芽亜里は、東風戦の打ち手だ。
(……恐らくは、つまり今まで見た芽亜里の態度)
芽亜里は、2500.4500の事を「ニーゴーヨンゴー」と発音していた。それはつまり、2000.4000の五本場という事になるから、そういう申告の言い方も決して無い訳ではないが、五本場なんていう事はまあ滅多に起こらないから、「ニーゴーヨンゴー」という言い方に、イントネーション付きで慣れているのは、特殊な環境、つまり「ニーゴーヨンゴー」が起こりやすい環境に身を置いていたという事だ。
それはつまり東風戦。と、いうかまあ。
(つまり、
場千五とは、連荘で生じる一本場の追加点が、300点ではなく1500点の麻雀の事を指す。
勿論、だから絶対百パーセントという訳ではないが、それでも一般的には、東風戦の雀荘などでは積み棒が場千五である事が非常に多いのだ。
(それと、
東西場。これも東風戦でよくあるルールだ。東場であるにも関わらず、{西}も常時翻牌となるルールだ。
妄が見た映像であった、芽亜里の、あがり点申告間違い。芽亜里は、三役しか無い手を満貫と間違えた。つまりあの時芽亜里は、「西、白、赤一」の三役を、「ダブ西、白、赤一」の四役と勘違いしていたのではないか。大舞台での、西入というかなりイレギュラーな現象で、ついつい慣れている感覚に寄ってしまったのではないか。
その他諸々、東風戦の者のやる事とすれば納得できる行動が、芽亜里には見受けられた。その情報を元に、妄は芽亜里の性質を見定めた。
東一局一本場(積み棒は0)
ドラは{五}となった。
前局と同じ、ドラ{五}。たまに起こる事だから驚く事ではない。これは非常に助かると、前局妄は考えていた。
「だって」
妄の、配牌。
{123⑤⑥⑧⑨五五赤五白白南}
「ポン」
{123⑤⑥⑧⑨五五赤五南} {白横白白}
(こんな手牌から{南}を切るとするだろう。その時放銃するリスクが低いという事に繋がる。ドラが{五}というこの状況、勿論今切る{南}はドラではない。しかし、当然字牌がドラになる事なんて頻繁にある訳で、その時、通常当たりにくい、しかしドラである字牌を、一応の安牌として抱えていて、いざ攻めようとそれを切った時、通れば勿論問題無いが、字牌ドラ単騎にもしも当たったら、その時は得点が伸びやすい)
妄、打、{南}。
(じゃあ、ならドラが{五}ならそれでいいのかって話だが、そうそう。それが結構正しい考え方なんだ。だって言うまでも無いが、{五}の中の一枚は赤牌だ。赤牌とドラが被っている。強い役割の牌の位置が被っている事によって、相対的に他の牌が弱くなる。だから今、{南}は安全度が高いという話に繋がるんだ)
それは、今回の《祝儀牌》という特殊ルールの設定があるからこそ、尚更の事なのである。
「カン」
{白
新ドラが{⑤}。なんとまたまたドラが五の牌。
そして妄、急所の{⑦}を引いてくる。
{123⑤⑥⑦⑧⑨五五赤五} {白
(そしてこんな手のテンパイ。ここは打つ牌に少し迷う所だが、ここは迷わず{五}切りなのだ。四枚から成るノベタン待ちは、{⑤⑥⑦⑧}の{⑤⑧}待ちでも、{⑥⑦⑧⑨}の{⑥⑨}待ちでも、自分が待ちの牌を二枚使っているから、残る待ちの牌は最大で六枚。しかし、この手牌なら、暗刻の{五五赤五}から一枚切って雀頭とすれば、{⑤⑥⑦⑧⑨}を持っての{④⑦}待ちになる。この場合は、自分で既に使っている、待ち牌と同じ牌は、{⑦}の一枚のみ。つまり残る待ちの牌は七枚である。前者の選択は待ちが六枚、後者は七枚。ゆえに、まあ一枚とは言え差がある為、七枚待てる後者の選択、つまり{五五赤五}暗刻崩しを選択するのが定石)
{123⑤⑥⑦⑧⑨五五赤五} {白
ドラは{五と⑤}。
(しかし、このドラの状況とあれば、ドラ暗刻を切るのは多少躊躇われるし、{⑨}を切って{⑤⑥⑦⑧}持っての{⑤⑧}待ち。つまりあわよくばドラの{⑤}であがる。その選択もあるように見えるだろう。通常の麻雀なら、だ)
そして結論としては。
(そして、話が行ったり来たりするようだが、結局は今の状況の場合、{五五赤五}のドラ暗刻を崩すべきなんだ。何故なら、赤に、今回は赤があるだけで、役に関係無く5000点付くからだ)
もし、ドラ暗刻を残し、更にドラの{⑤}であがった場合、役は、白ドラ五の跳満。12000。
一方、ドラ暗刻を崩して雀頭にし、{④⑦}待ちであがった場合は、役は、白ドラ三の満貫8000。
しかし?赤が入っているのだから?それに5000点加点されて、12000は17000。8000は13000。
もう説明の必要は無いだろう。この麻雀、役のひとつやふたつよりも、手に赤があるか無いかの方がはるかに重要なのである。
ドラがあるとか無いとか、2000なのか8000なのかも関係無い。妄は今、赤を握っていたから攻めた、ただ、それだけだ。
しかし、そこから巡目が経過し、貴重な赤入り手である、この{④⑦}待ちが、引けない。引けない。なかなか引けない。
そして、捨て牌は三段目に差し掛かり、そんな刹那。
「ポン」
{中中横中}
芽亜里が、局の終盤で翻牌のポン。これはまずい。かなりまずい。
ゆえに、まあ、たまたま可能だったからそうするだけなのだが。
「ツモ」
{222345⑦⑦六七八⑦⑧ツモ⑨}
「500オール」
よくやった。よくやった豆生田。
点数状況(原点は15000)
妄:13200
豆生田:20400
芽亜里:13200
ユメミ:13200
「すいません、ちょっといいですか?」
ユメミが手を上げる。
「私明日が早いから、日付が変わる前には帰りたいんだけど」
それに対して妄は言う。
「ん?過ぎそうだったら逃げて不戦敗でいいって事か?」
「え、いや、まあ、いや……」
「なんだよ、はっきりしてくれよ」
「いいわよ。やるわ。続けましょう。さあ」
…………
東一局、二本場。ドラは{發}。
「ポン!」
この局はユメミが積極的に仕掛けた。
「チー!」
「ポン!」
しかし、まるで喧嘩か。仲間同士で鳴きが頻発。ユメミの三回目の鳴きの直後、芽亜里が。
「ポン!」
「ツモッ!!!300.500!!!」
芽亜里があがった。豆生田の親が流れる。
そして。
「ちょっとユメミ!こっち来て!作戦タイムよ!」
芽亜里が立ち上がり、ユメミを強引に連れてゆく。
別室にて。
「あんた馬鹿なの!?」
「いや、ほら、ね?親を流したいと思ったの」
「馬鹿っ!大馬鹿っ!なんっにも分かってないのね!!あんたっ!こないだの話があるから一緒に打ってみたらこのザマかよ!あ!?ねえ!」
「…………」
そして、対局の部屋。
「ユメミちゃんっ!応援に参りましたぞっ!あれ?」
次は、東二局。