生志摩妄という女。痛みを好むという女。
奇人揃いの百花王学園においても、その存在は異端だった。
「ねえ妄?突然だけれど」
生徒会長、桃喰綺羅莉は言う。
「夢子と仲良くなる方法、知りたい?知りたいわよね?」
「な、何だよ急に、そりゃま、知りたいけどさ、そんなのそう簡単にある訳……」
「百花王学園で麻雀を流行らせるのよ」
「えっ?」
……麻雀?麻雀か。この学校ではギャンブルが盛んだ。当然麻雀を好む生徒も一定数いる。しかし、飽くまでそれは主流ではない。それは何故か?綺羅莉は語る。麻雀は、ギャンブルとしてはあまりにも複雑で、習得から楽しめるようになるまでに手間も時間もかかり、更にプレイするに場所を取り、挙句には、紛失、イカサマ等、どのような理由であれ、牌が一枚でも無くなったら、交換や補充に大変な労力を要する。それだけ麻雀は割に合わないゲームと言える。
「だからこそよ。だからこそ麻雀をやるの。大体的にやって夢子を誘えば、あの子が参加しない訳が無いでしょう?」
「……もう少し説明してくれよ」
「ええ。つまりね?これは清華と夢子が戦う時にも言った事なんだけれど、夢子を殺すのは簡単な事。あの子はギャンブルが全てなのだから、一緒に遊ぶ者がいなくなってしまえば良い。つまり逆に言えば、夢子は、それがどんなギャンブルであれ、相手になってあげれば刹那的に喜ぶのだから、寿命の短いゲームと分かっていても、決して麻雀を否定しない。実際夢子がここの皆と戦ったゲームの内容で言えば、一回きりだったものも多いでしょう。そしてね?妄、あなたは死にたい、あるいは傷付きたい。ならば麻雀となれば、夢子と目的が合致して、一緒に楽しむ事ができる。そう思わない?」
「あ……?何……?」
「何だよ、どういう事だ?会長」
「いいわ。まず打ってみましょう。私達生徒会のメンバーで。清華と楓を呼んでくるから少し待っていてくれる?その間にそこの自動卓をセットしておいてくれると嬉しいわ」
「………………ああ、うん、分かったよ」
部屋のすみには、布で覆われた自動麻雀卓が置いてある。配牌まで自動で出てくる高級なやつだ。そういえば、最近会長は、一般の生徒達に、一時間一万円でこの卓を貸し出していたな。ならば?今妄は、自動卓をセットしておいてくれと命じられた。つまり……?
もう、ゲームは始まっている。
「あ…………」
かけられている布を取ってみる。会長は、五十嵐清華と豆生田楓を連れて来ると言っていた。つまり普通に麻雀をやるのだ。しかし、今見ると、目の前の自動卓は三麻の設定になっている。まあ卓の設定自体は簡単だ。しかし。
「ゲーム外のゲーム、か」
ついぼーっとしていた。もう二分程経過している。早ければ会長はもう二人を連れて戻って来そうだ。では、妄はどうすればいいか。
「…………」
四麻用のマンズの牌は、使っていない椅子に置いてあった。しかし、それは全て裏向きになっている。そして、卓上にある三麻体制の牌は、打ち終わったそのままではなく、牌を流して次局用のものを上げた状態になっている。
普通、仲間内で遊び終わった生徒達が、律儀に牌を揃えて会計に行くか?
一時間一万円だぞ?ギリギリまで遊んで、一分過ぎるのが怖いという事もあるだろう。
その上、三麻の設定の状態のままで牌を一回上げたところで、どちらかと言えば流行っているのは四麻なのだから、結局意味はさほど無くないか?
……妄は考えた。この卓には既に会長の手が入っていると。ならば。
「戻ったわよ、妄……あら」
会長は微笑んだ。
「楽しそうな事をしているわね。一人で先に遊んでいたの?」
「へへ、まあそんな所だよ。よお、清華、豆生田。よろしくな」
妄は、積まれている山の中の牌の内容をチェックしていた。
卓には、背が黄色い牌と、背が青い牌が入っている。上にあったのは黄色い牌だったから、妄はその全てをチェックし、そして、椅子に用意されていたマンズの牌も全て開けて一枚一枚見ている所だった。その最中に会長は戻って来たのだ。
三麻設定であるにも関わらず、山の牌には赤が各一枚ずつしか入っていなかった。三麻なら赤の枚数は増えそうなものなのに。そして、椅子から持ってきたマンズにも、赤は一枚だけだった。花牌も無かった。金牌も無かった。ポッチ牌も無かった。同じ牌の枚数がおかしいという事も無かった。
つまり、この三麻らしき見た目は、四麻の牌からマンズを抜いて単に積み直しただけ、という事になる。
おかしな話だ。ここまで大仰に、不正とは言わないとしても、半ば細工のような事をやっておいて、特に変な所が見受けられないとは。
つまりだ。この細工によって会長は、妄の注意を牌にばかり集中させ、そして実際に打つ段階になった時…………
変なルールを提案してくるんじゃないか?
「妄、いい?打つと言っても、ただ打つだけなんじゃあ意味が無いわ。あなたに、今後の行動の説明をする為の麻雀だものね。だから提案。これからこの四人で普通に麻雀を打つけど、少し特殊ルールを付け加えるわ。まず、親のあがり、流局に問わず、連荘は絶対に起こらないものとする事。次に、この麻雀では、進行に支障が出ない程度のとある特殊ルールを、妄に内容を伏せて適用するものとする事。最後に、私とあなたはサシウマとして、指一本を賭ける事。勝負は普通の東南戦。以上よ。理解できたかしら?」
「指一本……?切断するのか?」
「ええ。そうよ。方法は何でも良いわ。思い付きだもの」
「…………」
「分かった。それでやろうぜ」
「決まりね。あら、ごめんなさい、忘れていたわ。清華?全員分のお茶を持って来てくれる?」
会長は清華に呼びかける。しかし清華は。
「あ…………」
「清華?どうしたの?」
「あっ、す、すみません、少し緊張して……」
「……ふふ。そう。まあいいわ。じゃあ妄?お茶を用意してくれる?」
「……ああ」
テンパイどころか、あがっても連荘が起こらないというルール。更に、やってみるまで公開されない特殊ルールがあるらしい。東一局は、妄の親で始まった。
ドラは{西}。妄の配牌。
{11223356⑤⑥西西發 中}
(配牌、良いな……)
しかし、妄はまだ警戒していた。この東一局でこの配牌は、平和にも行けるし七対子にも行ける。どちらに傾いても、リーチで満貫確定。裏で跳満。しかも親。めまいがしそうな好配牌。だが、妄はこの局、リーチをしないと決めた。どんなイカサマをやられるか分からない。それに…………
「ツモ」
{112233567⑤⑥西西 ④}
「ピンヅモ一盃口ドラドラ、だ。んで、特殊ルールって何だ?この手、他に役は付いてるか?何点だ?」
こういう事だ。進行に支障が無いルール、と会長は言った。支障が無い、という事は、打っている最中に局が止まるルールは考え難い。一番ありそうなのが、ローカル役の採用、あるいは役の撤廃、例えばオープンリーチありだとか、あるいは裏ドラは無しだとか。
「……満貫よ。はい、4000点」
…………?
東二局。豆生田の親。
「九種九牌だ」
豆生田は、何てこと無い素振りで配牌を倒した。
「えっ……て、おい!」
妄は思わず指摘する。
「九種どころか、十一種十二牌じゃねぇか!国士イーシャンテン!流してどうすんだよ!しかも親なのに!」
「まあまあ妄。打ち方は本人の自由よ。批判はしないでね」
「何だよ……いいけどさ、まあ……」
「さあ、次よ。東三局。私の親ね」