WBクルーで一年戦争   作:Reppu

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今週分です。


96.0083/10/13

「申し訳ありません、少佐。基地の警備が思っていたよりも厳重で…」

 

「いや、十分に想定の状況内だ。仮にも連邦は我々をここまで追い込んだ組織なのだからな、多少は骨のある者も居るだろう」

 

そう言ってアナベル・ガトーはニック・オービルを慰めた。経験の浅い新兵には戦後の連邦軍の印象しか無いためか敵を軽んじる傾向が見られるが、そもそもその様な相手ならばジオンは敗北していない。そして自分達は敵から兵器を奪わねば作戦が成り立たぬ程追い詰められているのだという自覚も希薄だった。連邦軍を平和ボケしていると嗤うが何のことはない、こちらも十分に寝ぼけている。

 

「私が潜入出来ない場合のプランは覚えているな?」

 

「は、はい。しかし出来るでしょうか?その私は…」

 

躊躇いを見せるオービルの肩を強く叩き、ガトーは笑いながら口を開く。

 

「安心しろ、その為に我々が陽動を行うのだ。貴様は教練通りに機体を動かすだけでいい。指一本触れさせんさ」

 

本音を言えば、オービルにはまだアナハイムでスパイとして活動して欲しいというのが組織としての思いであったが仕方が無かった。星の屑作戦においてあのMSは絶対に必要な機体だからだ。そして強奪のタイミングも先延ばしに出来ない理由があった。故に彼等はどうあっても今日中に機体を奪取するため、無謀とも言える賭けに出るのだった。

 

「では現時点をもって星の屑作戦の第一段を開始する。合流地点は覚えているな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「宜しい、では行け」

 

「はい!」

 

威勢の良い返事と共にエレカでトリントン基地へと戻るオービルを見送っていると、アダムスキー少尉が苦笑しながら近付いてきた。

 

「兵の質も落ちたものですな。上官に敬礼もせずに行くとは」

 

「真面な戦争も知らんのだ、見逃してやれ。それよりもすまんな少尉、貴様のドムを取り上げることになってしまって」

 

「少佐に乗って頂けるならあいつも本望でしょう。最早部品調達もままならず後は朽ちるのを待つのみです。存分に使い倒してやって下さい」

 

大戦末期に本国との連絡を絶たれたジオン地上残留部隊の多くがアフリカへと逃れている。一方運悪くそちらへ合流出来なかった不幸な居残り組も少数存在し、アダムスキー少尉達はそんなオーストラリアに取り残された兵士である。

 

「どちらにせよこの作戦が終わればあれもお役御免です。アフリカへは持って行けませんから」

 

MSの強奪が成功すれば、機体とガトーは宇宙へコムサイで戻る。彼等はその支援が終わり次第機体を放棄し、同じく支援のためにアフリカ方面軍から派遣されているユーコン潜水艦に乗ってアフリカへ渡る手筈だ。潜水艦には支援部隊も同道していたため、追加でMSを搭載する余裕が無いのだと言う。

 

「すまない」

 

「いえ、寧ろ来て頂きありがとうございます。この3年、息を潜め続けた甲斐があったというものです」

 

静かに少しずつ朽ちてゆく愛機、そして賑わいを取り戻していく都市を岩の陰から眺め続ければ心が折れるのも時間の問題だった。十分な拠点も友軍も居なければ尚のことである。

 

「貴官らの挺身は忘れん、必ず星の屑を成就させることを誓おう」

 

「お願いします、少佐殿。さ、出撃まで時間があります。暫しお休み下さい」

 

「そうだな、そうさせて貰おう」

 

そう口にしながら、ガトーは何時までもエレカの向かった先を見つめていた。

 

 

 

 

『あのー、少佐』

 

「あ?なんだキース」

 

通信越しに情けない声を上げるチャック・キース少尉に俺はそう聞き返した。すでに日も沈み夕食も終えて俺達は就寝までの自由時間だ。いつもならウラキの奴と楽しくシミュレーターかMS談義をしている時間だが、今日はパイロットスーツに着替えてコックピットの中だ。バニング大尉に許可を貰いに行ったら何故か試験部隊の全員がコックピット待機になってしまった。キースの泣き言もそのせいだと思われる。

 

『なんで即応待機の真似事なんてしてるんですか?』

 

おやおや、キース君ってばとんでもない勘違いをしていやがりますよ?

 

「それは違うぞキース」

 

『へ?』

 

「真似事じゃない。俺達は即応待機してるんだ」

 

『い、いやいやいや。訳がわかりませんよ!?』

 

まあ実は俺も確証があってやってるわけじゃ無いから説明を求められても困るんだよな。史実通りアナハイムのニック・オービルは外出したが、アナベル・ガトーを基地に連れ帰らなかった。正直あんななめ腐った潜入をかます位なので多少警備が厳重でもシートの下にでも隠れて実行するんじゃないかと見張っていたのだが、流石にそこまで頭が空っぽでは無かったらしい。となると強奪のタイミングが解らなくなるのだが、星の屑作戦の全容を知っている俺からすれば、連中が強奪のタイミングを悠長に窺う時間が無い事も解っている。

 

「無理に付き合う必要はありませんよ?」

 

『流石に少佐だけに押しつけるわけにはいきません』

 

バニング大尉に水を向けると彼は苦笑交じりにそう返してきた。うむ、真面目さんだね。…星の屑作戦。地球圏ジオン残党の最大手であるデラーズフリートがこの年に実行したこの作戦は、地球へのコロニー落としを目的とした作戦だ。ラグランジュ5、旧サイド1からサイド3へ修復のため移送されているコロニー2基を強奪、それらを接触、弾き合わせることで片方を月に落とすと見せかけて連邦の艦隊を月へ誘引、そのタイミングでアナハイムを恐喝し地球へ軌道変更させる事で追撃を振り切るというのが主な作戦内容である。つまり移送しているコロニーを地球への落下軌道へ乗せるためには、正確なポイントで強奪及びコロニーをぶつけ合わせる必要があり、コロニー移送のスケジュールが決まっている以上、そのタイミング前に機体を奪わねばならないのだ。

 

「だそうだ、悪いが付き合ってくれ」

 

しかしこの内容には少々疑問が残る。敵の首魁であるエギーユ・デラーズはGP-02、つまり核を搭載するガンダム試作2号機の情報を得てこの作戦の決行を決めたとされている。だが本命はコロニー落としであり、試作2号機はあくまでコンペイ島へ観艦式の為に集結した連邦艦隊を襲撃する欺瞞に使われたのみだ。そしてMk82の運用経験はジオンも持っているから、この攻撃で集結した艦隊に打撃は与えられても壊滅させる事は出来ないくらいは理解している筈である。にもかかわらず、彼は試作2号機の存在で作戦の決行を決心しているのだ。あくまで欺瞞ならばそこまで拘る必要は薄い。ならば何故彼は決心したのか。その理由を俺は恐らくデラーズフリートがそろそろ限界を迎えているからだと推察している。

最大規模の武装勢力と言えば聞こえは良いが、それは同時に大量の資源を消費するという意味でもある。破壊されたコロニーや放棄された艦艇からでは補給などたかが知れているし、支援組織も数十隻にもなる艦隊を維持出来るだけの支援など容易に露呈してしまうから行えない。対して敵対勢力である地球連邦軍はと言えば既に観艦式を行えるだけの艦隊を再建済みであり、MSについても順調に更新と配備を進めている。つまり時間が経てば経つほど戦力差は開いていくのだ。そして既にデラーズフリートは連邦艦隊を襲撃しコロニー落下までの時間を稼げないと理解しているのだ。だからこそ艦隊が集結し、最大限打撃を与えられる場所へ時間稼ぎの為の核攻撃を行う必要があるのだ。コロニーの移送計画、観艦式の日程、そしてガンダム試作2号機というカードが偶然場に出揃ったこのタイミングをエギーユ・デラーズがそれこそ天佑だと考えても無理はないだろう。

 

『でもこれだけ厳重に警備してるのに来ますかね?それこそ戦術的に愚策ですが』

 

「ロフマン少尉、それは相手が真面で理性的な軍人である事が前提条件だ。そして真面な奴はテロリストになんざなったりしない」

 

テロリストの恐ろしい所は一般とは違う価値観と合理性で動くことだ。だから俺達がまさかそんな事はしないだろうと思うような事でも平気でやってくる。

 

「非対称戦のコツはな、自分が何をされたら一番嫌で、その為にはあらゆる犠牲を払ってでも敵が実行してくると想定する事だ」

 

何故なら最初から戦力差があると言うことは、既に敵は追い詰められた状態から戦いが始まっているという事だからだ。そして人間は追い詰められれば勝つために大抵のことは許容してしまう。そこに宇宙世紀の終わった倫理観が合わされば大抵の事が起きてしまうのだ。そう、

 

『は!?空襲警報!?』

 

こんな具合に。

 

『全機起動!迎撃準備!!』

 

バニング大尉が鋭く叫び、俺のパワード・ジムに続いてロフマン少尉の乗るパワード・ジムが格納庫から出る。その頃には既に幾つもの火線が上空へ伸びていて、飛翔してきたミサイルを絡め取っていた。くそ、素人かよ!?

 

「近距離通信に切り替えろ!ミノフスキー粒子が散布された!」

 

最初に飛来してきたミサイルはミノフスキー粒子散布を目的としたものだ。それを上空で迎撃してしまったから広範囲でレーダー障害が発生してしまう。

 

「本命来るぞ!」

 

即座に熱源探知に切り替えて上空へライフルを向ける。だがベテラン組はともかく新人達は操作に手間取り、迎撃に参加出来たのは少数だった。何とか俺は命中させたが飛来したミサイルの数は多く、次々と上空で炸裂し子弾をばらまいた。スクランブルで滑走路へ移動していたセイバーフィッシュが次々と被弾し炎上する。

 

『各機連携を密にしろ!MSが来るぞ!』

 

バニング大尉が注意を促した直後に監視塔が炎に包まれる。遅れて大口径砲特有の飛翔音がスピーカーから聞こえて来た。

 

『艦砲射撃だと!?海軍の連中は何をしているんだ!?』

 

惜しい。これは艦艇ではなくMS、砲撃用の大型機ザメルの攻撃だろう。史実ではあまり命中弾が出ていなかった印象だが、今撃ち込まれている砲弾は見事に防衛設備を無力化している。そしてそんな攻撃の最中、2機のドムが基地に乗り込んできた。更に岸壁からもズゴックが2機侵入してくる。守備隊に対してあまりにも少数であるが、奇襲による混乱でろくに連携出来ていない守備隊は次々と被弾してしまう。

 

『MS各隊は各個に迎げ――』

 

更に指示を出していた司令部が砲撃の直撃を受けて沈黙、混乱は最高潮に達する。そして遂に恐れていた事態が発生する。

 

『誰だ!?誰が2号機を動かしている!?』

 

アルビオンのMS帰投用ハッチが吹き飛び、中からMSが飛び出す。重厚で幅広なフォルムのMS、ガンダムGP-02サイサリスがジオン残党の手に落ちた瞬間だった。




オービル君大金星。
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