歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
宇宙で行われる統合軍とトゥルーザフトの戦闘。
その一翼でかつてプラントの為に戦ったザフトであった者同士が争う構図となっていた。
それは、自分や家族の生存の未来を手繰り寄せようとする者達とコーディネーターと言う種族の栄光ある未来を夢想する者達による戦い。
過去に同じ陣営に属していながら、相入れることの出来ない者達が激しく火花を散らす戦いの中でアレックスは偽アスランとさらに激しい戦闘を行っていた。
「やはり、手強い。
なぜ、これ程の男がこんな愚行を。
こんな事をしても俺達に未来なんてないのは分かっているはずだ!」
「それは、お前の理屈だ。
俺は未来など求めていない!」
ビームサーベルの斬撃を互いのシールドで受け止める。
そこから次の攻撃へと繋げていくがどちらも決定打にはならない。
どんな攻撃も防ぎ、躱し、逸らされる。
攻撃密度が低いわけではない。
雨あられのように繰り出される攻撃を双方が対処して見せているのだ。
「なら、お前は何を求めている!
こんな事をしてナチュラルから、いや世界から嫌悪されることに何の意味がある!」
トゥルーザフトの行動は、ナチュラルや地上のコーディネーターだけではなくプラントの元同胞からも疎まれるものだ。
誰にも受け入れられない未来。
だからこそ、誰にも認められなくなったザフトの栄光に彼らはより固執するのかもしれない。
「この状況こそが俺の願い、俺の望み!
この戦いの行方がどうなろうとも、世界は俺の求めた方向へと向かう」
「負ければコーディネーターと言う存在は完全に否定される。
例え勝ってもライトマンのネオデスティニー・プランは種として脆弱となるコーディネート技術など必要としない。
どちらにせよコーディネーターに未来など・・・まさか!」
「ようやく気付いたか。
そうだ、コーディネーターの完全な否定こそ俺の望み!
中途半端に未来への希望を繋げば、いつか再び俺達のような存在が生み出される。
そんな可能性を潰すためにコーディネーターの存在は人類の歴史に汚点として刻まれねばならない。
他ならぬコーディネーター自身からすら否定されるほどに!」
不覚にもアレックスは偽アスランと共感してしまう。
この世界には生まれの不幸を背負わされてしまう者達が多すぎる。
その愚かさを世界に刻み込み、後に続こうとする者を根絶しようとする考えは理解できる。
簡単な事ではない。
永遠に消える事のない汚名を背負い、世界中から悪意を向けられることになるのだ。
その行為は、ある種、殉教のようにも思える。
生まれの不幸を背負う者達からは眩しく見えるのだろう。
ニコル・レプリカもその姿に魅せられて、立場の違いを超えた献身を捧げているのか。
「それでも、負けるわけにはいかない。
お前の行動は、周りを巻き込んだ自殺だ!
そして、巻き込まれているのはトゥルーザフトだけじゃない。
どれほど多くの被害を出したと思っている!」
「この世界に生きている以上、無関係な者など存在しない。
彼らもまた、俺が否定する世界を作り上げてきた者達の一部。
今の世界を許容するとはそう言う事だ!」
「俺だって世界を恨んだことはある。
それでも、守りたい世界があるんだ!」
絶望して、自らの死を望んだ。
自分自身が仇だから復讐など簡単に出来る。
だからこそ自殺など出来なかった。
ニコルの死を無意味にするなどアレックスには許容できない。
だから意味のある死を求めたのだ。
ニコルが残した世界を守るために。
そう思って、がむしゃらに進んできた。
今になって思う。
自分はニコルに守られてきたのだと。
生きていた頃だけではなく、死んでからも。
ニコルだけじゃない。
自暴自棄にならないように道を示してくれたクルーゼ、仲間殺しである自分を支えようとしてくれるイザークとディアッカ。
最初は気付かなかったけど、俺はいい仲間達に恵まれていたんだな。
それに・・・
アレックスの脳裏にラクスの姿が浮かぶ。
久しぶりに会ったキラは、驚くほど成長していた。
ラクスも不甲斐ない俺なんかより、よほど魅力的に感じたはずだ。
それでも、彼女は婚約者として誠実に向き合おうとしてくれた。
今も自分のために歌ってくれていることは理解している。
本当に自分には過ぎた仲間達であり、過ぎた元婚約者だ。
何も残ってないと思い込んでいた空虚な自分を変えてくれた。
受け入れよう。
弱かった過去の自分を。
間違ってしまった自分を。
そして、間違いを抱えて未来を生きていく自分を。
「悪いが、俺はお前を否定する。
この世界を自分の足で歩いていく。
俺にも、ようやくその覚悟が出来たんだ」
アレックスの中にかつては無かった芯となるものが出来つつあった。
アークエンジェル
ラクスは、戦場で戦うアレックスの身を案じ、無事を祈ることしか出来ない自分に歯噛みしていた。
自分の歌には闇ラクスのように大切な存在を明確に手助けできる力はない。
ローレライ・システムのデータが蓄積していけば、いずれは可能になるのかもしれない。
だが、それはいつかであり今ではない。
アレックスの助けになれない自分が悔しい。
かつてアスランだった頃も、彼が抱えていた苦悩に気付けなかった。
助けを求める声なき声に気付けて、手を伸ばしていれば今とは違う未来があったのかもしれないのに。
アレックスとなった今も、彼の支えになれない自分こそ婚約者として相応しくないのかもしれない。
これが彼女のコンプレックス。
歌で分かり合えたが故に自覚した、カガリや闇ラクスにはあり、自分には無いもの。
自分の歌が大切な人の支えになっていると言う自負。
相手が想いに応えているかどうかは関係ない。
愛とは対価を求めるものではないのだから。
だから、応えてくれないアレックスを恨むことはない。
彼の異変に気付き、手を差し伸べたのは自分ではなかったのだから。
そんな戦場に新たな
リベリオンが戦場に姿を見せたのだ。
我々の目的は、トゥルーザフトの殲滅とネオデスティニー・プランの阻止である。
この場で統合軍と交戦する意思はない。
リベリオンが全周波数を使い、戦域全体に宣言を行った後、闇ラクスの歌が流れ始める。
トゥルーザフト旗艦
「やはり、リベリオンはそう動きましたか。
ですが、その行動は我々を利することになる」
リベリオンが統合軍と共闘することで戦力差が開き、無人機『ゴースト』を擁するトゥルーザフトと言えど確実に勝てるとは言えなくなった。
にも関わらず、ライトマンは余裕の態度を崩さない。
しかし、部下まで同じではなかった。
リベリオンまで加わり、敗北を意識させられたことで不安を抱く。
「博士、一時撤退してはどうでしょう?
この戦力差では、いかにゴーストでも厳しいですよ!」
部下が軍を引くことを提案してくる。
敗北と言う未来から逃れるために一時的にでも安全を求めてしまっていた。
しかし、それこそがトゥルーザフトにとっての悪手だ。
対トゥルーザフトに関して、リベリオンすら統合軍と共闘を宣言した以上、この場を逃れてもジリ貧の未来しか残されていない。
やがては追い詰められて殲滅されるだろう。
なぜ、こんな簡単なことも理解できないのだろう。
優秀と自負するコーディネーターですらこの程度とは、世界から争いが無くならないわけだ。
ライトマンが無知な幼子に対するように諭す。
「それは悪手ですよ。
心配はいりません。
闇ラクスの歌のデータは、すでに入手済み。
フィルターによって悪影響はほぼ排除できます」
「そ、それでは!」
「ええ、我々の戦力は低下せず。
味方である統合軍の戦力を落とすだけの結果にしかなりません」
「おおっ、さすがは博士です。
勝てる!勝てるぞ!」
やれやれ、単純なことですね。
勝利の予感に湧き立つ面々を冷めた目で見ながら、ライトマンは思考を止めることなく続ける。
こちらには歌が効かない完全な無人機ゴーストがある。
リベリオンとて、この程度の情報は得ているはず。
なのに闇ラクスに歌わせるのなら、他に狙いがあるはず。
出来れば使いたくないですが、彼らに頼らねばならないかもしれませんね。
アークエンジェル:ブリッジ
「リベリオンも今回は共闘を選んでくれたようですね。
ですが、闇ラクスの歌はいただけません。
艦長、リベリオンに闇ラクスの歌を止めるよう要請してください」
「何故ですか?理事」
「分からないんですか?
ユニウス7の時を思い出してください。
闇ラクスの歌で敵を無力化できても、同時にこちらも無力化されてしまう。
あの時とは違い、向こうには無人機があるんですよ」
「無人機の脅威は残ったままになる!
艦長、早くリベリオンに警告しましょう!」
「ええ、そうね。
リベリオン旗艦に通信を繋げて!」
アズラエルの助言で危険な状況だと気付き、マリューが闇ラクスの歌を止めようとした時、自軍の歌姫達から待ったが掛かった。
「待ってください、マリューさん!」
「ラクスさん、何を?」
「私からも頼む。
闇ラクスを止めないでくれ」
「カガリさんまで・・・」
「闇ラクスが歌っているのは、今までのものとは違う。
むしろ、私達の歌に近い」
「マリューさん、私達に歌わせてください!」
「ちょっ、ちょっと待って!
どう言うことなの?」
ラクス達がこの状況で歌いたいと言い出した。
理由を理解できないマリューは戸惑うばかりだ。
「これは、闘争心を奪う歌じゃない。
闇ラクスは、私達を誘っているんだ。
共に歌おうと」
「何か理由があると思うんです。
私は、闇ラクスを信じます!」
「あなた達・・・」
カガリ達の行動は敵軍の歌姫に対するものではない。
前回の歌合戦で、その関係は大きく違うものになっていた。
まるで昔からの友人のように理解を示し、あまつさえ信じると言う。
あまりにも目まぐるしく変わる状況に対応してみせたのはあの男だった。
「艦長、歌わせましょう」
「理事!」
危険を指摘したアズラエル自身が意見を翻したことにマリュー達は驚きを隠せない。
「歌に関してはカガリさん達を信じると言ったでしょう。
専門家の意見を聞き、変化した状況に素早く対処しなければ他の誰かに出し抜かれる。
これ、ビジネスの世界じゃ常識ですよ?」
アズラエルは簡単そうに言うが、実際に出来る者は多くない。
成功している者ほど、自身の成功体験から外れることを
成功体験を否定したくないと自身のやり方に固執し没落していく者は後を絶たない。
この柔軟さは、アズラエルの経営者としての資質の高さを示していると言える。
「それに、ローレライ・システムの特殊機能を使えるようになるかもしれませんから」
「特殊機能?」
「言いませんでしたか?
アークエンジェルに搭載したローレライ・システムにはオリジナルにはない独自の機能が付加されているんです。
今は出力が低くて使えませんが、この共演がきっかけになるかもしれません」
「わかりました。
その特殊機能とやらは、後で説明してもらうとして、私達もカガリさん達を信じます。
彼女達が信じているなら闇ラクスも」
「「ありがとう(ございます)!」」
こうして戦場に3人の歌姫達の歌が響く。
打ち消し合う為ではない。
互いの波長を合わせて歌うのだ。
それがどんな変化をもたらすのか誰にも分からない。