歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
トゥルーザフトとの戦いに勝利してからしばらくして、アークエンジェルが統合軍本部に招集された。
次の任務は何か?
リベリオンとの戦いになってしまうのかと考えていたが、本部から与えられた任務はアズラエルの護衛だった。
再びアークエンジェルに乗り込んできたアズラエルの表情が明るいものであったことから、ネームレスの件について進展があったことが伺える。
トゥルーザフトとの決戦を終えてからアズラエルが精力的に動いていたことを知っているアークエンジェルのクルー達は、その実態が不確かで戦うべき相手が見えない状況を変えてくれると期待していた。
「やあ、皆さん。
久しぶりと言うほど時間は経っていませんが、またよろしいお願いしますよ」
「理事、我々は貴方の護衛をしろとしか聞いておりません。
これから何をなさるのか聞かせてもらえますか?」
艦長としてマリューが今後の予定を確認する。
「統合軍とリベリオンが会談を行います。
と言うよりも、僕が主導してこの会談をセッティングしました」
「なっ、理事がリベリオンの下に行かれるのですか!?」
「ええ、この前トゥルーザフト相手に共闘したからか、少し態度が軟化したようでいきなり逮捕ってことにはならなそうです」
もちろん、絶対の保証はないのであなたたちに護衛を頼んでいるんですが。
そう言って笑うアズラエルだが、今回の会談で身の危険があるとは本人も思ってないようだった。
実際にアズラエルの考えは当たっていた。
リベリオンも世界の流れに違和感を感じていたのだ。
汎イスラム会議の議長、イブラヒム・カーンは無能ではない。
むしろ過激なイスラム勢力をまとめ上げる手腕は卓越していた。
彼がいなければ中東はテロ組織が乱立し、不安定な地域になっていたはずだ。
カーンは、ハロルドの説明を聞いて納得したような態度を取っていたが疑いを捨ててはいなかった。
簡単に信用するようではイスラム勢力をまとめることなど出来ない。
ハロルドはリベリオンに多大な貢献をしていたが、その裏には自分達を利用しようとする意図があると確信していた。
そんな時にアズラエルから会談の申し出があったのだ。
アズラエルのようなリアリストが身柄を押さえられる危険を犯して会談の場に出てくる。
ならば、それだけの理由があると言うこと。
闇ラクスの後ろにいる組織の危険性について伝えてきたのはあの男だ。
話を聞かねばなるまい。
ずっと感じていた違和感の正体を掴めるかもしれない。
突然現れた闇ラクスと言う象徴となれる存在。
小国の集まりでしかないリベリオンが大国に対抗できるローレライ・システム。
ジブリール邸を襲撃した時に得た証拠の数々。
自分達に都合の良い偶然がこれほど続くものだろうか?
まるで
だが、どれほど探してもそんな存在を確認する事は出来なかった。
アズラエルがその存在の尻尾を掴み、共闘を望んでいるのなら応じるつもりでいた。
自分達を操り人形にしようとする者達がいるのなら報いを与えなければならない。
自分達のことは自分達で決める。
そのために欧米と対立し続けてきたのだから。
統合軍の代表とリベリオンの代表が会談を行う場所に向かうアークエンジェルにアズラエルと共に意外な人物が乗り込んできた。
「ミリィ!
なんでここに!?」
一切話を聞いてなかったトールが驚き、ミリアリアに問い掛ける。
「ごめんね、トール。
守秘義務があって話せなかったの」
「すみませんね、トール君。
ネームレスの末端はあらゆる組織に入り込んでいる。
どこで情報が漏れるか分からないので、ぎりぎりまで伏せておくようお願いしてたんです」
アズラエルのフォローにトールも納得するしかなかった。
前大戦で情報を不用意に扱う危険性は嫌と言うほど知っている。
相手は存在すら知られずに世界の歴史を歪ませてきた組織だ。
用心してし過ぎると言う事はないだろう。
「ここにいるジェス・リブル君とアシスタントのミリアリアさんが前に言っていた情報提供者です。
彼らが最後のピースをもたらしてくれました」
「ミリィ、あれだけ危険な事はするなって言っておいたのに!」
「なによ、パイロットやってるトールにそんな事言われたくないわ!
私だって覚悟してこの道に進んだのよ!」
「分かってるけど心配なんだ。
今の俺は、ミリィの危機に駆けつけることが出来ないから・・」
「トール・・・心配かけてごめんなさい。
でも、どうしても必要な事だと思ったから・・・」
「分かってるよ、ミリィ。
2年前に見つけた道を否定なんて出来ない。
俺だってその道を歩いてるんだから」
「・・・トール」
久しぶりに会った恋人達が二人の世界を作り始める。
「まあ、危ない橋を渡ってもらったのは事実です。
若い二人の邪魔をするのは不粋でしょう。
僕とジェス君は先に行きますか」
恋人達をおいて、大人組は部屋へと案内してもらう。
アークエンジェルは、会談を行う場所に向けて出港した。
こうして、統合軍とリベリオンの会談が始まった。
双方の意思が最初からある程度固まっていたため、会談自体はスムーズに進行した。
「ハロルド・スロースが姿を眩ませる直前に暗号化したデータを外部に送信していた。
その送信先が月の裏側、ダイダロス・クレーターであることも確認済みです」
「ロゴス幹部達が死ぬか行方が分からなくなった後、彼らの財産のほとんどがダイダロス基地に大量の資材を送るために使われていました。
これもジェス君の報告を裏付けるものです」
「なるほど、ロゴス幹部達の財産となれば莫大なものになる。
アズラエル氏の言うところのネームレスとやらが大規模な行動を起こす準備をダイダロス基地でしていると言うことですね」
「ええ、そしてネームレスの構成員が交戦中に発した言葉から彼らの狙いはローレライ・システムを使い人類から自由意志を奪い、世界を支配するものだと思われます」
「これほど大規模な行動を起こせる組織が誰にも知られずに存在していたなど、にわかには信じ難いな。
だが、ダイダロス基地で何らかの準備が進められているのは事実」
「今まで病的なまでにその存在を秘匿し続けてきた組織がここまで大きく動いている。
つまり、もう秘匿する必要がないと判断しているってことです」
「人類の洗脳が終われば、逆らう者は存在しなくなるからか」
「でしょうね。
僕はそんな未来はごめんです」
あなた達もでしょう?
そう続けたアズラエルは、相手の反応から自らの提案が受け入れられることを確信していた。
「ですので、統合軍とリベリオンは一時停戦し、共同でダイダロス基地を制圧。
ネームレスの野望を阻止してから、改めて今後のことを考えると言うのはどうでしょう?」
カーンにとっては予想通りの展開だった。
その提案を受け入れるつもりであった。
だが、それとは別にアズラエルに戦慄にも似た畏怖を感じていた。
若造とも言えるような年齢のアズラエルが自分がその存在の確信すら出来なかった組織の核心にここまで迫っていた。
嫉妬からアズラエルの話を否定するほど狭量ではないが、ネームレスの件を片付けた後にはこの手強い相手とやり合わなければならないのだ。
安穏とはしていられないな。
我らもまた成長していかなければ置いていかれよう。
「その提案を受け入れる。
ダイダロス基地でロゴスの資産を使って何かが行われようとしている以上、我々も見過ごすわけにはいかんからな」
会談の結果、統合軍とリベリオンはネームレスへの対処を共同で行うことが決まった。
とは言え、すぐには行動できない。
トゥルーザフトとの戦いで両軍とも大きなダメージを受けている。
特に終盤のゴーストライダーによる被害は甚大と言ってもいい。
ほぼ大破と言えるノルンを筆頭に最も厳しい戦場を駆け抜けたエース達の機体はどれも無事では済まなかった。
ネームレスが本格的に動き出す以上、次の戦いはこれまで以上に過酷なものになる。
今のままでは力が足りない。
その過酷な戦場を駆け抜けることが出来る新たな翼が必要なのだ。
それぞれの陣営が用意した機体がエース達の下に届けられようとしていた。
補充と補給が終わり準備が整った時、ネームレスとの決着を付けるために出撃する。
この戦いの結果で運命という言葉の意味が変わることになる。
あらかじめ全てが決まっている確定した未来となるか。
あるいは、一人一人の行動によって紡がれた結果であり、人々の意思によって変えることが可能な未来となるのか。
これだけは言える。
望む未来は勝ち取らなければ訪れない。