WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


94.0083/10/06

「なあ、この基地ちょっと弛みすぎてねえか?」

 

「どうしたんです、急に?」

 

「弛んでるって、俺達に言われても…」

 

昼時の食堂で俺は目の前に座った連中にそう愚痴を零す。トリントン基地に厄介になるようになって早くも一週間が経過した。テスト内容は順調に消化中であり、試験部隊のメンバーともそれなりに打ち解けられたと自負している。まあ相変わらずバニング大尉はやりづらそうにしているが。

 

「仮にも新型MSのテストをするって基地だぜ?それこそ警備の部隊なんざ緊張でぴりついてても不思議じゃないってのに」

 

実際オーガスタ基地では厳重な警備が行われているし、出入りする人間に対する監視も厳しい。対してトリントン基地はと言えば、一般的な基地と大差ない警備体制だ。相対的に考えれば緩いと言わざるを得ない。

 

「いやまあ、確かにパパラッチなんてされれば事なんでしょうけど」

 

的外れなことを言うカークス少尉を睨みながら俺は口を開く。

 

「馬鹿野郎ゴシップの記者なんか気にしてねえよ。俺が言ってんのはこの基地を襲撃して、新型機を強奪しようって連中がいるかもしれねえって話だよ」

 

俺の言葉に3人は意味が解らないと言うような表情になる。そしてキース少尉が卑屈な笑顔で尋ねて来た。

 

「あの、少佐。その、何処の誰が基地を襲撃するって言うんです?」

 

マジか、そこからかよ。

 

「ジオンの残党に決まってるだろ?」

 

「残党って、戦争はとっくに終わってるんすよ?」

 

そんな寝ぼけたことを言うカークスに溜息交じりに教えてやる。

 

「20%だ」

 

「へ?」

 

「終戦時に健在だったと共和国が把握している部隊の中で、国に復員した軍人の数だよ。解るか?連中はこれっぽっちも戦争が終わったなんて納得しちゃいないのさ」

 

「いや、でもそれと新型機の強奪って話が飛躍しすぎじゃないですか?それに奪うにしても態々基地を襲撃するなんてリスクが高過ぎますよ」

 

まあ正論だな。だが教科書通りの回答でもある。

 

「キース、連中は俺達よりも寡兵だ。だから頭を使う、俺達がまさかそんな事はしないだろうって状況を狙って仕掛けて来るのさ。それにな」

 

俺は声を潜めて続きを口にする。

 

「戦中にトリントン基地は襲撃を受けている。つまり防衛設備の配置なんかは露見している可能性が高い。後は連中が何処まで本気を出すかだが、潜水艦の1~2隻でも用意出来れば十分無力化出来ちまう」

 

「でも少佐、逆に言えば補給もろくに受けられない連中がそこまでしなければ基地は落とせないと言うことですよね?幾ら新型機と言ってもそこまでして強奪しようとするでしょうか?」

 

そうだな、普通のMSならそんな事起きねえだろうさ。

 

「お前ら仮にも試験部隊だろう?今回軍が提示した要求事項を読んでねえのか?」

 

対艦隊戦用の重砲戦型MS。そんな用途が記載されている2号機であるが、どう考えても核弾頭を運用するMSを建造するための言い訳だ。でなきゃ態々仕様要求に“Mk82戦術核ないしそれに相当する火力を有すること”なんてピンポイントな言葉が出てくるわけがない。そして何故こんな機体を軍が欲しがるかと言えば至極単純な話で、地球連邦軍がジオン共和国を全く信用していないからだ。

無理もないだろう。81年に起きた月のマスドライバー施設襲撃を筆頭に現在に至るまで続いている元ジオン兵によるテロリズムは収まる気配がないし、地球圏外に存在するアクシズや火星基地の帰属すらジオン共和国は行えていない。更に共和国は本土決戦を回避した結果、サイド3はジオン公国時代の工業力を保持したままなのだ。加えて忘れてはいけないのが、現ジオン共和国の指導者達はザビ家に全ての責任をなすりつけた結果、戦争当時の議会とほぼ顔ぶれが変わっていないと言うことだ。ザビ家が起こした戦争?冗談じゃない。そのザビ家に権力を渡したのも、その国家運営を支えたのもお前らじゃないか。そんな奴らが戦傷を盾に取り身内のテロリズムを放置しているのだ。国力が回復すれば再び同じ事をしかねない。そう判断されても文句は言えない。故にコロニーをピンポイントで破壊出来る兵器を保有し警告しようというのだろう。馬鹿な事を考えれば、即座にコロニーごと吹き飛ばしてやるぞ、と。

 

「問題はこのMk82だ。こいつは戦前に量産された弾頭でな、デブリ対策として相当数が各サイドに支給されていたんだ。当然サイド3にもな」

 

一週間戦争でジオンが運用した核がこれだ。そして戦後の部隊遁走で多くが行方不明になっている。更に厄介なのが旧サイド5が存在した暗礁宙域だ。あそこは位置の関係上復興が遅れていて掃海も進んでいない。そして核弾頭を残したままスペースデブリと化しているコロニーが滞留しているのだ。残党の中に目端が利く者が居れば、既に何発かを確保していても不思議ではないのだ。

 

「南極条約で連中は核弾頭を運用出来る機体を殆ど改装しちまった。それに今更当時の機体じゃ幾ら核が撃てても射点に着くのが難しい。連中にしてみれば2号機は喉から手が出るくらい欲しい切り札なのさ」

 

俺が言い終えると少尉達は唾を飲み込む。よしよし、この様子ならバニング大尉への説得にも協力して貰えそうだ。なんて考えている俺に野次が飛ぶ。

 

「はっ!英雄サマと聞いていたが随分と腰抜けでいらっしゃる」

 

振り向くとそこにはカレント大尉が部下達と机を囲んでいた。今のはどうやら彼の発言らしい。

 

「テストパイロットが長くなりすぎて敵が怖くなっちまったかい?安心しなよ少佐殿、俺達がしっかり守ってやるからよ!」

 

大した自信だな。まあ彼等は史実での基地襲撃においても全員生き延びて追撃を行っていたし、それなりに腕はあるのだろう。だがあくまでそれなりだ。何せその追撃戦で彼等は2号機に全滅させられるからだ。

 

「ソイツは頼もしい。是非守って貰いたいもんだが、生憎自分より弱い奴を盾にするほど腑抜けちゃいねえよ」

 

なので少しばかり煽っておくことにしよう。これでやる気を出してドムの1機も抑えてくれれば、少しは状況も楽になる。

 

「ああ?誰が弱いって!?」

 

「その様子なら言わなくても解ると思うんだが?」

 

更に煽るとカレント大尉は顔を赤黒く染めてゆっくりと立ち上がる。そしてこちらに近付いてくるとドスの利いた声で問いかけてきた。

 

「もう一度言って見ろよ少佐殿?」

 

「何度でも言ってやるよ、この基地の連中は腑抜けてやがる。手前らこそ前線から離れすぎてジオン共の怖さを忘れてんじゃねえのか?そういうのは余裕とは言わねえ、慢心ってんだ」

 

俺の返事にカレント大尉が咄嗟に掴み掛かろうとする。驚くほど鈍い動きだ、まあ俺が日夜強化人間と泣くほどCQCをやらされてるからそう感じるだけかもしれないが。腕を掴んで捻り上げてドヤ顔説教でもかましてやろうかと思ったが、それより先に割って入ってきた人物が居た。

 

「止めろカレント!少佐も言い過ぎです!」

 

カレント大尉を正面から押さえつけながらバニング大尉が俺に苦言を呈してくる。ふむ、しかし放置して死人が出ては遅いのだ。

 

「そうだな、言い過ぎた」

 

俺がそう言うと周囲の空気が若干和らぐ。おっと気を抜くのはまだ早いぜ?

 

「口であれこれ言うのはパイロットの流儀じゃないよな。決めるならこっちだ」

 

笑いながら俺は腕を叩いてみせる。それを見てバニング大尉は絶望したような表情になるのだった。

 

 

 

 

「それでこの結果か」

 

「はっ」

 

眉間に深い皺を寄せながらホーキンズ・マーネリー准将は溜息を吐いた。急遽申請されたシミュレータールームの使用許可について報告を求めた所、先の遣り取りが原因である事が判明したのだ。

 

「エルランの予言者か」

 

「は?」

 

彼の呟きに疑問符を浮かべるバニング大尉に対してホーキンズは口を開く。

 

「大尉はNTを信じているかね?」

 

「信じるというよりは知っております。そうとしか説明の付かない連中がジオンにはおりました」

 

「そうだった、君は元第3艦隊所属だったな」

 

ならばソロモンかア・バオア・クー、あるいはテキサスゾーンだろうか。いずれかでサイコミュ兵器を目の当たりにしていても不思議ではない。ならば話は早いとホーキンズは思った。

 

「戦中連邦もNT部隊を投入している。厳密に言えば運用していた部隊がNTだらけだったというのが実情らしいが。その部隊の重要な意思決定に関わり続け、戦後同じようにエルラン中将へ助言をしている人物がいる」

 

会話の流れからそれが誰であるかなど容易に想像が付くだろう。事実大尉は驚きこそしたものの、それがアレン少佐であると即座に看破した。

 

「その人物がこう言ったわけだな?トリントン基地は襲撃されるかもしれないと」

 

誇大妄想だと一笑に伏すには発言者の存在があまりにも大きすぎた。戦後の派閥争いに敗れたエルラン中将が、未だに十分な影響力を残している事からもそれは明白だ。

 

「すまないが少佐を呼んで欲しい。少しばかり話を聞きたい」

 

ホーキンズのこの行動が後にどの様な影響を与えるか、それはまだ誰にも解らなかった。




復員者の数は完全に本作の創作です。だって残党多過ぎなんだもの。
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