麻雀狂 ミダリ   作:かさばる

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第九話 開幕の本走

「さて、夢子と仲良くなる事について、だったわね?」

 

 

対局を終え、会長は語る。妄は未だに、会長が何故さっきの麻雀に誘ってきたのかがよく分かっていない。

 

 

「まあたまたま分かりやすい現象が対局で起こってくれて良かったわね。例えばよ?ついさっきのオーラスのダブロン、二重放銃。あれはまあ、情報を整理して言えば、こういう事よね。私と妄では、妄が33000点のリードを持っていた。私が逆転するには、三倍満の直撃か、倍満直撃と、プラス1100点以上の収入が必要だった。倍直プラス千点だけじゃあ、私と妄は同点になる。同点で終わったら、起家だった妄の勝ちになってしまう。だから1100点。それか、妄自身がリーチ棒を出す事、それか……実際に起こった通り、楓か清華からの援護射撃。ダブロン、トリロンの発生。そういう事。現に起こったでしょう?{4}待ちの、ホンイツ満貫の放銃。あれがつまるところ、妄の本懐であり、夢子が好む事でもある」

 

 

「……ああ、うん」

 

 

「偶発的な、運命的な?そこにしか無いような展開、ギャンブルの狂気。それってとっても素敵だと、夢子はきっと言うでしょうね。そしてね、妄?あなたにとってはほら、麻雀って良いと思わない?あなたは死にたいだの傷付きたいだの言い続けているけど、本当に死んでしまいやあしないでしょ?だってそうよ。死んでしまったらそこで終わり。それ以上傷付く事ができなくなる。もっと傷付きたいんでしょう?ひりつくようなギャンブルで。ならば麻雀はうってつけよ。だって、麻雀はとても辛いゲーム。配牌が悪いとどうあがいても負けるのが麻雀。しかし、それでも尚、九枚からの国士無双や、もしかしての連荘に賭けたりする。希望を捨てきれずに焼かれるのが麻雀。生きていながら死ぬ事ができる。一回や二回じゃあどうにもならない半荘、約十局というリミットの短さ。でもそれでも、次の次の次までに賭けて、賭け続けて、打ち続ける。ね?ほら、美しいでしょう?」

 

 

「……言いたい事は分かるよ」

 

 

「さてまあ、そんな事は割とどうでもいいのよ」

 

 

「は?どうでもいい?」

 

 

「好きなんでしょ?」

 

 

「えっ」

 

 

「ふふふ。好きなんでしょ?麻雀。いずれ懐かしくなるでしょう。ならば存分に楽しみなさい」

 

 

「次の勝負を?」

 

 

「あら、旺盛じゃないの」

 

 

「……待ってくれよ、会長」

 

 

忘れていない。妄は、サシウマの事を。

 

 

「あたしの指、折るんだろ?」

 

 

「あはは、それはもういいわよ。無かった事で」

 

 

「は……?」

 

 

許されるものか。そのような事が。

が、そう思う、その一方で。

 

 

「ふふふ、妄?いい?」

 

 

会長は何でも知っているのさ。見抜いている。妄というギャンブラーの本心を。

 

 

「妄、あなたも段々、なんて、いうのか、心が冷えてきたでしょう。ギャンブルで傷付くこと、それさえについても」

 

 

「…………」

 

 

今、指を折った所で、何になるというのだ。

 

 

「妄、あなたは既に賭ケグルイ。完全に異常な中毒者よ。もう絶対に抜け出せないの。刺激の方法を変え続けて、欲望を誤魔化し、打ち続けるしか無いのよ。ね。いい子だから従いなさい。ほら、想像してみて?倍満を張っている時の、千点への放銃。あるいは逆に――」

 

 

「逆、か」

 

 

妄は途中で口を挟み、会長が言おうとした言葉を先回って言い当てる。

 

 

「千点で流そうとしている時の、倍満への放銃か」

 

 

「……ふむ、妄も馬鹿じゃないもんねえ?」

 

会長は続ける。

 

「よくよく思い起こしてごらんなさい?倍満に千点、千点に倍満。この二者は、完全に逆の意味にありながら、実際に体験すると、まるで同じような感覚を有することでしょう。そう、麻雀の魔術、特性とはそういうものよ。流転、流転し、骨の棒は回る。洗牌の時間はパーティーよ。続く、続く、朽ちるまで。ねえ?とっても楽しい事で」

 

 

「……分かったよ。やるよ。会長」

 

 

「よろしいでしょう。では、妄。あなたにはこれから、麻雀を主として、沢山の勝負、挑戦をしてもらうわ」

 

 

「……うん」

 

 

会長は。

 

 

「なあ、会長」

 

 

妄は、会長に問うてみる。

 

 

「会長は、何が楽しいんだ?」

 

 

会長の、やりたい事とは。

 

 

「……うふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はずっと、一生胴元でいたいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

だってね?そうでしょう?麻雀とは人間それぞれの人格のゲーム。妄、あなたももう既に、結構凝り固まっているのよ。麻雀をずーっと鍛えてるから。プライド、おごりって言うのかしら?

 

 

 

 

 

次はその人格、歴、癖、人生観、試してみなさい。どちらが強いか。

 

 

 

――神事、双、劇――

 

 

ツイン――

 

 

 

 

「次の相手は、早乙女芽亜里よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、素敵なデータ、牌譜をあげるわ。芽亜里の闘牌、その傾向と対策について、頑張って」

 

 

 

 

 

芽亜里は、校舎の中の某所空き部屋を改装した賭場のオーナー。その賭場での闘牌の牌譜か?会長は妄に映像を見る事を促した。

 

 

……はて?そんなオーナーなんかが、自分の手の内を晒すような、録画であったり、牌譜の記録なんかをするものだろうか?

 

 

 

「……お?」

 

 

 

いや、違う。この映像は芽亜里がやっている賭場じゃない。

対局相手は……

 

 

え、夢見弖(ユメミテ)ユメミ?うちの、仮にも仲間の、生徒会の、ユメミと戦っている?

 

 

なんだこれは。公式戦か?いや、そんな事って……

 

 

 

いやいや。まずは麻雀の内容に注目するべきだ。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「よーし!私もできたっ!リーチだよっ!」

 

「ロン」

 

芽亜里は無表情で、淡々と倒牌し、申告する。

 

「千点」

 

 

「ユメミちゃーん!」

「ユメミちゃん頑張れー!」

 

 

「早乙女っ!なんだそのふざけたあがりはーーっ!」

「鳴きに鳴いて千点とは何事だーーっ!」

 

ユメミのファン達がブーイングする。

 

 

「んー、芽亜里ちゃん?打ち方は自由だけど、良かったの?アガ三(あがっても三着)で終了だよ?」

 

「いえ?違うわ」

 

「えっ?」

 

「ユメミさん、トップとは言え、あんたの持ち点は今、きっかり26000(ニーロクマル)。つまり」

 

「あっ」

 

 

「西入よ」

 

 

 

 

 

 

 

西一局、ドラは{二}。

 

 

 

 

「ポン」

 

 

「ポン」

 

 

「チー」

 

 

 

 

「ツモ。2000.4000」

 

 

 

「えっ、芽亜里ちゃん?それ、1000.2000じゃない?」

 

 

「……あっ」

 

 

 

{六六67} {赤5} {横234} {白白横白} {西横西西}

 

 

 

「ご、ごめんなさい………間違えたわ」

 

 

「はいーラストー!ご優勝はユメミちゃーん!」

 

 

 

――――――――

 

 

 

え……?

 

 

 

映像を見終わった妄。

 

「え?なんだこれ」

 

芽亜里のツモは、西白赤一の三役のあがりだった。

 

……ドラは{二}。

 

 

その局の、芽亜里の捨て牌……

 

 

 

{二一三二東北}

{赤⑤}

 

 

「え…………?」

 

 

どういう事だ?

 

 

 

「なあ、会長、この映像の麻雀のルールは?」

 

 

「……うふふ、ヒ、ミ、ツ、よ」

 

 

芽亜里の打ち筋、その、感性。

どういう事だ……?

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