麻雀狂 ミダリ   作:かさばる

17 / 23
第十七話 沈み馬

蛇喰夢子という女。今学園に、その姿は無い。

 

 

赤木しげる逝去からしばらく経った今、夢子は学園に来る事無く、ただ街中の雀荘で遊んでいた。東風戦、面前祝儀(メンシュウ)、完全順位戦、それはもう色々回っていた。

その夢子に、鈴井涼太はただただ同伴していた。どうしていいか分からずに、ただただ夢子と一緒にいた。

 

 

そして、それから更にしばらくして、学園内に、夢子が帰って来るという噂が立った。実際その噂は本物だった。

 

 

「お久しぶりです。芽亜里さん」

 

「ああ……うん、なんか雰囲気変わったね。夢子」

 

「そうですか?そうですねえ、思うところが無い訳ではないのですが」

 

「何よ。何があったって言うの」

 

「赤木さんが、亡くなったと聞いて、急ぎ駆け付け手を合わせに行っていました。ご心配おかけしました」

 

「……うん」

 

 

芽亜里は、それでもまだ夢子が心配だった。

 

だって、なんだか変だ。今の夢子。

 

覇気が無いっていうか、いや、表現が難しいけれど、学園に来たばかりの、生徒会役員たちをなぎ倒していったあの夢子じゃない。芽亜里は、友人として心配だった。

 

 

 

そして、様子がおかしいそんな夢子は、ふらふらと生徒会室に向かってゆく。

 

 

「……ごきげんよう、綺羅莉さん」

 

「あら、夢子、ごきげんよう。遊びに来たの?」

 

「……打てますか?」

 

「ええ。もちろん。打ち子は用意してあるわ」

 

 

 

一連の流れを傍観していた妄は、会長に質問する。

 

「麻雀やるのか?これってどういう展開?」

 

「ふふ、まあまあ、しょぼい博打よ。座りなさいな。妄と楓。あとは芽亜里と夢子。これで四人」

 

 

 

ふう、ふう、ふう……

はやく、はやくギャンブルを……

しなきゃ、私は、おかしくなる……

 

 

 

今の夢子には、ともかくも栄養補給が必要なのだ。会長は先日、対局していたユメミら全員にそのように言った。

 

 

妄は疑問だった。何故豆生田は毎回自分と一緒に麻雀を打つんだ?そして、夢子の事を好きでもない清華が毎回ディーラーをやってくれる訳とは?

 

 

 

ディーラー清華が、しょぼい博打の説明に入る。

 

 

「ルールの説明です。アリアリの東南戦で、持ち点関係無しの完全順位戦で二万‐六万。一本場1500点の場千五ルールです。トップが60000点到達でコールドとなります。そして赤牌に特殊な規定があります。今回赤牌は、五の牌と三の牌に各一枚ずつの合計六枚{赤三赤3赤③赤五赤5赤⑤}を投入します。ただし」

 

 

 

 

「少し特殊なのでよく覚えてください。まず、三の赤牌{赤三赤3赤③}ですが、こちらは《面前でのみ有効の赤ドラ》となります。鳴いてしまったら何の効果も持たない牌になります。次に、五の赤牌{赤五赤5赤⑤}ですが、こちらは、《東場は常に赤ドラとして使えますが、南場だと、面前でのみ有効の赤ドラ》となります。お分かりですか?例を出してみましょう」

 

 

{一二赤三四赤五六七八九33④⑤⑥}

 

 

「これは面前手ですから、全ての赤牌がドラになります」

 

 

{一二赤三四赤五六七八九33} {横④⑤⑥}

 

 

「これは鳴き手です。この手の場合、東場なら、{赤五}のみがドラ扱い。南場ならどちらの赤牌もドラではなくなってしまいます」

 

 

 

 

説明は以上とのことだ。四人は場所決めをした上で、卓に着く。

 

 

 

席順(今回の原点は通常通り25000)

 

 

起家:夢子

南家:妄

西家:豆生田

北家:芽亜里

 

 

 

一回戦、東一局、ドラは{一}。妄の配牌。

 

 

 

            {横西}

{一五赤五124689①②赤⑤北}

 

 

打、{西}。

 

 

 

(今回の麻雀は赤が六枚。面前手の得点は化けやすい。勿論親のリーチなんかに対してむやみに向かって行ったら殺されるが、一方で、その親番をうまく蹴る事も、また今回は必要な技術。今回あたしの配牌に赤が二枚。一般的な赤三枚の麻雀の倍ある訳だから、二枚くらい握れるのは平均的にあり得る事だと言える。だけど油断は禁物。この配牌はベストじゃない。だって、握れた赤牌はどちらも五の牌。東場の今においては常時ドラだ。しかし、他家の手や山には、面前限定のドラである三の赤牌が、三枚丸ごとごっそり眠っている訳で。つまり他家は今回面前で手を作ってリーチをしたがる傾向にある。一方で、この配牌のあたしはどちらかと言えば鳴く。二鳴きした所に二件リーチが来る、なんて事も十分あり得る。油断は、禁物……)

 

 

 

上家の夢子から{3}が出る。

 

 

「チー」

 

 

{横312}

 

妄、打、{北}。

 

 

次に今度は{③}が出る

 

 

「チー」

 

{横③①②}

 

 

(これも良くない。あたしは五の赤を二枚握っているから、他家から五の赤は見えていない訳で。そうなると、あたしが鳴いているのは五の赤を握っているからだと推測される。どんなノミ手でも、赤が二枚あれば最低3900。そう、あたしは既に二回鳴いている。これによって、鳴きの三色、あるいは一通、あるいはチャンタ。そこまで読まれてしまう。三鳴き目ができる保証は全く無い。赤の所在がどこにあるか、その情報を元にして、この麻雀の手役は読まれやすい)

 

 

 

しかし妄、ここは非常に運が良かった。{89}で待っていた所の{7}を引いてくる。これでかなり読み合い、押し引きは楽になっただろう。

 

 

そして……

 

 

「ツモ」

 

 

{五赤五46789} {5} {横③①②} {横312}

 

 

「500.1000だ」

 

 

 

 

東二局、妄の親。この局は鳴き合戦だった。ドラは{南}。

 

 

「ポン」

 

{南横南南}

 

 

 

豆生田が、南家で{南}を鳴いて、南ドラ三の満貫気配。

 

 

「ポン」

 

 

{東東横東}

 

 

 

それに負けじとダブ東を鳴く妄。{東}はドラ表示で一枚消えているのに、残りの三枚をかっさらった。

 

 

 

「チー」

 

 

 

{横4赤56} {横赤三四赤五}

 

 

 

東風戦の打ち手芽亜里は、両面からでも構わず鳴いてゆく。

 

 

 

 

そして、流局の間際。

 

 

 

「リーチです」

 

 

 

え――?

 

 

 

夢子が、リーチを宣言。

 

 

 

夢子は千点棒を供託する。

 

 

 

流局――

 

 

「テンパイです」

 

 

全員テンパイ。親は連荘して、東二局一本場だ。

 

 

 

点数状況

 

夢子:23000

妄:27000

豆生田:24500

芽亜里:24500

供託:1000点

 

 

夢子、今のリーチはなんだ?

いや、確かに、面前がとても強い今回のルールで、終局間際でリーチを打つ事によって皆を怯えさせ、鳴き手のテンパイを崩させて流局に持っていこう、その考えは分からない訳じゃない。

 

しかし、今それってそんなに大事か?面前で張ったのなら、リーチをかけなくても当然、流局すればテンパイ扱いになる。テンパイ料がいくらもらえるのかは、流局になってみないと分からない。

その一方で、リーチをする事で千点を供託しなければならないのは確定事項。絶対に持ち点は千点減る。

 

夢子よ、いいのか?そんな事してしまって。らしくも無い。トップを目指す打ち筋じゃない。

 

 

(ルールが特殊だ。まだ東場だぞ?今の微細な点差は後々響いてくるっていうのに)

 

 

東場と南場で条件が変わる今回の麻雀。そして、細かい持ち点の関係無い、着順の維持や逆転が常に要求される完全順位戦。難しい麻雀だ。

 

南場に入ると、赤牌の規定が変わり、全体的に打点が半減する。

 

南場から急に赤無し麻雀をやれだなんて。例えばの話、それって簡単じゃないだろう?

 

今回の麻雀の、このような特性は、麻雀の数あるルール、ゲームシステムの中で、似ている、通ずる所があるシステムがある。

 

 

それは――

 

 

 

富める者は更に富む。そのように作られた特殊なウマ、《沈みウマ》のようだ――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。