歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

108 / 113
最終決戦 序章

 

 

 

 補給を終えた統合軍とリベリオンの連合軍が満を持して月の裏側、ダイダロス・クレーターへと進軍を開始した。

 

 歌姫が乗るアークエンジェルとパラスアテナが並走し、それぞれの艦を守るようにガーディー・ルーとミネルバが続く。

 艦隊の他の艦も全てアークエンジェルとパラスアテナを守るように布陣している。

 いや、そこに乗っている歌姫達を守るためだ。

 

 今回の作戦において、彼女達こそが勝利の鍵なのだから。

 ネームレスが行おうとしているコード・ローレライは、歌による全人類の洗脳。

 ネームレスがどんな歌姫を用意しているのかは分からないが、正直、彼女達以上の歌姫など想像が付かない。

 それでも、今まで決して表に出て来なかったネームレスが初めて姿を見せようとしているのだから油断など出来るはずがない。

 これから始まる戦いは、今までの戦争とは異なる。

 勝敗を決するのは武力ではない。

 その本質は、人類の未来を賭けた歌合戦。

 

 決戦の場まで歌姫達を無事に送り届け、最後まで守りきる決意でいたが、ダイダロス基地は不気味な沈黙を守っている。

 こちらが近づいていることは、すでに気付いているはずなのになんの反応もない。

 その事実が基地をネームレスが掌握していることを示している。

 

 

 

 ????

 

「統合軍とリベリオンがこちらに向かってきます」

 

「ほう、アズラエルの小僧がこちらを嗅ぎつけたのか。

 大したものだ」

 

「だが、少し遅かったな。

 シャロンはすでに最終フェーズに入っている」

 

「ちょっと、大丈夫なの?

 ここでシャロンが破壊されれば、私達の悲願が全て終わってしまうのよ!」

 

「問題はない。

 何のために七大罪を招集したと思っている。

 基地の防衛戦力も全て出す」

 

「ふふ、彼らの儚い抵抗もシャロンが歌い始めるまでさ」

 

「我々も、もうここを動けない。

 後は全てを手にするか、全てを失うかだ」

 

「私達も覚悟を決めろと?」

 

「何、シャロンが目覚めれば我らの勝ちだ。

 それまでに防衛戦力と七大罪を抜き、我らの喉元に喰らいつくなど不可能だよ」

 

「ええ、そうね。

 悲願達成が目前だから、少し神経質になっているみたいだわ」

 

「さあ、新たな時代の扉を開くとしよう。

 完全なる世界のために」

 

「「「「完全なる世界のために!」」」」

 

 

 

 ダイダロス基地から艦隊が出撃してきた。

 モビルスーツも展開していく。

 その行動は明らかに敵対行動であり、ダイダロス基地は依然沈黙したままである。

 

 この状況にリベリオンもアズラエルの言葉が事実であったと認めざるを得ない。

 もはや戦いは避けられない。

 統合軍とリベリオンもモビルスーツ隊を展開させていく。

 

 

 

 ついに前衛に展開した部隊がダイダロス基地の防衛戦力と接敵、戦闘が開始された。

 ダイダロス基地からもミサイルやレールガン、ビームによる攻撃が始まり、激しい砲火が交わされる。

 

 

 前線で行われている戦闘の様子を見て、マリューは違和感を感じていた。

 要塞化された基地の火力支援もあり、なかなか距離を詰められないでいるが戦力ではこちらが上回っているため優位に戦闘を進めることが出来ている。

 不利な状況にも関わらず、崩れることなく抗戦を続けるほど防衛部隊の士気は高い。

 だが、何かがおかしい。

 

 その違和感の正体が、前線に出たキラ達からの報告で明らかになる。

 

「マリューさん!

 この敵は、何かが違う!

 まるで自分の命をなんとも思ってないみたいだ」

 

「確かにそうだ。

 機械のように正確で、感情による揺らぎがない。

 不気味だ。まるで人間味を感じないぞ」

 

「だけど、見た目は普通のモビルスーツよ。

 動きも明らかに無人機とは違うわ」

 

「もし、俺の予想が当たっているならネームレスって奴らは許せないな」

 

 ムウが難しい顔をしながら推測を口にする。

 

「ネームレスってのは、洗脳で世界の歴史を操ってきたんだろ?」

 

「まさか、こいつらは洗脳された基地の守備隊」

 

「ああ、仲間同士で戦わされていることになる」

 

「そんな!」

 

 

 パイロット達の言葉でマリューは、戦闘開始から感じていた違和感の原因を理解した。

 今、戦わされているのは洗脳されたダイダロス基地の兵士達。

 そう考えれば敵軍の動きに説明が付くのだ。

 戦力的に劣勢でありながら引くことなく戦い続けているのに戦況をひっくり返そうとする熱意が感じられない。

 ただ、冷静に命じられたことを遂行しているだけのような戦い方。

 

「カガリさん、ラクスさん、歌ってもらえますか!?」

 

 マリューは、歌姫達に洗脳を解いてもらう決断を下した。

 ネームレスが用意した戦力がこれだけと言う事はないだろう。

 なら、ここで味方同士で削り合うのはまずい。

 更なる戦力が投入される前に洗脳された兵士達を無力化する。

 上手くすれば自軍の戦力に組み込めるかもしれない。

 

「もちろんだ!」

 

「はい、歌います」

 

 カガリ達も兵士達が洗脳され、無理矢理戦わされているのなら、彼らのために歌うことに躊躇いはない。

 

 

 戦場に歌姫達の歌声が広がっていく。

 闇ラクスとの共演を経て、サウンドウェーブの出力も大幅に高まっている。

 すぐに兵士達の精神に影響を及ぼし、ネームレスの支配から解き放たれる・・・はずだった。

 

 

 

「どう言うことだ?

 なにも変わってないぞ」

 

 ムウが思わず放った言葉通り、敵の動きに何の変化も起きなかった。

 戦闘を止めるどころか動きが鈍ることすらなかった。

 

「そんな!何故?

 洗脳ではないと言うことなの?」

 

 明らかに普通ではない相手に洗脳を解けるはずのカガリ達の歌が効かない。

 洗脳でないと言うなら、どうやってこの状況を作り出したのか?

 歌で状況を打開できない以上、戦ってダイダロス基地までの道を切り開くしかない。

 戦い難くはあるが、戦力では圧倒しているが故にジリジリと前進していく。

 

 

 

 ????

 

「歌に洗脳を解除できる力があることは分かっているのだ。

 同じ過ちを繰り返すわけがなかろう」

 

「ここにいる兵士達は全て、末端と同じ処置をしている。

 本来の人格はすでに消え、我らに忠実な存在となっている」

 

「歌で人格が蘇ったりしない。

 脳の神経ネットワークが物理的に作り替えられているのだからね」

 

「そんなことより、奴らが射程に入った。

 次の手を打つ。

 同時に七大罪も出撃させる」

 

 

 

 ダイダロス基地を光学映像で確認できる位置にまで近付いた時、基地に新たな動きが起きる。

 基地から膨大な数の無人機が射出された。

 いや、無人機と呼ぶにも簡素化され過ぎているように見える。

 武装もなく、機動兵器として戦闘が出来るようには見えない形状。

 それが凄まじい速度で連合軍に向かってきた。

 

 当然、連合軍も迎撃を開始する。

 まともな武器もなく、機体の構造が単純過ぎて回避機動すら行えない無人機は次々と撃墜されていく。

 だが、そんなことお構いなしで無人機は次々と突入してくる。

 迎撃しきれなかった機体が連合軍のモビルスーツや艦艇に体当たりして自爆していく。

 

 

 その様子を見ていたアークエンジェルのブリッジでは、

 

「これは・・・無人特攻兵器」

 

電子の歌姫(エレクトロン・ディーバ)も起動しているのに、なぜあの無人機に効果がないのだ!」

 

「おそらく、あの特効兵器には高度なAIが搭載されてないのよ」

 

「艦長?」

 

「指定された目標にただまっすぐ突っ込んでいき自爆するだけしか出来ない。

 でも、単純であるが故に人格や感情が芽生える余地もない」

 

「くっ、こちらの手の内は全て丸裸で対策は完璧に講じていると言うことですか」

 

「ネームレス・・・恐ろしい相手だわ」

 

「それでも、あの特攻兵器は物量こそ脅威ですが対処は出来ます。

 電子の歌姫の存在で、あの脅威的な性能の無人機を使うことが出来ていません。

 ネームレスとて打てる手は限られているのです!」

 

「ええ、このまま前進します。

 何としてもダイダロス基地に取り付いて、ネームレスの野望を叩かなければ」

 

 激しい抵抗があると言う事は、それだけ大事なものを守っていると言う事。

 だからこそ、その抵抗の先にあるものはネームレスにとって失うことの出来ないものだと言う確信を与えてくれる。

 だが、先を急ぐアークエンジェルの前に更なる脅威が迫ろうとしていた。

 

 

 

 ダイダロス基地

 

「我々に出撃命令が出た。

 歌姫(シャロン)が目覚めるまで近づけさせるな」

 

「プライド、歌姫が目覚める前に奴らを壊滅させてしまっても構わんのだろう?」

 

「ふむ、構わんよ。

 だが、奴らは持てる戦力のほぼ全てを投入してきた。

 歌姫の騎士団とやらも世界最高峰の戦力を持つと言われている。

 それを忘れるなよ、一応な」

 

「了解。

 ジャック・グリード、マモン行くぜ!」

 

 ジャックが強欲の魔王の名を持つ機体で出撃していく。

 

「プライド、奴は道具としては不適格だ。

 本当に使えるのか?」

 

「確かに奴は抑えきれぬほどの野心を持っている。

 だが、相応しい実力があるのも事実。

 それに七大罪は、いずれも己の欲望を叶えるために行動している。

 君もそうだろう?」

 

「上手く使うと言うなら良い。

 ブランドン・ラース、サタン出るぞ」

 

 ラースもまた憤怒の魔王の名を持つ機体で出撃する。

 

「さて、お前達も仕事の時間だ。

 己の願いを叶えたいのなら、働きを持って価値を示せ」

 

「やれやれ、人使いが荒いですね。

 モビルスーツは本職ではないのですが、そう言われては仕方がありません。

 ハロルド・スロース、ベルフェゴールで出ます」

 

「言われなくても分かってますよ!

 僕はアスランと共に生きる未来を掴んでみせる。

 ニコル・グラトニー、ベルゼブブ行きます!」

 

「約束した報酬さえ守ってくれるなら文句はないよ。

 ヒルダ・(ハーケン)・ラスト、アスモデウス出るよ!」

 

「奴らを殺せるなら、私は満足。

 エレーナ・エンヴィー、レヴィアタン行くわ!」

 

 他の七大罪が全員出撃し、最後に残ったプライドも自身の機体で出撃する。

 

「歴史の表舞台に立つのも久しぶりだな。

 そして、これが最後になる。

 ルシフ・プライド、ルシファー出る!」

 

 ネームレスの最高戦力、七大罪が駆る7機の魔王が連合軍に襲い掛かろうとしていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。