歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
新たに出現したモビルスーツ達は、通常の機体より2回りほど小型であることから無人機だと思われる。
しかし、そのフォルムはゴーストとは異なるものだった。
その姿はペイルライダーを小型化したもの。
ネームレスがエースパイロット用に開発したペイルライダーをベースに無人機化したことで、量産のために簡素化した分を補って余りある性能を実現していた。
だが、もともと無人機は人が乗っていては不可能な機動を実現している。
新型機の性能は確かに脅威ではあるがゲームチェンジャーと言われるほど劇的な変化ではない。
この新型無人機『ゴーストライダー』のライトマンすら忌避した特徴。
それは、
「ブランドン・ラース、出るぞ」
「私の足を引っ張るなよ、私」
「私のセリフだ。
せいぜい人形として利用してやる」
「だまれ、敵は目の前にいる。
役目を果たせ、人形らしくな」
この場にいる60機のゴーストライダーには、新型のAIが搭載されている。
そして、その全てにラースの人格がインストールされているのだ。
七大罪に選ばれるほどのスーパーエースが操る無人機が60機。
戦況を覆すには十分な戦力だ。
だが、こんな事は本来あり得ないはずだった。
人の精神は、自分のコピーが存在することに耐えられるようには出来ていない。
もし、目の前に自分と全く同じ外見、同じ人格を持つ存在が現れたらどうなるか。
自分が二人存在するという矛盾に耐えられず、アイデンティティごと人格が崩壊してしまうか、自分こそが本物だと主張し、殺し合いが始まってしまう。
では、ここにいる60体のラースは何なのか?
それこそ彼が七大罪に選ばれた理由。
実はブランドン・ラースにはパイロットとしての才能がない。
SEEDや特殊な空間認識能力は言うに及ばず、パイロットとしての閃きやセンスと言ったものも極めて平凡。
せいぜい2戦級のパイロットにしかなれないはずだった。
何が彼をスーパーエースに押し上げたのか。
それは、彼が持つ精神の異常性。
自分自身も含めて全ての存在を人形として扱える。
ライトマンとは方向性が異なるが、彼もまた異形の精神を持つ男だった。
ライトマンが忌避するのも同族嫌悪が入っているのかもしれない。
そんなラースであるからこそ、自分以外の自分の存在も問題なく受け入れられる。
そして、自身のコピーの経験を上書き出来るのだ。
簡単そうに聞こえるが想像を絶する恐怖を伴う。
自分の知らない経験をした自分。
どう変化したのかも分からない自分に今の自分が乗っ取られるかもしれない。
そんな自分自身を守るための防御反応を一切示さず、経験を上書きし続けた事でラースはスーパーエースとなった。
特殊な能力や天性の閃きもセンスもない。
その差を膨大な経験から来る判断の速さと無駄の存在しない操縦技術で埋めてくる。
凡人が至ることの出来る究極形。
それがブランドン・ラースという男だった。
ラース達が戦場に突入してきたことで戦況は、一気に劣勢へと立たされてしまった。
派手さはないが堅実で無駄がなく、ゴーストライダーの性能を余すとこなく発揮させる。
無人機を運用するのにもっとも適したパイロットだと言えた。
さらに上位のAI権限で既存のゴーストすら支配下に置いて利用してくるのだから手に負えない。
「ラース君、アークエンジェルは沈めないでください。
計画のために彼女達は、ぜひ確保したい」
「知らん、組織はすでに歌姫を用意している。
ここで落とされるなら、彼女達はそれまでの存在であったということだ」
「やっぱり、こうなってしまいましたか。
仕方ありませんね、次善の策を模索しますか」
人格を持つAIと言う人を超えた存在が見せつける能力は、想像を遥かに超えていた。
人間というインターフェースを挟んでいては物理的に追いつけない。
戦術、判断の早さ、機体制御の精密性、あらゆる場面で圧倒的に上を行かれる。
もはや、全滅までどれだけ持ち堪えられるかと言った状況だった。
全滅を待つだけだったトゥルーザフトの残存兵は、突然現れた救世主に歓喜する。
しかし、ラースに彼らが味方という認識はない。
彼らもまた、ゴーストライダーの刃に掛かって宇宙の藻屑と化していった。
「まずい、この敵は別格だ!
それに、この感覚は?」
「何なんだよ、こいつらは!
同じ奴がたくさん!?」
戦場でもはや敵味方区別なく有人機を殲滅している新型無人機とその統制下に入った無人機達。
キラもシンも新たな敵の気配を感じ取り、そのあまりの異質さに戦慄していた。
命は一人に一つのはずなのに、同じ存在が群れをなしている。
それは、人の在り方からあまりにもかけ離れたものだった。
その群れが一つの感情が叩きつけてくる。
それは『怒り』だった。
ブランドン・ラース達は、一人の例外もなく世界に対する怒りを抱いていた。
自分自身を含めて全てを人形、道具のように扱えると言っても感情がないわけではない。
むしろ、強烈な感情の持ち主であった。
彼は、パイロットとしての才能がなく、決して天才と呼ばれる者達には勝てないと自覚していた。
そんな彼がカーボンヒューマンと言う技術と出会った事で全てが変わった。
凡人でしかない自分でもこれ程の高みに至れる。
だからこそ、天才と呼ばれる者達を見るたびにこう思うのだ。
「お前達も私を遥かに超える才能を持っているのに、なぜそれを腐らせるような真似をする!
そんなに今の自分が大切か!
今の自分が失われても、それを超える自分が残ればいいではないか。
なぜ、しない!」
自分を超える才能の持ち主達が自分と同じことをすればどれ程の高みに至れるだろうか?
なぜ、奴らはこんなにも才能を無駄に出来るのだろう?
自分自身が失われる恐怖を理解できないラースにとって、効率主義を掲げるネームレスすら非効率に感じるほど世界は無駄に溢れていた。
人間的な感情で非効率な行動をする者たちに苛立ち、怒りは常に燻っていた。
そんなラースの気配を懐かしく感じたことで正体に気付いたのはかつて部下であった者達。
「おいおい、まさかコイツらは・・・」
「うん、アイツらみんなラース」
「マジかよ!
人のこと道具みたいに扱う嫌な奴だと思っていたけど、まさか本当に人で無しになってくるなんて」
「うじゃうじゃと節操なくコピーを増やしやがって。
こんな気色悪い状態でなんで正気でいられるんだよ!」
「最初から壊れようがないほど狂ってるってことだろ。
それよりも、来るぞ!」
エクステンデッド達にもゴーストライダーが襲いかかる。
「裏切った人形共か。
ゆりかごが機能していた頃は使える道具だったが、今は不良品でしかない。
ゴミはゴミらしく処分されるがいい!」
スーパーエースとしての技量と有人機では不可能な高速機動を併せ持つゴーストライダーの前にあっという間に劣勢に立たされてしまう。
「くっそ!
どうするんだよ!」
「どうするったって、足掻くしかないだろ!
決めただろ、最後まで諦めないって!」
「ステラも諦めない!
シンや闇ラクスを傷つける奴は、絶対に許さない!」
「行くぞ!
とにかく離れるな!」
ステラ達も絶望的な戦いに突入していった。
ゴーストライダー達が両翼にも突入し、戦場を支配し始める。
これにより、偽アスランとニコルを撃破し、撤退させたアレックス達の勢いも完全に止められてしまう。
「くっ、ニコル・レプリカが言っていたのはこいつらの事か!」
「まずいぞ、奴らは俺たちでも抑えきれん」
アレックスとイザークは、相手の動きからトップクラスのパイロットである自分達ですら一対一では手に負えないと察していた。
そこにディアッカとネオも合流する。
「クソ〜、こんなの相手にザクじゃキツいぜ。
俺も専用機を用意してもらえば良かった」
「ぼやいてる場合か、ディアッカ!」
「おっ、今の反応は昔を思い出すな」
「・・歌の影響か、全てではないが昔の記憶が戻ってきている」
「本当か!ははっ、なら、コンビ復活だな」
「感傷に浸るのは後だ。
これから、どうする?
このままでは、碌に抵抗も出来んぞ」
「チームで動くのだ。
ディアッカ、君の機体は砲戦型のガナーザクウォーリア。
無理せず、支援砲撃に徹してくれ。
私がドラグーンでディアッカの護衛をしつつ全体の指揮を取る。
アレックスとイザークは、前衛として道を切り開いてもらう。
常に動き続けるんだ。
この戦場で止まったらやられる」
「しかし、それでは周りの部隊は・・・」
「他を守る余裕はない。
何、あちらの指揮官は砂漠の虎だ。
状況を理解して遅滞戦闘に徹するだろう」
「このままでは、いずれにしろ・・・」
「確かに奇跡でも起きなければ、この状態から勝利を引き寄せることは不可能だろう」
「奇跡の当てがあるのですか!?」
「分からんが、あの男なら切り札の一つくらい隠していても驚かんよ」
「アズラエル理事ですか」
「どちらにせよ、我々に出来ることは奇跡に期待して時間を稼ぐことだけだ。
行くぞ!」
「「「了解!」」」
右翼でもゲシュペンスト隊がゴーストライダーの矢面に立っていた。
「くっ、やるじゃないか!
だが、俺は負けん!
最強であることを証明し続けるために」
いかにカナードとスーパーハイペリオンと言えど人間を超えた機動を可能とするスーパーエースを相手には部が悪い。
「カナード、前に出過ぎないでください!
あなたはこの部隊の要。
失うわけには行かないんですよ!」
「分かっている!
俺だって無人機相手に真正面から張り合うほど馬鹿じゃないさ。
だが、俺が一番前に出なけりゃ戦線の維持すら難しいだろう!」
「それでも耐えてください。
流れを変えるチャンスが来るのを待つんです」
「そうだぜ、隊長。
あんたに着いていける程の実力はないが、それでも前大戦から一緒に戦って来たんだ。
たまには俺達を信じて、頼ってくれてもいいんじゃないか?」
「新人達も、もうヒヨッ子じゃない。
隊長に守ってもらわなくても少しくらいなら全員で耐えるくらい出来るさ」
「・・お前ら。
本当にチャンスが来ると思っているのか?」
「ええ、ムルタ・アズラエルなんてVIPが乗ってるアークエンジェルが撤退する素ぶりを見せてない。
歌姫達の歌も途切れず続いている。
なら、まだ何か打つ手があるってことです」
「なるほど・・・いいだろう。
ここは守勢に回る。
落とされるような無様は晒すなよ!」
「「「了解!!」」」
両翼の要となる戦力が次の一手があると信じて遅滞戦闘を開始した。
それでもゴーストライダー達の脅威は凄まじく、一般兵の多くが次々と犠牲になっていく。
そんな状況で次の一手を期待されているアークエンジェルでは、
「ローレライ・システムの出力はどうですか?」
「駄目です!
後少しですが規定値に到達していません。
これでは特殊機能を起動できません!」
「くっ、いけると思ったんですが、まだ足りないですか」
こうしている間もマリュー達は指揮を取り、前線の部隊を砲撃やミサイルで支援し続けている。
それでも時折、前線を抜かれて艦艇に被害が出始めてきた。
たとえ起死回生の一手を打てたとしても反撃できるほどの戦力を維持できる時間はそう残されてはいなかった。
そこにパラスアテナから通信が繋がる。
アークエンジェルのモニターには闇ラクスが映っていた。
「アズラエルさん、そちらには打つ手があるのですね?
そして、それはローレライ・システムの出力を上げさえすれば可能になる。
間違いありませんか?」
「闇ラクス・・・ええ、間違いありませんよ。
カガリさん達が信じたんです。
僕も貴女を信じましょう。
貴女ならどうにか出来ますか?」
「私一人では無理ですね。
ですが、」
そこにカガリとラクスも加わる。
「「私達なら出来る(ます)」」
次の瞬間、3人の歌が変わった。
先程までは闇ラクスがリードして二人が学び模倣していく形だった。
今は違う。
3人がそれぞれの持ち味を発揮して、一つのハーモニーを作り上げていく。
誰が一番と言うわけでもない。
個性と個性がぶつかり合いながらもそれぞれを高め合っていくトライアングルの関係性。
言わばトライセッション。
「これは!
サウンドウェーブ出力増大!
規定値、超えました!
理事、行けますよ!」
「よし、行きますよ!
アズラエルが用意したローレライ・システムの特殊機能。
その名は皮肉にもネームレスが用意している歌い手と同じ名前だった。
ネームレスが用いる電子の歌姫が機械に歌わせるためのものならば、こちらの電子の歌姫は機械である無人機に歌を届けるためのもの。
歌声をコンピュータ言語に翻訳して量子通信で無理矢理にでも機械に聞かせるための機能。
前大戦で無人機が猛威を振るい、歌を届けることに成功しなければ危なかったと聞いたアズラエルが対無人機用に開発させたものだった。
そして今、戦場で猛威を振るっているゴーストライダー達にその真価が試される。