。不幸にもこの基地には彼と年の近い子供達が多く在籍している上に、面倒見の良い年上の女性もかなり居る。卑怯ではあるが、両親が揃って生きているだけでも随分とマシなのだと自覚して貰えれば儲けものである。何せここに居る大半はヨナ達を筆頭にNTの検体として集められた孤児達だ。中には薬物による記憶障害で過去を一切覚えていない子まで存在する。当然生活能力なんて皆無だし保護者も居ない。ならばそうした施設に入れれば良いではないかと思うだろうが、残念ながらそれも難しい。NT研究は連邦軍内の各派閥で極秘に進められているから、放り出せば確実に彼等の手が伸びてくる。また最悪の場合、ジオン残党と繋がっている連邦軍人から情報が漏洩する事も考えられる。その場合間違いなく拉致洗脳された上でNT兵として投入されるのは避けられない。彼等の生命と将来を考えれば、この基地で囲うことは残念ながら現状における最善の選択なのである。

 

「我々は何時になったら戦後から抜け出せるのだろうな?」

 

レイ少佐の言葉に、俺は答えることが出来なかった。

 

 

 

 

「機は熟した」

 

謁見の間に飾られたギレン・ザビの胸像を見上げつつ、エギーユ・デラーズはそう呟いた。

 

「閣下」

 

その言葉に銀髪の男が内から湧き出る激情を抑えられぬ様子で応じる。その瞳に確かな狂気を孕みつつ、だが同様の狂人しか屯さぬこの地でそれを指摘出来る者は居ない。

 

「この地に拠を構えて3年、3年だ。遂に反撃の時が来たのだ」

 

ア・バオア・クーの敗北から3年。祖国が売国奴共の手に落ちたことを悟った彼等は、地球圏に留まり連邦と戦い続ける事を選択した者を糾合し、旧サイド5の暗礁宙域に独自の拠点を建造。連邦政府に対し限定的なゲリラ戦を仕掛けていた。

 

「今日この日をもって偽りの戦後は終わる。我々の手で連邦に裁きの鉄槌を下し、そして祖国を真のスペースノイドの手に取り戻すのだ」

 

銀髪の男、アナベル・ガトー少佐へと向き直り、力強い声音でデラーズはそう告げた。ジオン共和国内の同志も着実に増え、支援も日に日に増えている。ここで一手、連邦の醜悪なる真の姿を白日の下にさらしスペースノイドの目を覚まさせる。そして同時にその力を削げば、祖国は必ずやあるべき姿を取り戻すだろう。

 

「その為にはこの作戦、必ずや成功させねばならぬ。ガトーよ、あの日より預かった貴様の命、今ここで使わせて貰う」

 

その言葉にアナベル・ガトー少佐は感極まる表情で応じる。

 

「お任せ下さい。このアナベル・ガトー、星の屑成就のため不惜身命の思いです」

 

彼の返事にデラーズは強く頷く。あらゆる情勢が今まるで彼に行動を起こせと言わんばかりに整いつつある。それに気付かぬほど彼は愚鈍ではなく、そしてその行動の結果が自分にとって酷く都合の良い事だけを妄想出来る程度には夢想家だった。故に彼は自らの理想を実現するべく行動を起こす。

 

「これより我が軍は星の屑作戦を実行する」

 

その狂気が行き着く未来を知るものはまだ誰も居ない。




0083はーじまーるよー。
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