歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
シンはミネルバの一角に来ていた。
そこには、自分を呼び出した相手であるルナマリアが待っていた。
トゥルーザフトとの戦いの最中、終わったら伝えたい事があると言われた時からこの日が来ることは分かっていた。
シンもそこまで朴念仁ではない。
どんな内容か予想は出来ていた。
でも、俺にどんな答えが出せるだろう?
ルナを仲間として信頼しているし、大切だとも思っている。
でも、そういう対象として考えたことはなかった。
そもそも、復讐のために戦っていたシンは、恋愛に関して踏み込んで考えることをしてこなかった。
闇ラクスに関しても、守りたい大切な人だとは認識しているが、それが恋愛感情に繋がるものなのか確信が持てないでいる。
それでも、ちゃんと向き合って答えを出さなきゃな。
「すまない、ルナ。
待ったか?」
「ううん、大丈夫よ、シン。
私が呼んだんだから気にしないで」
あれ、なんでだろう?
いつもと違う雰囲気だからか、今日のルナの顔を見てると胸がドキドキする。
ルナがすごく綺麗に見える。
「シン、私はあなたが好きよ」
静かに自分の気持ちを伝えてくるルナ。
今まであった張り詰めたものが消えた姿は、まるで月の女神のようにも感じられた。
「・・・ルナ」
上手く言葉が出てこない。
「あんたが復讐と向き合うことに必死でこう言うことにかまけてる余裕がなかったのは分かってる。
でも今、気持ちを伝えないと後悔する。
そう思ったから」
俺はどうすればいいんだ。
ルナを女の子として意識してしまっている。
でも、脳裏にチラつく闇ラクスの姿が俺を躊躇わせる。
俺の考えていることなんてお見通しなのか、ルナは優しい目で見つめてくれる。
「分かってる、闇ラクスといい雰囲気だったものね。
シンの心が望んでる未来を教えて。
私をきちんと諦めさせて」
ああ、くそっ!
ルナはいい女だな。
迷った時、いつも背中を押してくれるのはルナだった。
「ごめん、ルナ。
俺は、闇ラクスのことが好きみたいだ」
「ようやく自分の気持ちに気付いたみたいね。
なら、闇ラクスのところに行きなさい」
「え?」
「気持ちを自覚したなら早く行きなさいよ。
でないと後悔するわ。
あの子、歌えなくなったら表舞台から姿を消すと思う。
しっかり捕まえておかないと置いていかれるわよ」
「ルナ、闇ラクスの喉のこと気付いてたのか!?」
「
それより、ちゃんと伝えて来なさい。
歌姫じゃなくなってもいい、ただの女の子としてそばに居てほしいんだってことを」
「ルナ、お前って本当にいい女だったんだな」
「いまさら気付いたの?
こんないい女を袖にしようってんだから、闇ラクスと幸せにならなきゃ許さないからね」
「ああ、分かった。
闇ラクスに俺の気持ちを伝えてくるよ!」
そう言ってシンがその場を離れる。
シンの姿が見えなくなったと同時にルナマリアの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「本当、私ってバカな女だわ」
「そうだよ、せっかくシンがお姉ちゃんのこと女として意識してたのに背中を押すようなことをして」
メイリンが声を掛けてきた。
どうやら隠れて見守ってくれていたらしい。
「でも、お姉ちゃんらしいね。
私はそんなお姉ちゃんが大好き」
「ありがとう、メイリン。
私もメイリンが好きよ」
私が辛い時、いつもメイリンが慰めてくれた。
メイリンを置いて一人でライトマンを追いかけていたら、きっと今の私はいなかった。
今なら分かる。
あの時、必死になって一緒に行くって言ってたのは復讐に囚われた私を一人にしないため。
一番強くていい女なのはメイリンだったのかもしれないわね。
闇ラクスは一人で心に不安を抱えていた。
アズラエルが話したネームレスと言う組織。
ハロルドが姿を消したことで、あの男の後ろに感じていた何かとネームレスが繋がった。
きっとその存在がバレても構わない段階に来ているのだ。
ネームレスが用意している歌姫がどんな存在なのかも分からない。
きっと、今までで最も困難な戦いになるだろう。
闇ラクスには予感があった。
次のステージで私は歌姫としては死ぬだろう。
命を燃やし尽くすほど全力で歌わなければ、その先の未来にはたどり着けない。
でも、その未来をシンと共に歩めないことが寂しい。
歌声を失った私では、もうシンの力になることは出来ない。
ルナマリアならこの先もずっとシンの隣に立って、その背中を守り続けていける。
シンに相応しいのは彼女だ。
そう心から思えるほどルナマリアを素晴らしい女性だと認めていた。
それでも心が痛み、軋みを上げる。
自分がこんなにも欲深いなんて知らなかった。
本来ならこんな立場にいられるような存在じゃない。
機械に頼って力を得た紛い物がいつまでも居ていい場所じゃないと分かっていても、シンの隣に居たいと望んでしまう。
「全てが終わったらここを離れないと。
シンを私に縛り続けるわけにはいかないもの」
「闇ラクス!」
「えっ、シン!?」
なんでここに?
今頃は、ルナに告白されているはず。
恋愛に関して深く考えてこなかったシンでも、彼女のような素晴らしい女性に告白されれば好きになってしまう。
そう覚悟していた。
「ルナの言ってた通りだな。
何も言わずに居なくなるつもりだったのか」
「なんで、あなたはルナと」
「確かにルナに好きだって言われた。
けど、断ってここに来た」
「えっ」
「闇ラクスが好きだ!
情けないことにルナに背中を押されてようやく自分の気持ちを自覚した」
シンの言葉を理解して、顔が真っ赤に染まってしまう。
好きな人に好意を示されて喜びが心に広がっていく。
それをなんとか理性で抑える。
「でも、シン。
私はもうすぐ歌えなくなる」
この先、もう力にはなれないと伝える。
辛いけど負担にはなりたくない。
「そんなの関係ない!
俺がそばに居てほしいのは歌姫じゃない。
闇ラクスって女の子だ!」
シンが闇ラクスを抱きしめる。
シンの腕の中で闇ラクスは幸せを感じていた。
力強い腕から伝わってくる。
リベリオンに絶大な影響力を持つ奇跡の歌姫と言う虚像じゃない、闇ラクスと言う生身の人間が好きなのだと。
闇ラクスの瞳から涙が溢れる。
「私は歌えなくなってもシンのそばに居ていいの?
何も持たない、何処にでもいる平凡な女なのに」
「あんたがいいんだ!」
シンの叫びに闇ラクスの心がついに決壊する。
「私もシンが好き。
ずっと一緒に居たい」
「離さない。
ずっと俺にあんたを守らせてくれ」
見つめ合う二人の顔が近づき、唇が重なる。
もう、言葉は要らなかった。
しばらくして二人の顔が離れる。
「シン、ファクトリーから新しい機体が届いています。
その機体、デスティニーはネームレスが閉ざそうとしている未来を切り拓くための剣。
勝って、私の下に帰ってきてください」
「闇ラクス。
あんたと生きる未来のために俺は必ず勝つ!」
「シン、私の本当の名前は・・・・だよ」
「えっ、んっ」
闇ラクスの指がシンの口を抑える。
「これはただの女の子としての名前。
今はまだ、私は闇ラクスだから。
でも、シンには知っててほしかった」
「ああ、分かったよ。
今は闇ラクスって呼ぶ。
でも、この戦いが終わったら」
「ええ、ただの女の子としてあなたの隣に居るわ」
シンは闇ラクスと共にある未来のためにデスティニーと言う新たな剣を得て、ネームレスとの決戦に臨む。
ルナマリアとメイリンもまた、大破したノルンに代わる機体を受領していた。
その機体レジェンドの説明をオズマから受けている。
「これが私達の新しい機体ですか?」
「そうだ。
レジェンドには12機のドラグーンが搭載されている。
その制御はメイリンに担当してもらう」
「でも、私じゃ12機も制御しきれないですよ」
「そこは心配ない。
3機の大型ドラグーンにはウルズ達がインストールされている。
そして、ウルズ達がそれぞれ3機の小型ドラグーンを制御してくれる。
実質的な負担はノルンの時と変わらないはずだ」
「ウルズ達が・・・」
ボロボロになりながらも自分達を守り続けてくれたウルズ達が機体を乗り換えても一緒に戦ってくれる。
それがとても心強く感じて、メイリンの不安は消えていった。
「シンには、突進力と近接戦能力の高いデスティニーが与えられている。
あいつの背中を守って援護してやれる奴はお前達しかいない。
頼んだぞ」
「任せてください。
シンのお守りには慣れてますから」
オズマは、ホーク姉妹の様子を見ながら部下の成長を実感していた。
シンもルナマリア達も本当に逞しくなった。
成長して、あっという間に追い抜かれてしまったな。
だが、俺も大人としての意地がある。
パイロットとしての腕では敵わなくても、こいつらが真っ直ぐ進めるように支えるくらいはしないとな。
シンとホーク姉妹に新型が与えられたが、戦力の強化はそれだけではない。
ステラ達の機体も強化が施されていた。
「これが俺たちの機体か」
「ええ、宇宙戦を想定した強化パーツが届きました。
それぞれ、ガイア・グランド、ルナティック・カオス、ディープ・アビスです」
さすがに彼らの分まで新型機を用意するには手が足りなかった。
それでも、激化する戦闘を乗り切るために性能を強化するための追加装備が送られてきていた。
これは、彼らエクステンデッドを消耗品として使い捨てるつもりはないと言う意思を示している。
そのことを感じ取れない彼らではなかった。
「感謝します。
これで俺たちも、もっと役に立てる」
ステラ達の機体は、地形適正に特化しているため宇宙戦ではその真価を発揮しきれないでいた。
今回の追加装備によって宇宙適性が強化されると共に機体性能も底上げされた。
これで、シンやルナマリア達に置いていかれずに済むと安堵していた。
「おい、役に立つとかそんなことより、まずは生きて帰って来いよ」
強化された機体の説明をしてくれていた整備兵が急に不機嫌そうな顔をする。
ジョン・ドゥにいた頃は、こんな言葉を掛けてもらったことはなかった。
ここでは、俺たちは道具じゃない。
帰って来いと言ってくれる、この暖かな場所を守りたいと言う想いを強くした。