WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


91.0083/09/25

俺を乗せたミデアが滑走路へ着陸する。窓から見えるコロニーの破片が突き立った赤茶けた大地を見て、俺は目を細めた。

 

「お疲れ様です少佐殿」

 

ゆっくりと格納庫の方へ移動を始めると、ミデアの搭乗員がそう声を掛けてきた。人員の補充と再編が進んでいる連邦軍では、戦中と違いミデアのような輸送機でもパイロット以外に機上整備員や通信手などを乗せる余裕が出てきている。裏を返せば未だに巨額の軍事予算が承認される程度には地球圏は不安定だと言うことだ。

 

「そちらこそお疲れ。こんな面倒な荷物は気疲れしただろう?」

 

オーガスタから運んできたパワードジムはあくまでGP計画からすれば副次的な機体に過ぎないが、軍からすれば重要な検証機体である。普通ではない積み荷と言うだけで、運ぶ側の緊張も違うだろう。そう思って労えば、年若い少尉は笑いながら応じる。

 

「はい、いいえ少佐殿。一年戦争の英雄であられる少佐殿と同道出来まして光栄であります。…その、出来ればサインなど頂けませんでしょうか?」

 

ミーハーかよ。そもそも俺はアイドルじゃねえっての。

 

「別に良いが、俺は字が汚いぞ?」

 

言いながら手渡された手帳に名前を書き込む。そうしている間にミデアが停止した。さて、それじゃ行きますか。

 

「ディック・アレン少佐であります。着任のご挨拶に参りました」

 

「うん、トリントン基地を預かっているマーネリだ。ようこそ英雄殿」

 

そう言って答礼するマーネリ准将に向けて俺は苦笑する。

 

「自分の戦果は偶々ガンダムに乗っていたからに過ぎません。私が英雄なら、あの戦いに参加した全ての者が英雄と呼ばれるべきでしょう」

 

そもそもア・バオア・クーでの戦果は大半がレイチェルとカチュアによるものだ。同じ機体に乗っていたから共同撃墜扱いになっているが、正直俺のやっていたことなど撃てと騒いでいた位だ。彼女達が有用だと認識されて次の悲劇の温床とならないよう記録上は甘んじるが、それを自分の手柄と吹聴して回る気にはなれない。

 

「成る程、至言だな。本格的な訓練は明日からの予定だ、今日の所は部隊の者と顔合わせをしておいてくれ。以上だ」

 

「はっ、失礼します」

 

そう敬礼し司令室を出る。早めに動いておくべきだとは思うが、着任直後に基地の警備体制にケチを付けるとなると心証が悪すぎる。せめて同じ部隊のメンバーと打ち解ける位はしてからでないとマズイだろう。

 

「失礼します、ディック・アレン少佐殿でありますか?」

 

「ん?ああ、そうだが。君は…」

 

「チャック・キース少尉であります。隊長より基地をご案内するよう申しつかりました」

 

「ああ、そうだ。キース少尉だったな。ディック・アレンだ、よろしく頼む」

 

俺がそう応じるとキース少尉は驚いた表情でこちらを見る。

 

「自分の事をご存じなのですか?」

 

結構知ってるよ、君の未来とかもね。なんて言える訳も無く俺は笑いながら口を開く。

 

「これから同じチームになる相手の事くらい確認しておくさ。公開されているプロフィールくらいのものだけどな」

 

俺がそう笑うとキースは納得した表情で少し残念そうに口を開いた。

 

「まあ、そうですよね。別に俺、有名な訳でもないですし」

 

「なんだ、キース少尉は有名になりたいのか?」

 

「あ、いやーその…」

 

ん?どしたん?

 

「有名になればその、女の子にモテるかなーって」

 

ああ、そういやコイツ結構女好きって設定だったっけ?となると辛い現実は早めに知っておく方が良いだろう。

 

「キース、いいか?パイロットとして有名になっても女にモテる事は無い」

 

「え?」

 

「精々お水のねーちゃんがちやほやしてくれるくらいだ。金を持ってるからな」

 

そもそもパイロットとして有名と言うことはそれだけ軍隊生活に忙しいし、何より危険な任務に就く事が多い人間と言うことだ。ATMとしてならばともかく人生の伴侶に適した人間とは言い難いだろう。実際俺はモテてない。

 

「えぇ」

 

「そもそもだな、MSの操縦が上手いってアピールポイントになるか?お前目の前に女の子がいたとして、その子に特技は狙撃ですとか言われて異性として魅力的に見えるか?」

 

「…言われてみれば、確かに」

 

解ってくれたようだな。

 

「だが軍で偉くなれば割と楽しいことも出来る。例えばコーウェン中将の秘書は滅茶苦茶美人だ」

 

「!?」

 

言いながら俺は懐から端末を取り出すとレーチェル・ミルスティーン中尉のプロフィールを呼び出す。その顔写真を見てキースは絶句した。

 

「優秀な成績を残せばそれだけ昇進だって近付く、そうすれば意図的にお近づきを生み出す事も出来るようにだってなるぞ。そこからはまあ、自分の実力次第だがな」

 

「アレン少佐、自分偉くなります」

 

決意を固めた男の顔に俺はサムズアップで応じる。そんな遣り取りをしていると急に後ろから声を掛けられた。

 

「キース、何してんだ?英雄様は見つかったのか?」

 

そこにいたのはアニッシュ・ロフマン少尉だ。史実では戦後彼の名が出てくる事は無いのだが、どうやら俺がトリントン基地に着任しなかった変化が彼に波及したらしい。彼はベテランだし俺の顔を何処かで知っていたのだろう、振り返った俺に彼は慌てて敬礼をしてくる。

 

「ああ、すまない。ちょっと親睦を深めていたんだ。ディック・アレンだ、よろしく頼む」

 

「はい、いいえ少佐殿。アニッシュ・ロフマン少尉であります。こちらこそよろしくお願いします!」

 

「楽にしてくれ、同じチームでやっていくんだ。もう少し力を抜いてくれんとこっちも肩がこる」

 

予想外に緊張している彼に俺がそう告げると、何とも言い難い表情になる。だから俺は続けて理由を話す。

 

「どうにも年下ばかり相手にしていたせいか緩い空気に慣れてしまってな。できる限り気を遣わんでくれた方が助かる」

 

「は、はあ」

 

釈然としていない表情だが追々慣れて貰うとしよう。とにかく先ずは懐に入り、味方を増やすのが重要だ。何せここはコーウェン派閥の基地だから、下手をすれば俺は敵扱いである。星の屑作戦阻止の為にも人間関係の円滑化は重要だ。

 

「さて、それじゃそろそろ出発するか?あまり待たせては悪いからな」

 

俺はそう言って二人に移動を促す。トリントン基地はまだ平穏を保っていた。

 

 

 

 

「ディック・アレン少佐、ガンダムのパイロットにして一年戦争の英雄か」

 

エルラン中将より貸し出された男のプロフィールを見ながら、ジョン・コーウェン中将はそう呟いた。初代ガンダムの開発から関わっていた人材、それも直接運用経験のある人間は非常に貴重だ。派閥のパワーバランスから当初難色を示していたコーウェンだったが、開発計画がアナハイム単独から競作に変更されたことで採用に危機感を覚えたアナハイム社から要請があれば断る事は難しかった。

 

「相手に塩を送るのは余裕の表れか?」

 

「本命は手元に残しているようですから、単純に貸しを作りたいだけかもしれません」

 

公にならない資料を確認しつつそう口にしたのは秘書官のレーチェル・ミルスティーン中尉だった。普段周囲に見せている温和な雰囲気は鳴りを潜め、派閥の長に仕える忠実な秘書官の顔を見せている。

 

「ああ、テム・レイ少佐の息子か」

 

ガンダム神話を生み出した本当の主人公。その戦果は正しく異常と言えた。それこそ軍上層部の誰もが同じ力を手元に置きたいと思う程度には。

 

「先の大戦におけるRX-78の戦果は突出していた。これの生産と配備を主導すれば、我々は大きな発言権を得ることが出来る」

 

それはコーウェン達改革派にとって重要な事だった。一年戦争において改革派は中心人物であるレビル将軍を失い、その発言力を大幅に弱めていた。その一方でア・バオア・クー攻略を成し遂げたグリーン・ワイアット大将を擁する保守派は着実に連邦軍の主流となっている。その状況をコーウェンは危惧していた。

 

「現在の連邦軍にはスペースノイドも多く在籍している」

 

一年戦争中はまだ良かった。ジオンという明確な人類の敵を前にして多少のことには目を瞑れたからだ。しかしその共通の敵がいなくなった今、大戦前と変わらぬアースノイド優位の行動を取り続ければ軋轢を生み出すことは明白であり、そうなれば最悪連邦軍の内部分裂、それどころか軍内部に第2のジオンを生み出しかねないと彼は考えていた。無論何でも認めれば良いというものではない。スペースノイドの自由意志を尊重した結果がジオン公国であり先の大戦という未曾有の厄災だったのだ。

 

「認めるべき所は認め、そして断固たる意思は示さねばならん」

 

そうしなければ人類は再びあの悪夢を繰り返すことになる。もし次などがあれば、今度こそ人類は滅びてしまうと彼は確信していた。故にどの様な手段に訴えてでもそれだけは防がねばならず、その為の装備が必須であるとも考えていた。そしてその思想は彼が主導する開発計画にも明確な形で盛り込まれる事となる。

 

「あの過ちを繰り返さぬ為にも、ガンダム開発計画は我々の手で必ず成功させねばならん」

 

正しき人類の守護者と自らを定義する彼はこの計画の成功が人類に平和をもたらすと信じていた。しかし、その足下で自らの計画が陰謀に巻き込まれようとしていることを残念ながら彼はまだ知らなかった。




誰も彼もが正義のために戦っている。
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