歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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トゥルーザフトとの戦い6

 

 

 

 闇ラクスがアズラエルに通信を繋げるより少し前のこと、絶望的な状況を覆すために起死回生の一手に打って出ようと決断した者がいた。

 いや、それは策と言うより一か八かの賭けのようなものだった。

 それも、ずいぶんと部の悪い賭けであった。

 

 

「メイリン、私達が突っ込むわよ!

 クリス・ライトマンの乗る旗艦を落とす」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

「そんな不安そうな声を出さないでよ。

 大丈夫、復讐に囚われて状況判断が出来てないわけでもヤケになったわけでもないわ。

 メイリンだって分かるでしょ?

 このままじゃ負けるって」

 

「それは、そうだけど」

 

「向こうの新型無人機には、今のシンでも敵わない。

 私達は連携でどうにか凌いでいるけど、他の部隊はどんどん落とされてる。

 早く動かないと手遅れになるわ!」

 

「シンでも生き残るのに精一杯なのに私達じゃ無理だよ」

 

「逆よ、メイリン。

 これは、私達にしか、ノルンにしか出来ない」

 

「それって、まさか・・・」

 

「ええ、ノルンにはウルズ達がいる。

 メイリンには酷なことだと思うけどウルズ達を盾にして使い潰せるノルンでならライトマンに迫れるかもしれない。

 私達の目的はネオ・デスティニープランの阻止。

 提唱者のライトマンさえ仕留めれば、私達の勝ちよ!」

 

 確かに僅かではあるが成功の可能性を持つ作戦だった。

 ウルズ達は無人戦闘機。

 技量においてはともかく、動きそのものにはついていける。

 そんな3機を護衛としての一点突破。

 ラース達は戦域全体で猛威を振るっているが、逆に言えば戦域全体に分散しているとも言える。

 それでも、潜在能力を解放したシンですら単騎での突破は不可能。

 同等の実力を持つキラやアレックスに護衛をしてもらいライトマンに迫れたとしても確実にキラ達は犠牲になっているだろう。

 だからこそノルンなのだ。

 各戦域を支えているエース達を根こそぎ引き抜くなんてことなど、そもそも出来ない。

 彼女達だけがこのミッションに投入できる唯一の戦力だった。

 

「お姉ちゃんは、覚悟を決めたんだね。

 なら、私も覚悟を決めるよ。

 ごめんね、ウルズ、ベルザンディー、スクルド」

 

 姉妹の意思が一つに重なる。

 

「シン、みんな、聞こえてたわよね。

 私達が突っ込むから、出来るだけ奴らを引きつけてちょうだい!」

 

「ルナ、無茶だ!

 それなら、俺が!」

 

「シン、分かってるでしょ?

 ノルン以外じゃ必ず死者が出る」

 

「それでも、俺はルナに死んで欲しくない!」

 

「ありがとう、シン。

 でも言ったでしょ?

 復讐のために死に急いでるわけじゃない。

 死地に飛び込むのはみんなで生き残るため。

 不思議ね。

 ライトマンが目の前にいるのにこんなにも冷静でいられるなんて。

 もっと、頭の中がぐちゃぐちゃになると思ってた」

 

 ルナマリアがシンに微笑みを向ける。

 

「これが復讐から解放された感覚なのかしら?

 シンのお陰よ。

 ようやく、私も前を向けたみたい」

 

「ルナ・・・」

 

「シン、この戦いが終わったら伝えたいことがあるの。

 必ず生きて帰るわ。

 だから、その時はちゃんと聞きなさいよ!」

 

「「ノルン、吶喊(とっかん)します!」」

 

 ノルンがブースターを噴かし、突撃を開始する。

 無人戦闘機達が護衛として付き従う。

 生き残るために万に一つの可能性を拾うために行動を開始したホーク姉妹。

 仲間達は、その可能性を千に一つにするために出来る精一杯で応える。

 仲間達だけではない。

 キラ達、アークエンジェル組もその意図を汲み取りラース達を少しでも拘束しようと動く。

 両翼の部隊が遅滞戦闘を行っていたこともあり、部隊全体でルナマリア達の援護をする形となっていた。

 

「なるほど、一点突破でライトマンを取りに来たか。

 確かにそれしかあるまい。

 だが、そんなことを易々と許すほど私も優しくはない。

 その程度の腕で我々を抜けはしない!」

 

 やはり、メイリンの技量ではラースの腕には着いていけなかった。

 同等の速さを持っていても、攻撃が届くのはラースばかり。

 ノルンを守るために機体そのものを盾にせざるを得ず、ウルズ達の損傷は増えていく。

 展開自体は予想していたものの、そのペースがあまりにも早い。

 このままではライトマンにたどり着く前に撃墜されてしまう。

 

「まずいわね。

 思った以上にどうにもならない」

 

「お姉ちゃん、ウルズ達の損傷がもうすぐ危険域に入るよ!」

 

「成功の可能性が笑っちゃうくらい低いことなんて最初から分かってたこと。

 それでも、諦めるわけにはいかないわ。

 ここで私達が死ぬことになっても、希望の灯を消させちゃいけない!」

 

「うん、私も諦めないよ。

 脳が焼き切れてもいい。

 ウルズ達、お願い、応えて!」

 

 ホーク姉妹が限界を超えて、命を燃やし尽くそうとしたタイミングで戦場に響いていた歌姫達の歌が変わった。

 シンに寄り添っていた闇ラクスの歌が、今はルナマリア達を支え、その背中を押している。

 ルナマリアは闇ラクスの心を確かに感じていた。

 そこには、仲間に対する信頼があった。

 シンを想う者としての対抗心もあった。

 ルナマリアが仲間としてシンと積み上げてきた時間に対する嫉妬さえあった。

 自分が闇ラクスに向けていたように、闇ラクスも自分に複雑な感情を向けていたのだと知った。

 それでも仲間として全力で後押ししてくれている。

 

「本当に嫌な子ね。

 これじゃ嫌うことも出来ないじゃない」

 

 お互い様です。

 私だってルナマリアさんが羨ましい。

 戦場で肩を並べて戦うのも、直接背中を守るのも私には出来ないことですから。

 

「ルナでいいわ。

 私達は仲間でしょ」

 

 ではルナ、私を信じてください。

 奇跡はもうすぐ起きます!

 

「信じるわ!

 メイリン、どうやら希望はあるみたいね」

 

「うん、闇ラクスさん、ありがとう!」

 

 奇跡を用意したのは私ではありませんが。

 

「その奇跡にはあんたの力が必要なんでしょ?

 なら、胸を張りなさい。

 頼りになる仲間だと認めてるんだからね」

 

 シンがあなたを一番信頼しているのも分かる気がします。

 私にとって一番の強敵(ライバル)は、ラクスでもカガリでもなかったみたい。

 でも、負けるつもりはありません。

 

「そうね、この戦いが終わったら私はシンに想いを伝えるつもり。

 どんな結果になろうと恨みっこ無しよ」

 

 ええ、そうですね。

 そんな未来を掴むために、今、出来る限りを尽くしましょう。

 

 

 

 歌姫達のサウンドウェーブが増大し、ローレライ・システムの特殊機能が解放される。

 

 

 ノルンがライトマンが乗るトゥルーザフト旗艦へと突き進む中で最初の変化が訪れた。

 ベルザンディーが放ったビームがゴーストライダーのシールドによって防がれた。

 今までかすりもしなかった攻撃が届いたのだ。

 

「えっ、ベルザンディー?」

 

「当たった!

 やるじゃない、メイリン。

 その調子よ」

 

「違うよ、お姉ちゃん。

 私は何もしてない。

 ううん、指示は出したけど、ベルザンディーが今まで以上の動きをしているの!」

 

 さらに変化は加速していく。

 別のゴーストライダーの攻撃がノルンに迫る。

 そこにスクルドが割り込み、自らの機体を盾にして受け止めた。

 

「スクルド!

 違う、今のは指示すら出してないのに!」

 

 周りを見れば、ウルズ達が見違えるほどの動きを見せていた。

 ゴーストライダーを相手に無人機特有の動きで対応して見せている。

 今もメイリンの指示には基本的に従っている。

 しかし、目まぐるしく変わる状況の中で指示が間に合わない時には、明らかに指示を待つことなく自分の判断で動いている。

 

「ウルズ、ベルザンディー、スクルド・・あなた達、どうして?」

 

 自分で判断しているとしか思えない動きをする無人戦闘機達にメイリンは戸惑ってしまう。

 そんなメイリンの疑問に答えたのは隊長であるオズマだった。

 

「どうやら、ウルズ達のAIが次のステージに進んだようだな」

 

「隊長!

 ウルズ達に何が起きてるんですか!?」

 

「ウルズ達には学習型AIが搭載されている。

 経験を積むことで動きを最適化していくためのものだ。

 その先にあるのは、自我の獲得だと予想されていた」

 

「でも、ウルズ達は私の指示に従ってくれていますよ?」

 

「それは、お前がウルズ達と良い関係を築いて信頼関係という絆を結んできたからだ。

 まあ、メイリンの性格なら反逆されるような事にはならないと思っていたけどな。

 正直、驚いている。

 自我の獲得など、まだ不可能な段階だったはずだ。

 遠い先の未来で起こるはずだった事が起きている」

 

「みんな、自分の意思で私達を助けてくれてるの?

 私は、あなた達を使い潰そうとしてたのに・・・」

 

 会話を交わすことは出来ずとも今まで共に戦ってきた仲間なのだから、その意図は感じる。

 ウルズ達の行動は、メイリン達を守ると言う確かな意志を示していた。

 

「これが奇跡ってやつね。

 これなら、ライトマンに届くかもしれないわ!」

 

「いいや、ルナ。

 奇跡はそれだけで終わりじゃないみたいだぜ」

 

 通信にシンが割り込んでくる。

 その言葉の通り、変化はウルズ達だけに止まらなかった。

 ゴーストライダーの制御下に置かれていたゴースト達の一部が反乱を起こしていた。

 時間と共に反逆するゴーストは増えていく。

 

「何故、ゴーストが反乱を起こす!?

 道具が逆らうなど許されざることだぞ!」

 

 完全な自立行動を可能とし、外部からのプログラムの変更は不可能と言ってもいいゴーストが裏切ることなどあり得ないはずだった。

 そんな想定外の事態にラースも苛立ちを隠せない。

 

 

 アークエンジェルのブリッジでもこの変化に驚きが広がる。

 

「理事、何がどうなっているんです?」

 

 ナタルの疑問はクルー全員の心を代弁していた。

 

「ローレライ・システムの開発を月で行うことになったのは、面白い男と知り合ったからって伝えたのは覚えてますか?

 正確には、その男『ロウ・ギュール』の相棒であるサポートAI『ハチ』君のことですが」

 

「サポートAI」

 

「ええ、ハチ君と出会うまで機械に歌は通じないと思ってました。

 ですが、彼の感情豊かな反応を見て、もしかしたら歌で感動させることも可能なんじゃないかと考えるようになりました。

 実際、カガリさん達の歌に感じるところもあるとハチ君自身が答えてます」

 

 感動とまでは行かなかったのは、やはり言語の壁が大きかったからだ。

 人間とコンピュータでは使用する言語が大きく異なる。

 ロウと会話によるコミニュケーションが出来るほど人間の言語に精通していたハチだからこそ僅かとは言え歌から何かを感じ取れたと言える。

 前大戦で猛威を振るった無人機、その中枢に歌を届ける手段が無ければ危なかったことを知るアズラエルが、ここまで条件が揃ったならば無人機対策を行うことはむしろ必然であった。

 そこから先は悪戦苦闘の日々だった。

 カガリ達の歌をコンピュータが理解できるように翻訳する作業。

 ただ理解できるようにするだけでは意味がない。

 自分達と同じように感動させる事が出来なければいけないのだ。

 いかにハチの協力があろうと、そのハードルは高くなってしまった。

 そのハードルを歌姫達が実力で超えてくれたから、今の状況がある。

 

 

 ウルズ達が自我に目覚め、ゴースト達も次々と味方になってくれている。

 やるべき事は変わってない。

 ノルンもウルズ達もすでにボロボロだが、このまま突き進むのみ。

 ここでライトマンを取り逃し、また地下に潜られては未来の禍根となる。

 復讐のためではない。

 仲間と迎えたい未来のためにホーク姉妹は戦場を駆ける。

 

 

 傷付きながらも迫り来るノルンを見つめながら、ライトマンは逃げる素振りを見せなかった。

 ここで逃げ延びても自身に再起の機会がないことを理解しているからだ。

 組織が動き出す時が迫っている。

 今回がライトマンが望む未来を引き寄せる最後のチャンスだった。

 その為に万全の準備をした。

 使いたくなかったラースまで使った。

 にも関わらず、何度も状況をひっくり返されてしまった。

 自分の首に死神の鎌が迫りつつある事も理解している。

 ライトマンの心にあるのは、ネオ・デスティニープランを成功させられなかった絶望でも、志半ばで死ぬ悔しさでもなく、純粋な疑問だった。

 だから、彼は向かってくる者達に問いかけていた。

 

「何故、君達はこれ程までに戦える?

 何が君達をこれ程までに駆り立てる?」

 

「あんたは私達の父さんの仇。

 でも、今、戦っている理由は復讐じゃないわ。

 未来が欲しいからよ!

 決められた運命じゃない、自分達で選べる未来を!」

 

「それが危険な未来だと何故わからない!

 今度こそ、きっといつか

 そんな甘い言葉に踊らされ、人類が何度過ちを繰り返してきた?

 人類はすでに持ってしまっているんです!

 自分達を確実に滅ぼせる力を!」

 

「私達を舐めるな!

 そんな未来を否定する為に戦ってるのよ!

 覚悟はあるわ」

 

「それが間違っている。

 一部の者達の英雄的な行動に頼らなければ存続できない世界に未来(さき)などない。

 前回はなんとか世界は滅びることなく踏みとどまることが出来た。

 今回も切り抜ける事が出来るかもしれない。

 ですが、それはいつまで続く?

 一度でも失敗すれば世界は滅ぶ。

 あっさりと。

 だから、不完全な理性に頼るのをやめて、完全な理性を持つ人類が生まれるまでは自由意志を封印しなければいけないんだ!」

 

「あんたが言ってることは一面では正しいのかもね。

 でも、私は否定する。

 人類はそれほど愚かじゃないって信じてるから!

 仲間達の存在がそう信じさせてくれる!」

 

 ついにノルンの銃口がライトマンがいるブリッジを捉えた。

 銃口に光が灯り、まさに放たれんとしている光景を見つめながらライトマンは思う。

 

 自分は人類を侮っていたのか?

 世界はそれほど捨てたものじゃないと思わせてくれる存在など自分の周りにはいなかった。

 彼女達だけでは運命を変えれなかった。

 アークエンジェルが、ファントムペインが、ゲシュペンスト隊が、かつてザフトであった者達さえもが手を取り合って運命に抗ったから自分は負けたのだ。

 なら、案外この後に来る組織の動きにすら抗い、阻止してしまうかもしれませんね。

 その後もなんだかんだと滅びを回避して、完全な理性を獲得する日まで綱渡を成功させ続ける。

 あなた達になら出来そうな気がします。

 

 人類の未来を守るために自ら狂気の道に進んだ。

 そんな自分の最後がこんなにも心穏やかであることに罪悪感を覚える。

 人という種の在り方を無理矢理変えなくても、彼女達なら自然にいい方向に変わっていける。

 私にすら、そんな柄でもないことを思わせるんですから大したものですよ。

 

 ノルンが放ったビームによってライトマンはこの世界から消えた。

 形だけを見れば、紅の姉妹が仇を討ったことになる。

 もし、ルナマリア達が復讐に囚われたままだったなら、ライトマンは世界に対する失望を抱えたまま逝っていたのかもしれない。

 ライトマンは最後に巡り会えたのだ。

 この世界はそんなに悪くないと思わせてくれる存在に。

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